からむこらむ
〜その9:七面鳥X病事件と黄色い米〜


まず最初に......

 こんにちは。体調がよいのだか悪いのだか良く分からない管理人です。良い(「安定している」)ときは良いのですが、崩れると早いんですよね........ どうしてくれようか.......(^^;;

 さて、今回はどれにしようか考えに考えているうちに、おもむろに思い出したお話。カビ毒による食中毒の関連なのですが.........
 それでは、「七面鳥X病事件と黄色い米」のはじまりはじまり.........



 人が「食べる」ということは、はるかなる昔からそれは食中毒との戦いであったと言っても過言ではありません。かなりの人数がそれの持つ毒によって倒れ、そして学んでいきました。
 さて、そういった食中毒の中で、カビによる毒というものがあります。昔から、「多少のカビは食べても平気」と言われることがありますが、それはすべてにおいて正しいのでしょうか? 答えは「否」です。 ではどんなものがあるでしょうか?
 今回はそんなカビからの毒で代表的なお話をさせていただきましょう。
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 1960年、初夏のこと........... その年のクリスマス向けに飼育していた、十数万羽にも及ぶ七面鳥とアヒルがバッタバッタと死ぬ事件がイギリスで発生しました。業者はもちろん大慌て、マスコミは便乗して大慌て、あおられて市民も大慌て、そして政府も大慌てと、国中で大慌てとなる事態となりました。
 さて、マスコミによって「七面鳥X病事件」と名付けられたこの事件は、最初こそ「謎の病原体」だと(一部では「呪い」だとか「悪魔の仕業とか」)言われていましたが、死亡したひなを解剖したところ死因が「肝臓ガン」と判明しました。さて、何故肝臓ガンになったのでしょうか? 追跡が始まりました。
 さて、そうして学者による懸命の追跡が行われましたが、その結果次のことが判明しました。
 彼らは七面鳥に与えている飼料......要はエサの中に混ぜられている、ブラジルから輸入されたピーナッツミール(ピーナッツを砕いたもの)に注目、調べてみました。すると、このピーナッツがカビに冒されていることが判明しました。そして、そのカビの正体を「アスペルギルス・フラバス(Aspergillus flavus)というカビであることを突き止めました。そしてこのカビを調べた結果.......このカビの生産物、「アフラトキシン」がすべての原因であることが分かりました..........


 この事件は実話です。  さて、アフラトキシンとはどのような物質なのでしょうか?
 アスペルギルス・フラバスから命名されたこの物質は複数種類があり、紫外線下で青色の蛍光を発するB1、B2 緑色の蛍光を発するG1、G2 紫色の蛍光を発するM1、M2が存在することが分かっています。また、急性毒性としては肝臓障害を、慢性毒性としては肝臓ガンを起こすことが知られています。
 この中で特にB1は強力な毒性を持つことが分かっており、ラットでの試験で飼料中に1ppb(parts per billion=10億分の1:1kg中に0.001ミリグラム)混ぜて104週間与えた結果、肝臓に腫瘍が出来ることが分かり、更に15ppbを与えると68週間で100%肝臓ガンを引き起こすことが分かっており、既知の発ガン性物質の中では文字通り「最強」の物質であることが知られています。

 さて、この七面鳥X病事件後、このアスペルギルス・フラバスは麹カビの仲間であったため、日本でこれが絡むもの.......つまり麹が絡むものといえば「みそ、醤油、酒」など日本の食文化に直結したもの.......であるために日本でも大騒ぎとなりました。が、急いで調べた結果、日本ではこのようなカビが無いことがわかり一安心と言った事がありました。日本では、現在輸入されるピーナッツすべてにアフラトキシンの検査が義務づけられています。 しかし、このアフラトキシンはチーズ等にも含まれており、またアフラトキシン0%のチーズは存在しないので、一応の基準を設けてそれ以下であることが条件で輸入されています。
 尚、アフラトキシンによる肝臓ガンの発生はインド、タイ、アフリカ、北米南部等、熱帯地方のトウモロコシによる発生が多いようです。



 さて、所変わって昭和22年の日本。戦後の混乱期まっただ中、食糧は少なく非常に困窮したころ、農林水産省ではどうにかしようと文字通り世界中を駆け回り、そして米を譲ってもらっては日本に送るということを繰り返していました。
 さて、そうして送られてきた米の中に昭和23年、エジプトから送られてきた米の様子がおかしい事に気づきました。よく見ると、米の3粒に1粒が......黄色い....... これが、「黄変米事件」の始まりでした。
 この米を発見したのが東京農業大学で戦前カビ毒について研究していた教授の元で学んだ農林技官、角田広という人でした。彼はその「研究」.......1937年の台湾産米に生じた黄変米がカビに冒されていた研究...........を思い出し、早速調べてみた結果、毒を生産する複数のカビを分離に成功しました。これによってこの米が日本国内に流通することなく、未然に防ぐことが出来ました.......


