日々の雑感 [2010/04-06]

悪いながらに少しずつ落ち着いてきた。徐々に将来が見通せてきた、と思いたい。


つぶやき:加藤忠史著『うつ病の脳科学―精神科医療の未来を切り拓く』

読書開始。つぶやきから知った本。カウンセリングを含めて古い心理学のいい加減な説明にうんざりしているので期待。 加藤忠史著『うつ病の脳科学―精神科医療の未来を切り拓く』(幻冬舎新書)

「脳の血流変化を引き起こし、セロトニン増加といった神経伝達物質の変化を、2週間以上も続けないと回復しない、脳の中に潜む病変。この「病変」こそ、うつ病を根本から治療するために、つかまえなければならないものなのだ。」

うつ病の神経可塑性仮説「うつ病では神経細胞の突起が萎縮していて、抗うつ薬によって突起が伸びると治る」 この10年で検証した研究はまだない。

「精神疾患は、DSMが作られた時点では、まだ原因が解明されておらず、病理学的な基盤のある「疾患(disease)」であると言えるだけの根拠がまだ見つかっていなかったため、より広い意味を持つ「disorder」という言葉が用いられたのである。」

知的障害や身体障害のように完全に治癒することのない「障害(disability)」とは異なる。

「文部科学省の管轄下の、理化学研究所脳科学総合研究センター… 患者さんを対象とした臨床研究を行うには、病院が必要であるが、病院は、厚生労働相の管轄、という省庁の壁がある」

「動物実験などによる基礎脳科学研究を推進するところはあっても、うつ病患者さんの血液や脳を対象として原因究明を進めるような研究を推進する部署は、この国には存在しない」

「アルツハイマー病やパーキンソン病… 脳に異常が見つかった疾患は、現在では「神経疾患」と呼ばれている。… 脳のどこを見ても異常を見つけることができなかった疾患が、「精神疾患」と呼ばれている」

「精神疾患研究は、精神薬理学、脳画像、遺伝子、動物実験などの切り口から進められ… うつ病の一部は、「神経細胞の突起が萎縮する」「神経細胞が減る」といった、脳の「病変」を伴うものかも知れない、というところまでわかってきた。」

これ、必要! 「日本でもブレインバンクを作り、うつ病にかかったことがある方が天寿を全うされた時に、その脳を大切に保存し、病因解明に役立てることができるようにするシステムを整える必要性を強く感じている。」

「うつ病をめぐる諸問題の本当の原因は、精神科医の能力不足ではない。うつ病の原因がわかっていないことなのである。そしてそのうつ病の解明研究は今、基礎研究から人の脳の研究へと移行するべき時期に来ているが、さまざまな要因から立ち往生している。」

「「DSM診断基準」の特徴は、「原因(心理的葛藤、パーソナリティー)や、きっかけを問わないこと」、そして「とにかく何らかの診断に分類されること」である。」 症状そのものに注目

DSMの「「原因を問わず、症状に注目する」ことによって、診断は以前より安定するようになった」 しかし、医師が原因を聞く必要がないことが、薬物治療による効果以外のカウンセリング(心理)的な効果を失わせていますね。

産後うつ病「産後よりもむしろ妊娠中の方がうつ状態が多いこと、うつ状態の重症度や性質も、産前、産後で差がないこと、過去のうつ病の病歴が産後のうつ状態の危険因子であること、産後うつ病は、症状や経過などの点では、特に他のうつ病と違いがない」

DSM-IV以降15年改訂がないのは「いろいろな症状の人を、幅広く大うつ病に含める診断基準の方が、もっと進化した、厳密で細かい基準よりも、抗うつ薬を販売している製薬会社にとっては都合が良かったのではないだろうか。」

「双極性障害には遺伝子が関与する一方で、うつ病では遺伝子の関与が比較的小さく、むしろ環境因が関与することがわかってきた。」

「双極II型障害とうつ病との区別は非常に難しく、間違われやすい。本来なら双極性障害の人は、気分安定薬を飲まなければいけないのだが、そういったわけで抗うつ薬を処方されることがある。」

物質誘発性気分障害「うつ状態を引き起こす薬として、副腎皮質ステロイド剤、インターフェロンα(C型肝炎)、インターロイキン2(抗がん剤)…」

「「メランコリー型」は、うつ病の中では症状が重いため、新しいタイプの抗うつ薬(SSRI)が効きにくく、古いタイプの抗うつ薬(三環系抗うつ薬)が有効なタイプである。」

薬物療法「1.SSRIまたはSNRIを十分量、1ヶ月程度続ける 2.無効なら、三環系を含む、他の抗うつ薬に変更 3.リチウム、甲状腺ホルモン剤などによる増強療法 4.電気けいれん療法」

非定型うつ病、以前の講義ではパーソナリティの違いと理解してた。「モノアミン酸化酵素阻害薬に反応する患者の特徴として抽出された。… 三環系抗うつ薬の効果は期待できない… よく見られる症状が、「食欲増加と過眠」… (従来は)「不安障害」あるいは「パーソナリティー障害」として治療」

検討中の分類:「血管性うつ病」MRIの検査で脳梗塞の痕跡。「双極スペクトラム」現時点ではうつ病エピソードのみの双極性予備軍。

誤診の可能性「患者さんにご自分の症状を的確に話してもらうということは、非常に難しい。患者さんの話が、医師の診断の最大の情報源であるにもかかわらず」

賦活症候群(アクティベーションシンドローム):「抗うつ剤により悪化する事例」「その特徴として、不安、焦燥、パニック発作、不眠、易刺激性、敵意、攻撃性、衝動性、アカシジア、軽躁状態、躁状態」

2009年発表のスウェーデンの統合失調症と双極性障害の家族研究から、両疾患に共通の遺伝的素因が存在することが確実となった。

コピー数変動(CNV):ゲノムの中に大きな領域の欠損。統合失調症だけでなく、てんかん、精神遅滞、自閉症、注意欠陥多動性障害などで見つかる。

「「コピー数変動」に加え、いくつかの危険因子が重なって、最終的に、脳に何らかの変化が生じることが、てんかんや精神遅滞、そして統合失調症を引き起こしているはずだ。」

