からむこらむ
〜その172:無敵の使い道〜


まず最初に......

 こんにちは。35度越えの毎日ですが、皆様如何お過ごしでしょうか?
 本当に立秋かと疑いたくなるような日ですが.......本当に、熱射病や夏バテにはくれぐれもお気をつけを。

 さて、今回のお話ですが。
 ま、どうにか時間を作って書いてみました(^^; ま、そろそろ社会復帰関連で第2戦目が待っていますので、これを公開してまた暫くのお休みになりますけどね。一応、前回の続き、ということになります。

 それでは「無敵の使い道」の始まり始まり...........



 前回まではダイヤモンドの成因や特徴について簡単に話をしました。

 ところで、ダイヤモンドも色々とありますが。
 ダイヤモンドは、用途別に大きく二つに分かれることとなります。一つは装飾用で、もう一つは工業用です。今回は、ここら辺の話をしてみようかと思います。


 では、まず装飾用の話をしてみましょうか。
 一般にダイヤモンドと言うと、やはり装飾を思い浮かべる方が多いと思いますが......ま、話でも現実社会でも、ダイヤモンドと言えば装飾用の物が一般的ですから、当然と言えば当然ですけど。こうした装飾用ダイヤモンドはロンドンを本拠とするダイヤモンドシンジケートなどによって厳密にコントロールされ、価格の安定(一般に高価になるよう)が図られています。
 装飾用のダイヤモンドはその色と輝き、そして大きさで価値が決められます。そのような特徴からダイヤモンドの「等級分け」がされているのは一般に知られている通りですが、通常は「4C」と呼ばれる視点で分けられています。この「4C」とは重さ(Carat)、色(Color)、形(Cut)、クラリティー(Clarity:濁り、透明さ)でして、それぞれの要因が組み合わさってそのダイヤモンドの価値が決まる事となります。

 この4Cの各要因について簡単に触れておくこととしましょう。
 まず、重さは重要でして、これがダイヤモンドの値段を決める重要な要因の一つとなります。
 通常、ダイヤモンドはよく知られる通り「カラット(carat)」を単位としており、「ct」として表しています。1ctは0.2gに相当します。ま、他の要因も当然関与するわけですが、基本的に他の要因が同じならば、重ければ重いほど値段が高くなります。大体単純に言えば、重さの二乗に比例するようでして、倍の重さになれば4倍、3倍の重さで9倍の値段になります。
 つまり、特に大きいものは値段が飛躍的に上がることとなります。

 次に色ですが........
 ダイヤモンドの色は装飾用などを見ると一般に「無色」が多い為に「ダイヤモンド=無色」と言う印象がありますが、実際には様々な色を持っています。どういう色があるかというと、無色、灰色、黒色、黄色、緑、ピンク、青といった色があるようです。無色だけではなく、実際には多種に渡ると言えるでしょう。そして、この色で値段が変わることとなりますが。
 では、何故色が付くのか?
 これはダイヤモンドの構造の話になりますが.......例えば比較的良く採れる黄色の場合、ダイヤモンド中の炭素のうち、いくつかが(生成の過程で)窒素に入れ替わっているのが原因となります。この置換の結果炭素の方に結合に供しない電子が生じ、これが黄色の着色の原因となります。もっとも、この様な黄色いダイヤは「安い」物となっています。逆に高価なダイヤとして有名な青いダイヤは、炭素がアルミニウムやホウ素に置換しているのが原因となっています。このタイプはあまり数は多くなく、その結果として非常に高価となっています。
 こうしてみますと、灰色や黒、濃い黄色は総じて多く取れる上に安く、装飾には用いられません。実際には、透明な物や青などが装飾用に供されることとなります。装飾に用いられる中でも、青、緑などは「ファンシーカラー」と呼ばれまして、通常の透明の物(ホワイト系)よりも重宝されることとなります。
 これらはアメリカ宝石学協会(GIA)の区分けによれば、アルファベットで等級分けされます。ランクはD〜Zとなっていまして、R〜Zはランクの低い黄色、M〜Qが淡黄色、I〜Lがわずかに着色した物でF〜Hがほとんど無色、そしてDおよびEが無色、またはブルーホワイトとなっています。当然、Dランクまで行くと最高級、ということになります。

 ところで、ファンシーカラーの中でも極めて珍しい色を持つダイヤとしてはピンクのダイヤモンドがあります。これは現在はオーストラリアでしか採れず、しかも数百万カラット中にわずかに数カラットしか存在しないようです。これは、通常のダイヤモンドより遥かに高圧の条件下で生成する為、となっています。この様に希少価値が高い為、大体同程度の大きさのダイヤに比して200倍もの値段がつけられるそうですが.........
#ちょっと調べると、1ctで30,000$ぐらいだそうです。

