からむこらむ
〜その61:裸の数学者〜


まず最初に......

 こんにちは。徐々に関東地方では春が近づいていますね..........最も、北の方は吹雪いたりするようですが(^^;;; 皆様、いかがお過ごしでしょうか?
 管理人、気候の変化に最近疲れております。 まぁ、色々と体調を崩しやすい時期ですので、皆様お気を付けを..........m(_ _)m

 さて、今回はここのところ個人的作業が多く、今月一杯は忙しいので与太。
 まぁ、物理の分野のお話ですね。しかも、発見にまつわる話..........史上初のストリーキングが出てきます(笑)
 それでは「裸の数学者」の始まり始まり...........



 さて...........物質の物理的性質・特徴、という物を表すものにはたくさんの種類がある事は御存じでしょうか?
 そう言った性質・特徴を表すものの一つに「密度(density)」というものがあります。

 「密度」........ま、聞いたことはありますよね?
 じゃ、恒例ですが質問。

「密度」とは何ですか?


 まぁ、難しく考える必要もないですが...........
 文字から推測すれば、「密」の「度」という事になります。 もちろん、実際の意味もその通りでして............科学的に表現してみれば、「物質の単位体積辺りの質量」という言葉になります。まぁ、理化学辞典ですと更に訳の分からない表現になりますが(^^;; ピンと来なければ、かみ砕いてみますと「一定体積あたりの物質の重さ」となりますか(語弊がありそうですが(^^;;)。
 さて、この密度。 一般には、一立方センチメートル辺りのグラム数、で表記されています。 ま、単位として書くと「g/cm3」という表現になりますか。

 では、物質の密度にどういうものがあるかと言いますと...........御存じですか?
 一般的に有名なのは水でしょうか。 多分、学校などでは「水の密度は1です」と教わっているはずです。 食塩などは2.17、砂糖は1.59、ダイアモンドは2.0、海水は1.01-1.05、酒のアルコール(エチルアルコール=エタノール)0.789となっています。
 つまり.......1立方センチメートル(1cm3)辺り、水は1グラム、食塩は2.17グラム、砂糖は1.59グラム、ダイアモンドは2グラム、海水は1.01〜1.05グラム、エタノールは0.789グラム、となります。

 では、ちょっと考えてみましょう。
 上記の物質を密度の高い順に並べると、「食塩>ダイアモンド>砂糖>海水>水>エタノール」という順番になります。 では、全て1グラムあった場合の体積はどういう順番になりますか? と言われたらどう答えますか?
 ま、良く考えれば分かるでしょうけど.............(^^;;
 食塩が一番密度が高く、1立方センチメートル当たり2.17gとなっています。では、これが1グラムになると体積は.........1立方センチメートルも要りませんね。単純に言えば半分以下になります。 対してエタノールは1立方センチメートル当たり0.789グラムです。エタノール1グラム分、と言えば当然1立方センチメートルより多い体積となります。
 よって1グラムあった場合、体積はこの逆の「エタノール>水>海水>砂糖>ダイアモンド>食塩」となります。
 一応、この事は頭に入れておいて下さい。
#「密度が大きければ、少ない体積でも重い」、訳です。

 あぁ、余談ですが。
 密度と言うのは実際には気圧や温度で変化しますので、上記のものは厳密ではありません。 例えば、水は「1」となっていますけど、ものすごく厳密に........理化学辞典とか、理科年表を見れば分かるのですが、1気圧で0度の時にはその密度は0.99984、4度では0.99997となり、3.98度で最大になる..........なんて書いてあります。
 ま、水の場合、ここまでこだわっても通常は全然意味ないので、結局のところ「1」で使っちゃうんですが(笑)
#もちろん、必要によってはこれが重要、というのもあるのでしょうけど...........

 ちなみに........管理人が高校時代の時。
 学校の授業中に、先生(恩師です)が大体30mlぐらいの液体が入る小瓶を二つ、持ってきました。一つは水が入っており、もう一つは水銀が入っていました。
 これらの入った30mlの小瓶を授業中に回したのですが............水は30mlだと30gになります。小瓶の重さはこの際無視しますけど........... ま、これぐらいなら軽いものです。 で、回ってきた際にこれを受け取るのは全く苦では無いのですが、水銀は.........目茶苦茶重かったように記憶しています。 そう、「ズン!」って感じで。 それもそのはず。水の密度は上記の通り「1」でしたが、水銀は「13.6」となっていますので.........30mlの場合、30×13.6=408gとなります。
 まぁ、回すときにはこの先生は「必ず底をもって回して下さい」と言っていたのですが、それもそのはず。変に持てば、底が割れます。
 .............これが管理人が初めてまともに「密度」を実感した話でした。


