からむこらむ
〜その69:ホルモンと受容体〜


まず最初に......

 こんにちは。 一気に暑くなってきていますねぇ...........去年の経験から管理人は非常に警戒している今日この頃です。
 皆様もお気を付けを。

 さて、今回は前回の続き。というか、掘り下げていきます。 今回は後半が非常に重要な話となりますので、頑張って理解をしてみて下さい。 どれぐらい重要かというと..........「体の中でどうして伝達が起きるのか?」という部分に関わりますので。
 これを上手く理解できれば、今後色々と面白いことが説明可能です。 さて、上手く説明できるか.........?(^^;;
 それでは「ホルモンと受容体」の始まり始まり...........



 最初に。
 前回は「生体応答」の話をしましたが...........一応、前回はしっかり踏まえておいて下さい。
#「ホメオスタシスって何?」って方は前回を読んでからどうぞ。

 その前回で触れた通り、生体における色々な情報を伝達する手段として「ホルモン」と「神経」による物がある、という事は覚えていらっしゃるでしょうか?
 今回はまず.........「ホルモン」の方を主眼にこの伝達について説明してみたいと思います。
 .......とはいっても、あくまで「主眼」であって、実際にはホルモンだけじゃないのが重要なんですけどね.............

 さて、では最初に質問。

「ホルモン」って何でしょう?


 いや、結構聞く言葉だと思うんですよ。「ホルモン」って言葉自体は。人体に関する記事を扱うメディアでもある意味「当たり前」の様に使っていますから。 でも、実際にはそれが、その定義が何であるかを具体的に知る方はそうはいないでしょう。「漠然と」という方は多いかと思うのですが............ま、ある程度前回書いた通り「ホメオスタシスを保つ為に情報を伝達する化学物質」ではあるのですが...........
 まず、その点に触れてみましょうか。
 体の中には胃や腸にあって消化液などを分泌する腺組織があります。これは胃液とかそういうものであり比較的認識されやすいものでありますが..........これの他に化学的物質を分泌しこれを「直接血液中に」送りだす腺組織があります。 前者(胃液とか)を一般的に「外分泌腺(exocrine gland)」と呼び、後者(血液に送りだす)を「内分泌腺(endocrine gland)」と呼んでいます。
 さてこの内、内分泌腺から分泌される物質は血液によって運搬され、他の器官........「標的器官(target organ)」の活動を支配する働きをします(もちろんホメオスタシスを保つ為、です)。 このような物質を「ホルモン(hormone)」と呼んでいます。
 前回にある程度やりましたが、神経による高速な電気信号による伝達と、ホルモンによる化学物質による伝達で人体はコントロールされています。 神経による伝達は100m/sec.と書きましたが、ホルモンによる伝達は血流に流れていきますので大体秒速数センチメートル程度とされています。 ま、「それほど急がない」情報は大抵ホルモンが担当しています。

 では、続いて質問。

「ホルモン」を作る臓器はなんでしょう?
「ホルモン」にはどういった物があるでしょうか?


 などと聞かれたらみなさんはどういう想像されますかね?
 ホルモンを作る臓器...........そして、そこから作り出されるホルモン..........って言ってどれぐらい挙げられるか分かりませんが。 実は結構幅広いです。
 まず、代表的なものは脳にある下垂体という部分があります。ここは非常に重要でして、色々なホルモンを産生しています。例えば、成長ホルモンや甲状腺ホルモン。また「ホルモンを放出する(抑制する)為のホルモン」なんてのもあり、メラニン細胞刺激ホルモン、副腎皮質刺激ホルモンの様な物も産生されます。その他一杯あるのですが、全部はかけませんので取りあえず省略します。 また、喉にあり「H型」をしている甲状腺においていわゆる「甲状腺ホルモン」が産出されます。ここは重要でしてヨウ素(元素記号「I」)が必要な所であり、また女性に多い甲状腺異常による病気(パセドー氏病だったかな?)などはここが関与している例があります。 他にも有名なのは、膵臓のランゲルハンス島のβ細胞における「インシュリン」は糖尿病に関するホルモンとして有名でしょうか。 また、人によってはお世話になるケースもある、副腎皮質においていわゆる「ステロイド系」のホルモンが産出されていますし、今世紀初頭において高峰譲吉によって最初に発見されたホルモンである「アドレナリン」は副腎髄質にて産生されています(ま、この物質はちょっとホルモンとしては変わり者なんですが(^^;)。
 他にも消化器官では「消化官ホルモン」がありますし、卵巣で産生される卵胞ホルモン、黄体ホルモン(ピルに関係する)。精巣で産生されるテストステロンなんてホルモンもあります。
 ま、これ以上詳しく書くとはっきり言ってキリがないです(^^;;

