からむこらむ
〜その46:被曝というものの認識(2)〜


まず最初に......

 こんにちは。いよいよ11月も最後。いよいよ師走を迎えるわけですが...............皆様、如何お過ごしでしょうか?
 まぁ、ついに年の瀬を迎えるわけですが................今年は長かったような短かったような............(^^;;

 さて、今回も......核関連。前回に続いて「被曝」についてのお話。
 今回は放射線のもつ「毒性」についてやってみたいと思います。おそらくは興味がある範囲になるのではないかとは思いますけど..........
 それでは「被曝というものの認識(2)」の始まり始まり...........
#あ、前回や他の所なんかも、ちゃんと抑えたうえで見て下さい(でないとわからないと思われますので)m(__)m



 さて........通常、放射線と言うものは「絶対毒」的なイメージをもたれる方が多い為に、「被曝」というものはある種「恐怖の対象」となっているかと思われます。 しかし........その割には意外と「どういう毒性なのか」については知らない方が多いかとも思われます。つまり..........

放射線の「毒性」とは何でしょう?

 という質問をしても、それに対して明快に答えられる方はそうは多くないかと思われます。 どういうものがあるでしょうか? ちょっとイメージしていただきたいのですが..............大体は「がん」とかの遺伝子の破損などが印象にあるかと思われるのですが..............
 まぁ、そういった物は実際に正しいのですけれども、実はそれだけが喧伝されるのは非常に誤りがあります。つまり、「最初と結果」だけという部分であります。 では、一体何が起きるのでしょうか。
 今回はそう言ったものについてやりたいと思います。


 さて、放射線をヒトに10SvほどのX線を全身に照射すると、何らかの措置を講じなければ数日以内に死亡する..............というお話 が専門の本なんか見ると良く見かけます。 つまり、この10Svという放射線量は非常に「大きな」線量となるわけですが............. ところが面白いことにこの放射線。一種の電波であってエネルギーを持っているわけですけど、この熱エネルギーはたかだか2度の体温上昇をもたらすに過ぎない、とされています.............. つまり、熱エネルギー的に見た場合では、その程度のエネルギーでヒト一人を殺すことが出来る、という事が言えます(あ、間違っても核融合とか、核分裂とかのエネルギー等とは別物ですので、混同しないで下さい(^^;)。
#ちなみに、10Svというのは、前回述べた数字を考えればCTの1000回以上分をいっぺんに浴びるわけで、通常環境では非現実的な数字と思って下さい。 レントゲン取った後に、体温が急上昇する方はまずいないと思いますし(^^;;

 では、どういう順序にしたがって被曝というものの影響が出るのでしょうか............という物をやってみますと.............
  1. 物理的過程
  2. 化学変化
  3. 初期障害
  4. 拡大過程
  5. 最終効果
 の以上のプロセスを経ていく、と言われています。時間の過程と共に説明しますと..........
 1の「物理的過程」ですが、これは放射線が生体を構成する物質(細胞とか)を通過するときに、この生体構成物質は放射線の持つエネルギーを吸収します。この際に電離、または励起という現象がおこります(10-18〜10-15秒)。
 2の「化学変化」では、上記の電離、励起という現象によって生体構成物質に化学変化を起こさせます(10-12〜100秒)。 実は、これが「毒」の主力となります。
 3の「初期障害」ですが、上記化学変化が細胞の重要な部分で生じた場合に引き起こすものです。一般に言われる、放射線の初期障害の事ですね.......... この初期障害の際、「重要な部分」がDNAであると変化が生じてきます。(10-1〜102分)
#以上の「1〜3」までは目に見える形で検出することは難しいです.........つまり、すぐには症状というものは出てきません。
 4の「拡大過程」ですが、これは初期障害の拡大になります。細胞内の物質代謝の過程で拡大されていき、やがて検出可能な障害へと発展していきます(10-1〜105時間)。
 5の「最終効果」ですが、初期障害〜拡大過程で生じていく生化学的障害が細胞を死に至らしめ、更にもっと大きな「個体の生命」を奪っていきます。 「晩発(ばんぱつ)障害」というのはこれに当たります。

 以上が放射線による「毒性発現」への過程のおおまかな説明になります。
 ちなみ.........前回にもやった様に、体内にも当たり前のように放射性物質があるわけです。それによって上記のような障害が起こるのでは無いかと心配されるかもしれませんが.............. あんまり案ずる必要はありません。通常、生体は放射線への抵抗システムがちゃんと備わっています。
#そもそも、その30でやった「オクロ現象」やその44でやった「半減期」と言うものを考えればわかるように、放射性物質は今より昔の方があったと思ったほうが自然ですし、その間を生きているわけですから..........