「母親の養育が少なかったり、虐待が加えられたりすると、子がストレスに弱くなる、という現象は、ヒト、サル、ラットで共通に見られる」

うつ病の遺伝子研究「最近、1000人を超える患者を対象とした、全ゲノムレベルでの関連研究がいくつか報告されているが、今のところ、確実に大きな影響をもつような遺伝子は見つかっていない。… 現在の「大うつ病」という診断基準は、遺伝子と直接対応させるには、まだまだ不十分である」

「恐怖などのネガティブな情動に関わる脳部位は「扁桃体」… うつ病では、扁桃体の体積増加や、ネガティブな情動を喚起する刺激に対する扁桃体の反応亢進が報告されている。… 動物実験の結果では、ストレスにさらされると、大脳皮質ではスパインが減少するが、扁桃体ではスパインの増加が起きる」

「最近(2006年)、既存の抗うつ薬とは全く違う、NMDA型グルタミン酸受容体の遮断作用を持つ薬物(ケタミン)を、たった一回注射することによって2時間後には気分が改善し、その後1週間、気分改善が持続する、という研究がアメリカで報告され、注目されている。」

うつ病のモノアミン仮説「うつ病ではモノアミン(NH2がひとつ)が低下しており、抗うつ薬はこれを増やすことで効果を発揮する」

「うつ病における脳脊髄液中のドーパミン代謝産物の低下に関しては、比較的一致した結果… セロトニン代謝産物については、うつ状態でも躁状態でも低下」

「セロトニントランスポーターの増加も、MAOA(モノアミン酸化酵素A)の増加も、シナプスのセロトニンを減少させると考えられ、分子イメージングの結果は、セロトニンが減るとうつ病になるという「セロトニン減少説」を支持している。」

「うつ病をセロトニン不足による病気と考えた時、最も納得がいかないのが、抗うつ薬の効果の遅さである。… ラットに電気けいれん療法、あるいは抗うつ薬投与を行い、3週間目に、海馬でBDNF(脳由来神経栄養因子:神経細胞の成長などを促すタンパク質)が共通に増加するという現象を発見」

エピジェネティクス仮説。DNA配列の違いでは説明できない部分。DNAメチル化によって、DNAが折り畳まれ、遺伝子発現に必要なタンパク質が近づきにくくなる。小さい頃の環境の影響がDNAメチル化という形で記憶。ストレス反応に関わるGR遺伝子のDNAメチル化によりストレス脆弱性。

うつ病患者の脳形態画像所見:脳梗塞が多い。白質高信号領域。海馬の体積低下。大脳基底核の体積低下。前頭前野の体積低下。扁桃体の体積増加。

「うつ状態では、安静時から前頭前野の活動が低下していて、課題を与えられても、なかなか前頭前野を使って課題をこなすことが難しく、何とか同じ程度の結果を出そうとすると、より脳を酷使しなければならない」

「うつ病患者さんでは、恐怖の表情を見たときの扁桃体の血流増加が健常者よりも強く、幸福な表情を見たときの反応は、健常者よりも小さい。」

血液検査。既に膨大な研究があり、最も有望なのは、デキサメサゾン抑制試験と改良版のデキサメサゾン-CRH負荷試験。最近最も注目されているのは「血中BDNF」。

精神疾患のブレインバンク: スタンレーブレインバンク(1994年、統合失調症・双極性障害) 福島県立医科大学・精神疾患死後脳バンク(1997年、http://fmu-bb.jp/index.htm

読了。頭いっぱい。 加藤忠史著『うつ病の脳科学―精神科医療の未来を切り拓く』(幻冬舎新書)

[2010/5/23]

つぶやき:水島広子著『臨床家のための対人関係療法入門ガイド』

なんだか知恵熱が。これから『臨床家のための対人関係療法入門ガイド』を読む予定。

「IPT(対人関係療法)は、患者のパーソナリティを矯正するものではなく、病気を治すものである。つまり、薬物療法と同様に、病気の治療法である。」

「IPTは対人関係を解釈するものではなく、患者に現実的なスキルを与えるものである。」

「IPTは、限定された期間、焦点化された治療目的の中であっても、患者の自主性を最大限に尊重する治療法である。つまり、適切な教育と方向づけさえすれば、患者は自分で治る力をもっていると考えるものである。」(つづく)

「IPTは、患者の対人関係問題を特定の方向に導くものではなく、適切な環境を提供することによって、患者自らに方向性を見つけてもらうものである。」

既にIPTに関する多くの本を読んだから不要だと思ったけれども、技法や面接の具体的な部分が詳細に書かれていて参考になる。水島広子著『臨床家のための対人関係療法入門ガイド

IPTの特徴。「期間限定である。焦点化されている。現在の対人関係に取り組む。精神内界ではなく対人関係に焦点を当てる。認知ではなく対人関係に焦点を当てる。パーソナリティは認識するが治療焦点とはしない。技法ではなく戦略が重要。」

「認知ではなく対人関係に焦点を当てる」というところが認知行動療法とは違うところ。

「過労など、一見対人関係とは無関係に見えるものもある。しかし、その人がなぜ過労に陥るほど仕事を抱え込んだのか、断ることはできなかったのか、などと考えていくと、これも1つの対人関係上の状況と見ることができる。」

期間限定「IPTはとても温かい治療法なので、常に「治療」という姿勢を維持しないと、患者が治療関係を友情の代替にしてしまうというリスクをはらんでいる。「いずれは終結する関係」を前提にすることが、この依存問題を大きく軽減することになる。」

現在の対人関係に取り組む「過去の人間関係は、初期に聴取して認識はするが、治療の焦点とはしない。過去の対人関係の影響で、現在の対人関係に何が起こっているのか、ということに注目していく。」

「IPTでは認知には焦点を当てない。IPTは、患者の気持ちや感情に注目し、それを引き起こした対人関係上のやりとりそのものに焦点を当てる。」

「「どのような認知がそのような感情を引き起こしたか」というふうに考えるのではなく、「誰が何を言ったからそのような感情が起こったのか」ということを直接見ていくのである」「目標は非適応的な認知を変えることではなく、あくまでも対人関係のパターンを変えることに置く。」

