からむこらむ
〜その171:無敵のもの〜


まず最初に......

 こんにちは。融点越えの毎日ですが、皆様如何お過ごしでしょうか?
 まぁ、夏真っ盛りですけど........取りあえず、熱中症などにはくれぐれもお気をつけを。

 で、まぁ今まで暫く管理人の社会復帰の動きでお休みしていましたが、ちょいと間が空いたので、久方ぶりにやろうかと言う今回のお話ですが。
 今回はま、ネタが思いつかないというか、暫くやっていなかったので勘が戻っていないんですけど(^^; 取りあえず、目に付いたのでやってみようか、というお話。
 まぁ、有名な物ですけどね.........有名ゆえに話が多い、ものの結構知られていない物もある、ということで触れてみようかと思います。
 それでは「無敵のもの」の始まり始まり...........



 今回は、宝石の話をしようかと思いますが.........
 では、まず問題でも。


 ..........なんだと思います? ちなみに、最初の三つは本当にそう信じられていたんですけどね........

 こは何ぞ?
 その答えは........実は「ダイヤモンド」となります。今回はこの宝石の話をしてみることにしようと思います。


 さて、ではダイヤモンドとはどういう物か?
 まぁ、あまりにも有名ですので、あまり詳しく書いても仕様がない気もするのですが.........現在におけるおおまかなイメージを挙げてみますと、「高価」「堅い」などと言う物が強いと思われます。まぁ、ダイヤモンドを「宝石の中の王」などと表現する人もいますし、一般的なイメージでもどこか高貴で至高のもの、そして「最強の高度を誇る」という事で扱われる物かと思います。
 ま、大体これであっていると思いますが........
 ダイヤモンドの歴史は古く、古代より知られていました。古代の人達のイメージも今とそう大きな変化はないようでして、ダイヤモンド"diamond"の語源は、ギリシア語の"adamas"でして意味は「征服されないもの」「無敵のもの」を意味します。これが16世紀の中ごろに転訛して"diamond"に変化し、現代に至ります。尚、日本では「金剛石」と言う名称が与えられています。
 この様に、「堅い」「高貴」という印象がありましたが、更には「魔術」的な「効能」も大分あったようです。

 ダイヤモンドは古代の、紀元前700〜800年頃のインドで良く採られていました。ギリシアでもインド方面からダイヤが送られてきたようでして、ギリシア時代、大プリニウスの『博物誌』には「鉄床の上でダイヤモンドを鉄槌で叩けば、鉄槌が二つに割れる」「殺したばかりの暖かい山羊の血に浸せば割れる」などと書き残しています。まぁ、前者は明らかに誇張で、後者は荒唐無稽ですが.......他にも「ダイヤモンドを磁石のそばに置くと、磁石が鉄を引きつけるのを妨げる」とか何やら書いているようです。一応、当時のギリシアでの物質感(「反発と親和の原理」に基づくらしい)が多分に影響しているようですが.........実は、この考えは近代まで続いていた様です。
 また、12世紀に生きた「ビンゲンの聖女」ヒルデガルトは「ダイヤモンドを口中に含めば人は嘘をつくことから免れ、断食もたやすい」と言い残したようです。もちろん、荒唐無稽なのですが........プリニウス以来「宝石の魔力」としては最高位にあり、それゆえに「魔術的」な効能が大分言われたようですが.......
 そういった話の数は相当なもののようですけどね。

 しかし、この様な評価の一方、ダイヤモンドの宝石としての地位は当初はそう高くないものでした。何故か、というとご存知のように頑丈であること。それゆえに加工・カットが出来ず、更には色彩がルビーやエメラルドに劣る.......つまり、「磨けば光る」はずですが、「堅過ぎて磨けない」為に「華がない」という評価になり、総合的にはあまり好まれないものでした。
 では、いつから評価が高くなったのか?
 これは15世紀になってからでして、1475年にベルギーのベルケムという人物によって「ダイヤモンドにはダイヤモンドを」という事、つまりダイヤモンドの研磨法を発明したことがきっかけとなっています。その研磨法はダイヤモンド粉末を固着させた回転砥石によるもので、これによってダイヤモンドを33面にカットすることに成功します。これがきっかけとなり、ダイヤモンドは徐々に宝石として使われるようになり、そしてその価値を上げていくこととなります。
 ところが、価値が上がると当然利益が絡んでくることとなり、その結果争いが起こるのは必然となります。つまり、個人レベルから国家レベルまで幅広くダイヤモンドを巡る争いが起こることとなり、詐欺(手元にある詐欺の資料でダイヤに絡むものは多いです)や鉱山を巡る戦争  例えばイギリスの植民地拡大の動きにはダイヤモンドなどの宝石の鉱山が関連したこともある  があり、色々と、例えば人の利益が絡む様な話で出てくることも多く、小説等物語に関連するケースも多くある、というのは皆さんご存知の通りです。
 人の欲に絡んで、非常に大きく関与しているとも言えますが.........

