からむこらむ
〜その70:ホルモンの種類と働き、ドーピング他〜
まず最初に......
こんにちは。 一気に暑くなりました。天気図には南の海上に梅雨前線も見えてきました。 いよいよ梅雨が近づいてきているんですねぇ..........
あぁ........暑い夏が近づいているんですねぇ.........(~_~;;
#暑いの苦手(爆)
さて、今回は前回中途半端にしか触れられなかったホルモンの話。もうちょっとしっかりやってみたいと思います。 ま、これで生体応答の「ホルモン」のおおまかな概要は終わりにするつもりです。 ま、細かいヤツは別の機会にやりたいと思っていますけどね(^^;; 発見話とか..........
ま、取りあえず概要について、です。
それでは「ホルモンの種類と働き」の始まり始まり...........
さて、前回は「受容体」をメインにやりましたので、今回は(前後が逆になっている感じですが(^^;;)ホルモンについて、もう少ししっかりやってみたいと思います。前回と重なっている部分もあるかも知れませんが、御容赦を。
さて、ある程度は前回を見ていただくとしまして...............
ホルモンが働く仕組みについて最初に触れておきますか。
ホルモンという物は前回触れたように標的器官に対して働くわけですが、この分泌を促す「刺激ホルモン」という物が存在しています。
この刺激ホルモン。ま、早い話「ホルモンを出す様に指示する」ホルモンでして...........そのホルモンは脳の中にある、脳下垂体で生産されています。そして、この「刺激ホルモンの放出を促す」ホルモンという物もありまして..........これは同じく脳の視床下部で作られています。 つまり、視床下部で内分泌系の制御がなされています。
ま、ピンと来ないと思うのでこの位置について簡単に書いておきますと..........脳は周辺を大脳で「包まれて」いる様な構造になっています。その包まれている中に視床という部位がありまして脳幹に通じています。この部分の下に「視床下部」があります。そして、その視床下部の下にぶら下がるようにして存在する「袋」があるのですが、これが「脳下垂体」となっています。この脳下垂体はわずか1グラムにも満たないとされている組織でして、豆状の組織です。ここでは更に「前葉」「中葉」「後葉」に分かれています。 余談ですが、古代ギリシャではこの部位を「脳の廃液を集める袋」と考えたそうですが.........(^^;;
尚、この脳下垂体からホルモンを放出する刺激を出す物質、という事で研究されたのは実は戦後のことです。 この脳下垂体を除去することでラットの生殖機能が消失することを見つけたことがきっかけでして、この結果この部位の研究とホルモンの研究が本格的に開始されるのですが...........。
ま、それはともかく、上記の様にホルモンを放出するには面白いことに.........視床下部からスタートして脳下垂体を経由する伝言ゲームを行って、つまり数段階を経て行われています。
例を一つ........甲状腺ホルモンの例が良くでますので、これで説明してみましょう。
生体から要求が来て甲状腺ホルモンを分泌する必要性が出ると、まず視床下部からTRH(チロニン放出ホルモン)が分泌されます。 このTRHは視床下部にぶら下がっている袋である脳下垂体前葉に対して「甲状腺刺激ホルモン」であるTSHの放出を促します。 この刺激によりTSHが脳下垂体前葉から放出され、甲状腺に運ばれていき、今度はTSHが甲状腺に対して「チロキシン」という甲状腺ホルモンを作るように伝達を行います。
もちろん、このホルモンによる伝達は前回やった「重要な」部分である受容体によって伝達された結果なのですが...............この結果、甲状腺が正常に働くようになっています。
つまり.......「TRH放出」→「TRHによってTSH放出」→「TSHによって甲状腺ホルモン生産開始」という三段階を経て目的のものが出来るようになっています。 もちろん、この後は生産された甲状腺ホルモン(TH)が標的細胞に向かっていくので、こう考えれば四段階、とも言えますけどね。
..........まぁ、神経のような電気伝達に比べれば気長といえば気長ですか(^^;;
ただ、当然量が多くなると障害が出てきます(=ホメオスタシスの保持が出来ない)ので、血液中のホルモンの濃度が一定以上を越えると、前回触れた「フィードバック機構」という制御システムが働きまして、視床下部から今度は「ホルモンの放出を抑制する」ホルモンが生産されて放出され、これによりホルモンの生産を抑制する働きに出ます。
あ、もちろん上記はあくまで例でして..........
