からむこらむ
〜その7:あいまいな「猛毒」〜


まず最初に......

 こんにちは。今週、精密検査の結果が出るので少し気になる管理人です。ま、結局なるようにはなるでしょうから、深刻には悩んでいませんが.......ただ「沈黙の臓器」肝臓がぶっ壊れたので、そこら辺がちょっと気になります。
 まあ、皆さんも本当に気をつけたほうがいいです。ずっと「おかしい」と思ったら、早めに病院で血液検査を受けることをお薦めします。案外「自分の状態」が分かったりしますので........

 さて、今回はついに某チャンネルで「やっちまった」発現が発端となって、(今さらながら)改めてクローズアップされた「ダイオキシン」のお話。「いったい何物なのか」という事にいろいろな問題点を交え説明してみたいと思います。マスコミのとことんピンボケした「猛毒」報道がどこまでおかしいか、少しでも理解頂ければ幸いです。尚、おそらく今回は管理人は「辛口」です。ただし、真剣ですが.......
 それでは、「あいまいな『猛毒』」のはじまりはじまり.........



 それでは、まず最初にお聞きします。よく騒がれる「ダイオキシン」ってなんでしょうか?その問題点は何でしょうか?おそらく、マスコミの宣伝文句が出ると思います。
「人類が作った史上最強の毒!」「悪魔の物質!」「体に異常が!」「○×で何ピコグラム検出」........

 などでしょうか..........でも、これでは全く実体を伴っていません(気づかない人が多いのですが)。後はせいぜいが「ベトナム戦争で枯葉剤としてまかれた」とか、「奇形児が云々」でしょう。
 で、上記のようなことを仮にウチの研究室で大将(教授のこと)にこれをいうと100%確実に「不可」の一言が帰ってきた後、1時間近い説教が始まります(これは例えでなく、知っている人間に言うと全員納得するという......(^^;;;;)。何故か?........そもそも、上の言葉、不正確であったり、実体を伴っていなかったりなど、完全にマスコミ側(含自称「ジャーナリスト」)の「無知」をさらけ出すだけだったりします。ま、それに対して自分で調べない人間も人間ですが(どこぞの宗教やら、おばちゃんやら......ちなみに、宗教関係者の方は口論して駅前で潰しました(笑) 祈ればダイオキシンもエイズも、ガンも消えるそうです。病院へ行けってば!).........

 さて、では「ダイオキシンとは何か?」を「化学構造的に」説明してみます。ちょっと難しいと思いますが、これが無いと説明が出来ないので..........
 まず、「ダイオキシン」とは、ある化学構造を基本骨格とする化合物の総称を指します。この時点で、「一つの物質扱い」しかしないマスコミは失格です(最近はマスコミでも説明しているところも出てきたようです。ただし、全く意味が分かっていないようですが.........)。この化合物は化学的に非常に安定で、変化(酸化)しにくく、体内に入れば脂肪に溶け込み、そしてゆっくりと排出さる事が知られています。
 ダイオキシンを生成するには、実験室にある物質(塩素化したフェノール系2分子を縮合反応出来れば出来ます.....わからなければ無視してください)をもとに作ることができますが、実際には簡単に生成できません。一般には高温を必要とします。ですので、工業が本格化してきた近代から現代にかけてその量が増えています(これは確かです)。

 では、この物質はマスコミが言うように、近代になってから初めて出来たものでしょうか?.......答えは×です。何故か?アメリカの五大湖をご存知でしょうか?ここには人類有史以前の泥が湖底に沈んでいます。この泥の堆積から過去の大気の状態などを調べることが出来るのですが.........どう考えても人類誕生以前にダイオキシンが存在していたことがわかっています。何故か? SFだったら「未来人が」云々いうのでしょうが、現実はどうも違うようです。

 ダイオキシンの構造はここでは表しませんし(なるべく構造式を出さないようにしたいので)、皆さんの科学の知識もわかりませんので簡単に説明します。ダイオキシンを構成する原子は、実は4種類しかありません。炭素、酸素、水素、塩素の四つです。では、人類存在以前に何から出来るか?実は、「木」から出来ます。Woodです。Treeです。うそではありません。本当です。
 何故「木」からダイオキシンが出来るのか? それは普通、生物の中には上記4種類の原子は大量に入っています。植物も生物ですので然りです。で、「木」は「リグニン」と呼ばれる非常に堅い物質を(動物で言えば)「骨格」としています。これは簡単に説明すると、ベンゼン環(学校で「亀の甲」として教わった奴です)に炭素鎖(炭素原子が連なっていて、鎖状になっている)がくっついたものです。しかし、このほかに炭素は木の中にいっぱいあります。そして塩素もある(生物中に結構あるんです)。酸素も当然中にも、空気にもある...... さて、上の方でダイオキシンは「高温」を必要とすると書きました。「高温」に「木」といえば......森林火災です。実は、森林火災が起こるとダイオキシンが発生します(大量じゃありませんけど)。これが、有史以前のダイオキシンの正体とされています.......ただし、「過去」のものは少量です。結局、現代になってからうなぎ登りでその量が増えているのは確かです。

