からむこらむ
〜その73:シナプスと伝達〜


まず最初に......

 こんにちは。 一週間雨続きと思ったら今度は真夏に迫る日々。皆様如何お過ごしでしょうか?
 どうも気候変動に付いていけず、風邪を引かれる方が多いようです。皆様、お気を付けを。

 さて、今回は前回の続き。
 前回は神経系のおおまかな概要を示してみました。で、今回はその伝達に関しての話をしてみたいと思います。 まぁ、いわゆる一部の毒物やら農薬やらが大いに関与するところだったりするのですが.............
 尚、一部用語は今回改めて解説はしませんので、過去のものを参照にして下さい。
 それでは「シナプスと伝達」の始まり始まり...........



 さて、予告通り神経の伝達の話。
 今回の主眼は、神経細胞の信号伝達と、神経細胞間、つまりシナプスにおける信号伝達についての話となります。 ま、前回後半におおまかな話をしましたので、ある程度は省略しまして............

 まず、最初に軸索での伝導の話からしてみましょう。
 神経細胞の特徴に、神経細胞から長く伸びる軸索、という物があると書きました。 この軸索はいわゆる「電線」の役割、と書いた通りここで電気信号を伝えていきます。 が、もちろん「電線」というのは例えであって、実際にはこの部分は生体である神経細胞の一部であり、銅線やら光ファイバーやらが入っているわけではありません。 では、どうやって伝えているのでしょうか?
 ま、あんまり難しい話は出来ないのですが.............
 軸索は膜でその内外が隔てられているのですが、その内外では存在するイオンの組成(成分比率)が違うようになっており、特にナトリウムイオン(Na+)とカリウムイオン(K+)が神経伝達に絡んでいます。 組成に関してですが、ある海産動物においては膜の外部はナトリウムイオンは440mM(ミリモル)、カリウムイオンは20mMであり、膜内部ではナトリウムイオンは50mM、カリウムイオンは400mMとなっています。他の生物でも共通しているのですが、通常の状態では外部ではナトリウムイオンが多く、内部ではカリウムイオンが多い状態となっています。
 さて、ちょっと難しいのですが.........この状態を電気的に見ると、外部は電気的に「+」に、内部は「-」に分極しています。 しかし、この状態では、ナトリウムイオンは外部ではやたらと濃く、内部では薄い状態で、カリウムイオンはその逆の状態になっています。ですので、通常では濃度差を埋めるためにナトリウムイオンは内部に、カリウムイオンは外部に移動して同じ濃度にしようと動くのですが.........軸索ではこの動きに逆らって、常に上記の分極の状態を保つように内部に入ってきたナトリウムイオンを吐き出し、外部に出ていったカリウムイオンは取り込む、ポンプの様な機構が働いています。 このポンプを「Na+-K+ATPaseポンプ」と呼んでいます。
#ちょっと、ここは難しいかも知れませんが。

 さて、しかし軸索では電気信号が流れると前回書いています。どうやって流れるのか? と言いますと........
 神経細胞に刺激が与えられてるとどうなるか、と言いますと........「Na+チャンネル」、と呼ばれる軸作上に存在する、一種の「門」が開いてから急激にナトリウムイオンが外部から内部に流入する(チャンネルはすぐに閉じる)ようになります。つまり、濃度に関して「逆転」の現象が起こるようになり、結果的には電気的に内部が「+」、外部が「-」に分極するようになります。そして、この状態になってからすぐにカリウムイオンが流入するようになり、結果的には元の状態に戻る、というシステムになっています。 この変化は極めて一瞬であり、1〜2ミリ秒で完結するようになっています。 これが連続的に「左から右へ」といった具合に発生し、結果的に「電気信号」として軸索を伝わっていきます。
 図示してみると.........


 と行った感じになります。


 さて、ではこの信号が順調に伝わっていきますと........やがて、神経細胞の末端に行き当たります。そして、前回触れた通り、神経細胞同士は物理的には繋がっていません。いわゆるシナプスと呼ばれるこの場所で、伝達のからくりが起こるのですが.........次にこの説明をしてみましょう。

 シナプスでの信号伝達は前に書いたように化学物質による伝達を行っています。
 汚い図ですが、この部位を図示し、取りあえず最も有名なアセチルコリンによる伝達を例に解説をしてみましょう。 他でも基本的には同じです。


 尚、IIIの部分を少し補足しますと........こうなります。


 このアセチルコリンによる伝達では酵素による分解となっていますが、他の伝達物資全てが分解と言うようなことではなく、他の手段(酵素が絡んだり色々とある)による処理が行われるものもあります。