「IPTの特徴は、特定の技法にあるのではなく、その戦略にある。...「医学モデルを適用すること」と「4つの問題領域のいずれかに焦点を当てること」である。」

「「医学モデル」というのは...患者は病気にかかっているのであって、それは治療可能であると強調するということである。...これはまさに、患者に「病者の役割」を与えているということ」

対人関係の4つの問題領域「悲哀」「対人関係上の役割をめぐる不和」「役割の変化」「対人関係の欠如」はエビデンスに基づいて作られた。「IPTの問題領域は、その人を解釈するために作られたものではなく、治療の中で変化させることができる領域を定めるために用いられるものである。」

「IPTの目標は、抑うつ症状を減じることと対人関係機能・社会的機能を改善することである。」「対人関係の出来事とうつ病の関連を理解する」と「それらの対人関係の出来事に対処するスキルを改善する」を患者はできるようになる。

「米国における現在の臨床研究は、製薬会社からの資金提供が主流となっており、精神療法についての大規模な臨床試験は以前よりも行いにくくなっているようである。」

IPTの気分障害へのエビデンス。「反復性うつ病****、気分変調性障害**、双極性障害***、プライマリケア・身体疾患患者のうつ病****(IPC***)、HIV陽性患者のうつ病***、産前産後のうつ病***」

****:2つ以上のRCT(無作為化比較対照試験)で優位、***:1つ以上のRCTで優位または同等、**:1つ以上のオープン研究やパイロット研究で有望。

IPTの気分障害以外へのエビデンス「神経性大食症****、むちゃ食い障害***、不安障害**」 IPTの様々な対象へのエビデンス「思春期うつ病***、高齢期うつ病****、認知障害を伴う高齢期うつ病**、夫婦**」

IPT(対人関係療法)に対して、「IPCは対人関係カウンセリングのことである。これは、軽度のうつを対象にして、メンタルヘルスの専門家でない人たちが行うことを前提としたカウンセリングである。最高6回の面接で、1回のセッションは初回を除けば20分程度である。」

「IPTは、他の文化圏への適用に成功してきた精神療法である。...IPTを多様な文化圏に適用することの容易さは、IPTの問題領域が、文化圏を超えた、本質的で普遍的なものであることを反映していると考えられる。」

ウガンダでは「対人関係の欠如」が該当者がいないためにマニュアルから削除されたらしい。また、夫への不満を言葉で表現することがタブーであり、「まずい料理を作る」ことで表現する習慣があり、技法上の修正が行われたらしい。

「コミュニケーションが全般に曖昧で抑制された日本には適した治療法であるという印象を持っている。ただ、重要な他者の治療への関与を増やすなど、若干の修正の必要性を感じている。」

IPTが特に向いている対象、産前・産後のうつ病、重大な身体疾患を伴なううつ病、思春期うつ病、高齢期うつ病、夫婦間不和を伴ううつ病、気分変調性障害、双極性障害、摂食障害、不安障害。

「まとめると、IPTは、「発症と維持に対人関係問題が強く関わる障害」や、「症状が対人関係に大きな影響を与える障害」において有用であると言えるだろう。...今のところ、統合失調症や強迫性障害はターゲットになっていない。」

1989 年のNIMHの研究では、ハミルトン抑うつ評価尺度スコアが20以上の重度のうつ病患者には、認知行動療法よりもIPTの方が効果的であるとわかった。「これは、認知行動療法がある程度の集中力とモチベーションを必要とすることを考えると、理解できる結果である。」

神経性大食症へのIPTと認知行動療法と行動療法の効果を6年後まで追った研究では、IPTと認知行動療法では7割、行動療法では14%が治癒。認知行動療法の方がIPTよりも効果は早く現れるが、1年後には有意差が見られない。

第1章終了。RT @nasaAsukai: 既にIPTに関する多くの本を読んだから不要だと思ったけれども、技法や面接の具体的な部分が詳細に書かれていて参考になる。水島広子著『臨床家のための対人関係療法入門ガイド

水島広子著『臨床家のための対人関係療法入門ガイド』(創元社) 第2章「IPTにおける治療者の役割」

「IPT治療者は、鑑別治療学の精神に従って、「自分がIPT専門家だから」という理由ではなく、「この患者にはIPTが合うだろうから」という理由でIPTを行うべきである。」

鑑別治療学:「同一の症例に対し様々な治療の可能性を、治療の場、技法、期間、組み合わせなどの観点から比較考察」(『精神科鑑別治療学』の説明より)

「IPT治療者の使命は、患者をIPTにつなぎ止めることではなく、患者の病気を治すために何が最もふさわしいかを患者と共に考えることである。」

「治療者に対する患者の気持ちが治療の妨げになる場合のみ治療関係を扱う…その場合も、あくまでも1つのうまく機能していない人間関係としてとらえるのであり、精神分析のように「転移」「逆転移」という概念ではとらえない。」

「マニュアルで明記されていること以外に私が臨床的に必要性を感じていることは、治療関係において患者のロールモデルになることである。」

「患者の話がわかりにくいときには、素直な気持ちで尋ねる。… 多くの患者が「わかったふり」をして対人関係のずれを抱えていることを考えれば、治療者が率先してそのパターンを破っていくべきだろう。」

「IPTの治療。初期:病歴を聴取し診断する。患者に「病者の役割」を与える。投薬の必要性を評価する。対人関係質問項目を聴取する。うつ病に関連したライフ・イベントを見つける。主要な問題領域を決定する。うつ病と問題領域を関連づける。治療契約を結ぶ。」

「IPTの治療。中期:4つの問題領域のうち、決められた問題領域に取り組む。感情をモニターする。面接室の外で患者が行うことを練習する。対人関係スキルを向上させるために特定の技法を用いる。」

