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〜その8:与太話「光を運ぶもの」〜


まず最初に......

 こんにちは。気温の激しい変動に体がついていかない管理人です。まったくもって、厄介な時期だ...........

 さて、今回はちょっとネタの熟成が間に合わなかったので(先週だけで計3回もアップしていますし(^^;;)、短く与太話にさせていただきます。さて、その内容はある元素についてなのですが.........
 それでは、「与太話『光を運ぶもの』」のはじまりはじまり.........



 さて、時は17世紀の頃、ヨーロッパはドイツにある商人(ヘンニッヒ=ブラントという)が住んでいました。彼の「商売」の腕はさておき、彼は「(楽して)大金持ちになりたい!!」と思っていました。当時は「錬金術」が盛んなころ、当然行き着く先はこれでした。「そうだ! 『哲学者の石』を見つければ楽が出来る!! そうすれば錬金術者が懸命に研究している水銀と硫黄と塩からでなくても、そこら辺の石ころから『哲学者の石』を触媒に、簡単に金が出来るじゃねーか!!」 大変安易な発想ですが、とにかくこう考えた(らしい)彼は錬金術にのめり込んでいきました。
 そうして彼が錬金術にのめり込んでから数年と時が経ち、当時の仲間が「あぁ、そんなやついたねぇ........」などと言っている頃、彼は必死にさまざまな材料を集め、溶かし、熱し、冷やし、混ぜたりを繰り返していました。彼の手は酸やアルカリなどによって荒れていましたが、それでも彼は色々と実験を繰り返していました。
 さて、こうして彼が実験をしている内にやがて、「尿」から色々と試していた彼は容器の底に沈殿する「白い」物を発見しました。「おぉ......これこそ....... か?」と期待を込めてその物質を調べてみると..........空気中で簡単に発火し、ものすごく「臭い」においを発しました。しかし、面白いことに暗闇で青白い光を放ち、しかもその光で本が読めました.........

 さて、上記の「白い」ものって何だったのでしょうか? これはずばり「リン」です。世界で最初に「発見」されたリンはこのような経緯で偶然見つかりました。
 「リン」は元素番号15、元素記号「P」の物質です。漢字で「燐」と書きます。英語で書くと「phosphorus」(発音は簡単に言えば「ほすほらす」)で、その語源はギリシア語の「光」phosと「運ぶもの」phoros.........つまり「光を運ぶもの」に由来しています。周期表にある元素のなかで、光を発するのはリンしかありません。結構「変わり者」です。

 さて、このリンですが、この元素はさまざまな場所で使われています。例を挙げてみましょうか。
 マッチの先端ではリンの同素体(後述)である赤燐が使われています。もっとも、昔は発火点の低い「黄リン」(白リン)が使われていたのですが、60度で発火するため........つまり、「摩擦」で簡単に発火してしまうため、事故が多発し赤燐に変わってしまいました(良くある「西部劇」でマッチをどこでこすっても発火するのはこの為)。ちなみに、上記「ドイツの商人」が発見したのはこの「黄リン」であったようです。

 更に、最近の殺虫剤での主力は「有機リン」系の物が多いです。園芸用に使われる「スミチオン(フェニトロチオン)」や「マラチオン(マラソン)」や、一時期大変なことになったC(chemical)兵器「サリン」。専門的になれば(管理人の専門なんですけど(^^;)、東京は「夢の島」で使われている「プロチオホス」「プロペタンホス」(この二つは「抵抗性」の虫に有効)等..........その分子の構造の「骨格」となる部分に「リン」が使われています。ちなみに、一般的には「アセチルコリンエステラーゼ」と言う、神経の伝達に関係する酵素を邪魔して「神経の正確な伝達」を撹乱する(過剰に神経が「興奮」した後、「麻痺」する)ことで「殺虫作用」を発揮していると考えられています。もっとも他の機構も考えられている「有機リン系」殺虫剤もありますが.........(開発から20年ぐらい経っているのにも関わらず、分からない事が多い)

 そして更に、「生物の中」にこのリンは使われています。
 さて、「生物の中」とは? これは多岐にわたります。例えば「DNA」の中にある「塩基」の構造中に入っていますし、人の「文字通り」骨格......つまり「骨」には「リン酸カルシウム」の形で存在します(骨は「カルシウムだけ」でなっているわけでは無いです。ビタミンDが「リン酸カルシウム」という形で骨に取り込んでいきます)。そして何よりも重要なのが、「エネルギー生産」にこのリンは関与しています。これは、体内の「エネルギー通貨」として「ATP(アデノシン三リン酸)」って言うのが教科書に書いてあると思います。これが無いと生命が存在できません。実際にはこれだけでなく、生体の中では文字通り「ありとあらゆる」場所に存在しています。

 さらにはリンは高純度のものなら半導体の原料になっているようですし、脱酸化剤や合金添加剤として使われているようです。

 最後に。実はこういう題材を選んでおいて「オチ」を考えていないので(汗)、ちょっとした「うんちく」もどきで締めくくらせていただきます。
 生物の死体は長期間放っておくと「光る」事があるのは御存知でしょうか? これは生物の死体を放っておくと、腐敗によって生物の中に大量に存在する「リン」が(水素化リン=「ホスフィン」の形で)発光するからだそうです(沼でもおこります)。昔の人々はこの「光」を「ユーレイ」として恐れたとか......... いやはや、科学が発達すると味気がないですねぇ(^^;;



補足:「同素体」とは、「同じ元素からなるが、分子の構造や物理・化学的性質が異なる2種類以上の単体」の事。4つの元素に「同素体」があります。具体的な例の方が分かりやすいので例を挙げると、
 高校の化学で「スコップ(SCOP)」で覚えろ!!って言われた事ある人がいると思います..........

補足2:(専門的ですけど(^^;)リンが発光するのは、「簡単に」酸化されるためにエネルギーの励起(「エネルギーの状態」が高くなる事)があるためです(つまり、エネルギーが高いままだと不安定になるので、エネルギーを放出して「安定」します。この時のエネルギーの「差」が「光」となって放たれます........分からなければ無視していただいて構いません)。

補足3:リンが「燃焼」すると、「酸化リン」という物が出来ます。これは「ものすごく臭い」物質で、この「におい」を一気に吸うと多分「卒倒」すると思います...... 実際にはリンの化合物は全体的に「嫌なにおい」を持ったものが多く、また毒性が高いものが多いです。特に「ホスフィン(PH3)」の毒性は高い事が知られています。


 ふぅ.....おわり!
 さて、今回は前回とはうってかわって「軽い」ネタにしました。ちょっと高校レベルの知識を要するような気がしないわけでもないのですが.........いかがだったでしょうか?

 元素の話にはまた色々とあるのですが、今回は管理人に「なじみの深い」リンを選んでみました。完全に「思いつき」で一気に書いたので、文章がなっていないのが難点ですが......(大汗) まぁ、「楽しんで」頂ければ幸いです。

 それでは今回はこれにて。春に近くなるにつれ体に負担がかかりますが、皆様お体を大切に........

(1999/02/23記述)


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