 この神経の部分は極めて重要な部分でして、様々な毒物や農薬、毒ガスなどが関与することが知られています。
 例えば、フグ毒として名高いテトロドトキシンや、有名な農薬であるDDTは軸索における電気伝達の阻害が知られています。 他にも、松本や地下鉄で有名になったサリンやその他有機リン系殺虫剤はアセチルコリンエステラーゼを阻害しますし、ニコチンはアセチルコリン受容体に結合し、アセチルコリンエステラーゼによる分解を受けないので受容体の「門」を開けっ放しにする作用があります(時間が経過して勝手に離れていくまで待つ)。 このような阻害などの結果、結果的に神経の伝達がかく乱されて(これは重要です)病気状態に.......過ぎれば死に至る様になります。
 また、このような伝達の障害による病気もあり、アルツハイマーや筋無力症はまさにこのような伝達を阻害・かく乱されることで生じると言われています。

 この様な神経の正常な伝達を阻害する物質は自然・人工物質にかなりあり、そう言った物を使用して様々な研究に用いられています。 そこら辺はいずれやる予定ですが........... 面白いのは、農薬などではこのような神経を攻撃する物が多いのですが、虫と温血動物における作用の強さなどが様々な要因によって違ってきます。つまり、「毒性」について「選択性」が生じる、という部分があります。 また、こういった作用を持つ物質は、それぞれの化学構造と受容体との親和性などが複雑に関与しており、構造的(電子配置的、とも言えるのですが)に類似した物質が同じような働きを持つことも多く、なかなか奥深い部分であったりします。 これは非常に重要で、例えば一部の麻薬では構造的に神経伝達物質と共通している部分を持っており、その結果から受容体と結合して麻薬作用を生じたりします。
 ここら辺は色々と面白い部分があり、いずれ触れたいと思っています。
#奥深いんですわ、これが。

 ついでに、もうちょっと深く触れてみますと.........
 アセチルコリン受容体には二種類存在することが知られています。 一つはニコチンが結合するタイプ。もう一つは「ベニテングダケ」などに含まれる「ムスカリン」という物質が結合するタイプです。 前者を「ニコチン(性)レセプター(受容体)」と、後者を「ムスカリン(性)レセプター(受容体)」と呼んでいます。
 両者ともアセチルコリンで稼働する受容体なのですが、上記のニコチンやムスカリンといった物質でも作用する、という働きがあります(一般的には「阻害剤」として、ですが)。 ただ、両者で働きが違っていまして、ニコチン性の受容体は神経と筋肉との間にあり、運動神経から放出されたアセチルコリンを受け取ると平滑筋を興奮させます。 ムスカリン性の物ですが、副交感神経の末端の部分から放出されたアセチルコリンを心筋上のムスカリン性受容体が受け取ると心筋の興奮を抑える役割を持ちます。また、胃腸や食道のムスカリン性の受容体は平滑筋を興奮収縮を行わせ、消化を活発にします。 また、脳内ではニコチン性よりもムスカリン性の物が多くあるとされています。

 尚、受容体に特異的に結合して伝達をブロックし、正常な伝達を阻害する物質を「アンタゴニスト(拮抗薬)」と、アセチルコリン受容体に対するアセチルコリンやニコチンの様な物質を「アゴニスト(主動薬)」と呼んでいます。
 麻薬物質等では、この両者の働きを持つものが多く存在しています。

 っと........わき道に入る長くなりそうですので、取りあえず以上にしましょう。
 以上が神経の伝達における基本的な話、となります。

 神経に関与する毒やら薬、病気などを理解するうえで、前回話や上記のようなシステムは最低限知っておかないと全く意味はなしません。興味がある方は覚えておくと理解が進むかと思われます。

 今回は以上、と言うことで.........




 ふぅ.........大丈夫かな..........

 さて、今回の「からこら」は如何だったでしょうか?
 そういうわけで今回はシナプスにおける伝達を中心に話してみました。図示しないと難しいので汚い図を出させてもらいましたけど.........大丈夫ですかね? まぁ、サリン事件の時に散々言われたところです。今回は、阻害の話が中心ではないですけどね。
 この部分は本当に重要でして、毒、薬、病気で色々なものが絡んでいます。よって、興味がある場合にはシナプスの伝達の話は知っておかないと損をします。 これは確実に言えます。 また、この部分だけでなく、中枢神経・末梢神経という部分も理解しないと、全然意味をなさない部分でもあったりします。 これは最後に書いた通りなんです。
 ま........分からない場合でしたら、質問頂ければ、と思います。
 さて、次回は........どうしましょうかね?(^^;; いや、全然考えていませんので。 取りあえず、軽めのものに使用かとも思っています。いや、毒ガスとかでも良いのですが、さすがに連続していますので疲れますから.........
 .......考えますね(^^;

 さて、今回は以上です。
 御感想、お待ちしていますm(__)m

 それでは、次回をお楽しみに.............

(2000/06/20記述)


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