脳下垂体から出るホルモンは更に豊富にあり、脳下垂体前葉からは成長ホルモン(GH)、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)、黄体形成ホルモン(LH)、プロクラチン(乳腺刺激ホルモン)が。中葉からはメラニン細胞刺激ホルモン(MSH))、後葉からは抗利尿ホルモン(ASH)、オキシトシン(平滑筋刺激ホルモン)が出されます。
これらはそれぞれ、繰り返し書いているように目的となる臓器の標的細胞まで血流にのって標的細胞まで運ばれていき、その受容体と結合することによってそれぞれの役割(臓器にホルモンの放出を促す、など)を果たしていきます。
尚、余談ですがこのTRHという放出ホルモンは凄まじい程の争いがありまして.............
このホルモンの精製や構造決定には二人の科学者のグループによる壮絶な争いがありました。その二人はロジャー・ギルマンとアンドルー・ビクター・シャリーという人物でして......... 伝えられるところによると、ギルマンは羊の脳を、シャリーは豚の脳を使ってこのホルモンの分離に挑んだのですが............ギルマンはじつに75万頭の羊、シャリーはじつに26万頭も豚の視床下部を使用したと言われています。この中からお互いにそれぞれTRHを数mgずつ分離することに成功しました(^^;;
ま、「たったそれだけ?」って思われるかも知れませんが、前回話した通りホルモンの特徴の一つに「ごく微量で活性(働き)を示す」という物がありまして..........TRHは10pg(ピコグラム=10-12g→その42、その43参照)という程度の超々極微量(目に見えるとかそういうレベルでは無い程の量です)で活性を示す事が知られています。
あぁ、忘れるところでしたが.........TRHの競走に関しては、「僅差」でシャリーが勝利したことが知られています。 この二人はこの後も本当に壮絶な、ホルモン研究に関する競走を繰り広げているのですが...........(^^;; ま、結果的には、1977年のノーベル医学賞で二人とも揃って受賞しているんですけどね(^^;;
#それだけ両者とも優れた研究だった、という事です。
尚、ホルモンの様な血流に乗っていくタイプの生体情報伝達物質は他にも存在することが知られています。
特にホルモンに似た様な物質としては「プロスタグランジン(PG)」と呼ばれる物質が知られています。が、しかしこちらはホルモンよりも多量の濃度でないと働きを持たず、また血流中での寿命が短いことが知られています。 一般に輸送距離が短い場合に使われる事があります。
ただし、このPGは実に重要な物質でして、血液の凝固作用や頭痛の情報伝達などを行うもの等があります。いくつかの薬はこのPGを阻害することが知られており、例えば有名なアスピリンなどはこのPGを阻害することで頭痛を抑える事が知られています。
一応、このPGも頭に入れておいて下さい。
さて、ある程度前回とかあわせると以上で大体大要が終わっちゃうのですが...........あ、まだありますか(^^;;
各種ホルモンの構造について少し書いておきましょう。
ホルモンの構造は色々と研究されており、必要に応じて合成や構造の修飾などが行われ、現在は薬として出回っているものが多くあります。 例えば? そうですね。管理人なんかは昔はアトピー性皮膚炎に悩まされていたのですが、ステロイド剤を塗ることでこの情況を著しく改善した記憶があります。
ま、水溶性や脂溶性、とかそういう種類の差もありますけど..........基本的にはいくつかの構造の特徴によるグループに分かれています。 特に多いのはアミノ酸(その32、その33)が連なって出来た、いわゆる「ペプチド」ないし「たんぱく質」と呼ばれる、通常「ペプチドホルモン」と呼ばれるものがホルモンには多くあることが知られています。 例えば、先ほどのTRHは加水分解するとグルタミン酸、ヒスチジン、プロリンという三つのアミノ酸で構成されていることが知られていますし、副腎髄質から分泌される(最初に結晶化されたホルモンであり、神経伝達物質として有名である)アドレナリンはアミノ酸の構造を修飾したものとなります。また、もう一つ例を挙げるならば膵臓のランゲルハンス島にあるβ細胞から分泌される、体内での血糖値の調整を行う事で知られる「インシュリン」は51個のアミノ酸からなるたんぱく質であることが知られています。
また、この他に有名なのが「ステロイド」と呼ばれる骨格を持つホルモンでして、「ステロイドホルモン」と呼ばれるものが有名なものが多いでしょうか。 ま、コレステロールから生合成されたりするのですが......... そうですね、男性ホルモンである「テストステロン」、女性ホルモンである「エストラジオール」、黄体ホルモンであり、卵巣からの排卵を抑制する経口避妊薬「ピル」の成分である「プロゲステロン」、抗炎症剤である「コルチゾン」など色々とあります。 この構造のものは比較的多く、ビタミンDもこの仲間に入れることが出来るでしょう。
