からむこらむ
〜その18:炭素と構造〜
まず最初に......
こんにちは。「黄金週間」(「暗黒週間」という説もあり(^^;;)も終りですが皆様如何お過ごしでしょうか?
私の友人もそうですが、ある方は帰郷なされたでしょうし、ある方は仕事。そしてある方は飲み会と.........充実(?)されたでしょうか? ちなみに、私は休息を決め込んでいます(^^;;
さて、今回はまた「基本話」。
「有機化学」と呼ばれる世界で、非常に「重要な」........そう、脊椎動物で言う「脊椎」に当たると言っても過言ではない「炭素」の鎖についてのお話。この炭素の鎖が物質を組み立てているのですが.......... そうそう。今回は「その15:原子の「手」」の延長になりますので、お忘れの方は見直して頂ければ、今回は少し(?)分かりやすくなるかと思います(「手」の概念を思い出して頂ければOKです)
それでは、「炭素と構造」の始まり始まり..........
いわゆる「生命」はさまざまな物質により支えられている事は御存じかと思います。例えば、細胞。 この細胞はタンパク、アミノ酸、核など........これらは全て「有機化合物」と呼ばれる一群の物質が非常に重要なウェイトを占めています(まぁ、もちろん水が多いのだが)。 皆さんが得られる「感覚」も神経が有機化合物を使って信号を送り出しますし、脳は栄養としてブドウ糖という有機化合物を使います。 そして、薬も有機化合物が占めますし.........そう、有機化合物が非常に重要である事は認識していただけるかと思います。
さて、将来の「からむこらむ」を理解していただくうえで、この「有機化合物」についてある程度の理解をしていただきたいと思います(いや、別に「量子力学」の絡むようなものはしませんけど.........きりがないので(^^;;)。
この「有機化合物」という物。これはよく見てもみなくても、その構造には非常に「限定された」原子で構成されていることがわかります。例えば非常に多い「水素(H)」、アミノ酸(=たんぱく質)に必要な「窒素(N)」、同じくアミノ酸(=たんぱく質)にも含まれる「イオウ(S)」、DNAや農薬に必要な「ライトブリンガー」である「リン(P)」など............しかし、上記のみでは「画竜点睛を欠く」どころのレベルではすまないぐらい足りません。 そう重要なものが欠けているのです。 それは「炭素(C)」になります。これが有機化学では非常に重要なのです。
この「炭素」と言うもの。その15にあるように、原子価が4........つまり「結合に対して使える「手」が4本」あります。 有機化合物はこの「4本の手」を駆使して「炭素骨格」と呼ばれる物を構成しています。例えば、炭素骨格は以下のような図に表せるような共有結合で繋がっています(「炭素」のみ表示)。
上記の図で、もし「手」の先(合計14個)が水素になっていれば、飽和炭化水素化合物。つまり「アルカン」であり、炭素が六つ(=hexa......「ヘキサ」:その14を参照)であるので「ヘキサン(hexane)」になります。そう、C6H14です(CnH2n+2とやった奴です)。
この「炭素の手」ですが、非常に長く繋げることが出来、10個、20個............と繋げていく事が可能です。が、しかし...........炭素はまっすぐだけでしょうか? 答えはNOです。次のような事も可能になります。
そう、いわゆる「枝分かれ」も構造的には可能なんです。実際には、10個、20個と増えていくと、こうやって「枝分かれ」している事が多いです。
そして、上の図で注目して欲しいのは、もしこの化合物が飽和炭化水素化合物であった場合、その化学式はどうなるでしょうか? 炭素は6個。その「手」の先に水素がつくとしたら、水素は........14個になります。つまり、C6H14です。 そう、枝分かれしても、「アルカン」はCnH2n+2の式を保つことが出来ます。 ただし、物性(物質の性質)は、全く違うものとなります(これが有機化学の面白いところになります)。
尚、命名なのですが、この図の更に上にある図の様に「直線の炭素鎖」の場合、その化学式に「n-」をつけてやりますと、「直鎖」の意味になります。上にある「まっすぐなヘキサン」の場合、「n-ヘキサン(n-hexane)」と呼びます。
また、上の様に枝分かれした場合、「一番長い炭素鎖」を基準にして名付けてやるルールになっています。例えば、上の図の左の化合物は、炭素が6個の化合物ではありますが、「一番長いまっすぐな炭素鎖」は「5個」になりますので、「ペンタン(penthane)」(5=penta「ペンタ」より)をベースに名前をつけてやります(上記の場合は3-メチルペンタン(3-methylpenthane)という物質になります)。 右の場合は同様に、炭素4個ですので、(命名法の特例により)「ブタン(buthane)」をベースとした化合物となります(「テトラン」じゃ無いです。 また、この物質は2,2-ジメチルブタン(2,2-dimethylbuthane)と言います)。
ただし、以下の様な式は一緒になってしまいますので、表現に注意が必要になります。
ちょっと省略した書き方をしていますが(スペースの都合上です)、上記の様な炭素のつながりで飽和炭化水素化合物(つまり「アルカン」)があった場合、上記のものは全て「n-ヘキサン」となります。どんなに「見かけが」曲がりくねっていようが、「一番長い炭素鎖」を意識すれば.........おのずと答えが出るでしょう。