「IPTの治療。終結期:治療を振り返る(抑うつ症状の変化、対人関係の変化を確認)。再燃・再発に向けての注意を話し合う。追加治療の必要性を検討する。」

IPTでは、原則としてDSM-IV-TRの診断基準に基づいた診断を下す。… 以前に「性格の問題」と言われたことのある患者に対しては、I軸の存在下ではII軸診断は慎重にするというIPTの原則とその根拠を説明することも役立つことが多い。」

「患者に「病者の役割」を与える… もちろん、患者がうつ病である限り、病者の役割をすっきりと受け入れることなどあり得ない。それは、罪悪感といううつ病の症状のためである。家族同席面接では、この点を強調することが、うつ病についての教育としてむしろ役立つ。」

「対人関係質問項目というのは、簡単に言えば、「患者にとっての重要な人間関係の詳細を、治療者の納得がいくまで聞き出す」… 何らかの書式を埋めればよいという問題ではない。」

「まず、関係性の物理的な側面を聞く。接触の頻度、共にする活動など… その関係におけるそれぞれの期待を、それが満たされているかどうか… その関係の満足できる側面と満足できない側面… それぞれのやりとりの具体例を含めることが重要」

「極論すれば、IPTとは、「具体的な対人関係上のやりとり」と「気持ち」の関係を見つめていく治療法である。具体例を聞き出さないと、話はどうしても観念論に陥っていく」

「対人関係質問項目を行う際には、亡くなった人を含めることが必要である。そうしないと、「悲哀」の問題領域を含めることができないからである。聞き方としては、「生きている方でも、亡くなった方でも、あなたの人生において重要な方についてうかがいたいのですが…」」

「思春期用のIPT-Aでは、「親しさサークル」を利用する。… 系統立てて人間関係を説明することが難しい思春期患者用に開発されたものであるが、適切であれば、大人の患者にも利用できる。」

「神経性大食症の場合には、「発症因子」よりも「維持因子」に注目する。何がきっかけとなって病気が発症したのか、ということではなく、何が問題であるために病気の状態が維持されているのか、という観点から問題領域を見つけていくのである。」

「なかなか妊娠できない」という悩みは「対人関係上の役割をめぐる不和」ではなく「役割の変化」として扱うことが多い。

「母親として生きることが当然だった役割」から「子どものいない人生を受け入れる役割」、「自分の人生は何でもコントロールできると思っていた役割」から「人生にはコントロールできないものもあると受け入れる役割」

うつ病と問題領域の関連づけをする(対人関係フォーミュレーション)の目的は、その後に続く治療契約の前提に合意してもらうことと、患者が「自分は理解してもらえた」と安心して信頼関係を築く基礎を作ることである。」

「くれぐれも、治療者の独断で話を進めないことである。治療者の独断で進められる治療は、脱落を招くし、そもそも戦略がカギであるIPTにおいては、治療効果も得られないことになるであろう。」

「治療目標について患者の合意が得られない場合 (1)患者が対人関係という焦点そのものに賛成しない場合、(2)対人関係に焦点を当てることには合意しているが問題領域に賛成しない場合」 

「実は、「対人関係」という焦点に抵抗を感じる患者は少なくない。なぜかと言うと、患者は、対人関係におけるトラブルを回避するために、自分を殺して生きてきたことが多いからである。つまり、表面上、「対人関係の問題」はないのである。」

IPT治療者の言い方の例:「自分が「これはおかしい」「これはやめてほしい」と思ったときに、躊躇せずにスラスラと言えますか。自分だけが我慢してしまっていませんか。」

IPT 治療者の言い方の例:「うつ病(摂食障害)に対して、ちゃんとした効果があるとわかっている精神療法は、認知行動療法と対人関係療法だけです。どちらも良い治療法です。対人関係療法の場合は、うつ病(摂食障害)が治るだけではなく、日常の対人関係への対処の仕方も学ぶことができます。」

「(2)対人関係に焦点を当てることには合意しているが問題領域に賛成しない場合:?治療目標の設定を遅らせる。?より大きな一般的な目標を設定する。?患者の優先事項を受け入れる。」

「対人関係の欠如」の患者への治療関係の説明:「何でも言ってください」と言ったのに対して「まだよく知らない先生なのに何でも言えるとは思いません」などと返ってきたら、「そうそう、そういうことを言っていただきたいのです。よくできましたね」と肯定する。

「初期のまとめ:信頼関係の構築。医学モデルの説明、病気についての教育。治療の焦点化(患者の合意が必要)。治療関係についての説明。」

「中期の課題:決められた問題領域に取り組む。話し合われている出来事と治療関係に関連した感情をモニターする。面接室の外で患者が行うことを練習する。対人関係スキルを向上させるために特定の技法を用いる。」

「「前回お会いしてからいかがですか」で始める 「このセッションで話すことは、前回のセッションから今日までの間に起こった、直近の過去のことについてです」ということを明確にする」

「気分を出来事に、出来事を気分に関連づける … 関連づけが終わったら、症状と最も大きな関連があると思われる出来事について詳しく話し合う。」

「IPTは、全体に「詳細な調査→選択肢の検討→練習」という順で進んでいく。技法で言えば、「探索的技法・コミュニケーション分析→決定分析→ロールプレイ」ということになる。」

患者の成功をサポートする:患者の成功体験が語られたときに、ほめることも重要であるが、再現可能なものにするために、「なぜこんなにうまくいったのか」を確認することも必要。

決定分析:うまくいかなかったことについては、患者が本当に求めていたことは何だったのか、取り得る選択肢には他に何があったのか、という観点から振り返り、理解を助ける。

「家での作業:イメージしやすいように説明すると、CBTにおけるホームワークは「毎日の宿題」、IPTにおける宿題は「夏休みの宿題」に例えることができる。IPTでは、最初の契約の時点で大きな宿題を受け取り、それを毎回の面接の流れの中で自然な形で、その時々のペースでこなしていく」

「宿題ができなかった場合も、単に「対人関係上の役割期待のずれ」と見る… できなかったのは患者側の「失敗」ではなく、治療者側の「妥当でない期待」のためであった、という考え方」

