からむこらむ
〜その30:原発と原爆〜
まず最初に......
こんにちは。「梅雨明け十日」と言うように、梅雨明けから10日間は暑かったりするんですけど、皆様は如何お過ごしでしょうか?
ちなみに、私は溶けています。一応、液状化してはいませんが............たれぱんだ?(^^;;
#とっくに夏バテ.........(--;;
さて、前回までは「核エネルギーを人類が使うまで」の過程を速足で説明しました(じっくりやると、完全な核物理学.........(^^;;)。 そして今回は...........「核分裂エネルギー」を爆弾として利用された原爆と、発電として使われている原発について、やってみたいと思います。
世界でもっとも有名な式についても触れるでしょうね............(これから書きはじめ(^^;;)
それでは「原発と原爆」の始まり始まり...........
さて、いきなり質問ですが...........
「原子力(核エネルギー)」って何でしょう?
わかります? 簡単に言えば「原子核の反応(核分裂など)を利用する実用的なエネルギー」の事になります。 本来は「原子核エネルギー」という表記が正しいのですが、トルーマン大統領が「原子爆弾」って言葉を使ってからこの言葉が定着してしまいました。
では、その特徴は何でしょうか........?
広島型原爆Mk.1では、ウラン235(235U)を600グラムを核分裂連鎖反応をさせただけで高性能火薬15000トン分のエネルギーを発生しました。 そして、史上最大の水素爆弾(水爆)は一発で第二次世界大戦中に使われた全火薬量に匹敵するエネルギーを生み出しました............... 1グラムのウランを消費すれば、出力1000キロワットの原子炉を1日運転が出来ます。
そう、つまり........「わずかの物質を消費するだけで大量のエネルギーを得ることが可能」ということが最大の特徴となります。 それゆえさまざまな使われ方をするわけですが...............
前回お話した通り、核分裂の連鎖反応を進めた結果、人類は原発を得、そして原爆を得ました。 では、お聞きしましょう。
原子力発電と、原子爆弾の違いは何ですか?
まぁ、だいたいのイメージはあるかと思いますが.............
原発は「核分裂の際に生じる大きなエネルギーを、少しずつ連続的に取りだして発電に利用する」ものです。 原爆は、「核分裂の際に生じるエネルギーを一気に解放し、そのエネルギーを破壊に使用する」ものです。
では、これに共通するものはなんでしょう? そして、違ってくるものは何でしょう?
これが本日のお話となります。
まずおさらいのようなものですが.............
前回お話したように、ウラン235に中性子を当てると、核分裂を起こします。 このとき生じる中性子をまたウラン235に当てると..........これがまた、核分裂反応を起こしていきます...........つまり、「核分裂連鎖反応」を引き起こします。 これが続けば、膨大なエネルギーを得ることが出来ます。
ここで、ちょっと説明しておきましょう。
核分裂の際に生じるエネルギーってどうやって起こるのか御存じでしょうか? 御存じの方もいるかも知れませんが...........いや、聞いたことがあるけど、よくわからない人もいるかも知れません。
核分裂の際、ウランからさまざまな核分裂物質が生じてくる(前回お話した物の他にも色々とでます)わけですが.................「質量保存の法則」ってやつを考えると、「分裂前のウランと、分裂後の核分裂物質の質量の合計は等しくなる」はずです。 しかし............これがどうやっても等しくはならないのです。
何故か?
ここで、ある一つの「式」が出てきます。 この式は皆さん御存じと思われ、そしておそらくは(理解の有無は問わず)「世界でもっとも有名な式」であるかと思います。 その式は..........
E=mc2
これの事になります。「E」はエネルギーの事。 「m」は質量、「c」は光の速さ(定数)...............そう、アインシュタイン博士のお話で必ずと言っていいほど出てくるこの式。これが「反応前と反応後の質量のが等しくならない」原因を解決します。 これはつまり..........反応前の質量と、反応後の質量の差を上記式「m」に代入すれば、「E」.....つまり、エネルギーの値を求めることが出来ます。 このエネルギーが.........核分裂の際に生じる膨大なエネルギーになるわけです。
#つまり、「質量はエネルギーに変換した」事になります。 その逆もまた可能なわけですが...............
