からむこらむ
〜その62:偶然の甘味〜


まず最初に......

 こんにちは。関東では大分ソメイヨシノが咲いてきました。もうちょっとで満開ですね。 皆様如何お過ごしでしょうか?
 管理人、気候の変化にまだ疲れております。 エイプリルフールに全力を尽くしたのが一因とも言われていますが...........(^^;;;
#文字通り四月馬鹿(^^;;

 さて、今回はそのエイプリルフールに力を入れすぎたために、全然「からこら」考えていませんでしたので与太です(^^;;
 人工甘味料三種類の話、をしてみたいと思います。
 それでは「偶然の甘味」の始まり始まり...........



 「甘い物」というのは皆さん好きですか?
 人間というのは本能的に甘いものが好き、と言われています。 理由は簡単。「甘いものはエネルギーがある」から。 つまり、生きるために必要である、という事からそう言ったものに「甘味」を感じる様に体が出来ている、とされています。 エネルギーを生み出す炭水化物の代表に糖の様な物がある事を考えれば納得されるでしょうか?
 ま、それはともかく..........「甘いもの」と言うのは色々と昔から話があります。 古くは.........狂言で太郎冠者と次郎冠者が出てくる、有名な「附子」(「あおげあおげ」「あおぐぞあおぐぞ」のくだりは有名でしょうか)なんかにも「甘いもの」が出てきます。和尚が好きだったわけですが........(^^;; 今でも当然「甘いものは別腹」と平然と言ってのけて色々と甘いものを食べたりする方が周辺にいらっしゃることでしょう。 その本人がご覧になっているのかも知れませんけど...........(^^;;
#余談ですが、過去に出てきた「臨終栄養士」はラザニア風スパゲッティ(結構なボリュームのスパゲッティ)を食べた後にケーキ二個食べてまだ足りず、土産に4個ケーキを買って家で一機に食った、という強者です(^^;;
#↑他にも彼に関しては色々とあり、「甘いもの専用胃」の存在を思わず信じたくなるようなヤツです(^^;;

 しかし、そのような甘いものが自由に食べられなくなる、という事もあります。
 あるときは糖尿病などの疾患から制限されて。あるときは、戦争などで物資が足りなくなって。 こんなとき、上記のように甘いものが欲しい、という欲求が出たら..........?
 そんなときに活躍した/しているものに人工甘味料、という物があります。

 人工甘味料という物にも色々とありますが..........代表的な三つの甘味料の発見の話をしてみたいと思います。
 そして、これから取り上げる三つの人工甘味料は面白いことに全て「偶然」の産物です。


 最初の人工甘味料として有名な「サッカリン」というものは、実は100年以上前......砂糖の代用として流行するはるか前の十九世紀にアメリカ人科学者アイラ・ラムゼンにより発見されました。
 この人物。アメリカで初めてヨーロッパに匹敵するレベルの化学教室を開いた人物だそうでして、後にアメリカの代表的化学者の一人となります。 ドイツの有名な化学者であるウェーラーの孫弟子に当たる人物になります。
 さて、1869年。ラムゼンの研究室のメンバーの一人、ファールバーグなる人物がある発見をします。 彼は自分に割り当てられた研究テーマの中で自分の作った物質が「たまたま」手に付き、これをなめてみたら異様に甘かった、という発見をしました。
 ま、前のベリルの話でも少ししたかも知れませんが、当時は化学物質を合成した化学者はにおいや味をみてみる、という習慣がありまして、その習慣が偶然この発見を手伝った、と言えます。 もちろん、今の時代には考えられない事なのですが..........(^^;;
#少なくとも、管理人の所では物が物だけに出来ませんが(^^;;;
 さて、この発見をしたファールバーグは、早速この物質の構造を調べ、工業的合成法を開発。1885年に特許を取得しました。 そして、彼がこの物質に付けた名称は「砂糖」のラテン語「サッカルム」からサッカリン、と名付けました。

