鬼哭街
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読んでみた「鬼哭街」の感想&供与者(「かるま」氏)への独断と偏見に基づくレポート。総評より下はネタバレしています。尚、18禁です。
評価(5段階中):4.4
シナリオ完了順:小説のため一本道
未来の上海。
一年前、青雲幇の凶手だった孔濤羅は、兄弟子で青雲幇の副寨主である劉豪軍に裏切られ、マカオで殺されかけた。その後、劉の妻となった濤羅の妹端麗は香主達に暴行されて死亡した。しかし、生き延びた濤羅は1年をかけて上海に戻り、彼を裏切り、妹を殺した香主達への復讐を誓う。
右手に倭刀、傍らに少女型のガイノイドを携え、妹を取り戻す為の濤羅の暗い復讐が始まった........
○総評
「Phantom」「ヴェドゴニア」に続く、Nitro+の3作目。
今回は完全に小説化。選択肢はなく、ただ読み進めるだけですが.........ストーリーの暗さ、そして主人公やその周辺に秘める心中。限りなく暗い復讐への道。そして、迫力の戦闘シーンに盛り上げる音楽。虚淵節炸裂のストーリーとなっています。
ま、ヴェドゴニアの時に「余計な戦闘の選択肢はいらん。いっそ読ませてしまえ」とかきましたが、見事です(^^; えぇ、きっちり読んでしまいましたとも。6章で構成されていますが、1章毎のボリュームはかなりあります。章毎で区切らないと、結構止めにくいものがある、と言うのは褒め言葉になるかと思います。
ただ、復讐物語としては短期決戦故かも知れませんが。
まぁ、個人的に『子連れ狼』が復讐物としては最高峰に位置する物なのですが。そういうものに比べると、やや軽くなってしまうのは残念でしょうか。って、スケールなどが根本的に違いますし(『子連れ狼』は単行本で28巻)、そこまで長いと逆に、と言う気もしますのでこうなるかも知れませんけど(^^; ただ、もう少し「掘り下げてみては?」という部分もありましたかね。結構、香主達の一部で軽めになってしまったのもいましたし。
取りあえず「妹を取り戻してやる」と言う点は十分に描かれているとは思うんですが、復讐と義、無辜の者を巻き込んだ、と言った「せめぎ合い」といった部分などはもう少し掘り下げてもらえればと言う気もしました。大変かも知れませんけどね。
ま、妹との関連、設定の緻密さとそれを話へ十分に活かした事(エンディングは「あぁ.......そう来るか!」と思わせましたし)、迫力の戦闘シーンに良質な音楽とハイレベルにできているので、十分に他者に奨められるかと思います。
そういう事で4.4と言う評価です。御奨めします。
○シナリオ以外の細部の難点
- 誤字・矛盾
若干。例えば第二章で朱との戦いの「朱の前で始めて見せる・・・・・・剥き出しの憎悪が」は「初めて見せる」でしょうし。鞭は左腕なのに、全回路を遮断したのが既に無い「右腕」になっていたりとか。「首」は「獲る」もので「穫」ではない気もしますし。関心が感心とか。
一応、製品で「小説」なんですからもうちょい、ですかね。
あと、ちと鞘鳴りの音が金属同士のこすれる音で微妙に気になったり。
鞘は通常木製ですから、金属音って事は無いような?
○シナリオ以外の評価
- システム
普通です。基本的に問題はありませんでした。
ただ、セーブに関しては「章毎に自動セーブ」とかそういうのがあったほうが良いかなぁ、と。あるいは一つの章が結構長いですから、二つか三つに分けて自動的にセーブしておく、と言うのが良いような気がします。そうしておけば「あのシーンを」と言う時にすぐに引き出せますから。
そこら辺が少し欲しいなぁ、と思いましたかね。
- 絵
全く問題ないです。迫力というか、濤羅の不気味な笑みとか結構忘れられませんが。
表情などよく出ていたと思います。
- 音楽
古今の音を使っています。最近の様なものから二胡まで幅が広い上、雰囲気は良く出していました。
相変わらずセンスがよいといえるでしょう。
○シナリオおよび設定に関する評価
シナリオに関しては良くできている、と思っています。
一つのステップ毎に章が分かれていますけど、着実に話を進めていき、それぞれにちゃんとケリを付けているのは良いのではないかと思います。
濤羅の心理描写も大体良くできていまして、濤羅の復讐への暗い情熱と妹への愛情の表現は良くできていたのではないかと思います。が、前述したような部分における「せめぎ合い」と言う点ではもう少し欲しいなぁ、と。部分部分にはあるんですけど、逆に半端に思えたりもしましたし。何となく、「鬼道に入った」という割にはあっさりしている感じが。
「俺は鬼になる」と言いながら、結局は感情などと衝突して進退窮まる、様なほうが人間味があるんですけどね。