一応、参考までに構造を出しておきます。
構造が似ていると.........思いません??(^^;;; いや、有機化学などをやると「良く似ている」と思いますし、生体物質の研究に触れると尚更、なのですが..........(^^;;;
ちなみに、メチルテストステロンと、スタノゾールは筋力増強剤です。これは後に記述しておきます。
尚、甲状腺ホルモンは両者に属さない構造のホルモンであることが知られています。 ついでに、このホルモンはヨウ素が必要なホルモンであり、ヨウ素の摂取が足りないとこのホルモンに影響を及ぼし甲状腺に関して異常を生じる事があります。
で、上に書いておいた通り触れておきましょうか。
ステロイドホルモンですが、コイツの仲間にはいわゆる「筋肉増強剤」となる様なやつがありまして...........ま、「メチルテストステロン」や「スタノゾール」と呼ばれるヤツがあるのですが..........こいつら、いわゆるドーピングってヤツに使われる事が知られています。
ま、ドーピングと言っても幅広く、刺激剤、鎮痛剤、興奮抑制剤、利尿剤、筋肉増強剤とかありますけど...........結構上記のようなホルモンが大きく関与しているものが多いです。 で、メチルテストステロンとスタノゾールというのは実は男性化を促すホルモン(男性化タンパク同化ホルモン)でして........男性化、前立腺肥大、精巣縮小、不眠などの副作用が知られています。
あ、もちろん競技では禁止薬物ですので御注意を!
さて、ステロイド系のホルモンは先ほど挙げたようなアトピー性皮膚炎の薬や、リウマチ関節炎などの為の抗炎症剤として非常に良く利用されるのですが.......... 長期の大量使用による弊害は良く知られているところでして、いわゆる「ムーンフェイス」という顔がむくんだ症状を起こしたり、依存が過ぎると体内で合成をサボりはじめるという現象を起こします。 結構、後者は経験から言って洒落にならず、症状が一時的に薬物によって改善されてもその後に更に悪化していく..........そして、また大量に薬と、という様な悪循環に陥ることがあります。
#経験者として言っておきますが、洒落になりません!
基本的に、ホルモンはビタミンなどとは違い、自前で。つまり体内で必要に応じて合成されていますので、ドーピングしようが薬として使おうが、ピル飲んで避妊に使おうが結局は体にホメオスタシスの混乱を及ぼしますので、その使用の際には出来うるかぎり医者の指示をしっかりと仰ぐことをお奨めします。
っと..........脱線しそうですので、取りあえず以上で(^^;;;
さて、数回にわたり、簡単にホルモンと、そして受容体について触れてみました。
ホルモンは細かいところなどはまた、別の機会にお話することとなるでしょう。 開発や競走、病気に関して深く関わっていますので..........
そういうわけで以上でホルモンの大要は終わり、とさせていただきます。
長くなりました。以上としましょう。
そういうわけで、残った部分も終わり、と。
さて、今回の「からこら」は如何だったでしょうか?
前回は受容体について触れておきました。今回は前回中途半端になったホルモンについて、残った部分を(重複部分もあるような気がしますが(^^;;)やってみましたが..........ま、薬なんかで良くお世話になることもありますので。参考にしていただければ、と思います。
ま、「多段方式」「微量」「ホメオスタシス」ってのがこのホルモンのキーワードなんですけどね。後は「受容体」ですか。 頭に入れておいていただければ後の理解に役立つと思います。
てなもんで、取りあえずホルモンは終わり。 細かい、別の部分はその内やることになるでしょう。
で、次回は全然考えていませんが..........どうしましょう? 生体物質は後は神経には触れなければならないのですが...........このまま生体の情報伝達の「神経について触れる」か、疲れるので「別のネタをワンクッション入れる」かで考えています。 え〜........どっちが良いか、ご覧になっている方にお任せしたいんですけど..........(^^;;;
すみません。あの、ゲストブックにどっちが良いかだけでも結構ですので、書いていただければありがたいです。
さて、今回は以上です。
御感想、お待ちしていますm(__)m
それでは、次回をお楽しみに.............
(2000/05/30記述)
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