からむこらむ
〜その31:核の増殖とリサイクルと廃棄物〜
まず最初に......
こんにちは。一体いつまで真夏日が続くのか不安なのと、「7の月」を信じて本まで書いちゃった方々の去就が何となく心配な管理人です。
皆様、夏バテは大丈夫でしょうか? 管理人はあきらめました..........(~_~
さて、前回までは原爆と原発について簡単に説明しました。気付いたら思ったよりもタイムリーネタでちょっと焦りましたけど(^^;; で、今回はもっと別の........そう、もっともニュースになり、そして問題となっている部分についてのお話。
皆さんの核問題に関する関心と知識を持っていただければ嬉しいのですが.............
それでは「核の増殖とリサイクルと廃棄物」の始まり始まり...........
現在の原子力エネルギーで使用される燃料は、ウラン235(235U)であると言うことは、前回、前々回を通じてお話しました。 では........その天然において、ウラン235という物が全ウラン量の内のどれだけあるかといえば.............そう、約0.7%程度しか存在しないんです。 つまり、「核燃料」として使えるウランの量は実はそうそう大したものでは無く、その消費し尽くされる予想年数は、化石エネルギー........特に石油の推定埋蔵量の消費予想年数と実は大して変わらないといわれています。
しかし.........前々回に次の核反応式を上げたのを覚えていらっしゃるでしょうか?
238U + 1n → (239U) → 239Np + β
239Np → 239Pu +β
ウラン238に中性子を当てて、ウラン239を作ります。が、これは不安定なためβ壊変をして、超ウラン元素の一つである「ネプツニウム」に変わってしまいます。 しかし、このネプツニウムもまた不安定なため、β壊変をして(前回も取り上げた)プルトニウム239(核分裂性の元素)が出来ます。
さて、前回の話をここで思い出して下さい。
まず、ウラン238は核分裂を起こすタイプの元素ではありません。つまり、燃料としては「役立たず」になります。 そして、原発の燃料棒の中には必ずこのウラン238が含まれています。
そして........重要なことですが、この反応における中性子は速中性子(つまり、核分裂時に生じる速度の速い中性子)で行うことが可能です。
...........これが何を意味するか?
原発というのは、核分裂の際に生じる高いエネルギーを利用して発電を行います。つまり、核分裂を行う物質でないとこれは出来ないわけです。通常使われるのはウラン235ですが............しかし、他の核分裂性物質でも当然可能になります。
ウラン238は通常核分裂は起こしにくい訳ですが、上記反応を利用すれば.............プルトニウムに、しかも核分裂性のものに変換するわけです。しかも、中性子は核分裂中に発生します。
では、この理論を利用して、原発でウラン235を燃やしながらその消費量以上のウラン238をプルトニウム239に変換出来たら........... つまり、核分裂物質(=燃料)を「増やす」ことが出来るのではないでしょうか? しかも、そうすれば燃料の問題をある程度は解決出来るかも知れません................(理論的に言えば、99%を占めるウラン238をプルトニウムに変換できるわけですし)
この理論を応用して、燃やすウラン235以上の核分裂性元素を作り出す為に作られたのが、いわゆる「増殖炉」ってヤツになります
さて、この増殖炉、一般的には速中性子を反応に用いて(上記理由のため)行われることが多く、速中性子(高速な中性子)を用いる増殖炉という事で、「高速増殖炉」と呼ばれるタイプのものが良く知られています。
#この目的の為に「高速炉」と呼ばれる、中性子を減速させないタイプの原子炉を開発します。
この点に目を付けた先進各国はこの高速増殖炉を計画するのですが............このアメリカは、核拡散問題の点から開発を放棄(その前に、核兵器の削減の問題から、プルトニウムが過剰にあるという部分がこの国の場合は大きいですけど)、次にフランスが積極的に開発して「フェニックス」「スーパーフェニックス」と呼ばれる高速増殖炉を建設、稼働させましたが、技術的、経済的、政治的な問題から中止。そして、最終的に日本が「もんじゅ」を開発させるも御存じ事故を起こしたために中止となりました。
この増殖炉が失敗した理由は、ひとえには非常に高い技術力を必要とするところにあった様です。例えば、燃料の条件、そして一次冷却材として使用されるナトリウムが化学的に非常に活性が高いく(空気中の水蒸気と反応して発火したりと、反応性が高いのです)取り扱いが難しいという問題など、技術的な問題がかなり大きいことにあったようです。
さて、ここで燃料棒の話をしてみましょう。
ここまで来るとわかると思いますが、核燃料を燃やすと多かれ少なかれプルトニウムが出来てきます。 ここで、前回の話を思い出していただきたいのですが.............燃料棒は、完全に反応を済ませる前に引き抜いてしまうと書きました。 この燃料棒はどうなるのか御存じでしょうか?