後は、濤羅に立ちふさがる連中で少し温度差を感じるのが。例えば呉 榮成と朱 笑嫣でちと深さが違う感じもしますし。元氏双侠の二人もビルにいる時はまだしも、第五章で何となく普通に戦ってしまってはちともったいないような。
ま、個人的な意見なんですが。
「復讐劇」というのはある意味「約束」があるような気がするんですよ。「復讐を誓って鬼になる」ものの「どこかでそれに苦しむ」という様。そして、その人物の周囲がそれをどう捉え、どう見ていき、そして近かった人間がまたそれに苦しむ、と言う物がそれなんですが。その「葛藤」というのが復讐劇において楽しみ、というか「見せる」場面の一つであるのですが、その点で良くできていたり、もうちょっと欲しかったり、と言うのがこの作品にはありました。
「敵との一騎打ち」というか、戦闘部分ではかなり良いとは思うんですけどね。
他には.......最後に明らかになる劉 豪軍の壮絶な「巻き込み方」はかなり大したものではないかと。自らの野望の為に、幾人もの人間を巻き込み、全てを滅ぼしていく様はなかなか。しかも、それが一人の為に、と言うのが.......破滅的な性格なんでしょうか? と言うよりは、もし彼が生き延びたら端麗をどうするつもりだったのかとか、結構気にはなるんですが。
ただ、少し計算高すぎて「完全に彼の通り」に乗ってしまったのは少し不満かも(^^; 微妙なんですけどね。
後は設定的なものですが。
未来の話なのに桃園に古くさい格好、と言うのがちと気になりましたが.........まぁ、悪くないでしょうか。ま、未来(と言うには少し現代色が強い)とかなり古くさい過去の物が妙な融合をしていたのは取りあえずどう評価しようかと考えてしまいますが(^^; いや、空飛ぶ自動車に剣、ですからね。まぁ面白いといえば面白いですけど。中国の理想郷としての「桃園」をドーム内に入れてみたりとか「あぁ」と思ったりもしますけどね。
まぁ、実際に段々気にならなくなっていたので、そう悪くはないでしょうかね........?
後は設定の使い方は大分良かったですかね。SF的な部分もありますが、もっとも感心したのは作品で最も重要に関わってくる「魂の量子化」。ちゃんと最初から最後まで「きっちり使った」のは評価が高いです。
特に最後は........
○登場人物評
- 孔 濤羅(コン・タオロー)
主人公。別名「紫電掌」。戴天流剣法及び、内家拳法、対サイバー気功術「電磁発頸」の使い手。青雲幇の凶手(暗殺者)だったが、劉に裏切られてマカオで殺され.......かける。
ま、彼については大体上にかいた通りですが........隠れ家が何となくPhantomで出てきたビルに似ていたり(笑)
ってのはともかく、結局彼は鬼になり切れたのか? 個人的には「否」ですかね。「道」を極めたとは思いますが、「鬼」にはなり切れなかったかも、とどこかで思います。ただ、修羅の中に身を置いて、そして最後にあの結末。
満たされた、と思いますがね...........
- 孔 端麗(コン・ルイリー)
濤羅の妹。魂魄転写で5つに「魂を分割」された、本作のヒロイン。
結構「いい性格」している気もしますが。結局、最後は彼女自身どうなったのかが少し気になりましたが。いや、あの設定で兄と再会。では、ガイノイドの中にいる「彼女」は結局同質だったのか?
しかし、彼女もどこかしら劉 豪軍と同じような何かを感じたりしましたが。
狂気? ちょっと違う気もしますけどね。似たようなものという気もしますが.........でも、なにげに「サイコホラー」で「恐いネーチャン」役には向くキャラかも(^^;
- 劉 豪軍(リュウ・ホージュン)
別名「鬼眼麗人」。濤羅の兄弟子。青雲幇の副寨主。濤羅をマカオで殺害(未遂)し、他の4名と妻である端麗を輪姦の後殺害、ガイノイドにデータを分割させた黒幕。
まぁ、すごい役でしたけど。彼自身、濤羅といた頃は周りを信じていたのか? それとも最初から信じず、最初から虚無的だったのか? 何となくそういう感じがしないわけでも無いんですけどね........結局、端麗の為に狂い、端麗の為に謀り、そして身を滅ぼしましたか。
作中、最も悲しいキャラクターだった様に思います。
ちなみに、レイピアですが、個人的にはラテン式のスウェプトヒルトで、刀身をフランベルジェとかにするともっと優雅だったかも、とか云々(笑)
- 樟 賈寶(ジャン・ジャポウ)
青雲幇の香主の一人。別名「金剛六臂」 ガイノイド「媽祖(マーチェ)」の持ち主。第一章「鬼哭雨夜」で濤羅に殺される。
相貌失認ですけど、その割に表情の判断がきっちり.......って、出来るものなのかがちと不明ですが。哀れなる最初の犠牲者ですね.........何となく軽輩者で、力馬鹿。そしてそれが追いつめられていく様は良くできていました。が、完全にやられ役(^^;
哀れな.........