 さて、時代は移って1937年。ヨーロッパでナチスが怪しい動きをしていた時期でしょうか。イリノイ大学のL・F・オードリース教授のもとで研究に携わっていた一人の大学院生が薬理学上興味ある性質を示すと予想されたある種類の物質(スルファミン酸)の研究をしていたマイケル・スベーダという人物が実験室でたばこを吸っているとき、そのたばこに強い甘味を感じたことに気付きます。
 何故だ?
 彼は早速調べてみた結果.......彼が合成していたシクロヘキサンスルファミン酸ナトリウムという化合物がこの甘味の原因であることに気付きました。ナトリウム塩でなくカルシウム塩も甘味があることも同時に分かりました。 ここからこの化合物は人工甘味料として........通称「チクロ」として使用されることになります。

 そして、時代は移って1965年。
 サール社の化学者ジェイムズ・M・シュラッターは抗腫瘍剤の開発を行っていました。この為にアミノ酸が四つつないで出来るペプチド.......「テトラペプチド」を作るため作業をしていました。上記の抗腫瘍剤の計画の中で、このテトラペプチドが彼らの研究で必要だったのですが..........
#消化管ホルモンの一種であるガストリンのC末端のテトラペプチドだったそうで...........
 さて、彼はあるときこの合成の作業の過程で、アスバルチルフェニルアラニンメチルエステルというアスパラギン酸とフェニルアラニンの二種のアミノ酸をくっつけた物質の精製過程(分かる人には「再結晶」中)で、溶媒(メタノール)に溶かしたこの物資がフラスコから混合物が沸騰してフラスコの外にあふれ出しました。 その結果、彼の指には粉末が若干つきました。 しばらくしてから紙を取るために指をなめたとき、非常に強い甘味を彼は感じます。 最初「朝に砂糖が指についたんだろう」と思った彼ですが、しばらくしてその間に手を洗っているはずであることに気付き、これがありえない、という事が判明します。 彼はこれが非常に気になり、この粉末を探し求めたところ...........結果、上記の物質であることに気付きました。
 二種類のアミノ酸からなるこの物質の毒性などたかがしれている訳で、彼はこれをなめてみたところ...........その甘味を確認しました。
 これが、現在では「アスパルテーム」として知られる物質の発見の話になります。


 以上のように、これら三つ人工甘味料は、全て「偶然」から。 しかも、「甘味料を作る」という目的以外から全て作り出されました。
 さて、ではこの三つの化合物の構造を示しておきましょう。



 人工甘味料は現代ではアスパルテームを中心に様々な物が使用されています。 こう言ったものが使用される理由は砂糖に比べて安上がりという理由のほか、砂糖の摂取による病状の悪化がされる場合や肥満、虫歯への対策として使用されています。
 現在の日本では人工甘味料は上記三種類のうち、サッカリンとサッカリンナトリウム、アスパルテームが。天然由来ではグルチルリチン酸二ナトリウムやD−ソルビトールやD−キシロースがあります。
 過去には更に風邪薬から合成されたズルチンなんてのもあったのですが、取りあえず今回はこの最初に挙げた三種類を扱いましょう。

 上記三種類の中で「最も甘い」のはサッカリンです。いや、上記三種類とは言わず、既知の物質の中で最も甘い物がサッカリンです。 その甘さは通常の使用形態では(資料によってまちまちな部分がありますが)、砂糖の500倍の甘さを持つとされています。 10,000倍に希釈した水溶液でさえまだ甘さを感じる、とされています。 現在の日本ではチューインガムに限り使用が許可されています。
 面白いのは、濃度が高いと苦味を感じる物質であり、濃度が低いと甘味を感じるとされ、口の中で唾液による希釈により甘味が長く残るという特徴があります。 また、他の甘味料と併用することで甘味が相乗的に増すことが知られています。 LD50は17.5g/kg(サッカリン、マウス、経口)です。

 人工甘味料としてサッカリンと並んで昔使用されたのがチクロです。
 その甘味は砂糖の約40〜60倍程度と言われて、上品な甘さを出すという特徴もあり、1956年に日本で認可されます。 LD50は17g/kgとされています。

