からむこらむ
〜その4:「効いてくるまで」と「効かなくするまで」の道〜


まず最初に......

 こんにちは。今月は冗談抜きで「時間替わり」体力で生活している管理人です。これは要は、「10時頃はOKだったけど、12時頃はだるくて仕様がない。昼過ぎたら少し良くなったけど、夕方になったら夜まで持たないので一眠り。」と言う感じです。胸や脇腹の辺りは恒常的に痛かったり、おかしかったりします。ま、心臓が痛いとか言うわけでもないし、それはそれで「楽しい」ので(注意:管理人はマゾではない。他人が簡単に味わえないものを味わえると考えれば面白いものです。)問題ないです(大有りか?<自分)。冷静に観察や状況分析を始めたりしていますし.........う〜む。ま、いいか。

 さて、前回では、趣向を変えて「食品添加物」のお話をしました。ここから食中毒の話になるとなかなか「面白い」話が多いのですが、今回は少し「概念」のお話に戻らせてもらいます。
 今回も「毒」(薬も)を理解するのに必要な基本的な部分のお話です。この話がないと、「おかしい」ことがいっぱい出てきます。
 それでは、「『効いてくるまで』と『効かなくするまで』の道」のはじまり、はじまり.........



 現代は、さまざまな薬剤が出回っています。中には薬となるようなものもありますし、中には毒となるようなものもあります。しかし、ちょっとやそっとのんだだけでは「毒」に関しては効きません。そして、ちょっとのんだだけで「薬」は効いてくれる事が多いです。しかし、実は「そのまま」の状態だと「全く効果なし」と言うことが多いことが分かっています。では、何故「効果」が出てくるのでしょうか。
 このことに関しての追及は非常にさまざまな「要因」が絡んでくるのですが、今回はその一部に触れさせていただきます。

 さて、毒だろうが薬だろうが、一般的にはどうやって体内に入るでしょうか? いちばん多いのは「経口」、つまり口から入る事がいちばん多いでしょう。
 では、口から入った薬剤(食事もこのプロセスは一緒です)はどうなるでしょうか?

 まず口の中から入って、胃に行きます(口腔細菌が関与するものもありますが、今回は「一般的」な物に限定します)。胃の中ではどうなるか........? そう、そこには胃液のプールが待っています。ここで酸性に移行します。ここで一つ考えてみましょう。
 化学、特に合成や代謝について研究する人間には当たり前のことなのですが、物質は「pH」で変化することがあります。つまり、一般で言われる「酸性・アルカリ性」です。このpHにより、あるもの(タンパク等)は「変成」をしますし、あるもの(農薬など)は「分解」をします。逆にあるものはここから「生成」される事もあります(これが結構凶悪なものを作ることがあります)。もちろん、全部が全部変化するわけではありません。
 さて、こうして胃を過ぎていくと、小腸に行くまでにアルカリ性の液(胃液の酸性の中和です)にさらされたり、消化酵素を混ぜられたりして進行します(ここでも、上記のような変化があると考えられます)。
 こうしてやがて小腸、大腸に到達します。ここで「吸収」が行われるわけですが、中には腸内細菌による物質の「変成」「生成」があることもあります。細かいことは取りあえず省いて(きりがないです)、取りあえず「吸収」します。

 さて、今までは消化器での話を「非常に簡単」に説明しましたが、吸収された後、これらの物質はどうなるでしょうか?
 吸収された物質(薬剤、栄養全部)は早い話、血管を通って肝臓に行きます。ここが非常に重要なキーとなります。
 栄養云々は義務教育期間で「生物」の時間にやったと思いますので省略しまして、本題である「薬剤」はこの肝臓で「異物」として代謝を受けることになります。ここで気をつけて欲しいのですが、薬だろうが何であろうが、体にとっては全部異物であるは頭に入れておいてください。結局、薬であろうが毒であろうが、体にとって所詮は結果論です。

 さて、こうして体に取り込まれて肝臓に入った「薬剤」は代謝.......「異物代謝」を受けます。これについて簡単に説明します。
 体に入った異物は基本的にはこの肝臓で代謝を受けるわけですが、その基本的な化学反応は2種類あります。一つは「酸化」、もう一つは「抱合化」と言い、その目的は両方とも「できる限り水に溶かしやすくして、体外に排出させる」ことにあります。なぜ、「水に溶かしやすく」するかというと、一般的に薬剤は「水に溶けにくい」構造になっているケースが多い........つまり物性的に「似た物同志はよく交じり合う、似ていない物同士は交じりあわない」(「水と油は混ざらない」「親水性と親油性」の話)ので、「水に溶けにくい物」を「水に溶けやすくする」様にするのです。この事と、更に体の中で7割は「水」よりなる......つまり豊富にある「溶媒」となるのでこれを利用する為に「水に溶け易く」する必要があります。

 さて、では「酸化」について説明します。
 これは少なくとも動物におけるもっとも基本的な異物代謝の方法で、真っ先に受ける反応でもあります。この反応は様々な酵素によって反応が行われており、その代表的なものに「P-450」と呼ばれる酵素(別名「CYP」)があります(厳密に言うと「酵素」ですが、ややこしくなるので省略)。これは異物代謝に関しては非常に重要な酵素で、「解毒」に関してはこれは良く出てきます。何でも酸化してくれる強力な酵素で、普段「毒物」に触れる機会が多くなるとこれがどんどん増えてきます(肝臓の活性が上がる=管理人の状態か?)。ほとんどの有機化合物もこれが「ゲシゲシ」酸化して(一つの物質に1回だけでなく、更に酸化していく)体外に排泄するようにしてくれます............が、事はそんなに簡単に進みません。ある有名な研究を紹介します。

