日々の雑感 [2011/01-03]

やっと最悪の状態を脱出。良くなることを目指すというより、一日一日を大切にしていきたい。


水島広子『トラウマの現実に向き合う ― ジャッジメントを手放すということ

IPCとは、精神科に紹介する必要がない程度のうつに対する対人関係カウンセリング。

IPC対IPT。
位置づけ:ストレスに対するカウンセリング/病気の治療法。
対象:軽度のストレス(抑うつ症状)/うつ病など精神科的障害。
提供者:メンタルヘルスの非専門家/専門家。
期間:1回15分〜30分を6回以下/1回50分を12回〜16回。
ホームワーク:あり/なし。

IPCかIPTかは、対象となる人の診断による。ストレス症状ならIPC、病気の症状ならIPTで医学モデルにより病者の役割を与える。IPCはIPTの簡易版ではない。

目次:1)IPCの全体像をつかむ。2)IPCを始める(第1・2回面接)。3)IPCの具体的なストレス領域に取り組む(第3〜5回面接)。4)IPCを終える(第6・7回面接)。5)IPCを実行する上でのさまざまな問題点とその対処法。6)Q&A。

1)IPCの全体像をつかむ:IPCを行うのに適しているところ。IPCに適した人。IPCを提供する人。

第1回面接(60分):インテーク。第2回面接:対人関係フォーミュレーション。第3・4・5回面接:ストレス領域への取り組み。第6回面接:IPC関係終結。第7回面接(オプション):終結の確認

ストレス症状に、身体的な治療、精神科の治療が必要な人は、IPCに適さない。

ストレスを感じるとき=道に迷った感じがするときや、行き詰って感じるとき。→IPCによって、現在位置を確認したり、行き詰まりを乗り越えたりする。→現状についてのコントロール感覚を取り戻す。

ストレス症状発症の経緯を探る:ストレス症状発症のタイミング(対人関係的な文脈)。ストレス発症後の経過(現在進行中の対人関係と症状の相互作用)。

症状と現在進行中の対人関係が関連していることを理解する。→IPCによって、自分が置かれた対人関係状況に対処。→対人関係状況についてコントロール感覚を持つ。

IPCは共感と教育のカウンセリング。ストレスと対人関係状況の関連と、対人関係状況への対処法を教える「教育」。現在のストレスや症状のつらさを認める「共感」。カウンセラーの意識としては共感の上に教育。

IPCの2つの目標:ストレス症状を軽減する(クライエントの主目的)。クライエントの社会適応と対人関係の質を改善する(IPCで主として焦点を当てる目的)。

何に焦点を当てるか:「今ここで here and now」の問題を扱う。現在の重要な人間関係に注目する。現在の状況を評価させる。現在の状況をコントロールできるように援助する。IPCで注目すること・しないことを区別する。過去・性格・症状などには注目しない。

IPCカウンセラーの姿勢:無条件の温かさを維持する。指示をしない。クライエントの実生活の一部にならない。「性格的な問題」や「根本的な問題」を扱おうとしない。

2)IPCを始める(第1・2回面接)。第1回面接:信頼関係を築く。IPCに適したクライエントかどうかを判断する。身体症状がある場合の扱い。クライエントの現在の対人関係と社会的な状況を探る(対人関係の診断)。IPCの契約を結ぶ。

身体症状がある場合はまず身体疾患を疑う。身体に異常がないと言われて安心するタイプはカウンセリングを導入しやすい。自分の問題は身体的なものだと主張するタイプは身体表現性障害の可能性がある。身体疾患に加えてストレスによって悪化した部分へのカウンセリングを提案する。

第1回面接の宿題として「ライフイベント尺度」を書いてきてもらう。最近の2ヶ月間のライフイベントのチェックリスト。

第2回面接:クライアントの直近のストレスを見つける。焦点となる主要なストレス領域を決める。クライエントが、症状とストレス状況の関連を理解できるようにサポートする。

宿題のライフイベント尺度から最も直近のストレスを見つけることと、残りの面接の焦点となる主要なストレス領域を決めるのが目的。
質問:現在の症状の発症の時期と持続期間。現在の生活状況。親しい人間関係。以上のいずれかにおける最近の変化。