 尚、詐欺に関しては本当にたくさんありますが、一つ、国家自体が傾く一因となった事例を紹介しますと........
 ハプスブルグ家の有名な女帝マリア・テレジアの末の娘にマリー・アントワネットがいます。彼女は色々とダイヤモンドと縁があったようですが、「華やかな」物でも幸せを運ぶものでも無く、彼女をただ悲劇へと導いた様に見えます。例えば、彼女の悲劇の「第一歩」としてナポレオンはダイヤモンドのネックレス事件、という物を挙げており、それに異論を挟む歴史家はあまりいないようです。
 この事件はどういうものか?
 まぁ、詳しく書くと人間関係が微妙にごちゃごちゃするので簡潔に書きますが。ルイ15世が愛人に送ったネックレスがとある宝石店にあったのですが、これが問題になりまして.......どういうことかと言うと、アントワネットに取り入ろうとしたローアン王子枢機卿という放蕩者がいまして、彼の愛人ジャンヌ・ラ・モット伯爵夫人(自称)がこれを逆手にローアンを利用して大金をせしめようと、アントワネットの手紙をねつ造したり偽のアントワネットを用意するなどしてローアンをだまし、最終的にアントワネットの名でこのネックレスを入手。ダイヤはロンドンで売りさばかれます。暫く後、アントワネットにその宝石店からダイヤの請求書が届き、ついに問題が発覚。関係者が集められて尋問が始まり........その一方で、王妃のスキャンダルと言うことでアントワネットの立場が危うくなった為、公開裁判に持ち込んで無関係であることを証明しようとするも、色々と「どろどろ」な様子まで広まり、結果的にローアンは無罪、ラ・モットの仲間は有罪になり、ラ・モットは裁判後にむち打ち、焼き印を入れられて女子刑務所(後に脱走)へと飛ばされます。そして、アントワネットは自分の無実をはらす.........
 ところが、国民はアントワネットの言い分を信じず、しかも普段から「王妃はダイヤへの執着がある」と思われていたので罪をかぶせたのではないか云々などと出まして、結果的に国民の不信を深めてしまいます。
 ま、やがてこういったことが積もり積もって1789年、ついにバスチーユ襲撃をきっかけに革命が起こり、かくしてフランス「王国」は消滅して共和制へと移行することとなります。
 そう言った、国家の一大事の「爆弾」の原因にこのダイヤモンドのネックレスはあったと言えます。同時に、アントワネットを不幸に導く一因となったとも言えますが.......


 ところで、この様に人や国家を狂わす宝石ダイヤモンドの正体は何か?
 今更言うまでもない様な気もしますが、よく知られている通りこれは炭素となっています。当初はおそらく炭素で成り立っているとは思われなかったと思いますが......この確認は近代に行われまして、ラヴォアジエがダイヤモンドを燃焼させると二酸化炭素が出来る、ということを確認し、1797年にはイギリスの化学者テナント(Tennant)がダイヤモンドを酸素を封入した容器の中で燃焼させて最終的に二酸化炭素のみが出来たことから、ダイヤモンドが炭素のみからなるということを明らかにします。
 ま、「燃やす」ことで確認がされた、ということになりますが.........
 ダイヤモンドは炭素の同素体(その8参照)の一つでして、高校レベルの化学でやるように炭素の同素体として黒鉛(=グラファイト)と(そして最近ではフラーレンも)ともに挙げられる物質です。
 では、ダイヤモンドと黒鉛の両者の違いは何か?
 その18その19で触れた通り、炭素は結合に対して4本の「手」を持っています。ダイヤモンドは、この4本の「手」を全て他の炭素との結合に費やしていまして、立体的な格子状の構造をしているのが特徴です。一方、黒鉛は「手」を3本しか有効に使えず、六角形で構成される「網目」の構造をしていまして、それが層状に構成されているのが特徴となっています。
 文章で書いてもピンときませんので、模式的に表しますと........