この燃料棒の中にはまだ未反応のウラン235の他に核分裂性のプルトニウム239が入っています。では、これはどうなるのか...........? これは流石にもったいないので、「再処理工場」と呼ばれる施設に運ばれていき、回収されたウランは再び「燃料加工工場」で燃料にリサイクルされて、再度原発で使用されることとなります。
では、プルトニウムはどうなるのか? これは放っておくと盗難などを受けて途上国の核兵器開発という、いわゆる核拡散問題にもなってしまいますので、当然管理になります。 しかし、この物質は核分裂物質...........燃料としても使うことが可能となります。 本来はこれは高速増殖炉の燃料として使用しようという考えがありましたが、上記のように高速増殖炉は挫折。 また、通称「新型転換炉」と呼ばれる...........日本では「ふげん」と呼ばれる原子炉の燃料として使用される予定でしたが、コストが軽水炉の3倍という事で、結局尻すぼみ(「ふげん」は動燃改革の為に、5年稼働して廃炉の予定)。そしてプルトニウム過剰の状態に陥ってしまいます............. しかし、これをどうにか解決する方法を見つけました。
それが「プルサーマル」と呼ばれる計画になります。
では「プルサーマル」って何でしょうか? これは「plutonium thermal use」と呼ばれる英語が元で、単純に言えば「プルトニウムを現在の軽水炉でウランの変わりに燃やそう」という物です。 もっとも、上記の事から推測できるように、通常の原発でウラン235を軽水炉で燃やしても、プルトニウム239が出来ており、更にそれも燃えているのが現状です(出力の3分の1はウラン238が原子炉内で転換したプルトニウム239が燃えたものといわれています)。 そういった意味ではすでにプルサーマルなのですが...........
まぁ、それは置いておきまして.............このプルサーマルの一環として、最初から使用する燃料をウラン235とプルトニウム239を混合させてみようという計画があります。 これが通称「MOX(「もっくす」)」と呼ばれる燃料を使う計画です。 この「MOX」とは、「mixed oxide fuel」:混合酸化物燃料という意味で、使用するウランとプルトニウムの混合酸化物を燃料として使います。 このMOXはすでに世界各国で実績があり(エネルギー資源が乏しい国では重要ですので)、フランス、スイス、ベルギードイツなどではすでに本格的に実施しています。
日本ではとりあえず80年代後半から90年代初頭にかけて敦賀と美浜原発でMOXの燃焼実験を行い、「燃料全体の3分の1までなら現行の原子炉での使用は問題ない」という結論を出しました。これを受けて日本でも今年(1999年)の秋ごろから本格使用を開始する計画になっています。
ちなみに、現在のところはMOXの使用による、「MOX特有の」事故というものは起きていないそうです。 また、この燃料は核兵器への転換が非常に難しいという「利点」も存在しています(輸送中の核テロなどの問題がなくなる訳で...........)。
#尚、新型転換炉の「ふげん」の廃炉の後には、100%MOX使用の新型軽水炉の建設が現在予定されています
#私見ですが、「ふげん」「もんじゅ」と言うのは、非常に「失礼な」名前だと思うんですけど............どうでしょう?(^^;;
そうそう。ここでちょっとそれますが...........前回、KEDOの話を「ちょっと」だけしたことを覚えていらっしゃるでしょうか?
