からむこらむ
〜その49:被曝というものの認識(5)〜
まず最初に......
こんにちは。いよいよ今週も十日程となりました。皆様、如何お過ごしでしょうか?
最近の冷え込みで体調を崩される方が多いようです。管理人は低調ながらどうにか.........たぶん........(_ _;;
#ふぅ........去年は今ごろが.........(- -;;
さて、前回は晩発障害.......というか、大部分は「ガンの発生についての生物学」と化していましたものをやりました。今回は.........放射線障害からの回復についてと、気になる方も多い胎児への影響.......つまり、次世代への影響について触れたいと思います。
まぁ、良く色々と言われているんですけど............(って、文案作っていないので不安(~_~;;)
それでは「被曝というものの認識(5)」の始まり始まり...........
#例により、前回や他の所なんかも、ちゃんと抑えたうえで見て下さいm(__)m
まず最初に放射線障害からの回復について「さら」っと触れますか............
基本的に放射線を浴びて障害が起こるというのは「細胞」に対しての影響から起こるものです。よって、放射線障害からの回復と言うのは、この細胞の損傷からの回復、という事になります。
では、どういうプロセスを経るかと言いますと...........主に3つのプロセスを経ます。 それは「細胞内回復(DNA修復)」、「細胞集団の回復」、「個体における回復」となります。
まず、「細胞内回復(DNA修復)」について説明しましょう。細胞のDNAは前にも述べたように放射線の「標的」となり、その細胞の設計図の損傷により細胞を死に至らしめることがわかっています。しかし、細胞は非常にさまざまな方法で修復します。これは、過去に特定の障害を与えることが出来る、紫外線を細胞に照射する実験によって詳細に研究されています。主に、光回復、除去修復、複製後修復、といったものがあります。
この紫外線による実験について一例を回復とつなぎあわせて挙げておきましょう。 まずDNAは4つのコードで表されているのを良く見かけるかと思われます。「A」「T」「G」「C」なんかで良く表されているあの膨大な羅列の事です。ま、詳しい事は省きますが(いずれやることとしましょう)、「A」が「アデニン」、「T」は「チミン」、「G」は「グアニン」、「C」は「シトシン」と呼ばれます。これら、DNAの「コード」を「塩基」と読んでいます。(余談ですが、DNAは二本の鎖で出来ていて、一方が「A」の場合に対してはもう一方の鎖は「T」、「G」に対しては「C」が対応するように出来ていますので、マンガなんかでいい加減な表記を見ることが出来るかもしれません(笑))。さて、この「T」や「C」と言うものは、構造中に「ピリミジン環」という構造を含んでおり、これが隣り合っている場合......つまり、DNAのコードが「〜〜AGCGGCATTCAATG〜〜」の様な配列があって、この太字の「TT」の部分の様になっている場合、これに紫外線が当たると構造中のピリミジン環が勝手に紫外線の影響で反応してくっついてしまい「二量体」という構造になってしまいます。こうなってしまうと、本来のDNA塩基として(このケースでは塩基の「T」という働き)の役割を果たすことが出来ず、DNAのコードとして働かなくなり、これによって影響が出てくる事が知られています。
さて、このケースと同様の事が放射線でも起きるのですが、まずこの場合「光回復酵素」という酵素が働き、このピリミジン二両体を壊裂......つまり、別れさせて本来の塩基へと回復させる働きが起こります。これを「光回復」と読んでいます。
次に除去修復ですが、これはDNAの損傷部分をそのまま切り離し、反対側のDNA鎖を利用して切りだした部分のデータを回復させます。これは、DNAが二本鎖で出来ていて、お互いに対応するコードを持っている......つまり、一方の鎖に〜ATGC〜という部分があったら、もう一方のこれに対応する鎖は〜TACG〜となっている事からこれを利用して回復をさせます(二本鎖だからこそ出来る!)。 また、複製後修復は、該当するDNAが合成される際にこの「異常部分」をあえて作らず「穴」(「ギャップ」と呼ぶ)を開けておき、後で埋める、という事を行います。
#ちょっと、遺伝子の基本構造などの関連を知らないと難しいかな..........