さて、それではまず、原発の話をしてみましょう。
まず、原発の構造って皆さん御存じでしょうか? いや...........それよりも、原発は「発電所」です。どうやって電力を得るのでしょうか? 御存じですか? 一応、これについて最初に触れておきますか。
一般に発電所と呼ばれる物にも色々とありますが...............だいたい電気を得る方法は共通したものがあります。それは..........「タービンを回して、発電機を動かす」という部分です。 では、「どうやってタービンを回すか?」。それをするために「火力」なり「水力」なり「地熱」なり「風力」なり「原子力」なりを使うわけです。 「水力」ならば水流でタービンを回しますし、「風力」ならば風の力で............といった感じです。
では「原子力」では? これは、生じる熱を使って水を水蒸気に変え、この水蒸気を使ってタービンを動かします。
それでは、原子炉にも色々とあるのですが............もっとも単純な「沸騰水型」原発の構造を簡単に解説してみましょう。
まず、中心部にいわゆる「原子炉」があります。その原子炉を冷却するのが「冷却材」.........一般的には「水」です。 この水が原子炉に触れると、当然原子炉の熱が高いわけですから沸騰し、水蒸気に変わります。そしてこの水蒸気がタービンを回し、発電機を動かします。 そしてこの水蒸気は一般には海水で冷却されて水に戻り(この必要から沿岸沿いに原発が建設される)、再度冷却材として原子炉へ行きます。
このシステムでは、熱効率が良いのですが、冷却水が放射能を持つことになり、管理や補修・修理が面倒となるのが欠点になっています。
さて、一般的に使われるタイプにはもう一つあり、原子力潜水艦の動力から発展したもので、「加圧水型」と呼ばれるタイプもあります。 これは、原子炉を冷却する冷却材である「一次冷却材(一般的には水を使うので「一次冷却水」と呼ばれます)」に圧力をかけて沸騰しないようにしておきます。もちろん沸騰しないだけでかなり熱いのですが.......... そして、これでもって「二次冷却材(水ならば「二次冷却水」)」を沸騰させ(こちらには圧力はかかっていませんので100度で沸騰します)、この蒸気を使ってタービンを回転させます。この水は沸騰水型と同様に海水で冷却させて再度使用させます。
最近の事故でよく聞く「一次冷却水漏れ」とか、「二次冷却水漏れ」というのは、この冷却材の機器の破損によって漏れ出すものです。
以上の二つのタイプが一般的に使用される原発のタイプとなります。
次に原子炉に注目してみましょう。
原子炉と言うのは、「核分裂を制御しながら行わせる装置」のことです。ここでは発電について述べますが、研究用に使われる(例えば、こちらで行われた放射化分析等)こともありますので、その点は注意して下さい(つまり、原子炉=発電という限定はしないで下さい)。
さて、原子炉のメインは「炉心」と呼ばれる場所です。 ここで核分裂反応が行われています。 そして、その炉心の周りには、炉心よりはるかに大きい「遮蔽体」と呼ばれるものがぐるりと囲んでいます。これは単純に外へ漏れ出す放射線を防ぐ(減少させる)為の物です。材料として一般的にコンクリートが使用されています(かなり分厚いようですが)。
炉心の周りには、核分裂反応によって漏れ出す中性子を反射し炉心の戻す「反射体」というものがあります。 これは、漏れを少なくするのみならず、炉心に中性子を戻すことにより反応の効率を良くするための物でもあります。
さて、メインの炉心ですが..........だいたい、いくつかのパーツに別れています。
一つはまさにメインである「燃料棒」、そして反応で生じる中性子を減速させて連鎖反応をさせやすくする(前回の「速中性子」を遅い「熱中性子」にする)減速材、そして、発生する中性子の数を調整し、いざというときに原子炉を止める「制御棒」が存在します。
燃料棒はまさに原発のエネルギーを生み出す核分裂物質、一般にはウラン235が入った物です。 冷却材との兼ねあいもあるのですが、その濃度は天然の0.7%〜濃縮した3%が一般的です(それ以上の事もあります)。 尚、天然以上に比率を高く(濃縮)したウランを一般に「濃縮ウラン」と呼びます。 ウラン235の割合が20%までの物を「低濃縮ウラン」、90%以上を「高濃縮ウラン」と呼んでいます(兵器用としては高濃縮ウランになります)
一般には酸化ウラン(UO2)を圧縮してセラミック状にし、被覆管に詰めて燃料棒とします。この燃料棒を50〜230本程束ねた燃料集合体として出し入れしており、ある程度燃えたところで交換を行います(これがリサイクルの問題へ繋がっていきます)。
さて、燃料棒の中で起きる核分裂で生じる「速中性子」を、連鎖反応をさせやすい「熱中性子」にするのに「減速材」を使用します。 これは、エネルギーの高い「速中性子」を減速させる事からそういう名称になっています。 減速材には、グラファイトや黒鉛などがありますが、一般には軽水(いわゆる「水」:H2O)か重水(D2O:「18種類の水」を参照)を使用します。 この減速材の種類によって「軽水炉」、「重水炉」と呼ばれます。
この減速材の使用により、ウランの濃縮の度合いと、量が変化していきます(軽水炉では3%のウランが必要になりますが、重水炉ではもっと濃度が低くても使用が可能です.......が、コストがかかります)。
#最近北朝鮮へKEDOが原発を供与する協議が進んでいますが、そこでいわれる「軽水炉」はこれのことになります。「重水炉」でない理由は次回に説明します。
