からむこらむ
〜その21:夢の蛇-亀の甲〜
まず最初に......
こんにちは。ちょっくらばっかり疲れている管理人です。 皆様は如何お過ごしでしょうか? またもや季節変動..........きっとまたへばるでしょう(--;;
さて、今回もキャンペーン続きの「基本話」。 とは言ってもちょっと雑学テイストでしょうか。
今回は、化学史上でもっとも有名なエピソードの一つを交え、非常に重要な物質のお話(ここが基本編)をしようかと思っています。が、同時に化学者のお絵描きについても触れようかと思っています。
さて、無事にまとめることが出来るでしょうか?(←文章を考えながら打ち込むため(爆))
それでは、「夢の蛇-亀の甲」の始まり始まり..........
まず最初にパズルゲームをしてみましょうか。 皆さん、時間があれば紙と鉛筆を用意してみてください。 別にボールペンでも良いですし、大きくない紙でOKです。
今まで、「炭素の手が4本、水素は1ポン」「単結合、二重結合、三重結合」といった様な事をやって来ました.............
ハイ、用意はよろしいでしょうか? では、以上の「ルール」を踏まえた上で皆さんに「パズル」の問題です。
「C6H6=炭素6個と水素6個で成り立つ化合物を思いつくかぎり書いてみてください。」
答えを知っている人? その方は自分の知っている物以外でこれが出来るかどうかチャレンジしてみましょう。やった事のある人はあんまり多くはないでしょうから.............
ニュートンが万有引力を発見した時、彼は林檎の木の下で物思いにふけっていたと言われているのは有名な話です。 そして、彼の周期表を完成させた人物、メンデレーエフは周期表についてこう言ったと伝えられています........「夢に見たことを紙に書いただけだ」.......... そう、科学の発見とは実はこう言ったものも結構あったりします(もちろん、それが本当なのかどうかは、今となっては誰にも分からないですが..........)
さて、ここにも一人。後世にその名を伝えられるほどの偉業をなした人物のお話をしてみましょう。 その名を「August Kekule(本当は、末尾の「e」の上にダッシュが入ります)」、「オーガスト・ケクレ」。 彼もまた、「あるもの」に関する発見をした事で知られています。
時代は1800年代半ば。 化学という物が錬金術に変わって本格的な台頭をし、さまざまな物質の組成や構造に関して色々と研究が進んでいたころ、当時のヨーロッパでは「あるもの」が問題になっていました。 その「あるもの」.......それは「ベンゼン」と呼ばれる化合物でした。 これは炭素が6個、水素が6個で成り立つ事はすでに分かっていましたが、どうしてもその構造に関してが分からない。 当然、この構造を解明することに当時の化学者達は執念を燃やしたのでした。
しかし、当時の知識では........周期表は埋まっていませんし、基本的な法則ができ上がった程度。 やれアルカンだアルケンだアルキンだと言った程度の構造知識です。 その知識でこの物質の構造解明に挑んだのでしたが...........どうやっても出来ない。 しかし、必ず答えはあるはずだと、さまざまな化学者が挑んだのでした。 当時ボン(旧西ドイツ首都)大学で教鞭をとっていたケクレもその中の一人でした。 彼は1858年に「炭素原子は互いに結合して鎖を形成しうる」事を提唱していた人物でした。
さて、この「あるもの」の原子配置にひたすら悩んでいたケクレ。昼夜問わず研究に没頭していましたが、やっぱり分からない..........と非常に頭を痛めていました。 しかし、ある日のこと。 彼は(依頼を受けたのでしょう)教科書を書いていました..........が、仕事はさっぱり進行せず、完全に心が明後日の方向に飛んでいました。 で、「あぁ、仕事が進まん」とでも思ったのかも知れません。疲れてもいたのでしょう。 イスを暖炉に向けてうたた寝をはじめてしまいました.............と、夢の中、彼の目の前を原子が飛び交っていました(流石は化学者である)。 その原子はさまざまな構造を取ってぐるぐると周り、列になり、接近したり離れたり.......... と、全ての列が蛇の様に曲がったり、あるものはねじれたりと動いていました。 その「蛇」を見ていると........一匹が自分の「しっぽ」をとらえ、そしてその形が彼の目の前でからかうかの如くぐるぐると.................. と、ここで彼は目を覚ましました。 このインスピレーション(?)を得た彼は、この重要な仮説を完成させるためその夜の残りを全て費やしました..........