IPTの「悲哀」では、死別のケースのみを扱う。… それ以外の喪失は「役割の変化」として扱う。

正常な悲哀のプロセス:「否認」(死を認めることができない)→「絶望」(あの人がいなければ自分は生きていけない、と落ち込む)→「脱愛着」(亡くなった人への愛着が適度に減じ、他の対象に心を開けるようになる)

異常な悲哀を見つけるチェックリスト:度重なる喪失。死別期間の不適切な悲哀。死を認めようとしない行動。重要な日付に起こる症状。死につながった病気への恐れ。愛する人が亡くなった時のままの環境の維持。死別の時期の社会的サポートの欠如。

「異常な悲哀」の場合には、低い自尊心と亡くなった人の理想化が見られる… 「あの人を失った私には何の価値もありません」「私たちの関係は世界で最高のものであり、あれ以上の関係はどんな場合にもあり得ません」

「悲哀」の治療目標:悲哀のプロセスを促進する。患者が興味や人間関係を再確立できるように助ける。

「悲哀のセッションで行うこと:亡くなった人と患者の関係を再構築する。死の直前、最中、後の出来事の順序と結果を明らかにする。関連する気持ちを探る。感情が起こったら、面接室の中では黙ってそれを許す。他人と関わりを持つ可能性を検討する。」

感情を話してもらうための技法としては、「まず事実について詳細を聞く」というやり方が役に立つ。… 苦しい喪失をした人に典型的なテーマの「当たり前の気持ち」を先回りして聞き出し肯定する。

苦しい喪失をした人に典型的なテーマ:出来事が繰り返される恐れ。死を防げなかった無力さへの恥。亡くなった人への怒り。生き残ったことへの罪悪感。亡くなった人と同一化したり一体化したりすることへの恐れ。喪失についての悲しみ。

「悲哀」のまとめ:異常な悲哀を見つける。事実を詳細に聞き、患者を安心させ、「当たり前の気持ち」を引き出すことによって、悲哀のプロセスを先に進める。驚いたり先を急いだりしない。説明した技法「受容的沈黙」。

今日は第4章「中期」の途中、ここまで。 水島広子著『臨床家のための対人関係療法入門ガイド』(創元社)

水島広子著『臨床家のための対人関係療法入門ガイド』(創元社) 第4章「中期」

対人関係上の役割をめぐる不和「重要な他者がお互いの役割について抱いている期待がずれており、それによる不和が病気の発症(うつ病など)や維持(摂食障害など)につながっている」

「自分の希望をきちんと伝えることと怒りを適切に表現することが苦手だという点が多くの患者に共通する特徴である。」

治療目標は「不和とその段階を見極める。選択肢を探り、行動計画を選ぶ。満足できる結果が得られるように、期待を修正したり問題のあるコミュニケーションを修正したりする。」

不和の段階とは、再交渉、行き詰まり、離別の3つ。

「「役割期待」と「コミュニケーション」の2つのレベルで考える。… お互いへの期待が妥当なものであるか… それを伝えるコミュニケーションが効果的であるか」

不和の改善の仕方は、患者か相手の期待と行動が変化する、患者の態度が変化してより受容的になる、関係が満足できる形で解消する。

「不和のあるところには必ず「役割期待のずれ」がある。自分が望む役割を相手が果たしてくれない、自分が望んでいない役割を相手が引き受けてしまう、相手が自分に望む役割が自分が望むものと違う、というときに対人ストレスは生まれる。」

「自分が何を期待しているのかをわかっている患者は案外少ない。… 相手の期待を確認していない、誤解したまま思い込んでいる、という患者は多い。… 相手の期待が自分には不適切だと思えば、修正のための交渉をしてもよいし、関係を解消するという選択肢もある。」

「再交渉」の段階での戦略。「より効果的なコミュニケーション」ができるようにする。コミュニケーション分析(どんなコミュニケーションをしているか)、決定分析(どうすればより効果的なコミュニケーションになるか)、ロールプレイ(一緒に練習)の繰り返し。

「行き詰まりの段階」での戦略。「再交渉」の段階に移行させること。移行の過程で一時的に不調和が増すことは、「誰もがぶつかる壁」のようにあらかじめ伝えておく。

「離別」の段階での戦略。「悲哀」と「役割の変化」を頭に入れて対応する。相手を失うことによる否認・絶望・脱愛着。相手がいたときといないとき、変化の前後のメリット・デメリットの評価。

コミュニケーション分析。「より効果的なコミュニケーションができるようになるために、重要な会話や議論を、患者の記憶が許す限り、徹底的に思い出してもらう… 選ぶやりとりは、患者の気持ちに大きな影響を与えたもの、患者が何らかの結論に達した根拠となったものなど」

問題のあるコミュニケーションパターン。「あいまいで間接的な非言語的コミュニケーション。不必要に間接的な言語的コミュニケーション。自分がコミュニケーションしたという誤った憶測。自分が理解したという誤った憶測。沈黙、コミュニケーションの打ち切り。」

「患者が実際に伝えていることと、本当に伝えたいことがずれていることは多い。これは、「わかってもらえない」という患者の結論に結びつくことが多いのだが、客観的に見れば、伝えていないのだからわかってもらえないのは当たり前である。」

コミュニケーション分析の最終的な目標。「患者は相手とのやりとりを変えることができる。そして、その結果として自分の気持を変えることができ、それは症状の改善にもつながる。」

コミュニケーション改善のためのガイドライン「良いタイミングを見つける。現在の不和に焦点(過去は変えられない)。火(不和)は小さいうちに消せ。人間を、その行動と区別(行動は変えられる)。相手の期待を認識する。」

「対人関係上の役割をめぐる不和」のまとめ。不和は役割期待のずれ。コミュニケーション分析で具体的なやりとり。期待とコミュニケーションのレベルに取り組む。詳細な調査→選択肢の詳細な検討→練習。

「役割の変化」。役割の変化を伴うような生活上の変化にうまく適応できない結果としての病気。リストラ、離婚などのライフイベンツ。

「実は、ほとんどの変化がそれ自体良いものでも悪いものでもなく、有利な点と不利な点がある。うつ病の人はマイナスの側面のみに注目し、プラスの可能性を見ることができない。」