3)IPCの具体的なストレス領域に取り組む(第3〜5回面接):問題を引き続き明確化する。クライエントが関係者に悩みを打ち明ける。その状況について、クライエントが見落としてきた側面に気づいてもらうことによって問題への対処の仕方を改善する方法を見つける。

「悲哀」は大切な人が亡くなったときのストレス領域。
「悲哀」のときの目標:遅延した喪のプロセスを促進する。喪失したものに代わる関心や関係を再構築できるようにクライエントをサポートする。

「悲哀」の宿題:喪のプロセスの促進なら、亡くなった人の古い写真を見たり、古い友人に会って亡くなった人について話す。関心や関係を再構築なら、新しい組織を訪問したり、知人に電話したり会ったりする。

「対人関係の不和」はクライエントと重要な他者が自分たちの役割に関して抱いている期待にずれがある状況のストレス領域。不和の段階としては、再交渉・行き詰まり・離別がある。
第1回面接での重要な人間関係の振り返りで、「何を述べているか」だけでなく「何を省いているか」に注意する。

「対人関係の不和」のときの目標:不和を明らかにする。行動計画を選択する。相手への期待を評価し直す。クライエントの対人関係の持ち方に特別な注意を払うと、コミュニケーションパターンにおける問題点が明らかになることが多い。「対人関係の不和」の宿題:自分が望むものをより直接的に表現する。

「役割の変化」は生活上の変化が喪失と感じられるような状況のストレス領域。

ストレス領域が「役割の変化」のときの目標:クライエントが新しい役割を、よりポジティブな、より自由な方法で見られるようにすること。新しい役割において必要とされることについて、「できる」という』感覚を育てることによって自尊心を取り戻すこと。

進め方としては、失った役割の評価を促進する、感情の表現を励ます、新しい状況に適したソーシャルサポートシステムと新しいソーシャルスキルを育てる。「役割の変化」の宿題:悲哀と同様に、古いものを振り返る。新しい活動を励ます。

「社会的孤立」はクライエントの社会性が乏しく対人関係をうまく持てない状況のストレス領域。
気分変調性障害のこともあり、IPCのストレス領域として選ばれることはほとんどない。

ストレス領域が「社会的孤立」のときの目標:過去において意味のあったかもしれない関係の例を探し、そして新しい関係を築き始める。

進め方としては、幼少期における家族との関係など過去の重要な関係を振り返るとともに、新しい関係のモデルとしてカウンセラーとの関係を利用する。

「社会的孤立」の宿題:古い友達に連絡をとったり、人と関われる状況を探す。このためにロールプレイも利用する。

4)IPCを終える(第6・7回面接):
第6回面接:IPCのカウンセリング関係を終結することが目的。具体的なストレスに対するクライエントの進歩、クライエントの入手可能なサポートを強調するとともに、終結についてきちんと話し合う。
第7回面接は予備。

終結には何らかの不安を感じるため、症状がぶり返したと感じることが多い。
このことをきちんと伝え、終結後に再び面接を行うのは、最低8週間空ける。

5)IPCを実行する上でのさまざまな問題点とその対処法:IPCと通常の医療との関係。クライエントが別の治療を求める。クライエントがカウンセラーを友人や家族の代わりにする。IPCの経過中に病気が発症する。クライエントがカウンセリングを受けることを「弱い証拠」だと思っている。…

6)Q&A:初回面接を効率的に進めるよい方法は? IPCマニュアルにおいて、まだ身体的検査や精神医学的診断が完了していない人の扱い。「身体表現性障害」はIPCで扱えるか?

