からむこらむ
〜その47:被曝というものの認識(3)〜


まず最初に......

 こんにちは。ついに師走。今年も、1000年代もいよいよ最後となるわけですが...............皆様、如何お過ごしでしょうか?
 最近は急激に冷えるようになりましたねぇ...........いやぁ、冬です。

 さて、今回も......核関連。とりあえず、シリーズ化している「被曝」についてのお話。
 前回は「毒性」についてやりましたが、今回はその身体的影響と急性障害についてのお話です(多分(^^;;←書く前(爆))。
 それでは「被曝というものの認識(3)」の始まり始まり...........
#前回や他の所なんかも、ちゃんと抑えたうえで見て下さい(でないとわからないと思われますので)m(__)m



 さて..........放射線を浴びたときの影響というものは世の中に色々と喧伝されているかと思いますが..............
 放射線を浴びると、どうなるでしょうか? どういう影響を及ぼすのでしょうか? 今回は、これについてやってみたいと思います。

 放射線というものは、過剰に浴びると有害である、ということは皆様御存じの通りです。 これはかなりのケースでよく挙げられるということから色々な意味でわかるかと思われますが............... では、その影響は? という部分は意外と御存じ無いかと思われます。
 放射線の生物に対する影響というものは.......大体「身体的影響」と「遺伝的影響」に別れます。 前者は被曝した当時者に対して適用される影響であり、後者はその子孫への影響になります。 前者は更に、被爆後に比較的短期間に現れる「急性障害」と数ヶ月〜数年を経て現れる「晩発障害」があります。ま、前回やった「最終効果」に該当しますか。

 さて....... では少し考えていただきたいのですが...........
 遺伝的影響と晩発障害というもの影響には、一般によく「放射線」とのイメージとして出てくる「ガン」があるかと思われますが.......... はい、では考えていただきたいのですが、この「ガン」は放射線の強さとどのような関係があるでしょうか...........? 実は、これはいくつかの誤解と誤認がよくあるのですが............ 実は、遺伝的影響と晩発障害で生じるガンは、あくまでも「発生率」が変化するだけです。 決して重篤度が変化するわけではありませんので御注意を。
 で........上記の様に、被曝した中での突然変異の発生率や、発ガン率が放射線量の大小により変化する(つまり、悪性度の変化では無い)、という様な影響を「確率的影響」と呼んでいます。
 これに対して、身体的急性障害や、発ガン以外の晩発障害は、線量の大きさによってその障害の重篤度が変化することが知られています。これは、ある程度までなら.........前回やった様にしきい値の範囲までなら良いのですが、これを越えての被曝をすると、その線量によって障害の度合いが変化していきます。 こういう影響を「非確率的影響」と呼んでいます。

 ちなみに、上記のような悪影響を考慮に入れて、ICRP(国際放射線防護委員会)という組織が、全身照射された場合の各臓器のリスク係数を勧告しています。 まぁ、1Svあたりの死亡、または重大な遺伝的欠陥の生じる確率を出した物なのですが.............. こちらは面倒なので省略させて頂きます(^^;;


 さて、では身体的影響について話を進めてみましょうか。
 生物が被曝して、それが何らかの影響を及ぼす場合.........御存じかもしれませんが必ず、どんな臓器でも同じ放射線量で、同じ影響がでる、とは限りません。必ず放射線への感受性の差が存在します。これについて触れてみましょう。

 昔、雄ネズミの生殖組織に対する放射線の影響を調べていたベルゴニー・トリボンドーという研究者があることを発見しました。この人物らは、組織の放射線感受性に関して「放射線に対する細胞の感受性は増殖の活動力の程度に比例し、分化の程度に逆比例する」という事を発表........これを「ベルゴニー・トリボンドーの法則」と呼んでいます。
 さて、この法則...........これだけでは意味がよくわからないと思われますので、説明しますと...............
 生物学ですが、生物は細胞によって構成されているのは御存じの通りかと思われます。 さて、この細胞は........ある程度御存じでしょうが、「細胞分裂」という物を行って自らのコピーを作り増殖して行くわけです。これは、皮膚やら髪の毛やら臓器やら.........に適用されるわけです。 さて、では「増殖の活動力」というのは何かと言いますと...........これは簡単に言えば「細胞分裂の活発さ」ということになります。つまり、細胞増殖が行われている最中は放射線感受性は高くなります。 では「分化の程度」というのは何かというと............「分化」というのは、何かの「元」となる細胞が細胞分裂を経て、最終的にある特定の働きを持つ細胞になる、という事なので、この「分化」が終りに近ければ近いほど放射線感受性は低くなります。

