第59回メンタルケアのスペシャリスト養成講座実践課程修了レポート


◇設問1および設問2について、各々8百字程度(原稿用紙2枚以内)に、あなたの考えをまとめてください。

設問1:次の2問の内から1問を選択してください。

  1. 「病める人の心を支える」
  2. 「わたしの人生観」

設問2:メンタルケアのスペシャリストとして、あなたの知人であるBさんと対応する際の要点について。


「設問1」 1.「わたしの人生観」
私は人生観と言えるような確固としたものは持ち合わせていない。そこで私の生き方に影響を与えた二つの疑問「本当とは何か?」と「自分とは何か?」について書いてみたい。まず「本当とは何か?」、これは椎名麟三の「生きる意味」を読んだ十代のときの大きな疑問であった。宗教のように無批判に信じるのではないやり方で本当のものを求めた結果、確固とした基礎がありそうな論理学や数学基礎論を勉強した。そのとき、はたと気が付いたのは論理学にしても、まず無批判に真であると仮定する公理が存在することだった。すべてのものには無批判に信じる部分があり、絶対的なものや確固としたものは存在しないことは、安易に信じることができず、本当のものを求めてきた自分にとっては絶望に値した。しかし、二十代からは余生として自分を刺激するものを求めて、しばらく生きてみることにした。
次に「自分とは何か?」、これをはっきりと意識したのは、神経生理学者のリベットの1979年の実験を知った四十代になってからである。リベットの実験は、我々が自分で行っていると思っている行為の多くが、「無意識の自分」によって決定され、「いわゆる自分」はその行為の決定の後で知らされているにもかかわらず、自分が行為を決定したような幻想に囚われていることを示している。この文章を考えながら書いているいわゆる自分は、無意識の自分を含めた自分全体のことを何も知らないだけでなく、勝手に動いている自分全体を、ある意味では指をくわえて見つめているだけなのである。精神分析学での無意識の存在の大きさを知っていた自分にとっても、自分の自由意志が大きく制約されていることは大きな衝撃であった。
つまり、何も信じるに足るものがなく、自分さえ分からないというのが、私の人生観の出発点なのである。


「設問2」Bさんを分析すると、地方からの上京で恐らく一人暮らしには慣れていたはずが、その後は仕事も結婚も順調であったために、単身赴任にせよ転職にせよ大きなストレスとなる可能性が高い。一方、Bさんの妻も東京育ちで、しかも自分の両親と同居という、最も居心地の良い生活を送っていたために、地方への移住は大きなストレスとなる可能性が高い。しかし、Bさんにとって最も大きな問題は、家族とのコミュニケーションが断
たれて自分だけで問題を抱えている点である。ただし、現在のBさんの精神状態を考えると、直ちに家族とのコミュニケーションを回復できるような状態ではない。従って、メンタルケアのステップとしては、まずBさんが前向きになれるように精神状態を回復することであり、その後に家族とのコミュニケーションを回復できるようにすることである。まず、最初のステップに関しては、傾聴のカタルシス効果を最大限に利用して、家族に話すことができなかったBさんの話を聞き、共感して受容することにより、Bさんの精神状態を回復することである。Bさんの精神状態が回復すれば、Bさんには自分で問題を解決する能力があるはずであり、傾聴の自己客観視を利用して、相手の話を分かりやすくまとめてフィードバックすることにより、相手の問題解決の手助けとすることが重要である。ただし、問題を解決するのはあくまでもBさん自身であり、安易に解決方法を提案するようなことは慎むべきである。また、この問題の解決に必要なのは家族とのコミュニケーションであり、家族に関する話題を中心にして、Bさんが本当に大切にして求めているものを気付くように話を聞くべきだと思う。また、家族へのケアも重要であり、Bさんが家族と話せるようになった時点で、Bさんの妻を中心として家族の意見を聞いておく必要があると思う。


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