にしても、字幕がなかなか気になると言うか、情報が色々と表に出てくるのが足りない映画でしたが。
まぁ、字幕はまさに上述のとおりでして。「ロバート・ミッチャムの映画を見たか?」とチェイスの時に言うシーンがあるんですが、タイトルをちゃんと言っていますが日本語字幕では省略されるので良くわからなくなる、という。ちなみに、タイトルは「Thunder Road」という1958年の古い映画で、そこで結構当時としては珍しいレベルでのカーチェイスがあるそうで。まぁ、でもわからんというかなんというか。
他にも、当時の世情を知らないとわからないものも結構ありまして。
字幕との合わせ技ですが、冒頭に出てくる「WILL THE LAST PERSON IN SEATTLE / PLEASE TURN OUT THE LIGHTS」という2行にわたるステッカーが貼られているんですが、これが良くわからない。字幕は「最後の人は電気を消して町を出よう」というものになっているんですが、ステッカーにあるシアトルが何を明示しているのかわからなくなるという。
で、調べると、まずきっかけは1970年代冒頭にシアトルの経済を支えたボーイングの大規模リストラがあったことがありまして。これが全社員の2/3を解雇というすごかったものだそうで......で、これでシアトルの失業率が二桁に突入し、街を離れてゴーストタウン化。そして、1971年にある不動産業者がシアトルの街から人が消える、という悲壮感と皮肉で自費で空港近くにこの言葉を記した巨大な看板を設置したそうで。
結果的にこれが全国的なニュースになり、社会風刺の流行語になったということですが。それが映画の舞台の町に貼られているということは、要はそういう雰囲気がそこにもあるということに繋がるという。
まぁ、映画って見るとこういった時代背景の理解がないと、昔の映画はわからんところが多いですかね......今の映画も半世紀後には同じ事言われているのかもしれませんが。
で、見ていた映画が「料理長殿、ご用心(Who is Killing The Great Chefs of Europe?)」。
1978年/112分/アメリカ・イタリア・フランス・西ドイツ。監督:テッド・コッチェフ、脚本:ピーター・ストーン、原作:ナン・ライオンズ/アイヴァン・ライオンズ、製作:ウィリアム・アルドリッチ、音楽:ヘンリー・マンシーニ、料理監修:ポール・ボキューズ。ロビー役にジョージ・シーガル、ナターシャ役にジャクリーヌ・ビセット、ロバート・モーリー、ルイ・コーナー役にジャン=ピエール・カッセル、ムリノー役にフィリップ・ノワレ、グランヴィリエ役にジャン・ロシュフォール、ラヴェロ警部役にルイージ・プロイエッティ、ファイスト・ゾッピ役にステファノ・サッタ・フロレンス、ビーチャム役にマッジ・ライアン。
ストーリー:皮肉屋で毒舌家で、そして実力のある美食家として名高いマクシミリアン・ヴァンダヴィア。長年の美食が祟って節制を言い渡されたが、影響力の高い彼の雑誌で特集した「四大料理人が作る世界最高の料理」は非常に影響を与えており、女王陛下に料理を供する料理人の選定にも影響を与えるほどであった。一方、彼が見込んだその4人の料理人が一人ずつ、それぞれの得意料理の手法で殺されていく......犯人は果たして?
ということで、なんとなくで買ってみたやつだったんですが。
基本のラインはコメディなんですけれども、結構なんというか色々と事前情報があると面白い物語でしたかね......というのも、調べるとこの時期はフランス料理で大きな変化があった時期で、いわゆる「ヌーヴェル・キュイジーヌ」が広まり始めたところであり、かつそのパイオニアとなったポール・ボキューズが料理監修という。で、これが欧州における料理への影響が大きかった頃であり、物語の核の一人であるヴァンダヴィアがそれを十分に理解しているというところで、当時の欧州の料理界における雰囲気が反映されているというところという。
で、それを背景にして物語が作られているんですが、アメリカが製作の中心にいながら、物語の展開は実にイギリス的ユーモアに満ちていまして、舞台も全部(一部セット撮影は違うのかなとは思いますが)欧州で、というところで個人的にはその毒っ気が結構良かったですかね。
で、まぁその物語もミステリーなんですが.......はい。コメディが本当に強い。当時結構色々とあった探偵や警部が解決するタイプのミステリーへの皮肉(殺人が実際にそういう感じのも強い)というかそういうのが結構あったりしまして、そういうのが好きな人もニヤリとできるタイプという。
そして何と言っても、今まで見た中でも結構屈指の殺人の動機.......はい、肩の力を抜いて楽しめましたかね。
演出面はかなり良かったですが。料理がやはり圧巻でしたかね......うまそう。当時のトップランナーの料理人が監修してればそりゃそうなるだろうという感じではありますが。非常に料理へのこだわりは強かったですか。また、店舗の良さはかなり良く、あまりだらけないのも非常に良い。見せるものや焦点が的確でして、こういうところは非常に良かったと思います。
というか、監督が後に「ランボー」撮った人なんですよね......ギャップがすごいですが。でも確かに「鋭さ」というところや一方のテンポや見せ方の良さというのはなるほど、と思えましたかね。
俳優陣は文句なし。実力者が揃っていまして、文字通り脂の乗った俳優陣で良かったですか。主役というかメインはロビー役のジョージ・シーガルとナターシャ役のジャクリーヌ・ビセットでして、この二人が実に良い演技ではありましたが、圧巻は狂言回しとなるベテランの、ヴァンダヴィアを演じるロバート・モーリーでして。本当に「毒舌皮肉屋なジョンブル」を演じているんですが、ものすごく味のある演技というか、ひどいこと言うんですが品があるという。相当に実力がある人に見えますが、一方できっちりコメディの演技を見事にやってのけるという。シリアスもコメディも一流にこなせるタイプの人でしょうね、こういう人は。ある意味一番輝いていた人だったと思いましたかね、はい。
ま、そういうことで古い作品ではありますが、この時代までのミステリーもののお約束と、イギリス的ユーモアが好きな人は間違いなく楽しめる作品となっていましたかね。また、料理の実にハイレベルなものが出てくるのも見ていて楽しいかと思います。少し古典的にも見えるコメディですが、俳優が脂が乗っており、特にロバート・モーリーを見るだけでもかなりの価値がある作品と言えるでしょうか。
個人的にはおすすめしたい作品です。