 では、もうちょっと突っ込んだ説明をしていきましょうか.........
 まず、放射線量と生物への影響の関係を少し触れておきましょう。 生物に放射線を当てたときとその生存率との関係には何種類か存在しています。

 手抜きグラフで恐縮ですが(^^;; だいたいこんな関係のグラフになります。説明しますと.........
 「A」というのは、「しきい値」、つまりグラフにある「ある程度までの放射線量ならば生存率は変わらない」領域があるタイプです。このタイプは高等動物の30日間生存率やなどがこの「A」に当てはまります。 「B」はしきい値のないタイプのグラフで、ショウジョウバエの卵の孵化率や、培養細胞のコロニー形成率などが当てはまります。 「C」は指数関数型で、バクテリア致死率やウィルスの不活性化などはこれが当てはまります。
 つまり、上記からわかるように、生物のさまざまな要因によって、放射線の影響は大きく変わってくる事が言えるかと思います。 つまり、みんな「C」ではありませんし、全てが「A」、というわけではありません。 「放射線浴びる」=「死亡する」というような、簡単に断じることが可能な物では無いことは理解して下さい。
 ちなみに、上の関係を統一的に解釈した説に「標的説」という説があります。これは、細胞の中に特に放射線感受性の高い部分(=影響を受けやすい部分).......つまり「標的」が存在し、この部分が放射線に当たったときにのみ効果を生じる、という物です。 この説は非常に理にかなったものでして.......事実、さまざまな実験から多少の影響を受けてもほとんど影響のない部分もあれば影響を受けやすい部分があることがわかったいます。 ですので、放射線の毒性を考える場合には、こう言ったものを総じて考えてその毒性を判ずる必要があります。


 さて、ここからがある意味本題になるでしょうか............放射線の作用について説明しましょう。
 放射線の作用には概ね二種類存在します。一つは「直接作用」、もう一つは「間接作用」です。
 「直接作用について」説明しましょう。
 直接作用とは、一般に放射線作用として最もイメージされるものかと思います。早い話放射線が細胞内の高分子.......つまり代表的にはDNAやRNAの様なものに命中し、これらの分子を直接破壊して細胞に障害を与える作用を指します。 少しDNAの知識(二重らせん構造とか、そういうもの)を御存じの方にもう少し説明しますと、一本鎖、二本鎖のような構造的な切断のほか、構成する塩基(チミン同士で結合とか)の損傷などがあります。(ちなみに、これの説明や理解に標的説が活躍)。

 次に「間接作用」について説明しましょう。
 実は、間接作用は一般の人にはあまり注目されない傾向があるのですが(どうも遺伝子とかに目が向く方が多いので)、実はこれが放射線の毒性の主作用です。 人間の身体は約70%が水分であることは大体の方は御存じかと思います。つまり、人間は水がそれだけ重要な位置を占めているわけですが............ さて、では以上を踏まえた上で考えた場合、放射線が人体に当たると言うことは、かなりの確率で放射線が生体内の水に当たる、という事がわかるかと思います。 ではこの水がどうなるかと言いますと............フリーラジカル、つまり遊離基(その15の最後参照)が生成されます。 いわゆる世間で一時期やかましかった「活性酸素」の仲間が生成されます。反応では、水(H2O)から、OHラジカルとHラジカルが生成されます。できる過程については二種類あるのですが(Lea-Gray-Platzmanの説と、Burton-Magee-Samuelの説)、どちらにしても水からこの二種類のラジカルを生成します。更にこのラジカル同士が反応して過酸化水素が生成する事も知られています。このうち、OHラジカルと過酸化水素が非常に「毒性」を発揮します。
 このラジカルですが、前にも書いたように反応性が非常に高く、片っ端から生体成分と反応を行います。生体成分がDNAなどの様な重要な分子であれば、当然のことながらその損傷に一役買うことになります(そうなると、直接作用の様な感じになりますか)。
 尚、水以外にもラジカルを形成するのですが、メインはあくまでも水との反応となるようです。
#ついでに加えるならば.........その15でやった通り、多少のラジカルは全く問題になりません。ちゃんと排除機構が存在します。


