からむこらむ
〜その1:「毒性」についての認識〜


まず最初に......

 ここしばらく起きている社会の事件の中に「薬品」を用いた事件が非常に多く見られます。しかし、マスコミでは非常にセンセーショナルに報道される傾向にありますが、薬品を用いた事件は古今東西非常に多く、日本でも古くは「中臣鎌足」から戦後でも「帝銀事件」はじめ、コーラの中に入っていたり、菓子の中に入っていたり、睡眠薬かがせて強盗したり、そして「トリカブト事件」など結構あり、「非常に稀」とか「極めて珍しい」と言える事件とは思えません。はっきり言いまして「何を今更」の感がぬぐえず、しかもすぐに「現代の(以下略)」とのたまわっています........誰が増長しているか気づいていないようです。

 さて、そんなつまらない、しかも過不足で言えば「過」剰報道の割に「不足」している知識を見まして「むかっ腹」来た管理人が、せめて(一般の)皆さんにはある程度の知識を持っていただきたいと思いまして、(「余計なお世話」ながら)この文章(しかも、コラム一回目)を書いてみようと決めました。
 今回は「毒」を理解するのに必要な基本的な部分のお話です。
 では、「第一回目:『毒性』についての認識」のはじまり、はじまり.........



 一般ではいわゆる「毒」の性質(=「毒性」)には二種類あることに気づく人はあまり多くはないようです。その一つを「急性毒性」と言い、もう一つを「慢性毒性」と言います。
 この二つの違いは文字の通りで、「急性毒性」はその薬剤の投与後に比較的短時間で発揮する毒性です。「慢性毒性」は、早い話「じわじわと」型の毒性です。
 ではこの違いを説明してみますと......

 まず最初に「急性毒性」について説明します。
 この「急性毒性」はいわゆる「毒」の印象が強いと思います。代表的なものを挙げると、最近目立った「青酸」がこの「急性毒性」が強いものの例になります。他には農薬や殺害用(!!)に使われた「TEPP(テップ:TetraEthylPyroPhospate)」、第二次大戦中偶然見つかり、発見者の頭文字をとって名付けられた、おなじみ「sarin(サリン)」などが有名でしょうか(一般的に兵器に関しては急性毒性が高い)。この毒性の高い物は、体内に入ってからの毒性発現(効果の発生)が早く、速やかに死に至らしめることから有名な物が多く、そしてさまざまな劇中に使われています。この毒性については、一般的な単位として"LD50"(LD=Lethal Dose)と言うものがあります。これは日本語では「半数致死量」と呼び、その定義を簡単にを表すと「投与後、一週間で半数が死ぬ量」です(LD95ってのもあります)。その単位は様々ですが、一般的には「グラム/キログラム」を人間に対しては使うようです(つまり、LD50=0.5g/kgの薬物があった場合、体重60キロの人間が100人いれば、30グラム(=0.5×60)グラムをそれぞれに投与することで一週間後には50人が死亡する事になります.....嫌な話ですが)。

 では次に「慢性毒性」について説明します。
 この「慢性毒性」は文字通り「じわじわ」来るタイプであり、ある意味非常に厄介となります。代表的なエピソードとしては、フランス皇帝であったナポレオン・ボナパルトの遺髪や、小学校の時に聞く中臣(藤原)鎌足の遺髪から(最近有名になった)「ヒ素」が検出されたことが有名です。「ヒ素」については詳述はここでは避けますが、昔から暗殺によく使われ、かつもっとも毒性が高い金属として知られていたために「毒の王」とも呼ばれました。だいたいにおいて、毎日少しずつ食事に混ぜていって、ゆっくりと内部から体の撹乱をし、最終的に死に至らしめる、と言うように用いられた様です。そして、このような毒性を「慢性毒性」と呼ぶわけです(「長期にわたる中毒症状」的なものを考えると分かりやすいか?)。
 慢性毒性の表記法には、農薬を例とすれば、"ADI"(Acceptable Daily Intake)と言うものがあります(食品中の残留農薬について使われます)。日本語では「一日摂取許容量」と呼び、体重1キログラム当たりに対してその物質(農薬やその他毒物など)を一日あたりどのぐらいまで摂ってよいかを示すものです。これを決めるのは非常に時間を必要とし、実験動物に毎日一定量の農薬を混入した飼料を長期間(約2年)投与して、2世代以上に渡る子孫への影響を調べ、そこからさらに「無作用量(健康に影響が出ない量)」を求めてからさらに100倍以上の安全係数を出して算出します。

 さて、ここで注意しなければならないことがあります。それは、「急性毒性だけ」や、「慢性毒性だけ」と言う物質はほとんどありません。さまざまな物質には、それぞれ「急性毒性」「慢性毒性」を持ちます。例えそれが「毒」であっても「薬」であったとしても.......(そういう意味では「毒」と「薬」なんて言う「区別」は意味をなさない)
 例を挙げましょう。たとえば「青酸」は致死量を飲めば確かにすぐ死にます(もっとも飲んですぐ「即死」とはいかなようです、機構的に)。そして、その毒性は「急性毒性」が問題にされますが、青酸にも「慢性毒性」があります。ただ、その値と致死量の値が「非常に」接近しているために、「すぐに」毒性が発揮されると思われるのです。
 さらに例を挙げれば、「ヒ素」も一度に多量に飲めばすぐに死にますし(胃にくるようです)、少しずつ毎日飲ませれば徐々に中毒症状を示して機能障害(腎臓にくるようです)を起こして死に至ります。
 もし、これで分かりにくい場合、いちばん身近な例があります。「エタノール」......飲めるほうのアルコールです。「いっき」を連発すれば「急性アルコール中毒」になります。そして、そこまでいかなくても大量に、かつ毎日飲めば「アルコール中毒(どちらかといえば、「依存症」か?)」になり、肝臓にゆっくりと、しかし長期にわたれば確実、かつ多大なダメージを与えます。前者の例がエタノールの「急性毒性」、後者の例がエタノールの「慢性毒性」と呼ぶことが出来ます。


 さて、以上が「毒性」についての説明です。簡単に(?)説明をしましたが、だいたいの感じが理解していただければ幸いです。「毒」だなんだわめいても、結局こういう部分が理解できなければ意味をなさないと思います。実際にはさらに深く突っ込む必要がありますが、きりがないので今回はこの辺で........


 ふぅ........第一回目はいかがでしょうか。あんまり専門的になりすぎないようにしたのですが........専門的だ(大汗) 「よくわかんねぇ」と言う場合は、管理人にメールをください。善処してみます(出来るか?)

 次回は、何をやるか考えていません。選択毒性のお話とか、農薬のお話とか、ダイオキシンのお話とか、まぁ色々と............ リクエストと御感想をお待ちしています。

(1999/01/17記述。メールでのやり取りから抜粋し、加筆・修正(Thanks>Ms. A.M.))


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