役割の変化では、濃霧の中で遭難したように感じるが、「自分は遭難しているわけではなく、単に1つの地点から次の地点へと移動しているだけだ」

「「役割の変化」の治療目標。古い役割の喪失についての喪と受容。新しい側面のポジティブな側面を見る。新しい役割が「できる」という感覚をもつのに必要な新しいスキルを育てる。」

「人は、「役割の変化」に際しては、不安の結果として、古い役割のポジティブな側面と新しい役割のネガティブな側面ばかり目が行くものである。… 特に古い役割のネガティブな側面と、新しい役割のポジティブな側面に注目することが役に立つ。」

「新しい役割における機会を探ることは重要な課題であるが、変化に伴う感情を表現してもらい共感してから行うべき作業であろう。」

「PTSDに対してのIPTはここのところ注目されてきているが、IPTでは行動療法的な暴露を推奨することはない。単に、外傷体験をはさんでの、重要な他者との関係性の変化に注目するだけである。」

「親との関係に問題をもつ思春期全般に、私は「不和」より「変化」としてフォーミュレーションすることが圧倒的に多い。… 「思春期における成長のために必要な変化にうまく適応できずに病気になった」というフォーミュレーションの方が、親子とも罪悪感を抱かずに受け入れることができる」

医原性役割の変化「気分変調性障害や社会不安障害など、慢性の経過をとってきた障害の場合、きっかけに注目して問題領域を決める大うつ病の手法では、あまり意味がないことが多い。」マーコウィッツらにより、治療によって引き起こされる「病者」から「健康な人」への医原性役割の変化が提案された。

「役割の変化」のまとめ。フォーミュレーション自体が治療的。重要な他者との関係を中心とするソーシャルサポートの変化に注目。変化に伴う感情の変化に注目。

「対人関係の欠如」。当初は人間関係を築いたり維持したりすることができない人という定義だったが、現在では他の3つの問題領域が当てはまらない人に採用する。

気分変調性障害や社会不安障害の場合は、症状の結果としての対人関係の欠如であり、症状のきっかけではない。このような場合は医原性役割の変化に注目する。

「例外として、摂食障害のグループ療法においては、「対人関係の欠如」を積極的に採用している。… 一見すると適切な数の対人関係があるが、表面的な関係であるため満たされなさを感じており、維持することが難しい、というタイプである。」

「治療目標は、患者の社会的孤立を減じ、新しい関係を作っていけるようにすることであるが、対人関係の欠如の短期治療は困難であることが多く、目標設定は、問題の「解決」ではなく、問題への取り組みを「始める」ことに限定すべきである。」

「重要なのは患者を容易に「パーソナリティ障害」と決めつけないことである。… IPTはあくまでも医学モデルをとるものであり、「病気を治す」という視点を失ってはいけない。」

「対人関係の欠如」の治療戦略。過去の重要な関係を、良い面も悪い面も含めて振り返る。対人関係において繰り返されるパターンを探る。

「過去の対人関係にしろ、治療者との対人関係にしろ、精神分析のような方法で扱うわけではない。あくまでも、目的は、「今以降、親しい関係を作っていくこと」である。」

治療者に対する患者のポジティブな気持ちやネガティブな気持ちについて話し合い、他の関係にも類似のものがないかを探るよう患者を励ます。ロールプレイとフィードバックを広く使う。治療外での他人とのやりとりを励まし、その結果を次のセッションで報告してもらう。

「治療者との関係における問題を解決することは、他の関係における親しさを育てる上でのモデルになると同時に、治療中断を防ぐ安全弁として働く。」

「対人関係の欠如」のまとめ。他の3つの領域が当てはまる場合には選ばない。気分変調性障害や社会不安障害が診断される場合には選ばない。新しい人間関係を築くための教材として、過去の人間関係や治療者との関係に注目する。

治療関係をよくモニターし、信頼関係の構築に努める。「宿題」を具体的に出し、うまくいかないときは「役割期待のずれ」として扱う。

「中期のまとめ。患者の感情をよくモニターし、治療焦点が患者の現実からずれないように注意しながら問題領域に取り組む。患者によく共感し良好な治療関係を築きつつ、同時に、終結期には自立できる患者を育てることを常に意識する。」

以上で第4章「中期」終了。今日はここまで。 水島広子著『臨床家のための対人関係療法入門ガイド』(創元社) http://bit.ly/dpJ0fi
第5章「終結期」 水島広子著『
臨床家のための対人関係療法入門ガイド』(創元社)

終結期の課題。「症状と対人関係問題領域における変化を振り返る。気分を改善し対人関係問題を解決するのに役立つ、患者が得たスキルを具体的に振り返る。(つづく)

終結についての患者の気持ちを探る。終結は悲哀の時となる可能性を認める。近い将来に問題が起こりそうな領域と、患者が再発を予防するために用いることのできそうなスキルについて話し合う。(つづく)

うつ病再発の兆候を話し合い、それについて具体的に何をするかを話し合う。無反応例・部分反応例に対処し、継続治療・維持治療の必要性について話し合う。」 以上、終結期の課題

「終結期に入る際に、「この治療が始まってから進歩したところ、あるいは進歩したかどうかはわからないけれども変わったところを書いてきてください」と頼む。箇条書きにしてきてもらって、それを次にセッションで振り返る。」

「終結は1つの人間関係の喪失であるので、悲哀の時となる可能性がある。… 終結に時期に、一時的に症状が悪くなる人もいる。それを再燃と区別しておくことは重要である。」

「終結は「役割の変化」の時期… 「病者として治療者の援助を受ける役割」から「再発の可能性を抱えながら健康に暮らす役割」への変化… 役割の変化に不安はつきもの… 「再燃・再発に早く気づき、適切な対処をする」ということも、新たな役割で必要とされるスキルの1つ」

「IPTも医学モデルをとる以上… 患者に伝えるべきメッセージは「IPTがあなたに効かなかったのであって、あなたの努力が足りなかったということではない」ということである。そして、1つの薬が効かなかったときと同じように、他の治療の選択肢を考える。」