 獣肉や魚肉の焼き物、薫製のなかに含まれる発ガン性を持つ有名な「毒物」として、「ベンゾ[α]ピレン」と言うものがあります。これはベンゼン環(いわゆる「亀の甲」)が5個くっついた構造なのですが、この物質は実は、「そのままでは」発ガン性を持たないことが分かっています。では、何故「発ガン性物質」なのか? 実は、この物質と「P-450」を使った実験でこれが分かりました。
 ベンゾ[α]ピレンはP-450と反応を反応させると、どんどん酸化されていきました。すると........いろいろな酸化のパターン(ベンゾ[α]ピレンはP-450に「攻撃」される個所が多いので、こういう表現)を調べていった結果、酸化されて出てきた物質が発ガン性を持つことが分かりました。「体」は「いらないものを出すための、正常な手続きを踏んでいる」だけにも関わらず、こういった事が起きることが分かってきました。
 このほかに現在の主力の農薬である「有機リン系殺虫剤」の物も、「そのまま」ではその効果を発揮しませんが、「酸化」(「脱硫的酸化」という反応)によって、その毒性が劇的に向上する(数百倍、それ以上)ことが分かっています(これを「活性化」と言います。ほ乳類は、「活性化」した物を更に酸化して「構造ごと破壊」していくために効果が出にくくなります。虫では、「活性化」した後に更に「破壊」出来るほど活性がない)。
 さらに例を挙げれば、「青い梅」を食べて死んでしまう話でしょうか。これは、青酸中毒で死んでしまうのですが、何故かと言いますと、青い梅には「糖」に「青酸の構造」がくっついた「青酸配糖体」というものを持っています。これは、体内に入り、酸化の段階でこの「青酸配糖体」の構造が「糖」と「青酸」に別れてしまい、そしてこの「青酸」が効力を発揮して「青酸中毒で死亡」してしまうと言うシステムになっています。
 青酸配糖体の例を挙げましたので、ついでに薬も上げておきましょう。薬は普通、「裸」の状態で「活性化」したものを投与はしません。これは、「最初から活性化」した物を投与しても、その効果を発揮できる段階(場所)へ行く前に、胃やら腸やらで変化を受けたり、腸での吸収がされにくかったりして、「効果発現」する段階に達する前に壊されてしまうからです。これを防ぐために「構造を修飾」(たとえば、「余計なもの」をその構造につけて、酸化の段階でその「余計なもの」がとれる様にするとか)をする必要があります(カプセルに入れるのもこの一種でしょう)。尚、このような「薬の(構造的な)修飾」を「ドラッグデザイン」と呼び、非常に重要、かつ面白い研究になります。

 以上の様なことが酸化で起きてきます。酸化は、「解毒」への第一歩であると同時に「毒性発現」「薬効発現」の第一歩であると言えます。  これ以上は長くなるのと、どんどん「専門」の世界になっていくので、この場では割愛します。


 では次に、「抱合化」ですがこれも重要です。
 上記の様に酸化された「異物」は、体内の物質と酵素によって「抱合化」をします。この「抱合」とは、早い話「他の物質とくっつく」ことだと思っていただいて差し支えありません。
 さて、この「抱合化」ですが、人間では「グルタチオン(GSH)」という物質と抱合化する事が良く知られています。「グルタチオン」は3種類のアミノ酸がで出来た物質で、酸化された物質とこの「グルタチオン」が存在する中で「GST(グルタチオン S−トランスフェラーゼ)」という酵素が存在すると、酸化された物質と「グルタチオン」が「抱合化(=くっつく)」をします。このグルタチオンは「非常に水に溶けやすい」物質ですので、たいていは抱合化まで進むと、後は水に溶けて体外へ排泄されます。
 この抱合化の物質ですが、「グルタチオン」の他に昆虫では「グルコース」(いわゆる「糖」か)との抱合化をすることが知られています。また、一部のハエは農薬に抵抗性を持つ事が知られていますが、これはハエがGSTの機構を発達させたために、殺虫剤の効果を無力化できるということが知られています(全部ではない)。しかし、最近の「ある種の農薬」を使うと..........これはまた別のお話で。



 以上が基本的な「体内での挙動」の第一歩となります。
 あ、触れ忘れたのですが、上記の「酸化」が行われる「系」を「第一相系」と呼び、「抱合化」の様な「系」を「第二相系」と呼びます。今回の話では、「発現」が重要となるので「第一相系」が非常に重要なお話になります。では、「第二相系」での発現は?........「抱合化」の最後に示唆しているように実はあるのです。でも、そこまで行くと更に長くなるので今回はここまでにします。

 ふぅ......初めて「発現」に触れさせていただきましたが長くなりました。取りあえず、今回はここまで。


 あぁ、疲れた。
 今回の「からむこらむ」いかがでしょうか? 今回も目茶苦茶重要な話でした。が、比較的「深い」話でありましたので、結構難しかったと思います。一応、分かりやすく書いてはいるつもりなのですが、悲しいかな「文章力」。これが管理人には少ないので、皆さまに分かりやすいかどうか分かりません。もし、「これ、何?わかんねーよ」ということがありましたら、メールかゲストブックの方に書き込んでいってください。前回のように「補足」させてもらいます。
 あ、別に感想、リクエストもお待ちしていますので、お気軽に管理人にお知らせください。

 さて、次回は.........やっぱり考えていません。「食中毒」とかいろいろあるのですが.......... お楽しみに。

(1999/01/28記述。)


前回分     次回分

からむこらむトップへ