と、こうして1865年。ついに彼は「ベンゼン」の構造に関する「問題」の解答として、「炭素鎖は環を形成しうる」という物を提出しました。
さて、この問題の「ベンゼン」の構造は次のようになります。
一応以下のような構造をC6H6化合物は取りうることが出来ましたが、さまざまな検証からケクレのベンゼンが正しいとされています(詳細は今回は省略)。 皆さんの考えたものは如何だったでしょうか?
(尚、上記で「I」を特に「Dewarの構造式」と呼びます。)
さて、このベンゼン。 こんな書き方では非常に面倒なので、化学屋は概して次のように構造を描いています。
このような構造を「亀の甲」として見たことがある人も多いかと思います。 そう、実はこれは炭素と水素の記号を省略して描いているのです。 基本的左と真ん中の式は一緒(上下反転すれば一緒)です。 また、そういったことから一番右のように描くこともあります(本当はちょっと違うのですが、難しいので今回は省略)。 ここでは左か真ん中を基準に書くこととします。
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ここで、
構造式の「お絵描き講座」
上のベンゼンを見れば分かると思いますが、炭化水素化合物をベースとする有機化学において、化学構造式はメタン、エタンならまだしも、炭素が10個20個あったりするといちいち「CだHだ」書くのが非常にかったるいものです。 よって、このかったるさから解放されるため、炭素と水素を省略した(他の元素や官能基はのぞく)化学構造式の描画を良くします。
例を挙げてみましょうか。
皆さんはビタミンAという化合物を聞いたことがあると思います。しかし、構造は知らないでしょう。 ビタミンAは非常に面倒な構造で、炭素がじつに20個から成り立つ炭化水素化合物であると共に、アルデヒド、またはアルコール、およびカルボン酸の官能基がその末端についています。
この化合物は末端がアルデヒド、またはアルコール、カルボン酸になることが知られています(それぞれ生理活性は異なります)。
さて、こんな化合物を皆さんは「描け」と言われて簡単に描くことが出来るでしょうか? 非常に面倒であると思います。 ではどうやって描くか?.......... という事で、こういうシーンでは次のように炭素と水素を省略して描くようにしています。
このように、炭素と水素は省略して描いてしまうことが可能です。 こちらの方が楽でしょう? 官能基はまた人それぞれになるかも知れませんが、基本的に上記のように描くことが出来ます。
それではもう少し例を挙げておきましょう。 そんなに難しくは無いと思います。
そう、実は漫画やらテレビやらで出てくる構造式で「蛇のようにくねくねとした直線群」は実はこういうことだったりします。 こう言うのを参考にすれば、おのずと構造式が分かるとともに、またお笑いのネタを作ることも可能です(某週間少年誌の医者を題材にした漫画(すでに終了)の最後の辺りで出てきた構造式のいい加減さ等も良く分かります(笑))。
以上、簡単ながら
「お絵描き講座」終了
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さて、話を戻しまして..........
このベンゼンですが、さまざまな物質の「母体」となることが良く知られています。 例えば、「路地裏一本1万円」で御馴染み(?)「トルエン」や、殺菌・消毒剤として用いられる「クレゾール」「フェノール」、消炎剤やアスピリンの元になる「サリチル酸」、爆薬である「TNT」や「ピクリン酸」など、さまざまな物質の母体にこの化合物が使われています(ちょうど、エタンとエタノールの関係を言ったところでしょうか)。
さて、本来ならここで構造他を上げたいところですが、かなり長くなりました。 次回に持ち越しましょう。
今回は以上で.............
さて.........段々構造が増えていっています(^^;;
さて、今回の「からこら」は如何だったでしょうか?
今回は化学の世界におけるもっとも有名なエピソードの一つ、「ベンゼン」の発見についてとお絵描き講座をしました。 今までに比較すれば「雑学色」が強いので面白いかと思われますが.........如何でしょう?
もし感想、質問があればゲストブック、またはメールでお知らせください。フォローさせていただきます。
いやぁ、しかし構造式が増えてきました。 マニアックにやると更に描きたいのですが、まだその段階では無いのでちょっと控えています(爆) しかし、今回の構造のお話で少しは「発見できる」ものがあったと思うのですが.......どうでしょうか? ありましたら嬉しいかぎりなのですが............ ただ、ちょっとパニックに落ちやすいかも知れません。その場合はお知らせくださいませ。
さて、次回は.........この続きをしてみたいと思います。 聞いたことのある物質の構造が出てくることになるでしょう。
それでは今回はこれまで。 気候変動期に入ってきました。皆様、身体にはお気を付けて..............
(1999/05/25記述)
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