「反復性うつ病… 再発予防のための維持治療を検討すべきである。その他、気分変調性障害など慢性の経過をとってきた障害の場合が挙げられる。… 維持治療の場合、頻度は月1回でよいだろう。継続治療の場合は、週1回のペースを続けてもよい。」

終結期のまとめ。「治療における変化を振り返り、新たなスキルとして地固めする。終結に関する気持ちを扱う。再燃・再発について話し合う。追加の治療が必要な場合は話し合う。期間限定治療の枠組みは崩さない。」

第6章「技法」 非指示的探索。題材の直接的引き出し。感情の励まし。明確化。コミュニケーション分析。決定分析。ロールプレイ。治療関係の利用。補助的技法。

「IPTは戦略が特徴的な治療法であり、技法はそれ自体に特徴があるというよりも、戦略を進めていくための手段である。」

非指示的探索:支持的承認。話し合われている話題の拡張。受容的沈黙。

「全般に話すのが苦手な人、何らかの問題に行き詰まっている人、コミュニケーション分析など特定の技法が必要な場合に、漫然と非指示的技法を用いるのは誤りである。」

「話すのが苦手な人に、話すのを期待してただ温かく待っていても、本人は、自分は話すのが下手だという意識ばかりを強めるかもしれない。… 社会不安障害の人などは沈黙そのものに苦しさを感じるということも覚えておきたい。」

「何らかの問題に行き詰まっている人は、非指示的技法を続けても、ただ行き詰まりの悪循環を話し続け、無力感を強めるだけだろう。コミュニケーション分析や決定分析など、問題解決のための技法を用いるべきである。」

題材の直接的引き出し:「テーマを限定して具体的な話を聞き出す技法である。… これが活躍するのは、特に初期の評価の時期である。… 多用すると、治療者が権威的に見えたり、取調べのようになってしまったり」

感情の励まし:「変えられない、変えるべきでない物事についての苦しい感情の受け入れを促進する。望ましい対人関係の変化を起こすために感情を利用する。成長と変化につながる感情を育てる。」

「世の中には感じるしかない感情がある。たとえば、大切な人が亡くなったときの悲しみは、まさにその性質のものである。… 感情を肯定する言葉は役に立つだろう。あるいは、黙って聞くこと(受容的沈黙)も、表現して安全だというメセージになる。」

「患者によっては、感情をやたらと爆発させては人間関係を壊してきている人もいる。そういう患者に対しては、感情表現や感情に基づく行動を遅らせることができるようにサポートすることが「感情の励まし」の技法になる。」

「感情表現を症例すべき人と抑制すべき人を見分けることも重要である。面接の中では何であれ感情表現をしてもらうことが重要であるが、面接室の外では別である。」

「患者の感情を承認しないことは誤りである。… どんな気持ちであれ、患者が感じている以上は真実なのである。それを否定することには何の意味もないどころか治療関係の構築という観点からは有害である。」

「「明確化」の短期的な目的は、実際にコミュニケーションされたことを患者に気づかせることである。より長期的な目標としては、以前に抑制された話し合いを促進する、というようなものもある。… この際、IPTでは対人関係に関連づけて言い換える。」

決定分析:「問題を起こしている対人関係状況を選ぶ。そして、その問題に対して可能な解決策を考えるよう患者を励ます。… それぞれの選択肢のプラスとマイナスを評価する。そして、まずやってみる1つの解決法、あるいは組み合わせを選ぶ。」

「治療関係を技法として用いるのは、治療者に対する患者の考えや行動が治療を妨げる場合のみである。… 治療関係を利用するためには、不満、心配、怒り、その他治療者や治療についてのネガティブな気持ちが生じたら表現するように、と治療の初めに患者に伝えておく。」

「IPT は「感情に根づいた治療」である必要性があるが、患者の多くは感情に直面することが怖いため、知的な議論をしたがる。… 原点に返って、IPTとは「現在進行中のやりとり」と「気持ち」との関係を振り返るものだ、ということを思い出そう。具体例を聞き出す質問が有効である。」

「IPTにおいては、焦点を維持することが効果のための命であり、また、それゆえ、治療者が唯一積極的になるポイントである。」

「IPT では、ベック抑うつ評価尺度やハミルトン抑うつ評価尺度などを定期的に使うことを奨励している。… 「症状と対人関係問題の関連づけ」のために行うものであるが、それと同時に、うつ病についての教育にもなる。… 頻度よりも「定期的に行うこと」の方が重要… 3〜4セッションに1回」

「IPT は重要な他者との関係に焦点を当てる治療法であり、「悲哀」は重要な他者の死、「不和」は具体的に特定できる重要な他者との関係性、「変化」では、特にその中で重要な他者との関係性がどう変化しているかということ、「欠如」は重要な他者がいないということそのものを扱う。」

「IPT は本来個人療法として開発… 現在では夫婦同席面接やグループ療法の形も開発… 思春期用のIPT-Aでは、保護者が少なくとも初期に同席することが望ましいとされている。最近では認知障害をもつ高齢うつ病患者の治療において、介護者を柔軟に参加させる方法が注目を集めている。」

「重要な他者の同席は、すべてのセッションにしろ、部分的にしろ、特に「対人関係上の役割をめぐる不和」の患者の場合には、とても役に立つ。コミュニケーション分析も、その場で結論を出していくことができる。」

守秘義務「重要な他者との話し合いでは何は触れてよいか、何に触れないでほしいか、ということは事前に患者と相談すべきである。治療者はあくまでも「患者の代弁者」なのであり、中立的な立場にあるのではない。

第7章「トレーニングを進めていく上での注意点」 水島広子著『臨床家のための対人関係療法入門ガイド』(創元社)

「自分のセッションをコミュニケーション分析するような気持ちで振り返るとよいだろう。「自分は何を引き出したくて、この質問をしたのか」「それはIPTの焦点に合ったことだったか」「その結果、患者から実際に引き出されたのは何か」」

「私自身が混雑した大学病院の一般外来でIPTを用いた経験からは、「期間限定」を意識するよりも「治療焦点の維持」「患者の自信を増す」ということを意識した方がうまくいくように思う。」

