からむこらむ
〜その20:性格のパーツ〜
まず最初に......
こんにちは。現在システムダウンに近い状態の管理人です。皆様はお元気でしょうか。 5月病は大丈夫ですよね?
さて、今回もキャンペーン続きの「基本話」。
前回までの「有機化合物の骨格」から、今度はもう一歩進んだ話。 それがまた物質の性格付けに必要なものなのですが.............
なんというか、やっぱり高校の復習なんですけど、まぁ、あまり難しく考えないで「こんなものだ」という事でよろしいかとは思います。気楽に聞いてくださいませ。
それでは、「性格のパーツ」の始まり始まり..........
さて、前回までの2回分は有機化合物の「骨格」のお話をしてみました。炭素の4本の手に始まり、その結合についてのお話...........そう、アルカン、アルケン、アルキンという物について簡単に(難しかったかも?)お話をしました。
では、有機化合物と言うのは、上記のような炭素と水素で成り立つ「炭化水素化合物」だけなのでしょうか? つまり、世の中の物質は「メタン」や「プロパン」と言ったもので成り立つのでしょうか?
いいえ、もちろん違います。 人の身体には炭素と水素の他に、たくさんの酸素やイオウ、窒素やその他金属(コバルトなど)等で成り立っています。これだけで二つの元素だけと言うのは否定されます。 そして、更に言うなれば世の中には「アルコール」と言うものや「アミン」、「酸」、「エーテル」というもの等、さまざまな「性格」を持つ物質があるではないですか。
では、そういった種類を作っていく「性格」を決めるものとは何でしょうか? それが今回触れる「官能基」という物が非常に重要な物となっていきます。
さて、それでは官能基はどんな物が有るのでしょうか? まずそれを知る前に、「基」という物を触れてみましょう。
有機化合物という物は通常、炭化水素化合物(つまり、アルカン、アルケン、アルキン)を元にした「基」という「パーツ」と官能基の「パーツ」の組み合わせで出来ています。よって、その「基」という物に触れる必要が有るわけです。
さて、「基」の元になる炭化水素化合物は今までで触れておきました。 では、まずメタンを例に取ってみましょう。構造を覚えているでしょうか?
そう、上の図がメタンです。では、このメタンから水素を一個抜いてみましょう。そうすると、以下の図のようになるはずです。
この図の様な、炭化水素化合物から水素を一個抜いてできた物を「基」と呼びます。 上の図の場合、図にあるようにメタンから誘導した「基」を「メチル基」と呼びます。 そして、その「基」から出ている「手」が官能基と結合することによってまた、さまざまな化合物が出来てきます。
下に更に3点ほど例を上げておきます。
上には元となる炭化水素化合物を、下にはそこから水素を抜いて「基」となったものを示しています(プロパンやブタンは色々とあるのですが、今回は難しい物は省略します)。
尚、炭化水素化合物から水素を抜いて出来た「基」で「アルカン」から出来た「基」を特に「アルキル基」と読んでいます。 もちろんアルキル基以外にも「基」はあります。例を挙げておきましょうか
左側は「ビニル基」と呼ばれるもので、一般に呼ばれるビニールの構造の元になります。 右側はフェニル基という物で、これはその内良く見ることになるかと思います。が、フェニル基の様な「亀の甲」化合物は次ぐらいに触れますので「こんなものか」程度でよろしいかと思います。
取りあえず、「基」という物がわかっていただけたでしょうか? これで取りあえず「基」の説明を終わります。
さて、以上の「基」を踏まえたうえで、もう一つの「パーツ」である「官能基」に触れてみることにしましょう。
この「官能基」は上記の「基」との組み合わせでその「性格」を位置づけるという意味で非常に重要で、その官能基の種類が変わるだけで文字通り「がらり」と特性が変貌するという、ある意味面白いものとなっています。
まず、官能基にはどう言ったものがあるか上げておきましょう。
だいたい上記の様な物が官能基の代表的な物となります。 一番上がその式、中段が構造、そして下段が電子の状態です。 そして、各官能基の余っている「手」と上の「基」(アルキル基など)が「手をつなぐ(=結合する)」事でさまざまな化合物が出来ます。
簡単に解説してみましょうか(一部に挙げた例は、下に構造を示してあります)。
- ヒドロキシル基(水酸基とも)
この官能基を持つものは非常にたくさんあります。これを構造の中に持つものもの代表としては「アルコール」があります。更に「糖類」はこのヒドロキシル基を複数持ちます。この基があると、水に溶けやすい化合物になります(生体ではこの基と水への溶けやすさが重要になる)。 命名すると、名前の最後が「-ol(オール)」という名前に変わります(例:エタンから誘導すると「エタノール(ethanol)」
- アルデヒド基
一部のアルコール(第一級アルコール)を「酸化反応」させると出来ます。 非常に代表的なものはエタノール(酒)が体内で参加されて悪酔いの元「アセトアルデヒド」になる事でしょうか。更にホルマリンもこのアルデヒドの仲間になります。 命名すると、「〜アルデヒド」または名前の末尾に「-al(アール)」がつきます。
- カルボニル基(ケトン基)
一部のアルコール(第二級アルコール)を「酸化反応」させることで出来ます。 この構造を持つものを「ケトン」と呼ぶことから「ケトン基」とも呼びます。 有機溶媒などにある「アセトン」が代表的でしょうか。 命名すると末尾が「-one(オン)」と変わります。
- カルボキシル基