 では、現在のダイオキシン騒動となっている「大量」のダイオキシンの生成とは何か?それは報道の通り、「焼却炉」です。特に、人工物......塩ビなどを「中途半端な」高温で燃やすと「大量」に出ます。しかも、近年はこの手の物質が非常に多く利用され、そして廃棄されたためにその量が劇的に増えました(こうして、初めてマスコミのぎゃぁぎゃぁ騒ぎにつながる)。これによって、「ドイツに見習って」高温の出しにくい(学校などにある)「小型焼却炉」は全国から消えてゆくことになりました。こうしてマスコミの溜飲も下がり、同時におばちゃん方の溜飲も下がり無事解決となりました。めでたしめでたし...........「なわけねぇだろ!『バカな対策』とるなよ。こんなんで終わらそうとするからいつまでたっても成長しないんだ!!」(研究室(大将)の主張です)......乱暴な言い回しですが、日本の一番いけない所です。ここが。

 何がいけないか?箇条書きにしてみますと、  .........わかりますか?日本のいけない所。政府やら施設やらを批判する前に「誰がごみを出しているか」は無視。資源の再利用、かつ、ごみ問題を考えるよい機会となる「リサイクル」に関しては、「10円も値上がりするの?それならいやだ」と言う考え。そのくせ「環境問題が云々」。これを私は「エゴイスト」と呼んでいます。「因果応報」と言う言葉を知らないのでしょうか?こんなことやっていると自然のしっぺ返しが怖いのに........

 ..........話がずれました。

 さて、次に「ダイオキシンの毒性」について述べてみようと思います。
 まず、これを読む前に「からむこらむ」の「その1」と「その2」を思い出してみてください。「慢性毒性」とか「急性毒性」、そうして「リスク」というお話をしたのを覚えていらっしゃるでしょうか? もちろん、ダイオキシンもこれが当てはまり、かつ問題となってきます。
 一番最初に、ダイオキシンは「総称」であると書きました。これはつまり、「ダイオキシンは複数存在する」と言うことです。ダイオキシンの毒性を研究したデータによれば、「全部が毒ではない」ことがわかっています。毒性は強かったり弱かったり様々です。弱いのはほとんど毒性を持たないような物もあるようです......が、毒性の強いものは確かに存在します。しかも、既知の全物質の中で「最強の毒性」のものがダイオキシンの中に確かに存在します。正式名称を"2,3,7,8-tetrachlorodibenzoparadioxine"(「2,3,7,8−テトラクロロジベンゾパラダイオキシン」)と言い、良くマスコミやら新聞やらで出てくる奴です。略号はTCDD、または2,3,7,8-TCDD よくダイオキシン報道で出てくる写真、映像の「白い結晶」はこれです。
 さて、この物質は左右対称の非常に安定な化合物(有機化学をやった人間ならば簡単にわかるぐらいです)です。つまり、壊れにくい。そして、燃えにくいです(すでに「酸化された」状態のため)。この物質はさらに、非常に少量での発ガン性、および胎児への催奇性(奇形児の発生)が確認されています。これが「マスコミの言う」「猛毒」ダイオキシンです。
 しかし......実際に「ダイオキシンが出来る環境」ではこの化合物だけが出来るわけではなく、またこのダイオキシンは「土に吸着されやすい」特性があります。つまり、「簡単に空飛んで.......」と言うことはそうそう無いようです。つまり、吸着しやすい様なフィルターを煙突に付ければ外界に出さずに回収できる.......ただし、その後の処分法を考えないとだめです(→これが重要!!)

 さて、ここまで来たところで例の「リスク」の話です。普通に生活していた場合(確かに、ガンガンダイオキシンを出しまくる焼却炉があった場合、その周辺はちょっと違う可能性が高いですが)、(からこら「その1」、「その2」の例で言えば)ダイオキシンの毒性が1000あったとしても、普通の人がそれに接触する機会はコンマ数桁の単位になります。実際、普通に生活している分にはリスクは「低い」です(まさか、全部が全部TCDDでは無いでしょうし)。第一、(ダイオキシンに限らず)「どこどこで数ピコグラム発見」と言う報道がなされていても、私に言わせれば、「どのぐらいの範囲で?」と言う部分が欠けている為(たとえば10リットル中と100リットル中では全然違うでしょう?)、「信頼性に欠ける」としか思えません。そういう単位ぐらいはっきりだせ!!と言うのが管理人の主張です。