読了。これは臨床家のために最も役に立つIPTの本だと思う。 水島広子著『臨床家のための対人関係療法入門ガイド』(創元社)

[2010/5/22]

水島広子著『社交不安障害

「対人関係療法とは、その医学的な治療効果が実証されているのみならず、患者さん、ご家族、そして治療者までもが「人間を好きになる」治療法だということです。」

「対人関係療法は、対人関係のストレスを解決する治療法であると同時に、対人関係の力を利用して病気を治す治療法でもあります。」

「対人関係療法を通して、人と人のつながりを育てていくことが、病気の治療を超えた意味を持つ時代になっていると思います。」

「「自分」が気にしすぎているのではなく、社交不安障害という「病気」にかかっていて、その病気の「症状」が対人不安なのです。」

「新しい対人関係パターンを身につけていくためには、繰り返し実践することが大切です。そのために必要なのが治療の場なのです。」

社交不安障害の治療法は薬物療法と精神療法。薬物療法ではSSRIなどの抗うつ薬が中心。精神療法では認知行動療法と対人関係療法。認知行動療法は不安を引き起こす認知の歪みや暴露法による不安の順化。対人関係療法は不安反応ではなく対人関係に焦点、自分の力を感じられるように治療。

「対人関係療法は「医学モデル」をとります。「医学モデル」とは何かというと、その人は病気であり、それは治療可能なものである、という考えです。」

医学モデルにより「病者の役割」を与えることで、周囲からの役割の期待を低減させ、その結果として対人関係のストレスを低減させる。

対人関係療法の治療の目標は、「不安を感じなくなること」ではなく、「不安をコントロール可能なものにしていくこと」「不安を正当な感情として理解し、活用できるようになること」。

「対人関係療法では、両方向で影響し合っている対人関係と不安症状のうち、対人関係機能を改善することによって症状を減じていきます。」

「対人関係療法で言う「治療による役割の変化」というのは、簡単に言えば「すべては性格の問題」と思っていたところから「病気にかかっていたのだ」という認識に変化する、ということです。」

「社交不安障害は慢性の病気ですが、症状が悪化したポイントが明らかである人は、「役割の変化」に注目すると役に立ちます。...「役割の変化」というのは、生活上の変化にうまく対応できてないことが症状悪化につながっているような場合指します。」

「私たちはどんな人に対しても何らかの役割を期待しているものです。...対人関係上のストレスは、この役割期待がずれるときに起こってきます。」

「相手への期待の整理の仕方として、社交不安障害の人にとても役立つのは、「境界設定」と呼ばれる考え方です。これは、自分側の問題なのか、相手側の問題なのか、という境界線をはっきりさせるというような意味です。」

「不安は、安全確保のための感情ですので、安全かどうかがわからない状況で起こってきます。対人関係において、安全かどうかを知るための手段はコミュニケーションです。」

「私は、すべての病気に何かしら学べる要素があると思っています。うつ病からは「休んでも大丈夫」「人に頼っても大丈夫」…、摂食障害からは「マイペースでも大丈夫」「人に自分の気持を話しても大丈夫」…、社交不安障害からは「人間性の受容」が学べると思っています。」

[2010/4/25]

ストレスに強くなろう!〈5〉(解決志向ブリーフセラピー編1)

〜悲観しすぎないで!「例外探し」〜

今回からは解決志向ブリーフセラピー編、最初は『悲観しすぎないで!「例外探し」』です。
「何をやってもダメだ!」と落ち込んでしまったことはないですか?
そんなときでも、うまくいっていることは、いっぱいあるものなのです。

まず「解決志向ブリーフセラピー」って何かを説明しますね。
みなさんはコップに半分の水が入っているときにどう思いますか?

無くなった半分のことを考えて「半分しか水が残っていない!」と思うのか、
残っている半分のことを考えて「半分も水が残っている!」と思うのか。

「半分しか水が残っていない!」と悲観的に捉えるときには、
「どうして半分になってしまったのだろう?」とか、過去の問題点に目を向けることが多くなります。
逆に「半分も水が残っている!」と楽観的に捉えるときには、「残った半分をどうやって飲もうかな?」とか、未来の解決点に目を向けることが多くなります。
前者の問題志向アプローチに対して、
後者の解決志向アプローチを取るのが解決志向ブリーフセラピーです。

「何をやってもダメだ!」と落ち込んでしまったとき、たとえうまくいかないことがいっぱいあったとしても、ひとつでもうまくいっていることを探していきます。
これを「例外探し」と言います。

例えば、「最近、全く眠れない!」
でも、本当に全く眠れなかったら、死んじゃいますよね。(笑)

一日ぐらい例外的にうまく眠れたときはなかったでしょうか?
一日も眠れなかったとしたら、どこかでうたた寝をしたことはなかったでしょうか?

「何をやってもダメだ!」
でも、本当にすべてのことがダメだったのでしょうか?

「毎日、過食してた!」
でも、本当に毎日だったのでしょうか?

細かく見ていけば、例外は必ずあるものです。
そのできていることに目を向けて、できていることを増やしていくのが、解決志向ブリーフセラピーです。

「一日はうまく眠れてた!」
「ひとつだけうまくいったことがあった!」
「一日だけ過食しなくてすんだ!」
うまくいったことを繰り返していくことで、それを一日から二日へ、ひとつからふたつへと増やしていきます。

このために解決志向ブリーフセラピーでは3つのルールを用います。

<ルール1>もしうまくいっているのなら、変えようとするな。
<ルール2>もし一度やって、うまくいったのなら、またそれをせよ。
<ルール3>もしうまくいっていないのであれば(何でもいいから)違うことをせよ。

みなさんもこのルールを使って、うまくいくことを増やしていって、未来を豊かにしてくださいね。

さて、次回は『あなたが悪いわけじゃない!「外在化」』
「また失敗しちゃった。私はなんてダメなんだろう!」と自分を責めてしまったことはないでしょうか?
自分を責めてしまうと、つらいだけでストレスを溜め込んでしまいます。
そういうときは、自分の中のダメな部分を外に出す「外在化」で解決できるのです。
[2010/4/4]


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