いわゆる「有機酸」と呼ばれるものはこの官能基を持ちます。 代表例は「酢酸」、そう「お酢」です。その他「脂肪酸」など、生体でも非常に重要な役割を持つものが多いです。 命名すると、英語では「-oic acid」になりますが、日本語ではあっさり「〜酸」と名付けています。
- シアノ基
これを構造に持つものを 「ニトリル」または「シアン化化合物」と呼びます。分かりやすく言えば、いわゆる毒物の一つ「青酸化合物」を担うものです。弱い酸性です。 ただし、全部が全部毒ではなく、その状態等で全て左右されます。 例えば、生体にもこのシアノ基を持つ物があり、有名なものとしてビタミンB12(シアノコバラミン)があります。 合成や工業で良く使われます。 命名では、「接頭語」となる場合は「シアノ-」、「接尾語」として使うときには「-ニトリル」となります。
- ニトロ基
皆さんは「ニトロ」と聞くと「爆弾」へと思考が直行される方が多いかと思いますが、それの元になります。有名な「ニトログリセリン」や「TNT」は確かにこのニトロ基を持ちます。が、だいたい構造中に3個ぐらい無いと爆発はしません。 命名すると、だいたいは接頭語で「nitro-(ニトロ〜)」となります。
- アミノ基
タンパク質の元となる「アミノ酸」に代表される官能基です。 この基はアンモニア(NH3)から水素を一個取った構造です。 生体内で非常に重要な役割を持つ化合物が多いですが、ナイロンなど繊維、樹脂にもこのアミノ基が関わるケースが多いです。 その内よく見ることになるかも知れません。 命名すると接頭語では「amino-(アミノ〜)」、接尾語では「-amine(〜アミン)」となります。
- エーテル基
一瞬訳がわからないかと思いますが、この酸素の両わきをアルキル基などの基がつく(同じものである必要はない)とエーテルという化合物になります。 有名なのは「エチルエーテル」で、これを一般に「エーテル」と呼んでいるかと思います(「アルコール=エタノール」というのと同じでしょう)。 昔麻酔として使用されましたが、現在人間には発ガン性の恐れのため麻酔としての使用が禁止されています(動物では使います)。 良く燃えるので、火事になりやすいです(^^;; 命名すると、接尾語で「〜エーテル」と呼びます。
(命名にでてくる「接尾語」「接頭語」は(優先順位に基づく)ルールが存在しますが、これが非常に面倒くさく難しいので、説明は省略します。)
(ビタミンB12は非常に構造が複雑なので書きません)
だいたい以上になりますか。
実は世の中にある有機化合物はこのように、アルキル基などの「基」と「官能基」で成り立つ例が多く、これがまた非常に多種多彩な「性格」を与え、そしてそれがまた複雑に関与することによって、「自然」というものを成り立たせ、また現在の文明を成り立たせています。
どれぐらい関与するか? そう、この官能基一つで.........例えば「薬物」があった場合、大きく作用が異なってくることもあります(正反対の性格になったりとか)。
まぁ、これらはその内また色々と触れていくことになるでしょう。
さて、長くなりました。今回は以上で終りにしましょう。
1999/05/19 補足
一つ説明をし忘れていました。
上記ニトロ基のところで以下のような表現になっていたと思います。
この構造の矢印なんですが、説明を忘れていました。
この矢印は少し特殊な結合で、「配位結合」と呼びます。 (こちらで話した通り)窒素の原子価は5です。そして、二つが「非共有電子」として対に、残りの三つの不対電子が存在しています。この三本が通常結合に寄与するのですが(つまり、三本の「手」が存在するということ)、この配位結合は非共有電子として存在する一対の電子を「一方的」に相手の原子に渡すことで結合を作ってしまいます。
よって、その電子の配置図は以下のようになります(最初からこうすれば良かったのかも知れませんが(^^;;)
上に青い電子対を入れましたが、これが配位結合の「矢印」となります。
この電子の配置に関してなのですが、その15で触れたように、「「なるべく8個」になるよう(=最外殻電子が満たされるように)なっている」のです。これは8個になることで安定するという法則があるためで、これを「オクテット説」(オクト=8)と呼んでいます。ただし、水素は例外ですが............(電子の数から)
さて、気付かれた方がいるかわかりませんが、官能基もこれにしたがっています。各官能基には一つだけ不対電子がありますが、その分は「基」の不対電子によって提供され結合、安定します(つまり、このオクテット説に反するような官能基は出来にくいものとなる)。 逆に考えれば、「最外殻電子を8個にするために結合する」という考えかたも出来ます。
さて.........徐々に面白くなって来るのかな?
さて、今回の「からこら」は如何だったでしょうか?
今回は、有機化学において化合物に「性格」を与える「官能基」という物について簡単に触れてみました。 炭化水素化合物が人で言う「骨格」ならば、この「官能基」は「肉付け」に位置するものとなります。
この官能基がどれだけ関与していくか? まだピンと来ないかも知れませんが、上に書いた通り、その内皆さんのお目にかかることとなります。 と言うよりも、絶対に「避けて通れない」ものです。 これがわかってくると..........面白いものとなります。
御意見、御感想をお待ちしています。m(__)m
さて、次回ですが、「環」、または今回出来なかった「お絵書き」についてやってみようかと考えています。
それでは今回はこれまで。 皆様、身体にはお気を付けて..............
(1999/05/18記述 5/19補足)
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