からむこらむ
〜その16:原子のビリヤード〜
まず最初に......
こんにちは。「FSS」の単行本の解説で「ペンタホーン」の言葉をみて「あぁ、角が5本なんだ」と思っている管理人です。なんだか最近、前より少しばてやすい様な気が..........?
さて、今回は「基本」ではないお話。
元素周期表の歴史に関わる事柄と、原子の「ビリヤード」について..........そう、ちょっとした「核物理」のお話。 あ、いや、別に量子力学ではありません。原子の構造を知っていれば十分なお話............のはず(^^;
そうそう、今回も「元素周期表」が手元にあると理解がしやすいです。持っていましたら御用意を。それでも無いときは.........ここにもあります。ま、質量数があるほうが良いのですが.........そういった数字はこちらでサポートします。
それでは「原子のビリヤード」の始まり始まり........
世に言う「化学屋」という人たちは、その特質上、常に「原子」や「分子」と言った物とのつきあいが必要になります。そして、その「原子」の「道標」として、そして「コンピュータ」として使われるのが「元素周期表」と呼ばれるものになります。
さて、この元素周期表。これを開発・発明したのはいつでしょうか? これはすでに100年以上前。19世紀にロシアの大科学者「メンデレーエフ」という人物によって現代のスタイルになったとされています。 大したことが無い? いやいや。その頃にはまだ10数種類以上の元素が未発見だったのです。そして彼はこの未知の元素が「どこに当てはまっていくか」を正確に予想したのです。
現在のこの周期表にはだいたい112の元素........原子番号1の水素(H)から原子番号112のウンウンビウム(Uub)までが書かれていると思います(もちろん、教科書、文献等の時期によって違う。管理人は『理科年表 平成11年版』を参考。 普通は103のローレンシウム(Lr)までと思われる。)。しかし、自然界にある元素は92のウラン(U)までです。その他の.......93番目以降の元素は? そう、人が作り出した元素であります。
そういった人工的に作られた元素........これは人がいわゆる「核」についての知識と、技術を得てから作り出したものであり、ウランよりも「重い元素」が発見された......いや、造られたのは1940年。ネプツニウム(Np)という元素を造った事からです(ちなみに、ローマ神話の海洋神「ネプチューン」からと思われる)。
さて、取りあえず話をちょっと戻しましょう。
先程「自然界にある元素は92のウランまで」と書きました。では、1940年頃にはすでに人類は「92個の元素」を手に入れていたのでしょうか? 答えは「NO」です。 人類はたった「4つの元素」をのぞいて、つまり88個の元素を見つけだしはしましたが、ウランまでの全元素を埋めることが出来なかったのです。その「消えた4つの元素」は...........原子番号43,61,85,87。 当然躍起になって科学者はこれを求めていきました。
- 原子番号43.........第5周期の7族(昔の表記なら7A族) 。上下をマンガン(Mn)とレニウム(Re)に挟まれた元素。遷移元素のため、性質はこの二つに似ていると推測されました。
- 原子番号61........ランタノイドの一つ。希土類元素の仲間..........このシリーズと性質は似ていると推測されました。
- 原子番号85........いわゆる「ハロゲン」。フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)の仲間。性質もそれに準ずるものと推測されました。
- 原子番号87........アルカリ金属類の仲間。リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)の仲間。きっと反応性は高いだろうと推測されました。
科学者達はこれを探し求めて、あるものは身近な物から........例えば植物を燃やしてみて、その灰の中から......... そしてあるものは海へ........海水をすくってみて............. そしてあるものは山へ..........鉱山中を掘ってみて..............
結局これらは全て徒労に終わるのでした。 そう、どこへ行っても見つからないのでした。
では、この「4つの消えた元素」事件は? 答えは意外なところから見つかります。 しかも、この4つの元素のうち一番最初に見つかった「原子番号43」の物質は..........キロ単位で容易に入手が可能なのでした。
さて、原子というものは「原子核と電子」で成り立つ事はすでに何回か述べています。そして、電子に関しては「ある程度」のやり取り(増減)が可能であることも説明しました。 しかし、原子核は? これが変わるということは、原子の性質が変わるということです(水の例でやりました)。ましてや、中性子のみならず陽子そ数が変われば.........それは「原子そのものが変わる」という事であります(分かりますよね? 原子番号はなんの数で決まりましたか?)
この原子核という物。「非常に堅い」です(そう、ゲームで言う様な「堅い」とは比較にならない)。 どのぐらい堅いか? 化学反応程度で原子そのものは変化しません(当然ながら)。 触媒を用いても変化はしません。 高温高圧(文字通り)でも、「状態変化」はあったとしても原子そのものは変化をしません。 こういった方法では、原子を変える事は出来ないのです。
しかし........これを破る方法をついに人類は発見しました。
1936年の終わりの頃(1937年という話もある)、イタリアの科学者セグレ(後に、ロス・アラモスでマンハッタン計画に参加)と、ペリエの二人が、43番目の元素の左隣.........原子番号42のモリブデン(Mo)に向けて、サイクロトロンという「粒子加速装置」を用いて重陽子(重水素の原子核)を加速させ、そしてターゲット(この場合はモリブデン)にぶつける(「照射」という)実験をしました。 非常に加速された重陽子はモリブデンを「保護」する電子殻を突き抜け、そしてモリブデンの原子核に達しました。そして、重水素の原子核である重陽子(つまり、陽子1個と、中性子1個で成り立っている)はモリブデンの原子核にぶつかって崩壊、中性子は脇に跳んでいき、そして陽子は..........モリブデンの核に入り込みました。 そう、ちょっとした原子の「ビリヤード」をしたのです。
ここで、何が起きたか? そう、原子番号は「陽子」で決まり、そして原子もそれで決まります..........そう、モリブデンは陽子が一個増えた事によって「モリブデン」では無くなり、そして「消えた元素」の一つ「原子番号43」の物質になりました。 そして、これが人類が一番最初に作り出した「人工元素」であったのです。
この元素はギリシア語で「人工的」を意味する言葉「テクニコス」から「テクネチウム(Tc)」と名付けられました。
しかし、これでは前述の「キロ単位」は達成できません。うん? いや、出来るんです。どこでか? そう、原発の中で..........