 となっています。ちょっと汚いですが、「何となく」で理解してもらえれば良いですけどね........ダイヤモンドの構造の「●」は炭素でして、黒鉛の色違いは、それぞれの「層」となっています。
#そして、黒鉛は1本の「手(=電子)」が余る訳で電気を通しやすくなります。
 尚、ちょっと専門的ですが、黒鉛では層と層の間はファン・デル・ワールス力という静電的な、非常に弱い力によって結合しています。これは炭素間の共有結合より遥かに弱い力でして、この結果硬度が圧倒的に異なる、いわゆるモース硬度で比較すればダイヤモンドは10ですが、黒鉛の方は1〜2程度と言う程の極めて大きな差を生み出します。

 ダイヤモンドは等軸晶系(立方晶系)でして、通常8面体か12面体の結晶となって出てきます。極くまれに六方晶系に属する物がありますが、天然物では前者が普通です。
 その特徴は繰り返しになりますが、極めて堅く、風化に強いのが特徴です。そして高い屈折率を持つのも特徴でして、これが宝石にした際の「光輝」に関連することとなります。密度は3.51524g/cm3(黒鉛は2.25g/cm3)でして、熱膨張率が極めて小さく(0.8×10-6/K、20℃)、比熱が0.124cal/K・g(25℃)、そして熱伝導率が最も大きい物質であり、900〜2000W/m・Kとなっています。
 尚、ダイヤモンドでも実は2種類ありまして、紫外領域の光に対して3000Å以下の波長の光を吸収する物を「I型」、2250Å以上の光を透過する物を「II型」と区別します。ダイヤモンドとして「純粋」なのはII型となります。
 ここら辺のI型、II型は更に細分されるのですが、その詳しい話はまた次回に書くこととしましょう。
#注:2002/10/05に追記。ページの最後を参照。

 では、どうして同じ炭素から生成されるのに、ダイヤモンドや黒鉛と言った差が出てくるのか?
 これは地学的な話になりますが........結論から言えば、「出来る環境が違う」ということになります。良く言われるように、高温高圧の環境下でないとダイヤモンドはできません。
 ダイヤモンドの鉱床は大体は盾状地と呼ばれるような、安定な大陸地塊に大体が分布しています。ということで、余り島国では取れないようですが......少なくとも、日本では確認されていません。また、ダイヤモンドができる場所である高温高圧、という条件を地球で満たす場所は考えれば分かる通り、地球の深部のみになります。大体、地下100〜200kmのマグマの中といったところで出来るようでして(つまり火成岩となります)、色々と条件はあるようですが、大体数千度の温度と数百気圧の圧力が必要のようです。もっとも、炭素だけが集まって純粋に出来るのか、というとそうではなく、マントル中の水、二酸化炭素、鉄、銅、ニッケルの硫化物などが触媒の様な働きをするようでして、実際にはかなり複雑なメカニズムとなっているようです。
 ま、実は完全には解明はされておらず、色々と不明な点も多い、というのが現状のようですが........
 そう言った条件でダイヤモンドができ、後に地殻変動で上に上がってきたものがダイヤモンド鉱床として採掘される、ということになります。
 ダイヤモンドが採れる母岩は三種類ありまして、最も代表的なものがキンバレー岩と呼ばれる物で、7000〜1億2000万年前に出来た物です。他にエクロジャイト、ランプロアイトと呼ばれるものがあります。一般的なダイヤモンド鉱床では、「パイプ」と呼ばれる円筒状のキンバレー岩が山芋のようにまっすぐに地面から下に続いており、ここから採掘するようになっています。とは言っても、キンバレー岩の全部がダイヤモンドを含むわけではありませんので、御注意を。

 そう言う生成の一方、かなり例外的ですが、ダイヤモンドは実は陸地以外からも発見されています。
 どこか? ま、「陸じゃないなら海だろう」と思われるかもしれませんが、ちょっと違うんです........となると残るは? 実は「宇宙」でして.......本当に特殊な例になりますが、実はダイヤモンドは隕石からも発見されています。これは数例が確認されているようです。
 では、宇宙のどこで出来たのかと思われるかもしれませんが少し違いまして、隕石が地上に落下した際に生じるばく大なエネルギーと圧力によって生成されたと考えられています。このタイプは天然とは違い、六方晶系の物となるようです。
 まぁ、ダイヤモンドで出来ている隕石があればまた魅力的なのかもしれませんけどね........その前に大気圏で燃え尽きるかもしれませんが。

 ところで、ダイヤモンドの採掘という物は、現代と古代では大分条件が異なる事が知られています。
 古代のダイヤモンドの一大産地はインドだったのですが、ここではどうやってダイヤモンドを採っていたかと言うと、実は(砂金が如く)川から採っていました。これは川上のどこかにあった原石が風化などを受けてやがて川に、という事でして比重の問題から砂に埋まる形で見つかったようです。
 もちろん、この場合は原石が何なのか(キンバレーかエクロジャイトか他か)不明なのですが........この状況は主に近代まで続くこととなります。
 この状況が大きく変化するのは1870年でして、南アフリカの農場からダイヤモンドが見つかった事が契機となり、川から陸地に主な「採掘」場が変化することとなります。ま、ここからキンバレー岩が見つかり、そしてパイプを探す為に坑道を掘って、となります。これは、その後の主なダイヤモンド鉱山での一般的な採掘方法となります。
 しかし、この坑道を掘る方法を採らない国もあります。
 そこはどこか、というとオーストラリアでして.......オーストラリアの母岩はキンバレー岩ではなくランプロアイトでして、このタイプはパイプがほぼ「横」になっているのが特徴です。となると、坑道を掘るよりは露天掘りの方が安上がりで大量に採れる、ということでオーストラリアでは露天掘りが一般となっています。
 それゆえ、オーストラリアはダイヤモンドの生産量が群を抜いて多くなるのですが.........