 さて、では「感受性の高い」、さかんに分裂している最中の細胞群に放射線を当てるとどういうことが起きるのでしょうか? と言いますと......... 大体線量に応じて分裂遅延や、分裂異常、またDNA合成はあるのですが分裂が出来ないことで起きる巨大細胞形成や、分裂を契機として死を引き起こす増殖死などが起こります。つまり、基本的には「分裂」という物を機軸に障害が起きます。 が、しかし特に大線量を浴びた場合、細胞が分裂を介さないで死んでしまうという現象が起きます(例外的に、分裂できないリンパ球は低い線量でこの現象が起きるようですが)。この現象を「間期死」と呼んでいます。
 まぁ、詳しくやるには細胞の話で出てくる「細胞周期」という物を行う必要があるのですが、これは今回は控えます。
#これだけで数回費やしてしまうので。

 尚.......「細胞分裂が活発な時期」というのは、一般に若いときには顕著(というか、全体的に活発)ですので.........これを考えた場合、当然のことながら成長途上の子供と老化が始まっている成人では、どちらが障害が大きいか.........という事は容易に想像できるかと思われます。


 さて、それでは体内の組織の放射性感受性について実際に触れてみましょう。
 上記でも触れたことを考えれば、当然のことながら年齢などによってその感受性は異なってきますが、同時に体内の組織によってもその感受性が異なってきます。 例えば、成長がある程度進んで成体となっても、造血組織や皮膚の様に分裂が活発な系.........概ね「細胞再生系」と呼ばれるものが該当する系..........が存在します。
 細胞再生系というのは、「増殖部位」、「成熟部位」および「機能部位」から成立しています。増殖部位には、根幹となる幹細胞、分裂細胞が存在しています。 成熟部位では、分裂をおえた細胞がそれぞれの組織の機能を果たすために必要な細胞に分化します。 機能部位では分化した細胞が組織の機能を果たすために働く機能細胞が存在しています。 サイクルとしては、増殖部位で増加した細胞数と同じ数の機能部位の細胞が細胞死(要は「寿命」)を迎えて除外され、そして成熟部位がそれに代わる.........という事が繰り返されています。
 上記例を挙げますと.......
・造血組織:骨髄(増殖部位・成熟部位)→末しょう血(機能部位)→細胞死
・ 小腸 :クリプト(腺窩)→じゅう毛上皮→細胞死
 というのがあります。

 以上の点を踏まえて更に進めると、組織ごとの感受性の分類もできます。例を挙げてみますと...........
・感受性の高いもの:生殖腺、骨髄、リンパ組織、脾臓、胸腺、胎児の組織
・中程度:皮膚、腸、眼
・低いもの:肝、筋組織、血管、結合組織、脂肪組織、神経組織、骨、唾液腺、胃
 といったぐあいになっています。
 やはり、造血組織、免疫組織(リンパ組織や胸腺など)などは法則にしたがって感受性が高いと言えます..........つまり、放射線障害は、前にも話したような放射線の影響による遺伝子の損傷の他にも、これに関して造血や免疫能力の低下が問題になってくる(=良く話に聞く)、と言えます。
#感受性の低い=放射線に強い 所は大きく問題にはなりませんし、また聞きませんし.........問題になる頃には、死亡しているというか.......(^^;;


 では、いくつかの組織への放射線の急性障害について簡単に触れておきましょう。
 ま、他にもありますが、以上の例で終りにしましょう。
 以上が急性障害の影響となります。

 あ、ついでに急照射による、全身被曝したヒトの障害をついでに挙げておきます。
 となります。 あ、もちろん入院などして処置がとられれば変わってきます。
 東海村で被曝した作業員の人達は、大体...........2〜6Gy以上数十Gy以下と思われます。 チェルノブイリの「英雄」となってしまった人達は、概ね10Gy以上だったと想像が出来ます(おまけに、措置がとられていないわけで.............)。
#そう言えば、昔の「ルパンIII世」の映画(ヘミングウェイペーパーだったか?)でのラストシーンを思い出すと.......... 彼らはきっと.......(- -;;

 さぁ、長くなってしまいました。
 切りが良いので、今回は以上ということで............




 ふぅ.........

 さて、今回の「からこら」は如何だったでしょうか?
 今回は、放射線を浴びたときの影響について、急性障害も含め少しやってみました。あくまでも「少し」なのですが..........あんまりやると、思いっきり生物学と物理学と生理学が絡むので、難しいのですが............ 如何でしたでしょうか?
 まぁ..........難しい所ですが...........(^^;; いや、前にも書いたように、「何を書くか」が難しいんです。非常に苦労しています。
 一応、御理解いただければ嬉しいのですが..............
#数字だけ並べてもそれほど大きな意味があるわけではありませんし............

 さて、取りあえず今回は以上です。
 次回も今回の続きをやりたいと思います。そろそろ.........晩発障害や、放射線障害からの回復をやりたいと思います。 その次ぐらいに........遺伝的な問題でもやろうかと現在考えています。
 『買ってはいけない』に続いて長いシリーズになりますね(^^;;


 御感想、お待ちしていますm(__)m

 さて、それでは今回は以上です。来週をお楽しみに..........

(1999/12/07記述)


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