からむこらむ
〜その17:放射線の基本話〜
まず最初に......
こんにちは。最近の暑めの天候に少しやられ気味の管理人です。皆様は如何お過ごしでしょうか?
さて、今回も(恐縮ですが)原子に関する話。
「よく聞くけど実は全く知らない」ものというものは身近に色々とありますが、その中から「放射線」に関してお話してみようかと思います。そう、非常に「誤解」の多い物の一つです。 取りあえずその基本についてを今回は取り扱います(尚、今回出てくる原子は基本的に放射性のものです。元素周期表にあるような「安定した」ものとは異なりますので御注意ください)。
それでは「放射線の基本話」の始まり始まり........
さて、いきなりですが質問です。
Q:放射能と放射線の違いは何ですか
ちょっと真面目に考えてください。わかりますか? ちなみに最初にこれを質問されたとき、私は間違えました(^^;
さ、答えが出来ましたか?
日本という国は御存知の通り、世界で初めて、そして唯一「実戦で」原子力爆弾を投下された国です。 これ一発によって一つの街の市街が完全に破壊でき(過言ではない)、多数の死傷者を出すことが可能............というのは周知の事実であります(知らないほうが大問題であると個人的には思っています)。
そして、この爆弾が落とされた後、本来の目的.........「絶大な破壊力を持つ新型爆弾」の意図の他に問題となった「被爆」問題から、日本では「核アレルギー」というものが芽生えた、と個人的には思っています(確かに、「使ってはいけない」ものである)。
さて、この「核アレルギー」と言ったものは現在にも残っており、日本人のかなりの人たちは「核? ダメ!!」と言った反応を(多かれ少なかれ)示す傾向があります。
しかし...........彼らがどれだけそういったものを知っているか? それは個人的意見になりますが、「全く知らない」と言えるかと思います(もちろん知っている人は知っている)。 そう、「良くは知らないけど怖い」という傾向なのです。
それでは「何が問題になり、何が問題にならないのか」という点。それについて触れてみたいと思います。 が、一回では出来ませんので今回はその基本のお話にしてみたいと思います。
さて、それでは上記の質問の答えを書いてみましょうか。
- 「放射能」:これは簡単に「放射線を放出する能力(性質)」の事です。堅い表現で書けば「物質から自発的に放射線が放出される現象」になります。ちなみに、自然に存在する物質の放射能を「天然放射能」、人工的に(前回の様な方法で)作り出した物質の放射能を「人工放射能」と言います。
- 「放射線」:具体的に例を挙げたほうが早いですね。α、β、γ、X、n、太陽光線............等です。 堅い言い方をすると、「放射性崩壊によって放出される粒子の作るビーム」になります。 ま、具体例の方が分かりやすいです。
さて、以上のようになります。皆さん、正解出来ましたでしょうか?
もっとも、「放射能」に関して最近は「放射能」=「放射性物質(放射能を持つ物質)」という感覚で使われていますが...........これ、厳密には間違いなんですけどね。 しかし、これが長期にわたって使われるようになれば、そういった意味で確立されるとは思いますが.......... 一応、頭に入れておいてください。
ちなみに、これを踏まえたうえでいろいろな出版・印刷物を見ると..........間違った使い方しているケースがちょくちょく見られます(笑)
一通り上記の事を踏まえたうえで、ここで考えてみましょう。
核兵器や原子力発電などで問題とされるのは何でしょうか? それは..........「放射性物質の放射能」が問題ではなく、「放射性物質の放射能によって出る放射線」が問題となるのです。
いわゆる「国語の問題」になるのですが、わかるでしょうか?
では、次に「放射線」について注目してみましょう。
放射線は上記に書いたように結構な種類があります。では、ここでもう一つ質問してみましょうか。
Q:放射線の正体と性質はなんですか
「正体」は........おそらく御存知ないと思います。 しかし、「性質」については色々と聞いたことがあると思います。例えば「色々と通過してしまうが鉛があれば阻止できる」とか...........本当でしょうか? 実はこれに関しては誤解が多いです。
それでは正体について説明してみましょう。
- α線
正体はヘリウム(原子番号2 18族(0族) 原子量4)の原子核になります。α壊変(α線を出して放射性物質が「崩壊」すること)をすると、その原子は原子番号が2、質量数が4減少します(ヘリウムの原子核分だけ減るから)。 例:ラジウム(Ra 原子番号88 原子量226)がα壊変すると、α線を出してラドン(Rn 原子番号86 原子量222)になる。
- β線
正体は「電子」になります。β壊変には3種類存在し、「β-、β+、EC」の三つの形式が存在します。
・「β-壊変」:電子と「電子ニュートリノ」という物が放出され、その物質は原子番号が1増加します(質量数は変化しない)。 例:リン(P 原子番号15 原子量32)がβ-壊変すると、イオウ(S 原子番号16 原子量32)になる。
・「β+壊変」:陽電子(「+」に荷電した電子)と「ニュートリノ」という物が放出され、その物質は原子番号が1減少します(質量に変化なし)。 例:炭素(C 原子番号6 原子量11)がβ+壊変すると、ホウ素(B 原子番号5 原子量11)になる。
※ちょっと難しい解説(わからなければ無視してください)
中性子は普段は「n」という記号で表記するのですが、実はこれの正体は(非常に簡単、かつ乱暴に言えば)「陽子と電子が一緒になったもの」で、厳密に書くと(電荷の問題から)n±となります。中性子が過剰な状態でβ-壊変すると、電子が抜けて「n±」が「n+」となり、これがやがて陽子に変化します。これによって原子番号が1増加します。
逆に陽子が過剰の状態でβ+壊変すると、過剰な陽子が中性子に変化し、これによって原子番号が1減少します。
・「EC」:「電子捕獲」の意味で、陽子が過剰の状態の原子核が、原子核に近い電子のK殻(この間その15でやった、電子の「層」です)から電子を引きずり込み(!)、捕獲します。これによって、過剰な陽子と電子がくっつくと中性子に変化します。よって、(陽子が1個減ることから)原子番号が1減少します。つまり、外見的には「β+壊変」に近くなります。
例:亜鉛(Zn 原子番号30 原子量62)はECとβ+壊変によって銅(Cu 原子番号29 原子量62)に変化します。が、その比率はECが9割、β+壊変が1割になります。
(難しい追加:尚、K軌道から電子が捕獲されることによって空席になったK軌道からは、位置エネルギーの分が「特性X線」として放出されます。)
- γ線
正体は電磁波。 γ壊変による質量、原子番号の変化はなし。 原子核的に放出されるものを「γ線」、(前述のような)軌道から放出される物を「X線」と呼びます。 そう、実は基本的に両者は「一緒」なのです。
以上がその「正体」となります。
では、その「性質」はどうでしょうか? 本当に「鉛でないと」止められないのでしょうか?
