からむこらむ
〜その60:生命のアミン(2)〜


まず最初に......

 こんにちは。寒かったり暖かかったり、そして花粉が飛んだりと非常に体に負担の多い時期ですね..........って先週も書いたんですけど、やっぱりひどいですね(^^;; 皆様、いかがお過ごしでしょうか?
 管理人、寒暖の差がキツイです...........あ、花粉症では無いので、その点は良いのですが(^^;;

 さて、今回は前回の続き、ビタミン関係です。
 前回は歴史的経緯とどういうものがあるかについて書きました。今回は、もうちょっと踏み込んだ内容にしたいと思います。
 それでは「生命のアミン(2)」の始まり始まり...........



 さて、それでは今回は踏み込んだビタミンの話をしましょう。

 ビタミンは必須栄養素である、と度々書いてきました。つまり、生命の維持に必要である、ということです。
 では、このビタミンという物は大体どれだけ人体に必要であるか、と言うのを考えたことがありますか? おそらくは無いと思いますが...........
 ビタミンは一般にヒトの食物中に1日辺り数ミリグラム〜マイクログラム程度あれば大丈夫、とされています。ピンと来ません? 1000ミリグラム=1グラムです。1000マイクログラム=1ミリグラム、となっています。 実は、ビタミンは比較的少量で十分なことから、糖質・たんぱく質・脂肪の様な大量に摂取が必要な栄養素(これを多量栄養素と呼ぶ)に対して「微量栄養素」と言われています(無機質も同様)。 もちろん、体調云々で必要な摂取量の増減はあるでしょうが、あまり大量に入れても活躍の場は「無い」ということが出来ます。
#ですから、世に出回る商品宣伝も良く考えると.........(^^;;

 では、ビタミンの役割について簡単に触れてみましょう。
 ビタミンの役割は種類が多い事から想像できるかと思いますが、全体的に見てみると非常に広範な範囲に及ぶ、と言うことが出来ます。 各々のビタミンにはそれぞれの役割が知られており、またその役割は一つにとどまらないことも多いため本当に広範囲な役割があると言えます。
 どういう役割があるかと言いますと...........例えば、視覚に関する作用をする物もありますし、骨の生成に関する物もあります。血液の凝固作用を起こすものもありますし、様々な体内のエネルギーの生産プロセスに関わってくる物もあります。そして、一部の物は体内で活性酸素の除去を行うものもあれば、遺伝子の発現に関与するものもあります。
 取りあえず以下に主立った特徴を表にしてみました。


ビタミンの名称と特徴
性質名称生理作用欠乏症過剰症
脂溶性
Vitamin A
(レチノール/retinol)
視覚作用
粘膜・皮膚の維持
正常な成長
生殖機能維持
夜盲症
骨・粘膜・皮膚異常
成長遅滞
生殖機能障害
脳圧亢進症状
四肢痛
肝機能障害
Vitamin D
(カルシフェロール/calciferol)
カルシウムの吸収
細胞の成長・分化調整
発ガン抑制
免疫への関与
(紫外線により活性化する)
くる病
骨軟化症
異常石灰化
Vitamin E
(トコフェロール/tocopherol)
抗酸化作用
生体膜安定化
(ほとんどなし?)(有無は不明)
Vitamin K血液凝固因子の生成肝疾患
血液凝固時間延長
出血性貧血
(新生児・乳児以外極めて稀)
(不明)
水溶性
Vitamin B1
(チアミン/thiamine)
補酵素作用脚気
多発性神経炎
心機能障害
Vitamin B2
(リボフラビン/rivoflabin)
粘膜の炎症
Vitamin B6
(ピリドキシン/pyridoxine)
皮膚炎・口唇炎・神経炎
(腸内細菌の生産によって起こりにくい)
Vitamin B12
(シアノコバラミン/cyanocobalamine)
悪性貧血
ニコチン酸(nicotinic acid)
および
ニコチンアミド(nicotinamide)
ペラグラ
(症状:皮膚炎・下痢・痴呆)
パントテン酸
(pantothenic acid)
皮膚炎・成長停止
消化器・副腎・末梢神経
抗体産生・生殖機能の異常
ビオチン
(biotin/Vitamin Hとも)
ほとんどなし
(稀に乳児期に起こる)
リポ酸
(lipoic acid)
(腸内細菌によって生産。不明)
葉酸
(folic acid)
組織障害・貧血など
Vitamin C
(アスコルビン酸/ascorbic acid)
代謝機能
コラーゲンの生成
生体異物代謝に関与
免疫機能
壊血病


 まぁ......一杯あってピンと来ないかも知れませんが(^^;;
 基本的には生理作用を基準に考えて、欠乏症が起きた際には生理作用に関する事項に影響(粘膜を作るのならば、粘膜の異常など)が出るのは分かるかと思います。また、過剰症も同様です。
 また、実際には上記の作用のほかにもまだあることが知られており、また、未知の部分もあることが知られていることは頭に入れておいて下さい。