 サッカリンとチクロは基本的には摂取するとそのまま排泄される物質でして、24時間でほとんどが排泄されてしまいます。

 このサッカリンとチクロは最初非常に良く使用されていましたが、戦後1950年代の後半に至って砂糖の輸入が順調に増えて砂糖不足が減ってくると同時に、これら人工甘味料(ズルチンも含む)の問題点........一般に「発ガン性」が指摘されるようになります。 これを機に調査が始まり、最初にズルチンが、次にチクロがアメリカで膀胱ガンの原因となる、という報告を受け消えていきました。
 そしてサッカリンは.......数十年にも渡り使用されていたのですが、1970年代にアメリカでサッカリンを与えられたラットに膀胱腫瘍が出来た事をきっかけに大問題となり、大論議が繰り返されて二転三転。結果、製造過程で生じる不純物が悪い、となりましてサッカリンそのものは「シロ」となりましたが、そのイメージを大きく変えられてしまったのは間違いありません。

 ま、サッカリンは大量投与での急性中毒として運動麻痺と脊髄反射機能に影響を当たることが知られており、運動歩行が困難となり、外部からの刺激によってけいれんを起こす、という事が報告されています。 また、10〜20%の溶液では粘膜に対して局所刺激作用があり、出血性の胃炎、下痢、嘔吐を引き起こすことが知られています。
 他にもサッカリンの大量投与による毒性は知られているのですが(膀胱ガンのプロモーターになるのではないかという説あり(1991))、基本的には大量摂取の可能性がない、とされ、制限下での使用が日本では許可されています。
#10,000倍水溶液でも甘さを感じるんですからねぇ.........(^^;;

 ちなみに、チクロとサッカリンは国によってはまだ使用されている物質です。


 さて、アスパルテームですが..........これは最近良くお世話になる方が多いのではないでしょうか?
 前にも.......『買ってはいけない』の検証をしたときに触れましたね。 大体砂糖の200倍ぐらいの甘さを持っています。 低カロリーであり、アミノ酸からなる構造から毒性は高くなく、サッカリンナトリウムの併用で相乗作用が。食塩、クエン酸があると甘味が増強されることが知られています。 ま、問題になるのは、せいぜいがフェニルケトン尿症の人や乳幼児が摂取できない、という事ぐらいです。
 ま、詳しい物性データは過去のヤツを見ていただくこととしまして...........
 今現在、この偶然で見つかった甘味料は所々で活躍をしています。


 さて、これらの.......本来の目的以外で偶然見つかった物質は、面白いことに構造が全然似ていません。
 ま、チクロとサッカリンはある意味似ているといえば似ているのですが(立体の共通性がどこまで似てこれるかが問題)、例え似ている、としてもこれらとアスパルテームは全く似ていません。 本当に、全然似ていません。
 ましてや、これらは砂糖などとはまるで違う構造を持った物質です。
 「甘味」を持つ化合物は色々と見てみれば、化学組成は違いますし、分子構造も事なります。 でも、何故か「甘味」という作用を人間にもたらします。

 このように、分子構造と生理学的機能の「見かけ」は違うが「働き」は一緒、という様なものは色々と生体内にありまして、そういうような事例は良く知られています。
 これらは、やっと.......最近になって説明がつけられるようになりつつあります。
 今、これらの分野が本当に大きく発展しています。
 よろしければ注目してみて下さい。




 何とか出来た(^^;;

 さて、今回の「からこら」は如何だったでしょうか?
 今回すみません。書いてある通りエイプリルフールに全力を尽くしましたせいで、全然考えていないうえに気力がそがれており、更に体調も今一つというトンデモねー状態になりました(^^;;
 ま、それでもどうにかやってみましたけどね(^^;;
 気楽な与太、という事で.........偶然の「偉大さ」とそれが我々の生活に関わっている、という事に少し感心を持っていただければ結構かと思います。

 あぁ......次回は何しましょうかねぇ........(^^;;
 いや、最近忙しいものでして(^^;; ま、何か考えたいと思います。

 さて、今回は以上です。
 御感想、お待ちしていますm(__)m

 それでは、次回をお楽しみに.............

(2000/04/04記述)


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