さて、この炭素鎖。「まっすぐ」や「枝分かれ」の他に別の構造を取ることが出来ます。 それは何か? 「環状」になります。
炭素の「手」の向きを変えてやれば、上図のような「輪っか」の構造を作ってやることも可能となります。 ただし、物理的には炭素が少ない環状の物は比較的作りにくく、一番安定するのはだいたい炭素6個の環状化合物の様です。
尚、上記の環状化合物で飽和炭化水素化合物の場合は、その命名は「炭素の数を元に命名したアルカン」の前に「環」を意味する「シクロ(cyclo)」をつけてやることで、命名することが出来ます。
※上図で余っている「手」の先が全て水素であった場合、その名称は左から「シクロプロパン」「シクロブタン」「シクロペンタン」「シクロヘキサン」になります。
尚、こういった環状化合物は、「アルカン」と言えどCnH2n+2の式ではなく、CnH2nの式で表すことになります(数を数えればわかるでしょう)。また、物性は鎖状の物とは全く違ったものとなります。
さて、ここでちょっと構造を考えてみましょうか。
アルカンで一番単純な構造の物はメタンで、CH4の式で表せます。
でも、よ〜く考えてみてください。 本当にメタンというものはこんな「平面な」構造なのでしょうか? 答えは違います。 実際には「立体的」な構造をしており、以下の図のような構造を取っているのです。
実はこれ、非常に重要でかなり研究されており、C-Hの間は1.01Å(オングストローム)。そして4つのC-H結合間の角度は109.5°になっています。 そして、メタンのこの数値は、物理学者達がはじき出した予想値とぴったりと一致しています。
さて、これが何を意味するか? それは、「物には立体構造がある」という単純でありながら非常に重要なことを意味しており、これが.........例えば、人の生体内での薬の挙動や、親和性(効果)に対して重要になっていきます(これは、後々触れていくことになるでしょう。たったわずかな違いが重要な問題を引き起こすことを...........)。
さて、こういった炭素の立体構造。メタンの様な単純な物だけでなく、上にあるようなn-ヘキサンになったらどうなるか? そう、メタンの水素を一個引っこ抜いて、そこに炭素を入れて.........という事を考えればわかるでしょう。非常に「でこぼこ」の構造を取ります。実際には、紙にまっすぐ書くような構造じゃ無いんですね...........(シクロ化合物も同様である)。
さて、長くなりました。 今回は最後に、この炭素の立体構造についてもう少しだけ触れておきましょう。
ちょっと思い出していただきましょうか..........そう、この話の最後に追加で入れた、同素体なのですが..........
炭素は同素体がある事は前に触れました。その一つは(女性のあこがれ?)ダイアモンドであり、そして黒鉛であったりします。そう、この二つは純粋に「炭素」で出来ているのですが、この違いは一体何なのでしょうか? この二つの違いはずばり、立体構造の違いになります。
これはどういうことかと言いますと、ダイアモンドの場合は、ちょうどメタンの図の水素を全部炭素に替えた様な構造がずっと続きます。そう、炭素の「手」をフルに活用して構造を作っています。
しかし、黒鉛は? これは環状の構造をしたものが「横に」並んでいった様な構造をしています。これは、ダイアモンドが「縦横全て」とくっついているのとは異なり、「縦につながりが少なく、横にくっついていっている」ような構造..........つまり、ダイアモンドに比べて炭素の「手」を活用していない構造になっています。
何故、ダイアモンドと黒鉛に量の違いが出来たか? それは実験により地球創世時並の「高温高圧」下で「のみ」ダイアモンドが出来る「可能性」がある、という事がわかっています。
まぁ、人工ダイアモンドの話や、ダイアモンドを上回る硬度を持つ物質の話もあるのですが、それはまた別の機会に.............
う〜ん........ちょっと難しいかな.........
さて、今回の「からこら」は如何だったでしょうか? 取りあえず、有機化学の構造の基本を触れてみましたが...........
実は、これは次回に続くようになっています。はっきり言って足りませんので。 次回は何をするかと言いますと、もう少し突っ込んだ内容にする予定です。 立体などにも触れていますが、これは「そんなものか」で良いかと思います。
尚、「意味がなさそう」に見えるところが、実は後でしっかり出てきますので、頭の隅っこに残してくださると嬉しいです。
まぁ、ちょっと難しいかもしれませんが、疑問・質問がありましたら遠慮なくお伝えください。補足はしっかりしますので........よろしくお願いします(あと、出来ましたら感想も........(^^;;)。
また、しばらくはこの「基本シリーズ」になると思いますが、御了承を。このシリーズを済ませてから、色々とやります。(#だからこそ、御質問・御感想が重要なのです.........無きゃ無いで良いんですけど)
それでは皆さん、5月病の季節ですが(^^; 体には気をつけてお過ごしくださいませ。
(1999/05/05記述)
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