付録:IPCの修正版(FEPP)−IPCとCBTの統合。対人関係療法(IPT)とは。IPCの効果エビデンス。軽度のうつを精神科以外の領域で扱うことの意義。プライマリケアの可能性。
[2011/3/26]

森俊夫&黒沢幸子『うつへのSolution:Part 2 Unreinなうつ、うつ病でないうつ』@中野サンプラザ

昨夏の『Part 1 きれい(Rein)なうつ』の復習。単極で単一エピソード。優勢気質は循環気質。希死念慮は(心配をかけないように)さらっと訊く。手段も致死性が高いかの判断のために訊く。

大うつ病のDSMによる定義。KIDSの4気質類型モデル、シゾイド・循環・粘着・ヒステリー。クレッチマーの循環の定義を変えてヒステリーを追加。クレッチマーでは循環は双極I型の病前性格、KIDSでは単極の単一エピソード。

100%元に戻ることを伝える。他者依存なので休養は強く指示・命令する。再発させないことが大切。抗うつ剤の継続や維持治療で再発リスクが1/5。発症中は薬物療法、再発を抑えるために精神療法。

抗うつ剤の薬理作用を脳科学的に説明。セロトニンのせいにする外在化が自責感を和らげる。SFAはゴールを強調するとsolution-forcedになる。

リハビリ出勤。クリニックでの復職プログラムはあまり効果がない。回復後に以前の立場・役職・責任に戻すのが大切。企業が安全配慮義務にこだわって戻さないと、本人は期待されていないと誤解する。

Unreinなうつ。従来は精神病性の大うつ病エピソード。他の気分障害、双極I/II型の大うつ病エピソード、気分変調性障害など。DSMによる気分障害の説明、躁病・混合性・軽躁病エピソードの説明。診断の順序は、身体→物質(薬物)→精神→心理。

双極I/II型障害の最初が大うつ病エピソードのときは、薬物治療が抗うつ剤ではなく気分安定剤になるので注意。気分安定剤はリーマスなどリチウムかデパケンなど抗てんかん剤。リチウムは血中濃度のバンドが狭く個人差があるので、血中濃度を計らない医者はヤブ。

双極の大うつ病エピソードは落ち込み方が急激で(自責的でなく)他罰的。粘着気質だったら双極を疑う。

気分変調性障害は抗うつ剤が効かない。障害ではあるが、生物学的要因に基づく疾患ではないかも。

パーソナリティ障害。森先生は概念として認めていない。(←ここの説明は科学的というより倫理的)境界性パーソナリティ障害は、双極II型障害、抗不安薬の長期服用、医原病によるもの。境界性は関わり次第で短期に改善するのでパーソナリティとは関係ない。回避性と抑うつ性の改善は時間がかかる。

心的外傷後ストレス障害(PTSD)。再体験(フラッシュバック)、回避・麻痺、覚醒亢進が特徴。4週間以内に発症する急性ストレス障害(ASD)とは区別。

両者とも薬物は効かなかったが、SSRIのパキシルが効くというエビデンス。「時間」と「安心できる環境」が最も重要。エビデンスがある治療法は持続的暴露療法。EMDRは過覚醒の副作用があるので専門家以外は使わないこと。阪神大震災のときに行った強制的ディブリーフィングは逆効果。

新型うつ。臨床医学上の概念ではない。気分変調性障害の場合もある。パーソナリティの場合、会社なら就業規則とか事務的に対処する。回避性または抑うつ性パーソナリティ障害の場合は、SFAではゴールを強調しない。

災害状況でのメンタルケア。援助者にもメンタルケアが必要。TVは二次受傷となるので注意。人とのつながりは大切。
[2011/3/21]

水島広子『トラウマの現実に向き合う ― ジャッジメントを手放すということ

治療者向け、トラウマに向き合う治療姿勢について。「治療者は病気の専門家ではあるが、人間の専門家ではない」

「トラウマ治療において、「安全」というテーマを終始一貫して守ることは生命線だと思う。これは特定の戦略や技法以上にずっと大切なことである。」

第1章「不信」という現実に向き合う:治療の土台作り
第2章「コントロール感覚の喪失」という現実に向き合う:治療のメインテーマ
第3章「病気」という現実に向き合う:治療の位置づけ
第4章「文脈」という現実に向き合う:トラウマの位置づけ
第5章「身近な人たち」の現実に向き合う:トラウマと対人関係
第6章「ジャッジメント」の現実に向き合う:燃え尽きを防ぐ
第7章 治療者自身の現実に向き合う:自らの価値観やトラウマ
第8章「トラウマ体験」という現実に向き合う:ゆるすということ