- 朱 笑嫣(チュウ・シャオヤン)
青雲幇の香主の一人。幇内のもめ事の対処にあたる「陪堂」。別名「羅刹太后」。ガイノイド「ベネトナシュ」の持ち主。第二章「機拳功剣」で濤羅に殺される。
彼女自身の「考え」とかそういうものがちと薄かったのが残念ですかね。戦闘では強烈さがあって面白かったですが。戦闘がある香主達のなかで、心情の描写が最も薄かったのが残念だったかも。もちろん、彼女自身「薄い」ものがあったのかもしれませんけどね。
- 呉 榮成(ン・ウィンシン)
青雲幇の香主の一人。上海電脳義肢公司取締役社長。劉の腹心で元ハッカー。別名「網絡蠱毒」。ガイノイド「ペトルーシュカ」の持ち主。第四章「浦東地獄変」で濤羅に殺される。
え〜、結構好きなキャラクターかも。粗野だが計算高く、そして自信家という性格まんまで話が最初から進展していましたが。遺憾なくその才能を発揮して討たれましたか(^^; しかし、シナリオの中では非常に密度が高い話に絡んだ役だったと思います。えぇ、彼の章は非常に面白く、個人的に最も好きな部類です。
えぇ、足下の掬われ方と彼の最期はインパクトありますね.........
- 斌 偉信(ビン・ワイソン)
青雲幇の香主の一人で劉の補佐役である「盟証」。別名「百綜主」。暗器使い。第五章「驟雨血風」で反旗を翻そうとして失敗し、劉に殺される。
いやぁ.......なんだかんだ言って、見せ場が最後だけと言うのがちとかわいそうなキャラだったかも(^^; 彼自身はおそらくは「普通」に権力志向があって、その通りにやっていったのでしょうが。劉の計画の前にあっさりつぶれてしまいましたね......えぇ、立派な「引き立て」役でした。
もうちょい活躍する場所があれば良かったのに(^^;
- 謝 逸達(ツェ・イーター)
学会を追放された天才的な闇医者。別名「左道鉗子」。劉と香主達の依頼により、端麗の魂魄転写を行い、一方で濤羅に真相と端麗「蘇生」を奨めた人物。
良く考えれば最後までどうにか生き延びたのはコイツぐらいか?(笑) トリックスター的な役割でしたけどね。
天才の孤独と、倫理を無視した探究者と言う側面が結構強かったのが印象的でしょうか? 単なる「狂った闇医者」に終わらなかったのは良かったと思います。
最初、ヴェドゴニアのナハツェーラみたいなやつかとも思ったんですけどねぇ..........
- 元 家英(ユン・カーイン)、元 尚英(ユン・ソーイン)
第四章で初登場。別名「元氏双侠」と呼ばれる双子。必殺技(?)「阿吽覆滅」の使い手。濤羅と交流があったが、第五章で濤羅に討たれる。
個人的に、もっとも惜しかったのが彼ら。義侠心あふれる部分がありながら、ほとんどためらわず、何も聞く事も語る事も無く濤羅と戦ってしまったのが残念だったかも。もう少し、彼らと濤羅との間で「避けられない道だったか」と思わせるような何かを示せれば良かったのに、と思いますがね。
結構好きな兄弟故に残念でした。
- 李 天遠(レイ・ティエンユエン)
青雲幇の当代寨主。
結局、劉の為に殺されてしまいましたが。劉自身、苦しまないように殺したのは慈悲だったのか?
- ミハイル・スチュグレフ
第三章「恩讐追想」で秦賢(チン・シェン)として初登場。グルジア出身(?)のロシアン・マフィアの「壊し屋」で工作員。弟を濤羅に殺された経緯がある人物。上海電脳義肢公司攻略に手を貸しながら濤羅を殺そうとして失敗。最後は首だけ(^^;
一連のシーンでのみ活躍でしたが。
なんか、面白いんだか腹黒いんだか。もうちょい「何か」があると良かったですが、まぁこういうものかなぁ、とも。
- 石(セツ)
故買屋。第三章で名前だけ登場。端麗の腕輪を持っていたがために殺される。
最悪な目にあったキャラ?(^^;
- 梁 力為(リャン・リクウァイ)
第四章で登場。青雲幇の末端構成員で、濤羅を尊敬するものの、死亡。
なんかなぁ......ちょい役だったなぁ.........(^^; ま、「自らが鬼」と言う濤羅が半端な部分がある、というのを見せる良いシーンの一つだと思ったんですけどね。余りなかったのが残念です、シーン的に。
- ミーシャ
第四章で登場。アサルトギアを操る脳ポッド。
SF的設定ばりばりですが。やっぱり殺されたんでしょうねぇ.........
以上、ですね。
個人的には「虚淵節」の炸裂度が良かったりしましたが。話としては完成度が高いですので、他人にもお奨め、という作品です。えぇ、一章毎にきっちり区切らないと、多分大変ですよ?(笑) 気になる部分もありますが、かなり楽しめると思います。
ま、良質の作品というものは良いものという事ですね。
・供与者への謝辞
どうもありがとうm(_ _)m>「かるま」氏
(2002/12/15)
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