からむこらむ
〜その58:ベリル〜


まず最初に......

 こんにちは。最近急に寒いんですけど............(^^;; 風邪、長引いている方が多いようですね。皆様、いかがお過ごしでしょうか?

 さて、今回はちょっとした与太話。一応、結晶についてを前回やりましたので、まぁ、宝石の話でも.............
 ま、一応与太的にやってみたいと思っています。 まぁ、最初の宝石、というか鉱物に関してはトライとなりますので、ちょっと手探りになるかとは思いますが(^^;; ちなみに、今回は、タイトル通りの鉱物なのですが...........?
 それでは「ベリル」の始まり始まり...........



 「からこら」では初めての宝石というか鉱物の話ですが............タイトルは「ベリル」となっていますね.............
 さて、問題。「ベリル」とは何でしょうか? しかも、宝石の話、としていますので.............このベリルはどういう宝石なのでしょうか?
 そこから踏み込んでみましょうか?

 もし、手元に英和辞書がありましたら、ちょっと引いてみて下さい。 スペルは........「beryl」です。
 ............引いてみましたか?
 辞書を作っている会社によって色々と細かいところは違うかも知れませんが、一応.........「緑柱石」と書いてあるはずです。 そう、その通り「緑柱石」ってのが「ベリル」なのですが...........
 これは何なのでしょうか?

 「緑柱石」と言うのは日本ではまたの名を「甘石」とも呼ぶそうでして、なめると甘いと言われる鉱物です。最初の........ローマ時代の眼鏡(サングラス、という説あり)は実は緑柱石から出来ているので、ドイツ語で眼鏡を「brille(ブリレ)」と呼ぶ、とか言われるそうですが..............
 さて、この鉱物の化学組成はBe3Al2Si6O18でして、分類としては「珪酸塩鉱物」と呼ばれる、いわばケイ素(Si)を主体とした鉱物となっています。 この化合物は実は元素の発見に役に立っていまして...........元素番号4の元素であるベリリウム(Be:「beryllium」)はこの緑柱石から、フランスのヴォーグランという人物によって十八世紀に初めて単離されました。この為、緑柱石を意味する「ベリル」がベリリウムの名の由来、となっています(ギリシア語の「beryllos」が由来、とも言われますが、この単語の意味が不明です)。 実は、「甘石」という名の由来はこのベリリウムの化合物であることが原因、と言われています。 もっとも、この話には少し突っ込むところがありまして.........単離した頃の化学者が色々となめて(当時としては普通。現代では非常識?)みた結果甘い味がするので「Glucinum」.......ギリシア語のgykysにちなんだ、例を挙げると、甘草の成分であるグルシルリチンやグルコース(ブドウ糖)など「Glu-」という接頭語がつく.........名称だったそうです。
#注:組成式中の元素について一応書いておきます→Be:ベリリウム Al:アルミニウム Si:ケイ素 O:酸素

 ちなみに、ベリリウムという元素はなかなか現代においては重要な軽金属でして........エンジンやカメラのシャッター、原子炉の減速材にも使われますし、合金の成分(例えば、銅に1〜2%のベリリウムを加えるとベリリウム青銅が出来、電気部品やプロペラに使用される)にはかかせない物であったりします。 が、毒性が非常に高く、合金の加工の際に大量に粉塵を吸ってしまって気が狂った、とか、昔のアメリカで、初期の蛍光灯をおもちゃにして「フェンシングごっこ」(某Star Warsのライトセーバー感覚??)をやった結果、当時の蛍光灯に入っていたベリリウムを吸い込んでベリリウム中毒になった子供がいる、という話もあります(今は使用されていないようですが)。
 ま、アルミニウムイオンとベリリウムイオンの挙動が似ていまして、アルツハイマーの患者の脳にアルミニウムが蓄積するという話(これが原因かどうかは不明)から、ベリリウムを使ってアルツハイマー症候群の「恍惚」現象の解明に役に立つのでは、とも言われていますが.............