 で、ここで考えていただきたいのですが..........これら直接作用や間接作用の影響の大きさを考える場合に、忘れてはいけない要素があります。 それは、「どの様に被曝したか」という部分です。
 これが何を意味するかと言いますと...........例えば、内部被曝と外部被曝でこれらは大きな差が生じる事を考えねばならない、という.......つまり、「外から被曝しているのか、中から被曝しているのか」という物が問題になる、という意味です。。 実は、放射線の脅威を語るのに必要なファクターとして、これがあります。 では、どちらが問題になるかと言いますと..........何となくわかるかもしれませんが、通常は内部被曝が問題になります。
 では、内部被曝が問題になる理由ですが..........通常は元素を体内に取り込むと、その種類によって体内の特定の部分に集中することが知られています。カルシウムでしたら骨ですし、神経にはナトリウムやカリウムなどにも。ヨウ素は甲状腺(のどの所)に集まりやすい事が知られています。そして、放射性物質を体内に取り込んでしまった場合、放射性元素も同様のことが言えます。その特定のところで放射線をだして、間接作用や直接作用を引き起こすために、さまざまな。特に一般に良くイメージされるような影響が引き起こされます。
 例を挙げてみましょう。
 例えば放射性ヨウ素。チェルノブイリなどでも有名になりましたが、これは簡単に吸収されるために(おまけに揮発性)比較的早く甲状腺に集まります。これによって放射線作用が甲状腺に集中することで甲状腺ガンが引き起こされる事がありました(喉にガイガーカウンターを当てて調べていたのはこの例)。 尚、ヨウ素ついでに書いておけば、「普通のヨウ素を摂取することで甲状腺ガンを防げる」みたいな事が書いてありましたが、これは一定量以上のヨウ素は必要とされないので、事前に摂取することで放射性ヨウ素の摂取を防げる、という為です。 もっとも、「事前に」なのですが.............
 次に例えを挙げると..........Bone seeker、すなわち「向骨性元素」と呼ばれる元素でしょうか。 これは、読んで字のごとく「骨に集まりやすい」物なのです。これの例はたくさんあり、カルシウムやリン(骨の構成はリン酸カルシウムですので)などがあるのですが、更に特筆するべき点として、事故などで生じる「死の灰」に含まれる成分である放射性ストロンチウムやラジウム、ウランなどもこの傾向を持つ元素です。 これが何を意味するかと言いますと.......... まず、この傾向を持つ放射性元素は半減期が長い事があります。これは何を意味するかと言いますと、排泄されない限り(特に骨は簡単には排泄されません)は延々とそこで放射線を出すことになります。 更に、事故などでまき散らされる物には、α壊変をするものが多くあります。 これらの影響は、α壊変で生じる放射線......つまりα線は前にも(その17とか)やった様に非常に反応性が高く「凶暴」ですので、片っ端から構成分子を破壊していく事が挙げられます。また、骨ですので.........そこには血を作る所、つまり「骨髄」に近いですので、この造血細胞を破壊することにより、再生不良性貧血等の......いわゆる、「白血病」が起こりやすくなります(事実、チェルノブイリや原爆の被爆者等では多かった)。
 取りあえず以上を例として挙げておきます........... ただし、以上のような事に加え、取り込んだ元素がどれぐらいで排泄されるかなども考えねばなりませんが...........
 まぁ、ともかく内部被曝に関しては非常に注意を払わなければなりません。外部からでしたら放射線は遮断は出来るのですが、内部からでは遮断は出来ませんので..........
#他にも量の問題等も忘れずに考えねばなりませんが。

 尚、外部被曝の場合は、結構な量を受けても内部被曝ほどは問題にはなりません。
 皮膚でしたら3Gy程度でしたらそれほど問題にならない様ですし(3週間後に脱毛とかあるようですが).................


 あ、長くなりました。
 取りあえず今回はこのようなところで..............




 さて.......取りあえず終了..........

 さて、今回の「からこら」は如何だったでしょうか?
 今回は意外と知られていない放射線の「毒性」についてやってみたのですが..............御理解頂けたでしょうか?
 おそらく今回は皆様の知っている部分と知らない部分が一緒になっている所についてだったと思うのですが.............. まぁ、放射線の影響や毒性と言うものを御理解頂ければ嬉しいです。 もっとも、説明はまだまだ足りないのですが...........(^^;;
 まぁ、色々とあるのですが、結構まとめるのが難しいんですよね、ここは............
#何を書くかが非常に難しいです。

 さて、取りあえず今回は以上です。
 次回も今回の続きをやりたいと思います。どういった方向でやろうかはまだ考えていますが............


 御感想、お待ちしていますm(__)m

 さて、それでは今回は以上です。来週をお楽しみに..........

(1999/11/30記述)


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