第1章「不信」という現実に向き合う:治療の土台作り
「特に対人トラウマを持つ患者に向き合ったときに、たとえば「PTSDに効果的な治療法を知っていること」と、「実際にその患者の治療ができること」との間にはかなりのギャップがある。」

「かなり深刻な対人トラウマを持つ患者の場合、もちろん治療者も「信頼できない人間の一人」、…治療の場は…患者にとっては傷つくリスクの高い場」

トラウマ患者に信頼されるためには、治療者の人間性だけではだめで、トラウマについての知識を持っていることが必要。
トラウマ患者を傷つけないことは大切だが、「腫れ物扱い」のような主観的なジャッジメントは、患者に「距離を置かれるような疎外感」を抱かせる。

「問題なのは、トラウマ体験者特有の対人関係のパターンが、治療者を共感的な姿勢から遠ざけてしまう可能性」「「そもそも人間性に問題がある人」とジャッジしてしまえば、とりあえず「治療者としてだめな自分」という感覚から逃れることができる」

治療者は主観的評価であるジャッジメントではなく、病気の専門家として客観的評価であるアセスメントを心がける。トラウマ体験者の自分自身に対する厳しいジャッジメントに対してもアセスメントは役立つ。

「治療によるトラウマの大部分が、ジャッジメントによるものである。…多くの場合、治療がうまくいかないときに治療者は「患者の抵抗」「患者が非協力的」とジャッジメントする。」

第2章「コントロール感覚の喪失」という現実に向き合う:治療のメインテーマ
「トラウマ患者の治療において、「治療者への信頼」は土台となるものだが、その上に築いていく治療のメインテーマは「コントロール感覚の回復」」

我々が不確定な未来に振り回されないのは、「まあ、何とかなるだろう」というコントロール感覚。コントロール感覚の基本は「自分が何とかできるだろう」「他人が何とか支えてくれるだろう」「まあそんなにひどいことも起こらないだろう」という自己・他者・世界への暗黙の信頼感。

トラウマ体験に直面して起こることは「コントロール感覚の喪失=遭難」

対人関係療法ではトラウマ体験を4つのテーマのひとつである「役割の変化」として扱う。注目するのは、慣れ親しんだソーシャルサポートと愛着の喪失、怒りや恐れなど役割の変化に伴う感情のコントロール、新たなソーシャルスキルの必要性、自尊心の低下。

トラウマ体験後にPTSDを発症するかどうかの最大の予測因子がソーシャルサポートの有無。

第3章「病気」という現実に向き合う:治療の位置づけ
対人関係療法では医学モデルに基づき、トラウマ関連の病気を「治療可能な病気」として扱う。重要なのは「病気」そのものの症状だけを見るのではなく、「病気という体験をしながら暮らしている本人」も視野に入れる。

「(医学モデルの採用により)何が症状であるかを知ることは、罪悪感を減じるだけでなく、コントロール感覚の回復につながっていく…(回復過程でトラウマ体験に向き合ったときの症状も)極めて正常な反応であって、永続するものではなく、回復のプロセスにおいては前進なのだ、ということを明確に」

「人を変えようとしないことが、変化を起こすことにつながる…対人関係療法の治療者の基本姿勢は、患者に無条件の肯定的関心を与えつつ、対人関係問題領域への焦点を維持すること」

PTSDの治療には、持続エクスポージャー療法などにエビデンスがある。ただし、苦痛に耐え、怒りや不安といった感情に対処することが苦手、ストレス下で解離しやすい、治療者と機能的な関係を維持するのが難しい患者では、症状の悪化・高い離脱率・治療順守の問題が生じやすい。

第4章「文脈」という現実に向き合う:トラウマの位置づけ
「ジャッジメントではなくアセスメントをしていくためには、「医学モデル」を適用して症状を症状として位置付けていくと同時に、(患者を理解するために)患者の文脈を何よりも尊重する必要がある。」

第5章「身近な人たち」の現実に向き合う:トラウマと対人関係
身近な人たちを避けて通れない理由:トラウマ症状は身近な人間関係に影響を与える、患者の不和の相手がトラウマ体験者であることが多い、患者にトラウマ体験を与えた相手が身近な生活圏にいることが多い。