KEDOとは、早い話「朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)に、日米韓が協力してエネルギー供給用の原発を建設する」事を目的としているのですが(費用は3カ国で負担)、この供与する予定の原発は「軽水炉」であることを話しました。 では、何故「重水炉」でなかったのでしょうか?
これは、一つは当然のことながら「費用」の問題があります。重水炉は確かに濃縮していないウランを燃料とすることが出来るのですが、重水はコストがかかるなどの難点があります。 そして、もう一つ挙げられることに、「重水炉は軽水炉に比べて、ウラン238からプルトニウム239への転換効率が良い」という点があります(消費するウランの量を上回る、「増殖」まではできませんが)。 これがどういうことになるかと言いますと..........そう、「こっそり燃料棒からプルトニウムだけ分離して」................何を作るかは容易に想像できるかと思います。 そう、作るのは核兵器(北朝鮮程度ならせいぜい原爆となりますが)となる可能性が限りなく高いという事になります。
後は想像出来るかと思いますが、政治的・軍事的圧力をかけるには核兵器という物は「たった1発」だけでも十分なものとなります。
#正直なところ、周辺国+αでは「あんなやっかいな国にそんなもの持たせてみろ!」という考えですけど。
#もっとも、北朝鮮側の対応と、3カ国の「しぶり」から、ちゃんと原発作るかは怪しいような気もしますが..............
さて、長くなりましたね。
色々と書きたいのですが、スペースと時間の問題があります。 最後に必ず出てくる.........放射性廃棄物の問題について簡単に触れておきたいと思います。
では、まず質問............
「高レベル放射性廃棄物」と、「低レベル放射性廃棄物」の違いは何ですか?
よく新聞・ニュースで聞くかと思いますけど............どうでしょう? 聞いてみて、これについて答えられる方はまず少ないのではないでしょうか?
原発の使用済み燃料からのリサイクルはかなり徹底していますが、その再処理中には必ず「廃棄物」が生じてきます。 その区別についてなんですけどね............ では解答。
- 高レベル放射性廃棄物(high level radioactive waste)
使用済み燃料そのもの、または再処理によってウランとプルトニウムを分離した残りの部分
- 低レベル放射性廃棄物(low level radioactive waste)
原子力関連施設で生じる多種多様な放射性廃棄物のうち、使用済み燃料、またはそれを再処理して生じた高レベル放射性廃棄物をのぞいた全てのゴミのこと
以上が答えになります。
高レベル放射性廃棄物ですが、内容はかなりの物で、原子炉で生成された放射性物質のほとんど全てを含むものです。 非常に有毒なものが多く、100万年単位での管理が必要と考えられています(これが問題になるわけで...........)。 生成してくるものが、早い話原爆による「死の灰」の成分などと同じと言えばピンとくるでしょうか?