 これらホルモンの働きはさっきから繰り返している様に「ホメオスタシスを保つ」のが目的ですが、この為にホルモンは「お互いに」分泌を抑制したり促進したりしています。また、脳の下垂体の前葉部分から出されるホルモンには、特定の内分泌腺を刺激してそのホルモンの分泌を促す、つまり「ホルモンを出させるためのホルモン」である上位ホルモンと呼ばれるものがあります。  これは、例えば末梢から「副腎皮質ホルモンを出せ」という要請を受けると、脳下垂体前葉から副腎皮質に対して「ホルモンを出せ」という指令を出させるホルモンが分泌されます。
 しかし、ある程度副腎皮質がこの命令を受けて血液中にホルモンを出すと、一定濃度以上になると今度は面白いことこの情報が脳下垂体前葉に伝わってこの上位ホルモンが抑えられていまいます。 この現象を「正または負の制御機構」と呼んでいますが..........こんな長ったらしい言葉は言えないので通常は手っ取り早く「フィードバック機構」と呼んでいます。
 このフィードバック機構はホルモンのみならず、別の生体における様々な局面で働いており、極めて重要なコントロール方法であったりします。 ま、必要以上に情報の垂れ流しをしてはホメオスタシスの維持に反しますしね...........
#フィードバック機構の概念は一部の技術関係なんかでも重要な概念だった様に記憶していますが............

 ちなみに、ホルモンは生体内で作られるのでその産生臓器を摘出してしまうとホルモンが当然のことながら出来なくなります。それにより臓器特有の障害が発生することになりますが...........いくつかのホルモンはこのように、特有の症状などによって発見されたものが多くあります。

 あ、これも書いておかないといけませんね。
 ホルモンというものの特徴に「ごく微量」で活性(働き)を示すという、というものがあります。血中の濃度は低くても標的器官に到達すれば働きを持ちます。 大体、濃度的には10-9〜10-15mol/l程度と言われ、血中の他のタンパクやアミノ酸濃度の数十万分の1程度の濃度です。 ただ、効果の発現まではホルモンによってまちまち、と言われています。
#mol=モル:分子の分子量ぶんの重さ(グラム)が1モル。 水(H2O:分子量18)が18gあれば1モルの水。 9gあれば0.5モルの水
 尚、ホルモンにもビタミンのごとく「水溶性」と「脂溶性」があります。 これが重要になる部分があるのですが...........





 さて、ここで一つ重要な話があります。
 上述した通りホルモンは分泌されると血流に乗って特定の、「標的」となる器官に刺激を与えるわけですが...........過去に科学者は次のような疑問を持ちました。

何故特定の「標的」にしか作用しないのか?