6章「ジャッジメント」の現実に向き合う:燃え尽きを防ぐ
トラウマ体験者の支援は燃え尽きやすい。支援者本人が心身健康を害するだけでなく、それがトラウマ体験者に知られれば罪悪感を抱かせ、知られなければ冷たさや裏切りと感じさせてしまい、トラウマ体験者の自己への信頼が大きく損なわれる。

「「燃え尽き」という現象を理解するためには、「トラウマ体験者の支援」を(支援者にとっての)「役割の変化」としてフォーミュレーション」
特に重要なのはソーシャルサポート(支援者を支えてくれる人はいるか)と感情の処理(トラウマ体験者の支援の中で感じる感情に対処できているか)

重要なソーシャルスキルは「境界設定」。できることできないことという役割期待をトラウマ体験者と調整していく。

第7章 治療者自身の現実に向き合う:自らの価値観やトラウマ
無条件の肯定的関心である「人間としての共感」とトラウマ体験という「テーマへの共鳴」を区別する。後者はトラウマ体験者本人の現実と間にずれが生じる。

第8章「トラウマ体験」という現実に向き合う:ゆるすということ
「トラウマ体験を一つの(自分の)喪失体験と考えれば、対象喪失後の「悲哀のプロセス」(否認・絶望・脱愛着)を当てはめることができる。」
トラウマからの回復の本質は「自分をゆるす」こと。
[2011/3/19]

水島広子『対人関係療法でなおす トラウマ・PTSD

IPT(対人関係療法)シリーズ。トラウマ・PTSDの問題と障害の正しい理解から対処法、接し方のポイントまで。

いつもの「シリーズによせて」の言葉。「対人関係療法を通して、人と人のつながりを育てていくことが、病気の治療を越えた意味を持つ時代になっていると思います」

「トラウマの発生に対人関係がどう影響するのか、どのような対人関係がトラウマを悪化させ長引かせるのか、トラウマの症状が対人関係にどれほど影響を与え現在の生活の質を下げるのか」

「対人関係療法は、トラウマそのものではなく、トラウマの影響を受けた現在の対人関係に焦点をあてて、現在の生活の質を上げることによって、結果としてトラウマの受け止め方も変わる、という方向性を持つ治療法」

PTSDに対する対人関係療法の適用はまだ歴史が浅く、小規模なパイロット研究からは有望な所見が得られ、より大規模な比較研究が米国で進行中。

トラウマそのものに焦点をあてる治療法が怖くて耐えられない人、対人関係面に現れるトラウマ症状のために治療者と良好な関係が作れず治療から脱落する人に有効。

第1章「トラウマとは何か」対処することができないほど大きな衝撃を受けたときにできる傷がトラウマ。
トラウマによって失った「自分、身近な人、世界への信頼感」を取り戻すのがトラウマの治療。

「トラウマ体験が自然災害などの場合には、主に失われるのは「世界への信頼感」です。この世界ではいつ何が起こるかわからない、という不安がその主体となり、それにきちんと対応できるだろうか、という意味では「自分への信頼感」にも影響があります。」

身近な人によるトラウマの最大の問題は「信頼した人から裏切られた」ということ。さらに深刻なのは異常なことであるため、自分に非があったと感じ「自分への信頼感」が失われること。虐待された子供の典型的な感じ方は「自分が悪いから親が怒る」

衝撃的な出来事の後にPTSDを発症するかどうかに、身近な人の支え(ソーシャルサポート)があるかどうかが大きく影響する。また、女性は男性の2倍の頻度でPTSDを発症する。

第2章「PTSDという病」
現在のPTSDの診断基準は、命に関わるような恐ろしい体験を一回したような状況を想定。虐待のように長期にわたる反復したトラウマ体験によるものを「複雑性PTSD」と診断しようとする試みもある。

DSM(-IV-TR)によるPTSDの診断基準は、トラウマ体験、再体験症状(フラッシュバック)、回避・麻痺症状(生活が大きく制限)、覚醒亢進症状(眠れずピリピリ)。症状が一ヶ月未満のうちは「急性ストレス障害(ASD)」。

