パイプの火が消えた。私はマッチをすって、火をつけながら、彼女の顔を見つめた。
「パイプ煙草をすうのは悪い習慣ですわよ」
「そうかもしれない。しかし、二十ドルでは、やめるわけにはいかないんでね。それに僕の質問をそらしてはいかん」
「ずいぶん失礼なことをおっしゃるのね。パイプ煙草は確かに悪い習慣ですわよ。お母さんはお父さんにものませなかったわ。お父さんが発作を起こしたからよ。それにうちには借金があったので、煙草なんかにお金を出すことはできなかったのよ。煙草を買うお金があれば、教会へ寄付した方がいいって、お母さんがいつでもいっていたわ」
(『かわいい女』/レイモンド・チャンドラー著 清水俊二訳/創元推理文庫)
(2006/12/24公開)