 つまり? そうですね。例えば副腎皮質に指令を送る副腎皮質刺激ホルモンが、何故副腎皮質のみにしか特異的に作用しないのでしょうか? 生体分子であるホルモンが何故、他の臓器に作用して勝手な働きを起こすという様な事が起きないのでしょうか?
 この疑問に対する解答として、近年ある考えが確立されました。
 その考えはホルモンにのみ適用される、と言うような物ではなくもっと広範に用いられる様になった極めて重要な考えであり、「分子」と「生体」との関わりにおいて重要な概念を確立しました。
 様々な実験の結果その重要なものは「受容体」と呼ばれています。

 「受容体」はまたは英語で単純に「レセプター(recepter)」と呼ばれています。
 受容体は細胞を覆う油の膜である「細胞膜」または細胞内、或いは細胞のDNA情報の詰まった「核」に存在してるタンパク質です。 役割は一種の「受付」というか「鍵と扉」という感じでしょうか?
 後者の例でちょっと説明してみましょうか。
 皆さんの自宅には扉があるかと思います。それはその扉に適合する鍵をもって開閉が可能となっています..........よね? つまり、その扉は他の人の家の鍵ではまず、通常では開けることは出来ません。 その扉にのみ適合する鍵以外ではカギ穴に差し込むことは出来ず、出来たとしても回らず鍵の開閉が出来ることはありません。
 実は、これが生体内でも言えるのです。
 つまり、このケースでは「受容体」は「扉」の役割を。 ホルモンなどの伝達物質は「鍵」の役割を担っています。 「A」という伝達物質にのみ対応する受容体「A’」があった場合、他の伝達物質「B」が「A’」に作用しようとしても「A’」はこれを無視してしまいます。 あくまでも「A」が来た場合にのみ「A’」は対応をします。

 では、これを先ほどの副腎皮質刺激ホルモンの例に入れ替えておきますと............
 副腎皮質には「副腎皮質刺激ホルモン」にのみ対応する受容体が存在しています(先ほどの「A’」に相当)。 血中に副腎皮質刺激ホルモン(先ほどの「A」に相当)が流されて来た場合、他の臓器では副腎皮質刺激ホルモンに対応できる受容体(「A’」)が存在しませんのでこれを無視してしまいます。 が、この血流が副腎皮質に到達した場合、副腎皮質にある副腎皮質刺激ホルモンの受容体がこの血中の副腎皮質刺激ホルモンを認識。 認識することによってそれに応じた役割を細胞内ではじめる.............
 そういうメカニズムになっています。

 ここで肝心なことは、受容体はそれぞれある特定の化学物質にのみに対応している、という点です(ただし、一個とは限らない)。
 これは有機化学の領域になるのですが、伝達物質の分子構造と受容体のたんぱく質の構造が一致するように上手く出来ているのが原因となっています。 これは同時に「生命」という物の構造の妙でもあるのですが..........
#一種、「美しさ」というか「神秘性」を感じますけど(^^;;

 では、受容体に物質がくっついたらどうなるかと言いますと.........これは物によって様々に働きが違ってきます。ま、もちろんそれぞれに役割があるのでそれによってしたがっていますが。
 例えば、脂溶性のホルモン(この場合ビタミンもそうですが)は細胞の中にそのまま入っていって核にアクセスし、核の受容体とくっついて直接遺伝子の発現やコントロールに関与したりもします。 逆に水溶性のホルモンは油膜である細胞膜に遮られてしまうので中には入れず、細胞膜上に存在するレセプターと結合し、レセプターはその情報を受け取って細胞の内部に指令を出す(水溶性の場合は直接細胞内への伝達が出来ないので、「第二次メッセンジャー」と呼ばれるものがこの伝達を行います)ようにして、目的にかなった働きをします。
 ま.........現実社会で言えば、脂溶性のヤツは内部事情に詳しい人間でフリーパス状態で金庫や機密情報を取りだすことが出来る、という感じでしょうかね。 水溶性は完全に中に入れない人間で「情報伝達指令」という書類をもって「受容体」という受付に書類を提出。受付嬢(第二次メッセンジャー役)は内部でその書類を処理して更に上司(核やオルガネラ(=ミトコンドリアや小胞体等))へ連絡..........と、そういう感じでしょうか?