米国の調査では、人口の60%がトラウマ体験、PTSDを発症するのは約8%。自然な回復の多くは最初の数ヶ月以内、一年以上の持続の場合は治療を受けずに寛解する見込みは少ない。

第3章「トラウマの自然回復を妨げるもの」
「PTSDの治療の本質は、今は「戦時下」(のような危険な状況)でなく「平時」であることを実感するということ … 未曽有の災害を経験したというような場合には「自分が体験したことは本当に特殊なことであって、そういうことはめったにおこらないのだ」ということを実感するということ」

トラウマ体験後の対人関係における「二次被害」「二次トラウマ」に注意。既に「自分、身近な人、世界への信頼感」を見失った人に対して、傷つけたり、本人の罪悪感を刺激しない。

第4章「トラウマが対人関係におよぼす影響」
ロバートソンはPTSDの症状から起こる対人機能の障害を「対人過敏」と呼んでいる。いわば脅威のセンサーが壊れて何にでも作動してしまう状態。

第5章「PTSDへの対人関係療法」
PTSDの発症のきっかけはトラウマ体験で、自然災害など対人関係とは関係の無い場合もある。しかし、トラウマ体験が自然回復せずに治療が必要なほどのPTSDになるには、トラウマ体験を対人関係の中でどう扱ったかという「文脈」が重要である。

パイロット研究では、14名の慢性PTSD患者に14週間のIPT(対人関係療法)の治療で、13名が脱落せずに治療を完了、12名がPTSDの診断基準を満たさなくなった。

トラウマが悪循環に陥って病気になるかどうかは、身近な人による支えの有無に影響されるにもかかわらず、トラウマ体験についての感じ方や回避症状により対人関係を避けてしまう。現在の対人関係に焦点を当てて改善していくIPTは、その悪循環を打ち破る効果がある。

PTSDの治療法の第一選択は、エクスポージャー(暴露)法をベースにした認知行動療法。トラウマ記憶にさらして慣れさせ、耐えられることで「自分への信頼感」を回復させ、トラウマ記憶についての捉え方(認知)の修正により「世界への信頼感」を回復させる。

フォアが開発した持続エクスポージャー療法では、面接で語ったトラウマ体験を録音して家で毎日聞く想像エクスポージャー、トラウマに関連する不安や苦痛を感じるために避けているものに触れる現実エクスポージャーの二つを用いる。

その他の治療法では、トラウマ体験を思い出しているときに眼球運動をさせるEMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)、薬物療法ではSSRIが用いられる。

エクスポージャー法が向かない人の特徴。苦痛に耐えて怒りや不安などの感情に対処するのが苦手、ストレス下で解離しやすい、治療関係を維持するのが難しい。これらは子供時代に虐待を受けた人には典型的に見られる特徴。

「エクスポージャーでは、トラウマ記憶に耐えられるようになることで生活全般への自信をつけていきますし、対人関係療法では、生活全般への自信をつけることでトラウマ記憶に耐えられるようになるのです。」

PTSDの治療は「悪循環をきたす構造」を変えることが目標。トラウマを思い出すことの回避により「情報処理」が進んでいない構造に注目するのがエクスポージャー法。トラウマ症状の結果として対人関係をうまく活用できない構造に注目するのが対人関係療法。

「研究データからは自然死であれ、突然の予期しなかった死別の場合、9〜36%の人がPTSDになるということが示されています。生き残った自分についての罪悪感などが強く出てくる場合があることも特徴的です。」

第6章「トラウマを「役割の変化」として考える」
何らかの役割の変化が必要な状況でも、「自分、身近な人、世界への信頼感」があれば、「まあ、何とかなるだろう」という感覚を持つことができる。
しかし、信頼感がないと「遭難状態」とも言うべき強い不安を感じてしまう。

「役割の変化」を難しくする条件。変化を境に、身近な人たちの支えがなくなる。
変化の中で起こる感情が強すぎてコントロールできない。変化によって難しいことを要求されるようになる。自尊心の低下。