 取りあえず脂溶性ビタミンの方に注釈ですが...........
 ビタミンAは「レチノール」というアルコールなのですが、コイツが酸になって「レチノイン酸」になると遺伝子の発現に関与します。ビタミンDとあわせて遺伝子の発現に関与するのが特徴でしょうか。 ただし、遺伝子に関与する、という事は過剰にとれば当然悪影響.......例えばガンの発生率が増加する事が考えられたりしますので、結構侮れなかったりします。 これは事例がありまして、アメリカかどこかで、妊婦が(薬か何かで)ビタミンAを過剰に摂取しすぎたために胎内の子供に異常・奇形をきたしたなどという話も知られています。 あ、もちろん普通の食事をしていれば問題は起きませんので神経質になる必要はないです。
 ビタミンDですが、最近結構注目されたビタミンです。コイツはある波長の紫外線を浴びることによって初めて活性化することが知られています。基本的には、骨の吸収などに関与しますので、コイツを取らないと骨の成長異常を引き起こす事(くる病など)知られています。 面白いのは、この「紫外線」による活性化でして........まぁ、基本的には太陽光線を浴びれば活性化するのですが、ヨーロッパや冬の東北地方など、日光が当たらない時期がある所だと太陽が出ない=紫外線が無いためにビタミンDが活性化できず、くる病が良く起こる事が知られています。この為、ヨーロッパ等では日が出るときには良く日光浴を行う、と聞きますが、これは理にかなっていると言えます。
 ビタミンEは最近注目されているビタミンだったかな........生体膜の安定や、活性酸素等の除去を行う「ラジカルスカベンジャー」としての役割で注目されています。結構高いという話だったような(^^;;
 ビタミンKは血液凝固作用とありますが、主に出血時の凝固作用です。ですので、ビタミンKが不足していても見掛け上は何も障害が起きないのですが、出血時に血が止まらないという作用があります。 これを利用した殺鼠剤なんてのがあったような記憶があります(定かではありませんが)。

 次に水溶性ビタミンですが...........
 脂溶性ビタミンに無い特徴として、生理作用に「補酵素作用」というのが書いてあると思います。
 これは........生体内の酵素はアミノ酸で構成されているたんぱく質のですが、基本的にはコイツだけでは酵素としては「役立たず」な事が知られています。これを「アポ酵素(apoenzyme)」と呼んでいます。 このアポ酵素にある低分子の有機化合物と結合すると初めてこの「役立たず」の酵素が「本来の働き」を行うようになります。この状態の酵素を「ホロ酵素(holoenzyme)」と呼んでいます。
 ま、これは「酵素」という機械の欠けている歯車を「低分子の有機化合物」が歯車となって機械を働かす図を想像して頂ければ分かり易いかと思いますが...........
 さて、このアポ酵素に結合してまともな酵素の働きをさせる低分子の有機化合物を「補酵素」と呼んでいます。 水溶性ビタミンの「補酵素作用」はこれを示しています。
 つまり、上記の水溶性ビタミンは、特定の酵素と結合して働かせる役割を担っています。 よって、これらのビタミンが不足すれば当然の事ながら酵素は働くことが出来ず、それに伴って障害が発生する、という事が言えます。
 では、補酵素作用を持つビタミンはどういう作用をするかと言いますと、例えばエネルギーの生産に関与したり、色々な物質を変換していく作用に関与したりします。全部重要な役割を担います。
 ただし、一部の水溶性ビタミンは他にも作用を持つものがあり、例えばビタミンBは神経伝達に関与すると言われています。
 あぁ、そうそう。腸内細菌による生産、ってのがありますがこれはそのまんまです。が、しかし。抗生物質の長期投与でこれらの菌が死滅してしまった場合、この欠乏症が起こることがあるようです。 が、通常ではまずありません。こういうタイプのものは、神経質になる必要はありません。
#「共生」の良い事例ですね........

 上記水溶性ビタミン以外の水溶性ビタミンとしてはビタミンCがあります。 このビタミンは補酵素作用は特に知られていませんが、重要な代謝などに関与しています。また、コラーゲンに生成に深く関与することから、女性陣にはなじみ深いものかも知れません。 大航海時代、船員達を悩ませた壊血病(scurvy)を防ぐ物質として歴史的に有名です。ここから否定を意味する接頭語の「a」をくわえて「抗壊血病因子」という意味で「ascurvy」の酸、という事から「ascorbic acid」という名称になっています。また、抗酸化作用を持つことにより、ビタミンEの様なラジカルスカベンジャーの作用を持つことが知られています。ま、もっとも、まだ不明な部分も多いようなのですが...........
 また、余談ですが霊長類、モルモット、象等がビタミンCの合成が出来ない事が知られています。ま、ですから他の生命食べて得るわけですが(^^;;