 ま、ホルモンの例で言っていますけど当然他の例でもたくさんあります。
 例えば、神経の伝達では神経伝達物質とその受容体の存在があります(これは近々やるでしょう)。 またもっと身近な例を挙げるならば、「におい」なんてのがあります。ピンと来ないかも知れませんが「におい」も化学物質でして、鼻の中にはそれぞれ「におい」に対する受容体が存在し、においの分子とこの受容体がくっつくことで内部に「こういうにおいが来た」という情報を出します。 また、「味覚」もそうでして、「甘味」を感じる受容体に甘さを感じさせる分子(例えば「砂糖))がくっつけば、「甘い」と感じる、と...............

 では、もし。人工的に作られた物質がこの受容体と結合が出来る、なんて事が起きたらどうなるかというと?
 まぁ、有機化学的に分子の構造が似ていればこれは充分に起こりうる(そして起こっている)のですが、受容体は「指令が来た」と思ってその役割を果たそうとします。 これが過ぎると当然病気の状態に陥ることとなります。
 例えば? そう、昨今やたらと騒がれた「環境ホルモン」なんてのはまさにこれでしょう。 その化学構造がホルモンに似ていたために受容体を「騙して」働かせて勝手にあれこれと..........というのがこれになります。しかも厄介なことに通常はレセプターに付いた分子は酵素によって分解されてしまうのですが、環境ホルモンはこれを分解する酵素が存在せず...........当然ホメオスタシスの保持に対してこれは大きな影響を及ぼす可能性があります。
 また、特定の病気に関しては第二次メッセンジャーのメカニズムを阻害したりするものが知られていたりします。 例えば、コレラはこの第二次メッセンジャーの働き(厳密には「そこに至るまでのプロセス」)を阻害してしまうことが知られています。 このような事項は他にもいくつか知られています。
 ただし、悪い一方ではなく、そう言った特定の受容体に「蓋」をしてしまえば..........ある種のアレルギー症状などは特定の物質に過剰に反応するためにアレルギー反応を起こしますが(もちろん単純じゃありませんけど(^^;)、その物質の受容体に「蓋」をしてしまえばアレルギー症状の改善などができます。 これは一種の「薬」としての作用も期待することが出来ます。 比較的最近の例では、花粉症なんてのがありますが、花粉症の薬で「なんちゃらブロック!」とか叫んでいるCFがあったのを覚えていらっしゃるでしょうか? そう、細胞の表面をイメージした図で、その表面の「へこみ」に対して「イガイガ」の花粉をはじき飛ばして「薬剤」がへこみに収まる.........なんてのがありました。これ、「へこみ」は受容体をイメージしたもので、これを薬剤が「保護」することでアレルギー物質の分泌を促進させる物質と受容体との結合を抑える(=アレルギー物質を出させないようにする)、という働きをイメージ化したCFだったりします。

 ま、他にも味覚だと「ミラクルフルーツ」なんてのがありますが、アレもミラクルフルーツのある物質(「ミラクリン」だったかな?)と受容体との関与だったりします。


 おや、長くなりました。
 今回は以上ということで................




 ん〜〜〜...........今回も大丈夫かなぁ.............

 さて、今回の「からこら」は如何だったでしょうか?
 今回も概念です。しかも受容体という極めて重要な話でした。 が..........大丈夫でしょうか? これ、生体に関しては極めて重要な概念でして、飛んでもなく今後に関与していくのですが............
 まぁ、ある程度頭に入っていれば(役割というか、存在というか)大丈夫なんですけど...........説明が大丈夫なのかの方が心配です。
 すみません、良く分からなかったら一言言ってやって下さいませm(_ _)m
#結構悩んでいますので。

 てなもんで、今現在燃えつき気味です(爆)
 次回は全然考えていませんが..........あぁ、ホルモンが途中なんですか(^^;; そっちやらないとダメですかね...........
 ハイ、頑張ります。

 さて、今回は以上です。
 御感想、お待ちしていますm(__)m

 それでは、次回をお楽しみに.............

(2000/05/23記述)


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