 そのダイヤモンドの生産ですが、1998年のデータでは全世界で11,500万カラット(1カラット=0.2g)が生産され、オーストラリアがトップで4,090万カラットを生産し、全体の35.6%を占めています。続いてロシアの18.3%、ボツワナの16.1%、コンゴ民主共和国の13.0%、南アフリカの9.0%となり、アンゴラ、ナミビア、中国、ブラジルと続いていきます。
 見事に各国とも大陸に位置する国家となっていますが........全体のうち、5,500万カラットが装飾用に、残りは工業用に用いられます。
 尚、現在ではインドではほとんど採ることは出来ないようです。

 さて、こうしてダイヤモンドが色々と採れたりするわけですが........皆さんはダイヤモンドの「年齢」というのには興味が無いでしょうか?
 実はダイヤモンドが生成された時期、というのを調べた研究があるのですが.......皆さんはダイヤモンドの結晶というのは、出来てから、つまり「年齢」はどれくらいの物だと思いますかね?
 1000年? 万年単位?
 その答えを書く前に、この研究はどうやって行われたかを書いておきましょう。
 この研究での調査方法はダイヤモンド中の放射性同位元素の含有量を調べたものでして、基本的にはその44で触れた方法と同じものです。ま、この研究では炭素14ではなく、カリウム・アルゴン法という物やヘリウムの同位体比を用いて「年齢」を算出をしていますが。
 さて、この研究によりますと、南アフリカのプレミア鉱山のダイヤモンド(キンバレー岩)を調べたところ、ダイヤモンドの生成時期はダイヤモンドの粒子によって違ったものとなりました。が、一番「新しい」物で既に約12億年、最も古いもので約45億年前に出来たことが判明します。
 つまり? 地球の歴史は約46億年といわれていますから、最も古いダイヤは地球が誕生して「(天文学の世界では)たった」1億年の後(もちろん生命なんてありません)に出来た、ということになります。ま、それが流れ流れて33億年間もマントルの中に存在し、やがて12億年前のダイヤモンドを含むキンバレー岩のマグマに「拾われて」、やがて地上に出てくる、ということになりますが........
 尚、参考までにですが、「世界で最も古い岩石」グリーンランド西岸にある変成岩でして、これが約38億年前と言われています。
 つまり、この鉱山より採れた45億年前のダイヤは「世界で最も古い石である」ということになります。

 ダイヤに歴史あり、といった所なのかもしれませんね........



 と、さて長くなりましたが。
 さて、これからダイヤモンドと言うとカットやら装飾用のダイヤ、工業用の話やら色々とあるのですが.............それらを話すには一杯になりました。
 これらは次回に話すこととしましょう。


 そう言うわけで今回は以上、ということで。


2002/10/05追記
 現在、ダイヤモンドのI型I、I型と言った分類は紫外線ではなく、赤外線を用いて分類するようです。




 さて、久しぶりの「からむこらむ」は如何だったでしょうか?
 取りあえず、まぁ社会復帰活動中、なのですが.........一応、試験やら何やらあるんですが、丁度谷間が出来たのでやってみました(^^; 実はあまり勘を取り戻せていなかったりするんですけどね(^^;
 まぁ、そこら辺は少し見逃してください(^^; あ、でも変な部分は指摘してもらえれば嬉しいですし、感想をもらえればもっと嬉しいですが。
 そして、次回は.......まぁ、今回は物性やら基本的な話となりましたが、ダイヤモンドというのはまた色々と話が多い物ですので。装飾用の物や、実際にどう使われているのか、その他もろもろについて話してみたいと思います。

 ということで今回は以上で。
 ま、次回は........次週にちゃんと出せると良いなぁ、と思います(^^; 幸運を祈ってやってくださいm(_ _)m

 そう言うことで、今回は以上です。
 御感想、お待ちしていますm(__)m

 次回をお楽しみに.......

(2002/08/01記述 同08/07修正(Thanks>Mr. Kobayashi) 10/05追記)


前回分      次回分

からむこらむトップへ