 あぁ、あともう一個。
 余談というか何というか..........えぇと、ニコチン酸とかニコチンアミドって書いていますが、たばこにある「ニコチン」とは似ていますが全然違う物質ですので、御注意を! ニコチンは毒でこそあれ、ビタミンではありません。
 ですので、「たばこ吸ってビタミン補給」にはなりませんのでそこのところ、よろしくお願いします(^^;;


 さて、ここで脂溶性・水溶性の違いはある程度前回に話しましたが、もうちょっと踏み込んだ説明がここで可能となります。
 基本的に、その性質上から脂溶性ビタミンと水溶性ビタミンには生理作用上大きな差があります。これは、脂溶性ビタミンはそれ単体で生理作用を持ち、水溶性ビタミンは(若干の例外はあるにしても)それ単体では生理作用は持たず、補酵素としての働きが重要と言えます。  もう少し表現を変えますと........ 脂溶性ビタミンはホルモン的な作用を持つ、ということが言えます。
 これは、どこかにも少し書きましたが、細胞を取り囲む細胞膜や遺伝情報を持つ核を取り囲む核膜などは油で出来ています。この事から発展して考えてみれば、脂溶性ビタミンは直接細胞の内部にアクセスが可能ですので、様々な作用(命令など)を直接細胞に与えることが出来ると考えることが出来ます。 ただし、このような行動は水溶性ビタミンは出来ず、基本的には酵素と結合して働くのが仕事ですので、両者にはこのような違いが生じると言えます。
#だからといって、両者とも重要な物質であることは変わりありませんが。


 あぁ.......駆け足ですが(^^;;
 最後にこれに触れて取りあえず終わりにしましょう。
 「プロビタミン」って言葉を聞いたことがありませんか? この言葉は「プロ-」と「-ビタミン」に分割できます。この接頭語の「プロ-(pro-)」は辞書などを引いてみては分かる通り「前の」とかそういう意味があります。
 さて、この「プロビタミン」とは何でしょうか?
 ま、答えを言いますと、これその物にはビタミンとしての作用はありません。が、生体内に取り込まれてから代謝を受けてビタミンに変化して働く様な物質を言います。
 代表的な物を言いますと..........まぁ、プロビタミンDとかあるのですが、最も有名なのは「カロテン(カロチン)」でしょうか。
 構造を挙げてみますと........


 ご覧になれば分かる(?)通り、ビタミンAがちょうど2個分くっついた様な構造をしているのがβ-カロテン(β-カロチン)として有名な物質になります。
 このようなプロビタミンは、通常は体内の脂肪に取り込まれて蓄えられ、必要に応じて出される様になっており、またプロビタミンの場合に限り過剰症は知られていません。 ま、こういう形での摂取はある意味利点、となるのでしょう。

 余談ですが........
 「β-」とあるからには「α-」とか他のも存在します。一応、そう言った「カロテン」の仲間を総称して「カロチノイド」と呼んでいます。
 β-カロテンはビタミンAが二個くっついた様な、という表現をしましたが、β-カロテンから出来てくるビタミンAは1個なのか2個なのかは議論になっている(いた?)そうで......... まぁ、はじっこから切断して(分かる人向け注:β酸化とか)いって、最終的に1個のビタミンAを作る、というのが有力じゃないか?という話を学部生と時に聞いた記憶が...........
 また、この物質はオレンジというか、赤というか、そういう様な色を呈色するため(カロチノイドの特徴)、某有名食物繊維飲料の様な色を呈します。また、カロチノイドは紅葉などの色にも関与していく事が知られています。
 ま、余談ですけどね(^^;;

 ついでに分かる方(というか、学生向け)専用余談。
 カロチノイドが上記のような色を呈するのは、共役二重結合から出来る色です。 ついでに、共役二重結合とUVとの相関性、言えますか?
 典型的なイソプレノイドですね。これ。 メバロン酸経路をたどっていく物質です。C20とC40物質です。ついでに、Vit. Dの様なコレステロール骨格の場合はC30でスクアレンから出来ますね。
 Vit.E、Vit.Kも同様のイソプレン骨格を持っている事に注目すると、案外自然の仕組みを知るうえで面白いかも知れません。


 さて、駆け足ながら長くなりました。
 今回はこれで..........




 てなもんで、長くなりました(^^;;

 さて、今回の「からこら」は如何だったでしょうか?
 前回に比べると大分「深い」話にしてみました。まぁ、全体的というか、総合的に見てみた場合の話なのですが.......... ま、今回は「化学色」が強いとは思います。
 ただ、こう言ったことから発見をしてくれれば嬉しいのですが..........難しいですかね?(^^;; いや、病気との関連性とか。諸々と..........(^^;;
 え〜と.......分からん!という場合は、御一報をm(_ _)m
 ちなみに、一部ビタミンはそれぞれ独立したものでやる価値がありますので、いずれ触れるでしょう。

 さて、今回は以上です。
 御感想、お待ちしていますm(__)m

 それでは、次回をお楽しみに.............

(2000/03/21記述)


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