 おっと、脱線しました(^^;; 話を緑柱石に戻しましょう。
 さて、この緑柱石。一般には名前の通り緑色が多く見られます。一般的には、花こう岩やペグマタイト(火成岩の一種である、マグマが冷えてできた深成岩の生成の最後にできる、炭酸ガスや水分などによる空洞)、変成岩に出来ると言われています。 螺旋状に成長する鉱物でして、構造はSi6O18で「蜂の巣」状のリングが網目状の構造で存在しており、その中にさまざまな元素........リチウム(Li)やナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)や水、二酸化炭素などがアルミニウムとベリリウムに混じって複雑に入り込んでいます。
#難しく、分かる方向けに書くと、X=Li,Na,K,Rb,Cs,H2O,CO2.........として、 3X++Al3+=3Be2+となるように置換されているそうです。
#若干の化学の知識(イオンとか)が分からないと理解は出来ませんので、分からない方はこの注は無視して下さい(^^;;

 さらに緑柱石の特徴を挙げてみますと、六角柱の結晶を形成しまして、色々な色を持ちます。「緑柱石」と言いながら実際には色々と色がありまして、緑色、淡青色、黄色、赤色、無色などがあるそうでして............. モース硬度は7.5〜8。少し硬いながらももろい鉱物と言われています。
#良くこんなもんで眼鏡作ったな.........(^^;;

 さて、何となくこれが何の宝石になるか、ピンと来られる方はいらっしゃるでしょうか?
 この緑柱石。宝石になりますと、非常に有名なものは............トルコのイスタンブールにあるトプカピ博物館にある短剣がありまして、3個の、巨大な緑柱石(の宝石)が柄飾りにつけられていることが知られているそうです。また、クレオパトラも愛したと言われている宝石でもあります。
 さて、そろそろ正体を書いてみましょうか。 この緑柱石が濃い緑色.........緑海色を呈しますと、一般に「エメラルド」と呼ばれる宝石に。そして淡い青色を呈しているものは「アクアマリン」と呼ばれる宝石になります。
 両者とも宝石がお好きな方でしたら聞いたことがあるでしょうけど...........実は両者とも同じ組成を持つ鉱物であったりします。

 さて、ここで疑問が浮かんで来る方もいらっしゃるでしょうか。
 同じ化学組成なのに色が違う.............何故でしょうか? これは「同じ化学組成」とは言っても、普通はその内部には不純物が入っています。エメラルドの場合、構造の内部にクロム(Cr)、またはバナジウム(V)が混ざっていることが知られており、これが緑海色を呈す「エメラルドの色」となります。そしてアクアマリンの場合、その構造の中に微量の鉄(Fe)が混ざっており、これが淡青色を呈す「アクアマリンの色」となります。

 また、違いを示す原因は生成条件や特徴からも出てきます。
 「エメラルド」、という宝石は物によっては非常に高価になりまして、ダイアモンドを越える程の値段になるものも多い、と聞きます。が、同じ組成を持つ「アクアマリン」は比較的安価に入手が可能であるかと思います。
 何故、同じ組成を持つものがこんなに値段が違うのか??
 まぁ、ぶっちゃけた話取れる量の問題なのですが(^^;; 一般的にエメラルドそのものは産出量は少なくないと言われています。まぁ、比較的多い珪酸塩(マグマの主成分)は珪酸分(SiとOの化合物の成分)が多く含まれていますので珪酸塩の宝石(ペリドット、ラピスラズリ、ヒスイ等)は多い)ですし........... が、どうやっても...........いわゆる「宝石」として見てみた場合、ひび割れが多かったり、全体が濁っていたり、大きな結晶が無かったりと宝石としてカットすることが出来る物が少ないことがあり、またその「もろさ」が拍車をかけているそうです。また、出来る場所も非常に圧力の高い、地中深いところの方が出来やすいそうでして(ダイアモンドと似ていますね)、更に通常は(普通の緑柱石とは違って)ペグマタイトには出来にくい(全く出来ないわけでは無いそうですが)そうでして.........そう言ったことから宝石に出来る数が少ないと言われています。 しかし、アクアマリンの場合はペグマタイトに大きな結晶として出やすいので比較的安価に入手が可能となっているそうです。また、アクアマリンの生成条件下では、エメラルドの色を出すクロムやバナジウムが構造中に入りにくいと言われています。
 これらが原因で両者には差が生じています。