- α線
進行方向は直進です。電子の無い核という物は「非常に」不安定な物で、一言で言えば「凶暴」です。一番エネルギーがあり、物質に当たると電離やその物質のエネルギー状態を上げます。が、非常に不安定なために飛距離は短いです。どのくらいか? 空気中で25〜75ミリメートル。水中で0.03〜0.09ミリメートル(いずれも4〜8MeVのα線:「eV」はエネルギーの単位。「M」はメガで106)です。
つまり、10メートル先にα崩壊するような物質があっても、被爆する可能性はありません。また、α線は紙1枚でストップできます。
- β線
β-、β+は進行方向を変えながら電離などをしていきます。飛距離は3H(トリチウム 18.6keV:「k」=キロ 103)で4mm、14C(放射性炭素 156keV)で22cm、32P(放射性リン 1.71MeV)で6mです。
元素によって異なりますが(エネルギーが異なるため)、エネルギーがそんなに高くないため、長時間さらされるのでなければそんなに問題になりません。また、β線はプラスチックやアルミニウムでストップできます。
尚、β-ではその正体が「−に荷電した電子」の為、原子核のそばを通ると減速し、進行方向が変わります(原子核の周辺は、「−」の電子が取り巻いている.........つまり、「−」同士は反発するから)。このとき、「制動X線」というものが出てきます。
また、β+は電子とぶつかる事によって「陽電子消滅(消滅放射線)」という現象が起きます。これは、0.51MeV光子(そう、「フォトン」という奴です)が2個出来、それぞれ180度の方向に進行していきます。
- γ線
原子番号が高いものに出来ます。透過力が抜群で、いわゆる一般に言われるような「イメージ」に近いものです。核兵器などの使用によって出てきて問題になるのがこのガンマ線です。鉛や鉄でストップできます(量によっては分厚くする必要がある)。また、分厚いコンクリートでも止めることが出来ます(チェルノブイリが良い例でしょう。もっとも、それでも漏れるようですが)。
以上が性質になります。どうでしょうか? かなりイメージと違うかと思います。
いわゆる「実験」で使われるようなものは、大体がβ線が出てくるようなものとなります。よって、プラスチックの板越しに実験をするようです。鉛?使いません。普通は........... ただし、使用元素の「性質」によってこれがまた問題になるのですが............それはまた別の機会に。
以上、長くなりましたので、次で最後にしましょう。
元素には同位体を含め色々とあることは何回も話に出てきますが、同じ元素でも放射性のものとそうでないものがあります。 放射性で無い同位体元素については「SI」(Stable Isotope:安定同位体........Isotopeは「アイソトープ」と呼び、「同位体」の意味)と呼び、放射性の同位元素については「RI」(Radio Isotope:放射性同位体........radioは「放射性」の意味)と読んでいます。 以下に例を挙げておきましょう。
・例:水素
1H:いわゆる「水素」。SI
2H:いわゆる「重水素」、ジュウテリウム(D)。SI
3H:いわゆる「三重水素」、トリチウム(T)。RI 水素爆弾に使用。
以上、ほとんど物理学ですが、「どんなものか」がわかって頂けた...........とおもいます。
あぁ........こうしてみると、物理学..........SFテイストもありますか(苦笑)
さて、今回の「からこら」は如何だったでしょうか? 前回元素について話したときに、放射性のものの話などを思いついたのでやってみましたが...........すみません、物理学です(^^;;
文章に書いてありますが、日本という国は「核アレルギー」です。極端な話、「アイソトープ」と聞いただけで「核物質」と連想する人がいました。そして、実際にはその正体もよくわからずに恐れているのも事実です。しかし、(今回は触れませんでしたが)いろいろな所で放射性物質が使われており、そしてそれが現代の生活を支えていることは知られていません。 基本的に、科学でこういったものに出会い、習う機会の無い限り、そういったものに対する理解は得られないでしょう(これは確信があります)。
まぁ、今回はそれらを理解するための「基礎知識」について触れてみたのですが.............物理学ですねぇ.......(大汗) 多分、このシリーズが進めばもう少し具体性があるので分かりやすくなるかと思うのですが............ 御感想、質問、苦情、お待ちしています。
#しかし、ほとんど知らない方には意外なものだったと思うのですが...........
さて、来週は..........いわゆる「黄金週間」って奴ですか。 何やりましょう...........軽い奴でもやりましょうかねぇ............
それでは皆さん、体には気をつけてお過ごしくださいませ。
(1999/04/27記述)
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