どういった放射性元素が多いかといえば、(プルトニウムやウランといったもので微妙に違うのですが)表にすれば、(X軸を質量数、Y軸を量とした場合)質量数が80〜90のものと、130〜140ぐらいのものを頂点として「M」字型をしています。 特に危険なものとしてはストロンチウム90(90Sr)や、セシウム137(137Cs)、セシウム134、そしてヨウ素131(131I)といった物があります。 これらは簡単に言えば、ストロンチウムの場合は骨に容易に入り込み、しかも半減期(半分の量になるまでの時間:放射性元素は不安定で壊れていくので、時間が経てば「量」は減ります)が28.8年と長いです。 ヨウ素の場合は、甲状腺(のどの所)に容易に入り込み、甲状腺ガンを引き起こすことが知られています(しかも揮発性の為、非常に問題になる)。
ちなみに、チェルノブイリ原発事故ではこれらの物質が大気中にばらまかれ、このような物質が住民の体に入り込んだために、さまざまな障害を引き起こしました。
現在のところ、この高レベルの物は地下への埋蔵というアイデアが有力な物として出ていますが、100万年にも渡る管理といった問題など、各国とも有効な手段が出せず、非常に悩みの種となっているのが現状です。
低レベル放射性廃棄物ですが、これは高レベルの物よりも放射能は低いのですが、出る量が膨大となっています。 当初は各国で海洋投棄していたのですが、現在は禁止(ロンドン条約による)されています。 日本の原発ではだいたいドラム缶にして約60万本もの量が生み出されているとされ、各研究機関の物も含めれば100万本ともいわれています。さらに現在のところ原子炉の老朽化による廃炉(この廃炉の処理問題も深刻ですが)から生じる廃棄物もかなり問題になっています。
本来ならばこの低レベルの物は、各原子力発電所において保管されていたのですが、今に及んでスペースが足りず、青森県六ケ所村にその埋設施設(低レベル放射性廃棄物埋設施設)を建設し、処分することとなりましたが............1992年で約8万本がすでに埋設されており、最終的には300万本を埋設する予定となっています。 一応、約300年後には放射性物質としての管理をしなくてよいとされています............が..........やはり、限度というものはあるもので、将来的な部分は現状では欠けているといわざるおえない状況であったりします。
一応、現状では核廃棄物は、いくら核燃料のリサイクルを進めていても(そのための施設を日本で全て行おうとしているのですが、難航中)出てくるものなので、「封印」による「貯蔵」という手段しか存在しないのが現状であり、それが現在の所各国における最大の問題となっています(そう言った意味では、どこかの団体の「クリーンなエネルギー」という表現はJARO直行ものなのですが(^^;)。
ただし.........現在の皆さんの使用している「電力」...........というか、周辺は電力によって動いているものだらけなわけですが、この中のかなりの割合を原発が占めているわけであり、そういった部分が、また問題を複雑化させています。
ちなみに、「廃棄物問題の少ない」核融合といったものの研究も進んでいますが、現状ではまだ実用化(=制御)には遠いというのが現状で、この問題は更に続くと思われます。
#自然のエネルギーは、現代の「安定かつ、大量の電力供給」に向かないという現実は忘れずに!!
まぁ、将来の技術というものに期待する以外は方法が無いというのが、現在のエネルギー問題の実情と言ったところなのでしょうか..................
さて.......まとまったような、まとまっていないような.........(^^;;
さて、今回の「からこら」は如何だったでしょうか?
今回は、予告通り、増殖炉やリサイクル、そして廃棄物の問題について軽く触れてみたのですが、如何だったでしょうか? ニュース・新聞で見聞きする割には良くわからないものについて軽くやってみたのですが............. いや、本当にきりがないんですよ、この問題は深くやると...........
日本人は前に書いたように「核アレルギー」と言うものが強いと管理人は思っています。 そのせいかどうかは知りませんが、今となっては生活の為に重要な部分を担っているという事実があるのですが、「核」と聞いただけでその問題について何も知らないのに批判する人が多いという部分もまた、あります(現に、「核反対」という人物に突っ込んでみると、何も知らない事が多かったりします)。
非常に長短がはっきりしているという問題がこの核エネルギー問題なんですよね................
これを機に、賛成の方でも反対の方でも、改めてこの問題を考えて頂ければ嬉しいです。
さて、それでは今回はこれまでです。次回は生体関係のネタでもやってみようかとも考えています。
夏バテには気をつけてお過ごし下さいませ.............
あ、そうそう。御感想、お待ちしています...........m(__)m
(1999/08/03記述)
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