 そして、次に宝石のカット、つまり形ですが。
 宝石のカットは色々とありますが、そのカットは宝石の品位を決めるだけでなく、光の屈折などの問題から光り輝かせる、という点で装飾用では極めて重要なポイントとなります。つまり、どんなに色が良くて傷が少なく、良質のダイヤモンドがあったとしてもカット一つで全てが無駄になる、ということになります。
 宝石のカットも色々とありまして、一般的に見られるラウンド・ブリリアントカットや、エメラルドカット、オーバルカット(楕円型)にマーキーズカット(ボート型)、梨型を意味するペア・シェープド・カットにハート型と色々とあります。そのカットも正確に行わないと輝きを失いますので、相当に熟練が必要の様です。
 尚、ラウンド・ブリリアント・カットの「最も良い形」というのが色々な文献に見られますので、その一例(会社によって微妙に異なるようです)紹介しますと.......



 上部クラウン部にテーブル面を加えた33面、下部のパビリオン部に24面の計57面で構成されます。理想的な物は、図のパビリオン角が40.75度、クラウン角が34.5度になるものとされています。また、テーブルとクラウンの幅、そしてクラウンとパビリオンの高さ割合なども厳密に決まっています。これは極めて重要なポイントになります。
 何故角度や長さの割合が重要なのか? ラウンド・ブリリアント・カットの特徴は、上から入射した光が屈折の結果、底面で全反射する(=テーブルやクラウンから光が入り、内部で反射してテーブルやクラウンから光が出て行く)為に強い輝きを放ち、更には光の波長によってわずかに屈折率が違う為に光は分散して虹の七色に分かれ、輝くことにあります。この為、当然高さや長さの割合や角度等は光の反射にかかわる為、これらに誤差が大きくあるとその輝きは落ちることとなり、同時に装飾用ダイヤとしての価値も落ちることとなります。
 このカットの原形の開発は17世紀に考案されたようです。その後も研究は続けられまして、最終的に19世紀にアメリカで「理想的な」カット(アイデアル・カット:ideal cut)が完成することとなります。
 尚、カットの重要性は時には価値のあまりないとされる黄色のダイヤも変えるようでして、2002年1月の讀売新聞のWebサイトによれば、仙台の建築家が「DIANA SUN 114」というイエローダイヤのカット法を開発しています。これは114面に加工したもので、「黄金に輝く」カットとなっています。
#記事(写真含む)は今はないようです。

 尚、カットに至るまでですが.......
 ダイヤモンドの原石は、劈開(へきかい)を利用して割ります。これはつまりは「鉱石が割れる方向」、というのがありまして、その点を突けば最も堅い石と言えども割ることが可能です。
#余談ながら、『ゴルゴ13』で狙撃によってダイヤを砕く話はこれを利用したものと思われます。
 こうして割ったダイヤは、粗削りをしてからダイヤモンドの粉末で研磨することとなります。もっとも、最近ではレーザーを使ってカットする事が多いようで、これだとかなりすんなり切れるそうですが。

 そして、最後にクラリティーですが、これは傷や輝き、透明度などを意味します。
 まぁ、これは特に解説が必要とも思えませんが........傷が少なく、輝きが良ければ当然宝石としては価値を持つこととなります。GIAのランク分けでは、FLを無傷としてIF、VVS1、VVS2が極くわずかな傷、VS1、VS2がわずかな傷、SI1、SI2が少し目立つ傷で、I1、I2、I3が目立つ傷、という様に分類されています。
 大体、VS2以上が良い物となるようです。

 .......っと、忘れる所でした。
 前回、ダイヤモンドには光を吸収する波長によってI、II型という物があると書きました。これは特に色にかかわるので、やや話が前後しますが簡単にここに紹介しておきます。

 波長による分類は前回書きましたので省略しますが........I型、II型の区別は、化学的に、ダイヤモンド中に含む不純物の中身と量によってもなされます。これはI型は窒素の含有量で、そしてII型は窒素の有無とホウ素などを含むかどうか、で分かれます。そして、更に両者はそれぞれ2種類に分けられます。
 では、どういう物か?
 I型は窒素を含んでいまして、窒素を0.1%以上含む物をIa型(天然の大半)、500ppm以上の物をIb型と分類します。これらは、一般に灰色や黒、そして黄色といった色です。一方、II型は窒素をほとんど含まないIIa型と、窒素を含まず、ホウ素などを含むIIb型に分かれます。これらの色は無色から青、といった色になります。
 それぞれの量などを比較しますと、I型はイエローダイヤなどダイヤでは多数を占めるものでして、総じて「安物」です。一方、II型は無色や青色というダイヤになりますので、少ない上に極めて高価です。中でも青味を持つ事となるIIbは特に少量しかとれません。
#尚、I型とII型は一つの結晶内に見られることがあり、これはダイヤモンドが生成途中で条件の変化があったことを示しています。