 最後に....... 最近の諸問題で、「製造、行政」にマスコミ(バカな「解説員」もいますね)がこぞって無責任な批判をし、それに便乗して批判している人たちがいますが、そういう人たちがどれだけ「自分たちが使っていた物を捨てた後には無関心か」という事が良くわかりました。管理人が思うのは、日本におけるダイオキシン問題........のみならず「環境問題」等における諸問題の根本にいかにして目を向けさせ、そして考えるかが重要であると思っていますが..........
 これを機に、また皆さんも考えて頂ければ幸いです。


・1999/02/18 補足
 TCDDの構造なのですが、「カセッキー」さんや「逆さ独楽」さんから要望がありましたので取りあえず掲載します(背景とか合わせていませんけど......(^^;)。ただし、高校レベルの有機化学では名称から構造を組み立てるのは難しいと思います。大学レベルでも事前に知識が無いと描けないと思います(管理人も、何故「2,3,7,8-」位になるのか良く分からない.........)。

2,3,7,8-TCDD

 分からない方は「こんな物」程度でよろしいかと思います。少し知識のある方は、「塩素化したベンゼン環2個が、酸素によって架橋された構造」で。合成まで知識のある方は、「2,4,5-trichlorophenol2分子が縮合で出来る(実は、これがベトナム絡みになります)」でOKかと思います(2C6H2Cl3OH → TCDD+2HCl)。尚、TCDDは分かる人にはPCBと似ていると思いますが、その考えはかなり正解に近いです。

・1999/02/20 補足
 「逆さ独楽」さんから御要望がありましたので、もう一つ。取りあえずTCDDに限定しておきますが、現状で「一応こうではないか?」と言われている挙動についてです(管理人の知るかぎりですけど.......ちょっと難しくなります)。
 TCDDは、催奇性(「奇形」を出す可能性)を持つことから遺伝子への影響が考えられています。これは(専門的になりますが)TCDD分子の「長さ」が、ちょうどDNAの塩基対の長さと近似しているため、これと入れ替わってしまうと考えられています。更に専門的になると(ごめんなさい)TCDDは疎水性物質なので、細胞膜や核膜(共に疎水性)をあっさり突破出来、これによってDNAと容易にアクセス出来ると考えられています(疎水性とは要は「親油性」、つまり油に良く溶ける性質。細胞膜や核膜は「油」で出来ていますので、疎水性(=親油性)物質であるTCDDは簡単に「混じり」ます。ここには親水性の物質(例えば「水」そのもの)は直接入ることは出来ません)。

 また、TCDDは「女性ホルモン」の分泌を促す働きをするともいわれており、その分泌を過剰に促す事によって「内分泌撹乱物質」として(要は「環境ホルモン」って奴です)働くと考えられています。この症状としては、男性でも乳房が大きくなるなどの症状があるようです。現状ではこのホルモンバランスの崩壊による影響があると考えられています(TCDDは体内に入るとゆっくりとしか排泄されないため、比較的長期間にわたってホルモンのバランスが崩される恐れがあるわけです。もっとも、体内に入るのが少量なので「リスク」は小さいわけですけど)。

 最後に専門ついでで恐縮ですが、上記TCDDの構造式で「塩素の数と配置」でその毒性が変化することが知られています。現状では、上記のものが「最強」とされています。

 他にも色々とあるようなのですが、現状では「良く分からない」部分が多すぎるようです(だからなおさら「実体が伴っていない」わけです。だれも「本当の毒性」が良く分からないという........)。これから研究が更に詳しくなるでしょうから、今後はっきりしたことが分かると思われます。



 ふぅ.......今回は長くなりました。これでもまだ足りない様に思ったりもしますが........
 さて、今回はいかがだったでしょうか? 本当はこのネタはもっと後にするつもりだったのですが、最近の盛り上がりも結構あるので、今回、ついに書きました。かなり真剣にかきました。「重い」と感じる方もいらっしゃるかも知れません。

 良く言われる「エコロジー」や「地球に優しい」なんて言うものは、管理人に言わせれば、「人間の自己満足」としか思っていません。もちろん、管理人もその中の一人であることは免れえない部分があるのは否定を出来ませんが........ それでも、「本当の問題」に対して「背を向けている」連中とは違うであろう事を切に願っています。

 今回は、かなり「キツメ」に書きました。この文章を読んで、「いや、おまえの行っていることは間違いだ!!」と言う方がいらっしゃると思います。そして、不愉快に感じる方もいらっしゃるでしょう。しかし、管理人は「実際」の事を書いたまでと思っています。

 もし、この文章を読んで感じるところがあれば、是非管理人に教えてください。

 それでは今回はこれにて。皆さま、お体を大切に.......

(1999/02/14記述。1999/02/18、同20補足。 メールでのやり取りから抜粋し、加筆・修正(Thanks>Ms. A.M.))


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