 さて、ここである有名な、タイトルに冠したエピソードを。
 今から約2300年前.........紀元前3世紀のギリシアでのお話。
 シラキュース(シラクサ)市に住むある数学者は公衆浴場に入って、考え事をしていましたが............突然何かに取りつかれたかのように、「ユリイカ!!!」と叫びながら裸で飛び出し、シラキュースの町並みを走り抜けた、という話があります。
 この人物、実は有名、かつ偉大な数学者であるアルキメデスでして、「ユリイカ」とは「わかった」という意味です。 この人物は風呂に入って何かを思いつき、「わかったぞ!!!」と叫びながら街中を(すっぱだかで)走り抜けた訳です。
 何故か?
 アルキメデスはこの日、非常に大きな悩み事を抱え込んでいました。 それは、このシラクサの王であり、アルキメデスの親友(そして、親戚だったらしい)ヒエロ(ヒエロン)はアルキメデスにある相談事を持ちかけたことに端を発します。
 ヒエロ王が言うには、純金の王冠を作らせるために、金細工師に対し金を与えてこれを作らせようとしました。あくまでも「純金」な訳ですが....... ただし、当時はすでに合金を作る技術はかなり確立されており、青銅の様なものはもちろんのこと、金の合金も作ることが出来ました(余談ですが、中国でもこのころには合金製造技術はかなり確立されていたらしく、『周礼・考工記』なる古文書には合金の製法があったそうです)。 で、この金の合金ですが..........結構な割合の銅や銀を混入しても、金の色が出せたりできるものです。また、金と銀などは非常に容易に交じり合うことが知られており、鉱脈を掘って金が出た、と思っても大抵は銀が結構な割合で混ざっていることが多い、という事も知られています。また、装飾用は一般に十四金でしたが(二十四金が純金)、これでも見掛け上は純金と見分けるのは難しいと言われています。 そして、当時すでに金は「価値を持つ」金属であることは知られていました。
 つまり? ヒエロは、金細工師が与えられた金を実際には全部使わず、銀などと交じらせて金の使用量を減らし、自分が「ネコババ」しているのではないか? と疑い始めました。
 よって、これの解明を友人であるアルキメデスに頼んだ.............. が、しかし当時は化学分析なんて方法はそう発達しておらず。ましてや合金の割合の分析などとは.............
 これがアルキメデスの悩み事でした。

 ではアルキメデスが何を公衆浴場で「発見」をしたのでしょうか?
 アルキメデスがかつて球や円柱の「規則的な」形の固体の体積を求める計算式を解いていました(中学・高校でやりますね(^^;;)。 が、不規則な形の物の体積を求める方法はまだ、分かりませんでした。
 さて、彼は浴場で湯船に足を入れ、浴槽からあふれ出る水を見たとき..........「あふれる水の体積は、自分の体のうち、水の中に入れた部分と等しい」という事に気がつきました。 これは、球や円柱のような規則的な物体の他にも、人体のような不規則な物体でも、これの体積を求めることが出来る、という事になります。
 これが彼の、少なくとも街中を素っ裸で走り抜けさせるほどの「発見」となりました。

 さて、彼は家に帰って早速公衆浴場で得た「発見」を試してみます。
 彼は水を一杯に満たした容器に王冠を入れ、水をあふれさせました。 この水の体積は王冠の体積に等しいはずです。
 ま、ここは計算が面倒ですので、このエピソードを紹介している本の一つの数字を借りますが...........ヒエロが金細工師にちょうど2.27kg(=5ポンド)の純金の立方体を与えた場合、この立方体の一辺は4.9センチ。つまり体積は(三乗すれば)大体118cm3となります。 もし、この金細工師が命令通りにこの金を全部使い切って王冠を使用すれば、出来た王冠は例え形が変わっても、重さは同じ2.27kg、体積も上の通り118cm3となるはずです。 しかし、もし金細工師が重さの半分の金だけ使い、残り半分の重さ、1.135kgの銀を使った場合.......... 金の密度は19.3g/cm3、銀の密度は10.5g/cm3です(同じ体積なのに、約9グラムも違う!)。よって、出来る王冠は重さは2.27kgであっても、体積は純金のみの場合より、つまり118cm3よりも「多く」なります(同じ重さの場合、密度の小さい銀の方が「かさむ」為)。 計算してみると、金と銀が半分の割合で2.27kgの王冠の体積は167cm3となります。

 さて、ここでアルキメデスは三つの物を用意しました。
 一つはヒエロが金細工師に渡したものと同じ量の金。そして、その金と同じ重さの銀。 後は、件のヒエロの王冠です。 これを上に書いた通り一杯に水を入れた容器に沈めてみます。
 金を沈めてみてあふれた水の量と、銀を沈めてあふれた水の量。そして、王冠を沈めてあふれた水の量............. もし、王冠が純金ならば、金を沈めてみた時にあふれる水と同じ量になります。 もし、王冠が金と銀の合金ならば銀よりも水はあふれないものの、金よりも水はあふれるはずです。
 結果.........見事に合金であることが判明しました。

 さて、こうして判明してめでたし、めでたし.............とはこの話は終わっていません。
 実は、後日談があります。
 アルキメデスはこの実験の結果合金であることを証明してから早速ヒエロに報告しました。 ヒエロはそれを聞いてすぐさまその金細工師を逮捕し、裁判の結果処刑してしまいました(^^;;
 どう考えても金細工師には不幸な結末、としか言えないようです。 もっとも、「自業自得」ですが.............(^^;;

 尚、更に余談ですが.........
 一応、知られているかぎり、アルキメデスはこの事件が発端となって、科学史上唯一にして、歴史上初の「ストリーキング」として名を残しています(笑)
 もちろん、この部分は誇張した創作なのかも知れませんけどね(^^;;

 更に更に余談ですけど.........
 最初の方にダイアモンドの密度がありますよね? 真贋がつけられない「ダイアモンド」を用意しまして、これと同じ重さの本物のダイアモンドを用意してアルキメデスの実験を行えば、ちょっとした識別は可能となりますね................
#もちろん、密度の差が大きいものでないと駄目ですけど(^^;;


 はい、では長くなりました。
 それでは今回は以上で............




 おぉ........思ったよりも早い(^^;;

 さて、今回の「からこら」は如何だったでしょうか?
 今回はすみません。書いてある通りここのところ忙しいものでして........「与太」で上げてみたのですが如何でしたか?
 ま「密度」に関する与太話、と言う事でしたが.........まぁ、有名な話と言えば話なのですが(^^;; 素っ裸で駆け抜けたほうが有名かも知れません(笑)
 ま、たまにはこう言った比較的基本的なことをやるのもよろしいかと思います。

 さて、今回は以上です。
 御感想、お待ちしていますm(__)m

 それでは、次回をお楽しみに.............

(2000/03/28記述)


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