からむこらむ
〜その11:「水」は「水」でも.........〜


まず最初に......

 こんにちは。春の激しい気候変動にほんろうされている管理人です。なんだかねぇ.........気温のアップダウンが激しいし、天気はあいまいだし........ ま、春の最初はこんなものなんでしょうけど。そういえば、飲み会シーズンなんだよな...........

 さて、今回はリクエストもありましたので、久しぶりに続編。前回は「18種類の水」から同位体の話をしましたが、今回はもう少し突っ込んでみた話。ちょっと難しいかも知れませんが..........
 と言うわけで、「『水』は『水』でも.........」の始まり始まり.......



 それでは前回からの続きから(具体的な事は、「その10」を思い出してください)。

 前回の最後に、いわゆる複数種類の「水」を実験動物に飲ませた話をしましたが、これについてのお話です。
 「水」の違いを示すデータを示したいと思います。

 まず、2種類に限定しますが、H2O(常水)と、D2O(酸化ジュウテリウム=「重水」)の2種類の水の物性を以下に示します。

H2OとD2Oの物性
性質常水(H2O)重水(D2O)
氷点(℃)0.03.80
沸点(℃)100.0101.42
密度(g/cm)3,20℃0.99801.1051
密度最大温度3.9811.6
融解熱(cal/mol)14351523
蒸発熱(cal/mol)97199919
比熱(15℃)1.001.03
屈折率1.333001.32844
モル凝固点降下1.862.05
水のイオン積(22℃)1×10-140.16×10-14

 かなり「訳の分からない項目」もあると思いますが、分からない項目は「取りあえずこんなものだ」と思ってください。(また、上の項目は過去の文献から抜粋したものですが、いちいち厳密にやっても面倒ですので、「常水の沸点が厳密に言えば違う」とか「カロリーはジュールを使え」とか言うツッコミはなしにしてください。)
 さて、万人に分かるものとしては、まず皆さんになじみの深い「氷点」や「沸点」、「密度」がありますが、この項目から「同じもの」では無いことが理解頂けると思います。そして、「酸性・アルカリ性」を示す指標となる「pH」を出すために必要となる「イオン積」が異なります。

 ここでちょっと余談と復習ですが
 ........高校理科Iの教科書があれば必ず載っています。覚えていらっしゃればありがたいです。

 さて、元に戻りまして、この「イオン積」が異なるということはどういうことかというと、普通の「水」の状態とは異なると言うこと(「イオン」の状態の物と、そうでない状態のものとの存在比など)を示し、ひいては生物体内で「極めて」重要な役割を果たす「水」の状態が違ってくるという事になります。
 そしてこのほかにも違いとしては、常水と重水では、常水より重水のほうが「塩(えん)類」の溶解度が一般的に低く、そして反応速度が遅くなることが知られています。

 こういったことを総合すれば、同じ「水」とは言えど、生体内では「重水」が「常水」と同じような挙動、役割を果たすとは考えられず、むしろ「全く違う」挙動をするのでは無いかと推測が出来ます。もう少し砕いた言い方をすれば、生物は普通「常水」を使う様に各機能・機構が「セッティング」されており、「常水でない水」を使うようには出来ておらず、この「常水でない水」でもって「常水」の役割を果たさせることが出来ないため、これのみを生物が飲むと死亡してしまうと推測できます。(専門的に更に考えてみると、おそらくは水素結合の様な結合も性質が異なってきているでしょうし、分子量やその分子の大きさが異なることで、生物自身は「重水」を「常水」とは判断しないと思われます。)

 尚、実際にはラットに重水10%を混入させた物を与え続けると死亡するそうです。どちらかといえば、重水は生物にとって「毒物」なのかも知れません...........