核分裂を「制御」するというのは、早い話その度合いを制御することになります。 その方法は単純に「中性子を必要以上ウラン235に当てない」ととなります。そのために存在するのが「制御棒」と呼ばれるもので、(遅い)中性子をよく吸収するカドミウムやボロン(ホウ素)化合物が使用されます。 緊急事態に陥ったとき(例えば必要以上に連鎖反応が進み過ぎ、危険な状態になったとき)、予備に待機してある制御棒を全部突っ込み連鎖反応を収集させます。これを「スクラム」(緊急停止)と呼んでいます。
ちなみに、彼のチェルノブイリ(ここではRBMK型と呼ばれる炉を使っています)では、定期検査で出力を停止する途中で緊急停止装置を外すという(そして、制御棒は全部引き抜かれていた)致命的なミスをした揚げ句、反応の制御に失敗して暴走するという事を行い、結果的に史上最悪の規模の事件を起こしました。
さて、炉心では最初、制御棒が全部突っ込んであり、連鎖反応は起こっていません。 そして、制御棒をゆっくりと外して行き、核分裂反応を生じさせ、そして連鎖反応を持続的に起こさせるのですが、この持続的に核分裂を進ませる境目(最低限のライン)のことを「臨界」と呼んでいます。
さて、では原爆に視点を変えてみましょう。
今では兵器としてのメインは水爆に変わっていますが、途上国が手を出す第一歩としての位置は変わっていません(原爆が出来ないと、水爆の製造は極めて難しいんです)。
原爆は前回話したように、プルトニウム239か、ウラン235を使用します(主力は、破壊力の問題からプルトニウム239が多かったようです)。 その濃度は高濃度で、だいたい95%以上の物を使用しています(広島では93%というデータがあります)。 さて、構造的には「制御」の必要性が無い分だけ原発よりも簡単です。内部には臨界量より少ないウラン、プルトニウムを複数用意し、別々にしておきます。 そして、火薬により一気に一緒にさせ、そして臨界量を大幅に上回る様にすると...........一気に核分裂連鎖反応が促進し、だいたい100分の1秒で反応が完結(遅いと、破壊力が減少します)、そして膨大なエネルギーが解放され..............広島、長崎の悲劇に繋がっていきます。
#水爆では、原爆が引きがねとなって核融合反応を起こす為、水爆には原爆の技術が必要となります。
おっと...........気付いたら長くなってきました。
最後に天然原子炉の話をして今回は終りにしましょう。
さて、ウラン235がある一定以上固まっていれば.............臨界値を越える量が存在していれば、核分裂連鎖反応が自然でも生じる可能性があります。 では...........これが起きた形跡は無いのか? これが...........あったんです。
1972年、アフリカ西部赤道直下のガボン国のオクロ地方のウラン鉱床で、推定17億年ほど前に広範囲にわたって自然に核分裂の連鎖反応が起きていたことが判明しました。 いわゆる「天然原子炉」とよばれるものの存在が確認されました。
研究者達は色々と調査をした結果、ウラン235と、ウラン238の半減期(半分の量になる期間)から逆算した結果、約20億年前の地球の天然ウランは現在で言うところの3%以上の濃縮ウランであることが判明。岩石の風化で堆積したこのウラン鉱と、地下水などの水の組み合わせが見事に軽水炉となり臨界状態を越え、核分裂生成物の存在比から求めた結果、数十キロワットの出力で10数万年もの連鎖反応が継続、約6トンのウランを消費して濃縮度が低下し、自然と反応が停止したと推測されています。
ある意味凄いもったいない話かも知れませんが...........(^^;;
尚、このような現象を地方の名前を取って「オクロ現象」と呼んでいます。
いやぁ..........自然と偶然は奥深い.........(^^;;
さて長くなりました。次回に増殖炉やプルサーマル等の問題についてお話しましょうか...............
さて.......今回も長くなってしまった.......(~_~;;
さて、今回の「からこら」は如何だったでしょうか?
今回は、核分裂のエネルギーと、原発、原爆について簡単に、かつしっかりと説明してみましたが...............如何だったでしょうか?
原発に関してはまぁ、色々と論議が別れるところなんですが.............ただ、現在のエネルギー供給量のかなりの部分を占め、かつ我々の生活を支えている部分もありますので、反対でも賛成でもその部分はしっかりと認識しておいて下さい。そして、簡単でもいいのでその原理は理解しておいた上で議論をしていただきたいです。 管理人ですか? 反対じゃぁ無いです。でも、決して良いものとは思いませんが..............問題多いし。 でも、よく「クリーンなエネルギー」としての風力発電等に変えるべきとおっしゃる方が多いですが、効率や安定供給を無視している人達ばかりですので、現実的とは言えません(一年中強い風が吹かないと意味が無いですし)。 自然による安定供給は難しいという事も理解をしていただきたいです。
まぁ、エネルギー問題はこれから色々と考えていかなければならない問題ですので............そのために各国研究者達が色々と頑張っているのは事実。今後もこの手の問題は注目していただきたいと思っています。
さて、それでは今回はこれまでです。次回は上にかいたように............増殖炉やプルサーマル、そして廃棄物問題についてしたいと思います。
夏バテには気をつけてお過ごし下さい
御感想、お待ちしています...........m(__)m
(1999/07/27記述)
前回分 次回分
からむこらむトップへ