あんまり詳しくは書きませんが(今回の主旨ではないし)、ウラン(235U)は中性子を当てる事で核分裂をおこし、このときに発生するばく大なエネルギーを利用することで核爆弾、乃至原子力発電に用いています。 そしてこの「核分裂」の過程で、テクネチウムはわんさかと出てくるのでした。
余談ですが、世界中で1950年代からバンバン核実験をやったおかげで、今では世界中にテクネチウムが存在するのは皮肉としか言いようが無いでしょう。
さて、この核分裂で生じた物質をイオン交換樹脂を用いたりして分離していった結果、1947年。マリンスキーらが原子番号61の元素を発見しました。与えられた名前は「プロメチウム(Pm)」そう、ギリシア神話に出てくる神「Prometheus」、プロメテウスから取ったのです。この神は、ゼウスが「火を人間に与える」事を禁じていたにもかかわらず、人間がかわいかったために天界から火を盗み出し、自分の獣(狼?)を使って人間に火を与えてしまったが、この事が発覚してしまい、岩山に繋がれて内臓をハゲワシに毎日つつかれるという苦痛を与えられた神です。 ちなみに、神話ではこの後、ゼウスが怒って最初の女性「パンドラ」を地上に遣わした、例の「パンドラの箱(オリジナルは「壺」らしいのだが)」の話につながっていきます。 ある意味皮肉な名前のように思えるのですが............
他の元素は? 簡単に説明していきましょう。
原子番号85の元素は、1940年にコルソンらによって核反応からこの物質を入手しました。名前をアスタチン(At)と言います。 性質としては金属的な性質の強いハロゲンと言ったものです。 尚、この物質は有機化合物中に入れることで、医学の分野に用いられている様です。 ちなみに、こちらも核分裂で大量に入手が可能です。
原子番号87の元素「フランシウム」と呼び、これは最終的に(理化学辞典によれば)天然に存在するようです。が、核分裂から入手が可能です。 性質はセシウムに似ているという事です。
さて、そろそろ最後にしましょう(きりがない)。
よく見れば、元素周期表の原子量がよくカッコでくくられているものがあると思います。これは様は「不安定」な為で、放射線をだしながら常に崩壊しています。 そして、上記の4つの元素もカッコでくくられています。そう、これらは不安定な物質で、しばらく経つと無くなってしまいます。
こういったことから、これらの物質は「最初から無かった」のではなく、「大昔にはあったが、徐々に無くなったのではないか」というのがどうも正しい........ 様です。
尚、ウランより重い「超ウラン元素」と呼ばれるものは、基本的には「テクネチウム」と同じようにして造られていきました。そう、この理論は「どのような元素」でも造ることが出来るのです(もちろん、限界はある)。
では、この技術を応用すれば.............「鉛から金」を造ることは可能ではないでしょうか? そう、可能の様なんです。「原子のビリヤード」で.........例えば、金(Au)の一個前の白金(プラチナの事。Pt)に重陽子を当てるとか、文字通り鉛(Pb)に何かの核を当てて金を造るとか.......... しかし、この現在の「錬金術」をやる人はいません。何故か? そう、どうも技術的には可能でも、コスト的にもうからないらしいんですね(笑) ましてや、白金からの例では、金よりもプラチナの方が希少だったりしますので............(笑)
ま、世の中そんなにうまくは行かないということでしょうか?
う〜む........2時間ぐらいか。
さて、今回の「からこら」は如何だったでしょうか? 今回は「元素の作り方」についての簡単な(?)お話にしてみました。 基本編ばかりではやはり面白くないですからねぇ...........打ち込んでいる本人も(苦笑) いや、でも、あれやらないと........... 一応、「面白い話」になってくれていたら嬉しいです。 御感想をお待ちしています。
本当はこういった話が出たら、やはり核関連の話もある程度やりたかったのですが、流石に量が半端ではなくなるのでやめました。 皆さん結構身近に「核物質」というのは使われているんですよ。病院でも、工場でも..........
核と言えば日本人はアレルギーですが、もうちょっと知って欲しいんですよね。 放射能と放射線の使い方を間違っている時点で(笑)
ま、これぐらいで..........後書きが「からこら」じゃ仕様がない(苦笑)。
次回は........全く決めていません。ネタは一杯ありますが(基本編もしたいし).........リクエストもお待ちしています。
それでは皆さん、体には気をつけてお過ごしくださいませ。
(1999/04/20記述)
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