 この「黄変米事件」も実際にあった話です。
 さて、この「黄変米」実は結構種類があるらしく、その原因となるカビも結構分離されています。主にあの抗生物質「ペニシリン」を生産するカビの仲間が多い事が知られており、例えば台湾産米ではペニシリウム・シトレオビリデ(Penicillium citreo-viride)というカビが分離され、その毒素としてシトレオビリジンという毒素が単離されています。また、エジプトからの黄変米ではペニシリウム・イスランジカム(P.islandicum 注:冒頭の「P」は前述「Penicillium」の略。一度表記したら、後で書くときに同じものであるならば略して良いというルールがあります)というカビが発見され、その毒素としてルテオスカイリンという毒素が単離されています。そして更に1951年にはタイの黄変米よりペニシリウム・シトリナム(P.citrinum)が分離され、これからはシトリニンという毒素が単離されています。
 では、この黄変米の毒素はどういった毒なのでしょうか?
 ラットなどの実験動物による試験では、シトレオビリジンは呼吸中枢を麻痺させる事が知られていおり、脚気に似た症状をだす事が知られています。またルテオスカイリンは肝硬変を引き起こすことが知られています。そして、シトリニンは腎臓毒であることが現在分かっています。
 こうして、この研究が進むに連れ、ついに学者は政府に対し黄変米の流通を止めることを勧告し、計13万8000トンのカビ汚染米を廃棄、昭和29年に黄変米事件は終了しました。



 さて、以上が有名なカビ毒のお話です。他にも赤カビによる麦類への感染からフザリウムという毒素や、麦角毒等もあるのですが、今回は二つのエピソードで済まさせていただきます。

 このように、結構カビ毒と言うものには強力(過ぎる)なものがあります。普段我々が接する様な食品とカビの関係といえば「発酵食品」があり、そして薬用として「抗生物質」といった「人間の都合の良い」ものがあるわけですが、その一方で食品の「腐敗」を起こしたり、そして有害物質を生産するケースがあるのも事実です。しかも、「有用」とされるカビの仲間がそのような「毒」を作ったりしています(これが面白いといえば面白い)。

 さて、最後にカビ毒の特長について少し。
 カビの代謝産物(生産物)で人畜に有害な作用を及ぼす物質を「カビ毒」(マイコトキシン:「マイコ」とは「カビ」の意味)と呼びます。また、カビ毒による急性中毒を「カビ毒症」(マイコトキシコイシス)と読んでいます。
 アフラトキシンのようなマイコトキシンには事の大小はともかく、慢性毒性が.......つまり「発ガン性」が認められるケースが多いです。
 そして面白いことに、マイコトキシンにはとして挙げられる物質にはその構造が抗生物質(例えばペニシリンやテトラサイクリン)等と似ているものがあったりします。また、カビ毒症は伝染性(空気感染のとか)はありませんが、抗生物質が無効であったりします。

 「有用」として使われた同族が「毒」を作る.......自然というのは面白いものです。


1999/03/04 補足
 参考として、アフラトキシンB1の構造を示します。

アフラトキシンB1
 この構造は、基本的には「ステロイド骨格」と言うものをベースとした化合物です。
 尚、ステロイド骨格はビタミンDやコレステロール、女性ホルモンとして有名なエストロゲン等、さまざまな重要な化合物がこの構造を持ちます(詳しく言うと、天然合成でビタミンA等も類似として関わってきますが、それはまた別のお話)。
 また、黄変米関係のマイコトキシンの構造もわかっていますが、各構造が大きい為省略させていただきます。



 何とか終了........
 何となく日本語が変な部分が多いような気がしますが........ ま、いつものことか(爆)

 さて、今回のからむこらむはいかがでしょうか?
 本当はカビの代謝物といえばLSDなんてのもあるのでやろうかと思いましたが、取り敢えずは「食中毒」主体にすることと、構造が絡んだほうが面白いので今回はやめました。まぁ、その内やるでしょう.........多分(^^;;

 今回は、ネタと体調に迷い、結局このような話にしました。与太でも良かったような気がしないわけでもないですが、良く考えれば今まで全部が「よた」かも.........

 まぁ、それはともかく、「こんなものがあって、そのうらにはこんな話があったんだよ」といったことを紹介するのが基本的な方針と思っていますので、よろしかろうかと思います。

 さて、次回は何にしましょうか......... 命名と構造に関しては将来やるつもりですが、こいつが結構説明が難しくなるので、思いっきり考えている最中であったりします。ま、その内なんとか........ マイペースマイペース.........


 3月は気温変動が非常に激しい季節です。皆様気をつけてお過ごしください。


(1999/03/02記述)


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