さて、次に「細胞集団の回復」ですが、これは細胞分裂の盛んな細胞集団や組織では、放射線の影響によって死んだ細胞を排除することで当然その規模が小さくなりますが、やがてこの穴を埋めるべく細胞分裂を行い増殖することによって回復します。これを「細胞集団の回復」と呼んでいます(まんま、ですね(^^;)
で、こうして回復していくとやがて障害の起きていた個体も徐々に回復をしていきます.........つまり、「個体における回復」という事になります。これは、上記二つの「回復」に密接に繋がっている事はわかるかと思われます。
#「結果」ですかね......
ま、ついでなので放射線防護材や障害修復材について若干触れておきましょう。
放射線障害の初期の段階を妨げることを目的とした防護材が現在ではいくつか知られています。一応、「化学防護の定義」というのがありまして、「第一次的にイオン化された分子に作用して、引き続いて起こる化学変化量を減少させること」とあります。これは今回の目的からすれば単純に........その46で紹介したような化学反応を抑制する事となります。 一応、MEA(mercaptoethylamine)、AET(aminoethylthiuronium)、5HT(5-hydroxytryptamine)という物質が防護材として知られており、試験官内や生体でもその効果があることがわかっており、遺伝子突然変異、細胞死、動物の致死、といった事を減少させることがわかっていますが........いずれも毒性が強く、長期に連続して、または繰り返し投与することが出来ません。また、あくまでも照射直前か照射中に投与する必要があります。 そう言った点ではこの物質は使用が難しい、と言えます。
ちなみに、防護材の作用機構は
1:放射線により生じた遊離基(ラジカル)の中和 2:酸素分圧の低下 3:敏感な生物学的部位の保護
という3つにまとめられます。
#別に「解毒剤」の毒性が高いことは驚くには当たりません。このケースでは、細胞内で起こる放射線の反応を抑えると同時に、生体内の代謝もまた抑えてしまうからでしょう。 似たような例として、サリン事件で有名になった「PAM」(パム)があります。これは一部農薬などの中毒による、神経への障害からの回復剤ですが、その作用から適量使わないと逆に神経系の阻害(=毒性の発現)を引き起こしたりもします。
で、修復材ですが..........
これは、致死量の放射線を浴びた際に、のちに薬剤を投与することによって死亡率を減少させる為のものです。 これは、一般的には化合物の他にホルモン組織の抽出物などであり、最近では核酸やその前駆体が有効、と言われています。が.........致死線量の照射に対して、十分有効な修復材は発見がなされていません。
#だから、東海村の事故にあった作業員は容易に回復出来ないわけで...............
他にも回復については骨髄移植などがありますが、これはすでに触れていますので省略します。
#紫外線の障害について、少し補足。
正常な人は、当然紫外線に対する耐性があり、それが強ければ強いほど、ある程度までなら防護・修復機能を備えているため、当然外で活動ができています。が、しかしこの防護・修復機能が先天的に弱いという、「色素乾性皮膚症」という劣勢遺伝病があるのですが、これは上記の如くピリミジン環の二量体を容易に形成し、そして回復力がない為に非常に苦しい障害となることが知られています。この場合、昼間「防護服」がないかぎりはまず外に出られないなど、非常に苦しい障害となっています。
さて、では遺伝的障害について触れてみますか..........