 ところで装飾用ダイヤの話は多数歴史に残っていますが。
 実在が確認されているダイヤの中で最古の物は、12世紀のブリオレット・オブ・インディア(Briolette of India)という90ctのダイヤがあります。名前からインド産であると思われますが......第2回十字軍遠征(1147-49)のおりにヨーロッパに入った物で、「獅子心王」リチャード1世が第3回の十字軍で捕虜になった際、これを身の代金にしたと言います。
 他に、インド産で最大と言われるグレート・ムガル(Great Mughal)は約280ctあったと言われますが、これは17世紀に行方不明になっています。もっとも、これは磨き直されてビクトリア女王に献上され、約160ctのコーイヌール(koh-i-noor)として宝物になったとか、インドの寺院にあった女神像の目からはぎ取られてエカテリーナ2世に送られたオルロフ(Orlov:190ct)に変わったのではないかとか、もろもろの伝説を生み出していますが。
 ちなみに、コイヌールは元々インドの王侯が持っていた物でして、ムガール帝国の支配下にはいると皇帝の物になります。が、やがてペルシャ王国との争いでこれがペルシャに持ち込まれまして、そのペルシャも滅亡した後は幾人かの手を経て、シーク戦争(1849)の終わりにイギリスの東インド会社が戦利品としてこれを没収。そして、ビクトリア女王に献上されて現在は王冠に飾られています。
 ま、他にもありますけどね.......有名な物は、現在は博物館や王室のある/あった国の宝物として存在するケースが多いです。
 尚、現在の世界最大のダイヤモンドは南アフリカ産のカリナン(Cullinan)でして、1905年にトランスバールの道端に転がっていたとも言われていますが、これがイギリス国王エドワード7世へ献上されています。原石は3106ctもあったと言われますが.......これはカットされまして、最大の物は530ctでカリナンI、あるいはアフリカの星と言われており、これもまたカットされた物の中では世界最大。現在は王笏の頭に付けられてロンドン塔に飾られています。それ以外の物も王冠に取り付けられています。

 しかしながら、こういった宝飾用ダイヤの極め付けの話はやはり「呪い」の伝説でしょうか?
 もっとも著名な話を紹介しておきましょう。それは17世紀にルイ14世が買い取ったブルーダイヤの話でして.......後に「ホープ(Hope)のダイヤ」と呼ばれるこのダイヤ(当時112.5ct→68ctとなり、最後に44ctになる)は、「身に付けたものに不幸が訪れる」という「不幸のダイヤ」の伝説で有名です。
 まぁ、科学的に云々というのはともかく、実際にこれを身に付けたモンテスパン夫人は刑死し、前回ダイヤモンドのネックレス事件に巻き込まれたマリー・アントワネットもこのダイヤを持ちますが最後は断頭台に消えます。後の1830年にこれを手に入れた銀行家ホープ(ダイヤの名前はこの人物より)は破産。一家では自殺、不慮の事故が続き、その後に入手した富豪も息子が若くして死亡、夫人は発狂して死に、娘も死亡という.......
 まぁ、最終的に1958年にスミソニアン博物館に渡り今に至りますが.......まぁ、これ以外にも調べれば「不幸」がたくさんひっついて回るダイヤ、なんですけどね。
 このダイヤ、すでに伝説と化していますので正確な物は不明なのですが、大元はフランスのダイヤ商人であるタベルニエという男がインドの寺院でラーマーシーターの神像の目にあったこのダイヤを盗み取ったが為に、そのたたりである、という話があったりします。

 ところで、装飾用ダイヤも色々とテレビなどで宣伝を観ることもありますが、ちょっとした値段のトリック、というのが存在しているようです。
 比較的よく見かける、例えばテレビ通販のような物で扱われる装飾品で、ダイヤモンドをたくさん使っている、というのを売りとしている物があるのをご存知の方も多いかと思います。そう言った中で、例えば「合計○カラットのダイヤを台座にちりばめました」という様な商品を見かけることがあります。つまり、大きな宝石を中心として、その周囲に小さいダイヤをたくさん使って、という感じのヤツです。
 で、最後にはお約束の「これだけダイヤを使っているのに、お値段は何と!」となるわけですが.......
 ところが、ダイヤの値段は質などが同じ場合は重さで決まる、と書きました。それは二乗に比例する、ということです。ということは、一個一個が小さければ、実はそれらを足した重さと等しい一つの結晶のダイヤに比べると、当然小さいほうが値段は安上がりとなります。例えるならば、一個0.01ctのダイヤが1000円で2個あった場合、合計は0.02ctで値段は2000円です。が、同質で一個0.02ctのダイヤがあれば、これは一個で(22×1000=)4000円となります(あくまでも単純化した例ですので)。
 ですので、合計○カラット、みたいなので同一の重さの一つのダイヤに比べれば「お安い」のは当然、という事になります。まぁ、騙されないように、程度の話ですけどね。


 さて、まぁ以上が装飾用ダイヤの簡単な話になりますが........ここら辺はもっと詳しい情報を載せているサイトもありますので、装飾専門にみたい方はそちらも、と思います。
 では、一方で工業用のダイヤはどうなのか?