第7章「役割をめぐる不一致」
トラウマ症状は、症状として理解されないと容易に「役割期待のずれ」につながる。

第8章「身近な人にお願いしたいこと」
トラウマの存在を認める。
トラウマは、体験そのものの衝撃性もさることながら、そのときに自分が孤独で無力であったということによって強烈な恐怖の体験となります。身近な人への信頼感を取り戻し孤独から脱するということはトラウマ治療の大きなテーマです。

トラウマ症状を刺激しない話し方
「あの人は私を利用しようとしている」「そんなふうに感じる自分はおかしい」と言われたら「どちらとも事実とは異なる」ことを強調。
「トラウマの影響でそんなふうに感じてしまうのね。そう感じたら怖いでしょうね。私は、実際には大丈夫だと思っているけれども」

奇襲に気をつける。
予測していなかったことが起こると、それだけ世界は危険な場所だという感覚が強まる。
「そう言われてどう思った?」と気持ちを聞き、驚かせたときは謝る。
特に、相手の様子がおかしかったり、話に集中していないときは、衝撃が強すぎて解離を疑う。

第9章「トラウマから回復するということ」
気づかれていないトラウマを持っている人。
自らのトラウマをいつ思い出して、いつ取り組み始めるか、ということは、基本的に本人のプロセスの中、本人のペースで行う必要があります。

トラウマは対人関係に大きな影響を与えるものですが、同時に、トラウマからの回復に大きな力を発揮するのも対人関係です。トラウマによって悪循環に陥ってしまった対人関係を癒しの力に変えていくことが対人関係療法の本質だと言えます。
[2011/3/14]

大地震

大地震、麻布十番→帰宅(4時間)
すごい地震だっだ。まじにビルがヤバイと思った。(15:03)
徒歩帰宅中。(16:44)
多摩川越えた。(18:27)
すごーい、闇だ、闇の世界だ。(19:23)
無事に帰り着きました。みなさん、ありがとう。まだの方はお気をつけて。(19:51)

500個の風鈴の音を聴くイベント。南部鉄器の風鈴を使っていることもあって東北とは縁が深い。南部鉄器協同組合の皆さんはご無事だろうか。今年は追悼のイベントとなりそう。

被災地の皆さんは、今は気持ちの余裕が全くないと思います。 しかし、心に少し余裕ができてくると、大きな悲しみに襲われるかもしれません。 そんなとき、みんなも悲しいからと、自分の気持ちを押し殺さないでください。

悲しい気持ちを押し殺していると、将来にうつ病など心の病を引き起こす可能性があります。 誰かに悲しい気持ちを話して分かち合ってください。 どんなに辛くとも数カ月から半年すれば立ち直ることができます。

周りの人が、黙って悲しみをこらえていたら、あるいは全く平気そうな顔をしていたら、話を聞いてあげてください。 自分の気持を押し殺しているのかもしれません。 ただ、無理に話をさせないでください。 まだ話せないほど、いっぱいいっぱいなのかもしれません。

大切な人を失ったときは「否認→絶望→脱愛着」という数ヶ月から半年の「悲哀のプロセス」を経験します。このプロセスが不十分だと、うつ病などの心の病にかかります。特に、悲しみ疲れるほど悲しみきるという「絶望」の期間を十分に持つこと、「絶望」を共有する相手を持つことが重要です。
[2011/3/13]

第7回『500個の風鈴の音を聴く』予定

期間:2011年7月3日(日)から17日(日) (17日(日)は18時まで)
場所:池上本門寺 (
アクセス
主催:『500個の風鈴の音を聴く』実行委員会 、イキイキ推進委員会
協力:
池上本門寺

10年なんてとんでもないと思っていたのに、ついに第7回を開催することになりました。
今年も七夕の頃から二週間です。
こうやって毎年、大切に積み重ねていけたら素晴らしいと思っています。

毎年いくつか短冊の願い事を見て心が痛むことがあるので、今年はご希望される方には無料プチカウンセリングを行おうかとも考えています。
[2011/1/29]

明けましておめでとうございます

旧年中は大変お世話になりました。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
[2011/1/1]


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