日々の雑感 [2010/10-12]

『あたらしい 門出をする 者には新しい 道がひらける』
まだまだ細いが、新しい道が拓けてきた。


IPT(対人関係療法)と人事制度

IPTの観点から会社のストレスの問題を考えると、いわゆる対人関係は「対人関係上の役割をめぐる不和」、昇進(&降格)は「役割の変化」というテーマで扱うことになります。

対人関係では、お互いに相手に何かしらの役割を期待しており、その役割の期待のズレがストレスを生み出します。
例えば、上司は部下に役割の期待をし、部下は上司が期待している役割を想像します。
同様に、部下は上司に役割の期待をし、上司は部下が期待している役割を想像します。

上司と部下の期待が一致してれば、期待のズレによるストレスは生じません。

残念ながら、後者の部下の上司への期待をうまく扱えている人事制度を私は知りません。
ここは面接などで部下の期待を吸い上げることが重要です。
前者の上司の部下への期待は、いわゆる「自己申告」などの人事制度で扱える領域です。
ここも面接などで部下の期待を吸い上げるとともに、お互いの期待を摺り合わせることが重要だと言えます。

期待のズレによるストレスだけを考えれば、上司が具体的な役割を与えれば良いことになります。
しかし、部下のモチベーションも重要な要素なので、上司はいかに役割の設定に部下を主体的に関わらせるかを考えなければなりません。
[2010/12/17]

対人関係療法でなおす「気分変調性障害」

水島広子『対人関係療法でなおす「気分変調性障害」』(創元社)。対人関係療法でなおすシリーズの、「うつ病」「社交不安障害」「双極性障害」に続く第4弾からの抜粋。

「「病気というよりも性格の問題ではないか」と思われることの多い気分変調性障害に対して「病気」という概念を活用することによって、どれほど対人関係が改善し回復につながるかということを示してくれるのが、気分変調性障害に対する対人関係療法です。」

「対人関係療法を通して、人と人のつながりを育てていくことが、病気の治療を越えた意味を持つ時代になっている。」 (←ここ、いつ読んでも共感する!)

「自分は人間としてどこか欠けていると思う。ほかの人は苦しいことにもしっかり耐えているのに、自分は弱い人間だと思う。自分は何をやってもうまくいかな い。自分は何か、なすべき努力を怠っているような気がする。… これから先の人生に希望があるとは思えない。」 (気分変調性障害の感じ方)

気分変調性障害が、抑うつ神経症のような性格的な問題としての位置づけから、病気としての位置づけに変わったのはDSM第三版から。

入眠後最初のレム睡眠までの時間であるレム潜時が短縮するなどの睡眠リズムの乱れがあるのは大うつ病と同様。

診断基準のポイントの一部「憂うつな気分がほとんど一日中存在し、少なくとも二年間続いている。」 大うつ病との違い「気分変調性障害は慢性であまり重症でない抑うつ症状が長年持続していることによって特徴づけられる。」

「治療を受けていない気分変調性障害の人は、自分の感じ方が病気の症状だとは思っておらず、「人間としての欠陥」にもとづくものだと思っています。そして、その欠陥を、とても人から受け入れられない、恥ずかしいものだと思うため、隠そうとして生きていくことになります。それは本当に苦しい生き方です。」

気分変調性障害と似て見える、ほかの病気 反復性うつ病・双極II型障害・PTSD・社交不安障害。反復性うつ病は、うつでない期間が2ヶ月以上あるか。双極II型障害は、4日間以上の軽躁状態があるか。PTSDは、フラッシュバックなどがあるか。社交不安障害は、不安反応が強いか。

薬物療法にエビデンス。「改善したのはうつの症状だけでなく、慢性的に続いてきた社会的・職業的機能の問題も抗うつ薬投与開始後6週間以内に有意に改善」

「私の経験では、「治りにくいうつ」と言われているものは、基本的に気分変調性障害があるケースと、双極II型障害のケースが多いように思います。」

慢性のうつ病に対する認知行動療法「CBASF(認知行動分析システム精神療法)」の大規模実験でエビデンス。ただし、追試ではそれほどの効果は再現せず。

気分変調性障害に対する対人関係療法は小規模実験のみ。「薬が効かない人、薬を使うことができない人に対するメインの治療法として」「薬は効いたけれども、対人関係面の困難を抱えている人に対する補強的な治療として」