 工業用に使われるダイヤは、極めて単純に言えば「装飾用にならない」ダイヤが主となります。例えば、灰色だったり黄色が強すぎる、とか、濁りが多いなどと言った物は装飾用に使えません。こういう物が工業用に使われることとなります。他にも、合成ダイヤも数多く使われますが.......合成ダイヤについては、次回に詳しく話そうと思います。
 では、どのように使われるのか?
 ダイヤモンドの特徴からすれば、当然「硬く」「耐摩耗性に優れる」という事が注目されます。それにより基本的には、切削や研磨といった物に使われます。この範囲は幅広く、宝石の研磨というものもあれば、超硬合金やセラミックス、ガラスや半導体結晶の加工などにも使われます。他にも様々な材料の穴開け、石油井掘削のボーリング(錐の先端部)、岩石などの切断にも使われます。
 量的にはこういった用途に最も多く使われます。ただ、それだけではなく、日常だとレコード針(今は少ないでしょうが)やガラス切り等にも使われています。
 他にも熱伝導性が優れる特徴から、LSIの放熱板として用いられることもあるようです。もっとも、パソコン用のヒートシンクに、という事例は聞いた事がありませんけどね。

 尚、ダイヤモンドのタイプで用途を分けてみますと.......
 一般に、II型は絶縁体となります。IIa型は熱伝導性の良さから集積回路の放熱板として用いられます。一方、IIb型は半導体(p型半導体)としては非常に有望でして、色々と研究が進められていますが........ここまで読んでいれば分かる通りIIb型は非常に高価でして、現実には利用に無理があります。IIb型の安定的な合成などが出来れば別でしょうけどね......
#つまり、ブルーダイヤの安定的な人工合成ということになりますが.......
 ま、ここまで来るとごちゃごちゃになる感じもありますので、一応タイプ別に関する情報を簡単にまとめておきます。

タイプ含有・置換  色  利用法
I型
Ia型0.1%以上の窒素
灰色
黄色
研磨材
切削材
Ib型500ppm以上の窒素
II型
IIa型窒素をほとんど含まない無色
青色
放熱材 装飾用
IIb型ホウ素、アルミニウムなど半導体 装飾用

 そうそう、補足的な話ですが。
 やや専門的な説明になりますが、ダイヤモンドの熱伝導性が高いのは理由が当然あります。が、金属などとは少し異なるのが特徴です。
 これはどういうことかと言いますと、金属の場合は自由電子が熱伝導性に関与しますが、ダイヤモンドの場合は炭素ゆえ、金属のような自由電子は関与しません。では、何が原因になるかと言うとその結合が原因になります。
 つまり、ダイヤモンドは結合が強く、原子間の距離が短い。そして、基本的に全ての原子の「手」が有効に結合に使われることから、振動(エネルギー=熱)が隣の原子に伝わりやすい、というのがその原因になります。


 さて、以上が装飾用ダイヤと工業用ダイヤについての簡単な話となります。
 まぁ、他にも色々と書くことは出来るのですが、スペースと時間の問題もありますので、以上で、となりますが..........

 ところで、ダイヤモンドと言うとまだ書かないといけない物があります。
 それは何か? それは合成ダイヤと、模造ダイヤの話でして。ま、色々とこれについても書いておきたい物がありますので、次回はその話をしたいと思います。

 そう言うわけで今回は以上、ということで。



 さて、今回の「からむこらむ」は如何だったでしょうか?
 ま、ちょいと長くなってしまいましたが。装飾用ダイヤの価値を決める要素と、工業用ダイヤの使い道などについて簡単に書いてみました。ま、装飾用に力がやや寄っていますけどね(^^; 寄り詳しい物は宝石店のサイトなどをご覧になれば更に(カットなど)情報が得られますので、興味ある方はみてみると良いかもしれません。
 取りあえず、色々と「ある」という事は理解していただければ、と思います。

 ということで今回は以上で。
 次回は上に書いたように合成ダイヤと模造品の話をしてみようと思います........が、そろそろ社会復帰活動の再起動となりますので、今月中には出ない予定です。ま、トップにもある通り9月に、ということになりますね........

 そう言うことで、今回は以上です。
 御感想、お待ちしていますm(__)m

 次回をお楽しみに.......そして、管理人の幸運もついでに祈ってやってください(^^;

(2002/08/09記述)


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