放射線の障害というものを大別すると、照射を受けた個体に現れるものと、その後世代に現れるものとに分けられます。今までのは概ね前者について触れています。そして、後者は「放射線の遺伝的効果」と呼ばれるものです。
生物は放射線照射を受けると、突然変異を生じます(放射線誘発突然変異)。余分な放射線を受けなくても、生物界には突然変異(自然突然変異)が存在していますが、両者とも質的には差がないので区別はできません。したがって、放射線照射によって突然変異が増加する、と言う考えは正しいといえます。
突然変異は染色体の構造や数の変化から起こる「染色体異常(染色体突然変異)」と、染色体上にある遺伝子一個の変化による「遺伝子突然変異(点突然変異)」とがあります。
染色体異常は小線量の時には稀にしか起こらないことが知られており、大きな染色体異常は細胞死を引き起こします。よって.........将来の世代に影響を及ぼすのは、主に遺伝子突然変異、という事になります。
遺伝子突然変異は、詳しくやるとキリがないので簡潔に言いますと、DNAの損傷から由来する変異です。成熟した生殖細胞における突然変異率は生殖腺の吸収線量の総量にのみ比例し、線量度に依存しません(「質より量」ということ)。未熟な生殖細胞(精子の元となる精原細胞や、卵子の元となる卵母細胞など)では、線量と突然変異率との間にほぼ比例関係が成立されることが知られており、この比例係数は線量率によって変化します。 現在では、放射線による突然変異誘発には「しきい線量がない」、と考えられています。
さて、染色体異常ですが、これも簡単にやってみますと..........染色体が異常を起こせば、当然この変化は娘細胞(元の細胞から分裂で出来た細胞。元の細胞は「母細胞」となる)へと伝達されていきます。染色体異常には、染色体の一部の欠失や転座、交換、遺伝子配列の逆転などさまざまな物があり、これによってさまざまな遺伝病を発することが知られています。 例えば、染色体は人間の場合2本で一組ですが、これが1本余分に重複して3本になったり(こうなった場合を「トリソミー」と呼びます)起こすことがあります。これが引き起こす障害として有名なのが、21番目の染色体がトリソミーとなると、ダウン症と呼ばれる症状が起こります。
#ちなみに、余談ですが性を決める染色体(XXで女、XYで男)も3本になるケースがあり、XXYや、XYYなどがあるという話があった様に記憶しています(XXXは死亡だったか? ここら辺の記憶は曖昧です)。こういうケースの場合、概ね不妊とされ、またさまざまな障害(身体的、精神的)を持ち、その長期の生存はあまりできないようです。ちなみに、自然発生することがあります。
ま、あんまり詳しくやってもまた細胞のお話になりますので、詳しいのはここら辺としまして........(^^;;
#おそろしくキリがなくなりますし(^^;;
方向を少し転じて、胎児への影響、という物を見てみましょう。
さて、胎児は放射線に強いでしょうか? と言われると.........そう、活発に細胞が活動する時期ですので、今までの部分を総合して考えれば強い、とは言えません。特に、妊娠8〜15週齢が一番弱いとされ、このときに被曝すると重度の精神発達の遅れを出す、とされています。が、その線量は..........結構高く、1Gy以上が必要となるとされており、0.2Gy程度ならばあまり影響は出ない、という実験結果が知られています(マウスなどによる)。 この数値がどういうものかはこのシリーズの最初の方を見ていただければわかる通り..........結構な数値となっています。 つまり、妊娠期にRIを使う実験をする、とかメルトダウンが近所(とは言っても、広い範囲か)で起きる、と言ったことがないかぎりはまず、簡単には影響が出るとは言えないといます。
もちろん........この時期に大量の放射線を浴びれば? そう、これは明らかにチェルノブイリの例、となりますが............
#まぁ、考えれば..........おそらく放射線を変に恐れるよりも、妊娠期にたばこ吸う妊婦の方が先天異常を生じるリスクが絶大になると思われますけど(^^;;
生物の体、と言うものは意外と強い物なんですけどね...........
#進化を重ねて淘汰に淘汰を重ねた結果、という部分もあるんですけどね...........
あ、長くなりました。
次は.......いや、次の次でしょうか。いよいよこのシリーズの最後をしたいと思います。
今回は以上としましょう。
ふぅ.........まぁ、どうにか文案考えてない割には書けましたかね..........(^^;;
#いや、パソ不調→買い替えとか、色々とあって.........(T_T)
さて、今回の「からこら」は如何だったでしょうか?
今回は、全体的な回復の話と、遺伝的な話について簡単にやってみました。まぁ、ちょっと要求する知識が高いかな........という心配はあるのですが。(^^;;
まぁ..........やっぱり難しい所ですが...........(^^;; ただ、今回は前回に比べれば少し楽かなぁ........と思います。わかりませんけど(~_~;;
一応、御理解いただければ嬉しいのですが..............
さて、取りあえず今回は以上です。
次回はついに50回記念!!!(^^)。年末と言うことと、「青朱白玄」1周年記念という事もありまして、今回の続きはまた先にして思いっきり「軽い話」に使用かと思っています(^^;; ま、ネタはまだ秘密。 結構楽しんでもらえると思うのですが.............
#ふふふふ...........(にやり)
御感想、お待ちしていますm(__)m
さて、それでは今回は以上です。来週をお楽しみに..........
(1999/12/21記述)
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