「私は今まで、気分変調性障害の患者さんで対人関係の困難を抱えていない人を見たことがありませんし、ほかの治療者も同様だと思います。ですから、精神療法として対人関係療法を用いることには正当な根拠があると言えますし、実際の治療でも、とても適切な焦点だと感じています。」

「精神分析が気分変調性障害に有効であることを示したデータはありません。… 気分変調性障害を病気として見るのではなく個人の内的葛藤に焦点をあてる精神分析には、病気と人格を混同して患者さんの罪悪感を増すリスクがある」

「気分変調性障害の場合、病気として認識することそのものが、治療効果を持ちます。気分変調性障害の方は自責と絶望の悪循環に陥っているのですが、そこに、「本人のせいではなく病気のせい」という視点と、「治療をすれば治る」という希望を与えることは、悪循環から脱する効果を持つからです。」

「気分変調性障害の基本的な特徴は「自分をいじめるような形」でものごとをとらえる、ということです。その根底にあるのは、「だめな人間である自分」という感覚です。すべてのことを、「だめな人間である自分」という色眼鏡を通して、「自分をいじめるような形で」解釈する」

典型的なコミュニケーション・パターン。「大きな特徴として、「自己主張」と「怒りの適切な表現」の苦手さがあります。」

「治療において実質的に行っていくのは、今まで恵まれてこなかった対人学習ということになります。これが気分変調性障害に対する対人関係療法の本質です。」

気分変調性障害は大うつ病のように発症の時期を特定できないので、治療の焦点となる問題領域は通常の四つの問題領域ではなく、「治療による役割の変化」を中心に考える。「これは、治療を受けることによって、それまで当然のものとして受け入れてきた病気の役割から健康な人の役割に変わるという意味」

「気分変調性障害に対する対人関係療法において、怒りという感情は、役割期待のずれがあることを示してくれる貴重なサインです。怒りを感じたら、そこにどのような役割期待のすれがあるのかを考えていけばよいのです。」

「「あなた」を主語にして語ると、どうしても相手への決め付けになってしまいますが、「私」を主語にして、自分の気持ちを誠実に語っていくことがもっとも安全な話し方なのです。」

「実は、気分変調性障害の人はそのような話し方をあまりしたことがありません。なぜかと言うと、自分の「欠陥」を見破られないように、自分を隠しながら生きているからです。」

治療の足を引っ張る7つの考え方「病気のせいにするのは”言い訳”だ」「きちんと断ったり自己主張したりできるのが立派な社会人」「努力すれば何でも達成できる」「愚痴を言うのは弱い証拠」「働かざるもの食うべからず」「ポジティブ思考!」「すきま時間は活用すべき」

「対人関係療法は単なる自己主張のための技法ではありません。気分変調性障害という病気のためにどれほど自己主張が難しくなっているかをよく学び、相手との間にどういうやりとりをすると症状にプラスやマイナスがあるのかをよく調べ、本当に伝えるべきことは何なのかを検討し、もっとも安全でわかりやすい伝え方を研究する、という一連の大きな流れの中で、本人なりのプロセスを歩んでいくというところが一番の本質です。」

「気分変調性障害の人が自分の「弱さ」と感じているもののほとんどが、気分変調性障害の症状です。病気を病気として認めて対処していくことは「強さ」です。自分の「弱さ」と感じて恥じたり隠したりするのではなく、病気の症状としてまっすぐに対処していくことは「強さ」なのです。」

[2010/11/6]

対人関係とストレス

9月20日のコミュニティカウンセラー協会の新宿コズミックスポーツセンターでのイベント『ママの笑顔はみんなの笑顔』のために作成したパンフレット『対人関係とストレス』。
[2010/10/2]


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