 さて、こう書くと完全に「悪者」と化しそうな「重水」ですが、これはこれでしっかりと生活に関与したところで働いています。
 「重水」.......一応「D2O」の重水(厳密に言えば、常水より重いものは「重水」なのですが、面倒なのでD2Oで統一)が活躍しているところとは、「原子炉」です。ここで、核分裂反応を進めていく中性子の減速材(ウランに中性子を当てる事によって核分裂を起こすので、その制御)として重水は用いられています(実際には冷却も兼ねる)。その他には分析用の溶媒等として用いています。


 では最後に、今までのところ「水」に焦点を当てている「同位体」ですが、ここで別の元素のお話をしてみましょう。
 天然に存在する元素の中に、塩素(元素記号Cl 原子番号17 原子量35.45)があります。さて、塩素には原子量35の塩素(35Cl)と原子量37の塩素(37Cl)があります。この2種類の同位体はその存在比が約3:1(35Cl : 37Cl)です。

 さて、ここで管理人がやっていた合成とこれが関与するのでそのお話をしてみます。
 管理人の合成していた物質は塩素を2個、分子中に含む物質でした。そして、この物質が出来ているかを確認するために機械を使って調べるのですが、その中に物質の「質量」を調べる機械があります(要は、「分子量を調べる」訳です)。この機械を使って管理人の合成した物質を調べると、面白いことに「目的の物質」の分子量を「X」とすれば、「X」、「X+2」、「X+4」の三つのピークが出てきます(実際はもっと複雑ですが省略)。しかもそのピークの強さ(存在量に比例。多いほど「強く」でる)が「X:X+2:X+4」=「9:6:1」となっていました。
 さて、ここで面白いのが塩素2種類の存在比です。2種類の存在比は、前述したように3:1です。そして、管理人が実験していた物質は2個塩素が存在しています。ここで、管理人の作った物質には「35Clが2個ある」物と、「35Clが一つに37Clが一つある」ものと、「37Clが2個ある」ものの3種類が存在することとなります。
 そして、上記3つの物質の存在比を考えてみると.......簡単な数学になるでしょう。答えは「9:6:1」。見事に検査結果と一致しました。こうして、「塩素が2個あるらしい」という事が分かり、他の可能性も考慮して目的の物質が出来ている「らしい」という事が分かりました。

 こんな感じで、管理人はその実験の中で同位体が関与していたりしました。
 実際には、この分析だけでは無く他の機器分析の結果とも合わせて「この物質が出来たらしい」というのを推測していきます(実際には、質量分析だけでも「もっと複雑」なんですし、これだけでは足りないのですが..........)。これらを総合して合成の「完成」をさせていくわけです........これで出来ていると嬉しいんですよね。(ボソ)


1999/03/18 補足
 一応、「モル凝固点降下」についての説明します。
 現象として、「溶媒に溶質を溶かすことで、溶媒の凝固点が降下する現象」というものがあります。そして、「1kgの溶媒に1モルの溶質を溶かしたときに下がる凝固点の度合い」を「モル凝固点降下」と呼びます。
 また、これとは逆に、「モル沸点上昇」というのもありますが、これも基本的には同じで、「溶媒に不揮発性の溶質を溶かしたときに、溶媒の沸点が上昇する現象」で、「1kgの溶媒に1モルの不揮発性の溶質を溶かしたときに上がる沸点の度合い」を「モル沸点上昇」と呼びます。

 例を挙げてみましょう。
 「溶媒」を水とした場合、その凝固点(氷点)は0℃ですが、この水1kgに何らかの「溶質」(例えば「食塩」や「砂糖」)を1モル分溶かすと、凝固点は下がります。上の表からすれば、-1.86℃となります。だから、海水は0度で凍らないわけです。




 何とか終わり。

 さて、今回の「からこら」は如何でしたでしょうか?
 一応、前回の続きをやってみました。それと同時に高校の復習も(結果的に)やりましたが...........トータル的には前回よりも難しいくなってしまったと思っています(ゴメンナサイ)。更に、管理人のやっていた合成に関与した事を一つ挙げてみましたが..........これも如何であったでしょうか?
 本当は、この後に放射性同位体の話を入れようかとも思ったのですが、目茶苦茶長くなってしまうのであえて避けました。これが絡むと、本当に「水銀から金」を作る話や、放射線の種類なんかも出来たのですが............やっぱり長くなるなぁ(爆)

 またリクエストや「分からん」という点がありましたら、ゲストブックにでも書き込んでください。よろしくお願いします。

 それでは飲み会シーズンですが、皆様お気を付けて。「再テスト」に苦しんでいる方も頑張ってください。

(1999/03/17記述 3/18補足)


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