でも、おしまいにとうとう両腕をせいいっぱい大きくひろげて、キノコのふちにめぐらし、両手でちょっぴりずつキノコのはじを欠きとった。
「さて、どっちがどっちかな?」アリスはつぶやき、右手の分をちょっぴりかじってみた。とたんに、あごの下にがんとつきあたったものがある。足があごにぶつかったんだ。
あんまり急な変わりように、アリスはいいかげんぞっとしちゃってね。でも背はどんどんちぢんでゆくし、もう一ときもぐずぐずしてはいられない。すぐさま、もうかたっぽの分をたべることにした。あごはぴったり足におしつけられていて、口をひらくのさえやっとだったけれど、そこをむりやりにこじあけ、左手にもった分をどうにかのみこむことができた。
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「あぁ、やっと首がうごかせるようになった!」アリスはうれしそうにそういったけれど、次の瞬間には自分の肩が見えないのに気がついて、どきっとしちゃってね。下をむいても目にうつるのは、恐ろしく長いくびばかり。それが何かの茎みたいに、はるか足もとにひろがる青葉の海からひょっきり生え出ているんだ。(『不思議の国のアリス』/ルイス・キャロル著 矢川澄子訳/新潮社)
(2002/04/23記述)