 産地ですが、エメラルドは昔は、中世〜近代ヨーロッパではオーストリアで産出され、マリア・テレジア女帝の頃(1740年代〜)ハプスブルグ家が所有していたそうですが1831年にウラルで2Kgを越える(!!)巨大なエメラルドの結晶が見つかってからはこちらで採取が進み、ウラルが産出量トップとなりました。が、やがてコロンビアが逆転し、現在でもコロンビアの輸出がトップとなっています。
#尚、コロンビアでのエメラルド産出は日本人が多く関わっていたりします。
#昔、昔の話ですが.............
 コロンビアのエメラルドは黒い粘板岩の地層に熱水鉱脈が入り込んで出来る、という特殊な産状だそうで、他の産地とは大きく異っているそうです。また、この特殊性が原因なのか他が「青っぽい」緑色なのに対し、コロンビア産のものは「黄色みを帯びた」色だそうです。
 また、アクアマリンですが、こちらは容易に入手しやすいようで、ブラジル、パキスタン、アフガニスタン、中国に主要鉱山があるそうですが、日本でも採取が可能だそうです(宝石としての流通は無理らしいのですが)。 戦時中はベリリウムを取るために色々と採取したそうですけどね.............

 そうそう。ちなみに、両者とも人工合成が可能であったりします。 また、アクアマリンに関しては熱処理をすると色が濃くなるそうです。


 さて、最後に。
 「緑柱石」でありながら、面白いことに様々な色を持つものがいくつかあるそうです。 挙げてみますと.........
 「ゴールデンベリル」という、黄金色の緑柱石がありましてこれは鉄による着色となっています。ヘリオドールとも呼ばれるそうですが........(聞いたことが無い(爆)) 「ゴッシュナイト」という無色透明の緑柱石。これはセシウムによるものだそうです。 「レッドベリル」という赤い緑柱石。これはマンガン(Mn)による着色だそうでして、極めて稀だそうです(アメリカのユタ州とメキシコでしかとれないらしい)。

 う〜む........なんか結構奥深そうですね..............



・補足
 取りあえず、今回扱った緑柱石と元素の色の関係を表にしておきます。
#取りあえず手持ちの資料で分かる部分だけですが。

緑柱石と色の関係
名称入り込んでいる元素主な生成場所主な産地
エメラルド濃い緑色
(緑海色)
クロム(Cr)またはバナジウム(V)黒雲母結晶片岩
(高圧力下)
コロンビア
アクアマリン淡い青色鉄(Fe)ペグマタイトブラジル
ゴールデンベリル黄金色鉄(Fe)ペグマタイト(?)--
ゴッシュナイト無色透明セシウム(Cs)ペグマタイト(?)--
レッドベリル赤色マンガン(Mn)流紋岩アメリカ(ユタ州)
メキシコ

 おそらく、入り込んでいる元素を色々と変えてみると、また変わった色を呈するかと思われます。
#リチウムとか面白そうですが.........個人的に(^^;

 また、余談ですが、エメラルドは5月、アクアマリンは3月の誕生石だそうで............
 「誕生石」はユダヤ人が決めたものとされ、18世紀頃のポーランドに移住したユダヤ人が広めたそうです。
#ここら辺は別の機会にでも.............

・補足 2000/03/09
 某所でお世話になっている「SAGARA」さんの情報によると、ピンク色の「モルガナイト」という物もあるとの情報をいただけました。宝石収集家にして銀行家の「モルガン」という人物によるもので、混入している元素はマンガン。特徴は二色性があり、角度を変える事によって透明にも見えるそうです。
 ありがとうございましたm(_ _)m




 うむ、行き当たりばったりだが.........できたかな?
#寝られないときに入力していますし(爆)

 さて、今回の「からこら」は如何だったでしょうか?
 今回は初めてちょっとした、宝石についての話をしてみました。今回はついでに絡むのでベリリウムの話も加えましたが.........如何だったでしょうか?
 ま、取りあえず宝石に関しては一回目ですので、方向性があんまり定まっていないんですけどね(^^;; 最初はルビーの方を考えたのですが、まぁ、最近エメラルドの話がインデックスでも出ましたので.............やってみました。
 ま、次回はもうちょっと色々と工夫してやってみたいです(^^;;
#地学の話も必要な感じがしますしね..............

 さて、今回は以上です。
 御感想、お待ちしていますm(__)m

 尚、管理人は23日から2週間ほど旅に出ますので、その間は「からむこらむ」をお休みさせていただきますm(_ _)m
 ご了承下さいませ。 ま、この間に読んでいない物がありましたら、読んでみるのも一興かと思います(^^;; 今になって分かる部分、なんてのもあるかも知れませんしね。
 そう言った所でもご感想などがありましたら、是非とも教えて下さいね。
 それでは、次回.........3月になりますか。お楽しみに...........

(2000/02/22記述 同03/09補足(Thanks>Ms.SAGARA))


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