からむこらむ
〜その75:食中毒と大腸菌〜


まず最初に......

 こんにちは。 いきなり「真夏」状態に入って身体が追いついていない管理人です。皆様、いかがお過ごしでしょうか?
 管理人、相も変わらずふらふらです。サバイバルが続いています........(~_~;;

 さて、今回も食中毒の話。ただし今回はちょっと絞ってやってみたいと思います。
 日本では1996年以降に急に注目されることとなり、それ以降機会あることに耳に入る「O157」なんて大腸菌がありますが........実際にはこの菌は注目されても他の食中毒を起こす大腸菌について触れられていることは少ないです。また、そう言ったバリエーションについて触れられる事も少ないのが現状といったところでしょうか。
 今回は、そういった事について、色々と話してみたいと思います。
 それでは「食中毒と大腸菌」の始まり始まり...........



 さて、1996年の5月。岡山県で起こったいわゆる「O157」による集団食中毒事件の発生をきっかけとして、全国にO157による食中毒事件が発生し、有症者17,877名、うち死者12名を出す、という出来事がありました。以降、有症者は減るものの(1997年で1576人、1998年で1455人)依然としてニュースなり報告なりは行われており、厚生省の食中毒の統計でも1996年以降にこのO157による統計がとられるなど、食品衛生に関して少なからず影響を与えました。

 さて、このO157。いわゆる「病原性大腸菌」と呼ばれる物なのですが...........どうも「病原性大腸菌=O157」という構図がやや見られるようになり、また大腸菌という菌について意外と分かってない様なケースも見られます。
 そういうわけで、今回は食中毒との絡みでこの大腸菌について触れてみたいと思います。


 さて、最初に。

「大腸菌」ってどんな菌でしょうか?


 などと聞かれた場合、どういうイメージを持たれているでしょうか?
 特に化学や生物の分野に関わっていない場合、結構漠然としたイメージをもたれているような気がします。写真だの映像は見たことある方はいらっしゃるかも知れませんが........どうでしょう? どういうところにいる菌でしょうか? どういう性質を持っているでしょうか? 実際に培養実験してコロニーを見た、とか更に専門分野で研究していて電子顕微鏡で見ています、とかそういう人はここをご覧の中ではそう多くないと思います。
 どうでしょうかね?

 さて、「大腸菌」という菌。こちらの説明からしてみましょう。
 この菌、結構古くから研究されている菌でして、日本語では「大腸菌」ですが学術的に書くと「Escherichia coli」と書きます。発音ですが「エッセリキア コリ」と呼びます。普段では面倒ですので(その9で書いたルールに基づくかぎり)「E.coli」と省略するケース(もちろん、初出の場合は全部書きますが)が多いです。この場合「イー コリ」と読んでいます。
 余談ですが、一部の漫画でこの大腸菌の隠語(愛称?)として「コリー」やら「ラッシー」やら呼んでいるものがありますが、この名称(「コリ」の部分)から、と思われます。ま、「コリー」と呼んでいる人とか結構多いようですけど(^^;;
#同期の連中がどう呼んでいたか忘れましたけど.........

 さて、この菌は「腸内細菌科」に属する菌でして、文字通り各種生物の腸管内を主な生息場所としています。とは言っても「腸内だけ」という訳ではなく、糞便などと共に外界に排出されますので、自然界でもあちらこちらにいたりします。その形状が桿状であることから形状による分類は「桿菌」となっており、また物によっては「べん毛」と言う「毛」をその周囲に持っており、それを動かすことによって一種の運動性を持っています。微生物の大きく分類する際に行われる「グラム染色」と呼ばれる染色法では陰性を示します。また、酸素があっても生存できますが、どちらかというと酸素が無い環境を好む「通性嫌気性菌」という菌でもあります。
#酸素が必要な場合は「好気性菌」。酸素があると増殖できない菌は「嫌気性菌」と呼びます。
 発育に適した温度は35〜37度でほぼ体温と同じ。発育に適したpHは7.0〜7.4とこちらも人間に近い状態となっています。
 他にもまぁ、他の菌との識別をするための試験などで「インドールを産生」「乳糖分解性」「硫化水素非産生」なんてのもあるんですが、こっちまで書いても意味ないので省略します(^^;

 さて、微生物にはその構造中の特徴から様々な種類があり、菌体の持つ抗原と、べん毛の持つ抗原よりそれぞれ分類されています。菌体の持つ抗原は「O抗原」と呼ばれ、その種類によって番号が分けられています。そして、べん毛の持つ抗原(当然べん毛が無いと意味ないですが)は「H抗原」と呼ばれ、同じく種類によって番号が割り振られています。このようなものを利用して大腸菌に「番号」を振り分け、分類をすることが可能です(実際には、大腸菌のみではなく、他の菌にも適応できます)。
 大腸菌は「O抗原」により170種類以上の分類がされています。 ちなみに、大腸菌の「O抗原」の157番、と言うのがいわゆる「O157」であり、そのタイプのべん毛の「H抗原」の7番を持ったものが彼の有名になった「O157:H7」と言うタイプの最近の食中毒事件に関与した菌となります。

 さて、この大腸菌は結構昔から研究対象として用いられていたせいか、現在人類がおそらく「最も良く知っている菌」の一つと言われています。大抵の専門分野の教科書ではこの菌は構造などの理解に使われますし、培養も特殊な物でなければ楽(器具さえあれば高校レベルでも可能)です。一般には......例えば河川の汚染度を測る簡単な指標にも用いられているでしょうか(汚染度が高ければ大腸菌が多い)。また、良く知られている、という為か遺伝子組み換えの実験でも良く用いられており、その他多くの局面で出会う事の多い菌であったりします。
 しかし........衛生という観点で見た場合、大抵の場合は「良くない物」の指標です。


 さて、では食中毒の観点から見た大腸菌の話をしてみましょう。
 食中毒の原因菌としての大腸菌は1945年。ブレイという人物により、乳幼児胃腸炎の集団発生において、特定の性状を持った大腸菌を分離し、この菌と乳幼児胃腸炎との密接な関係を指摘した、というのが最初と言われています。それ以来、多くの研究によって特定の大腸菌が人や動物に病原性を示すことが確認されています。
 さて、そう言った病原性大腸菌は現在概ね4種類(場合によっては5種類とも)に分類可能となっています。
 以下にそれぞれの名称と特徴を示してみましょう。
 他にも、腸管の粘膜に特有な接着性を示す大腸菌グループ(EAEC)もあり、このグループも病原性が疑われている様です。

 一応上には潜伏期間や症状などを示しましたが、菌種によって変わる事もありますし、急性に症状を示すものもありますので、目安程度、という事になります。

 余談ですが、先日起きた雪印の低脂肪乳による集団食中毒事件(7000人以上と言うのはおそろしいですが)は黄色ブドウ球菌でしたが、この菌は前回示したような毒素型です。この毒素は耐熱性毒素であって上記ETECに示したように、過熱をしても殺菌は出来たとしても、その生みだされた毒素の活性は容易には無くなりません。もし、易熱性ならば毒素の活性は加熱で消せるのですが..........
 どちらにしても、ろくでもない管理だった事が指摘されており、会社への社会的責任の追及は厳しくなると思われます。

 さて、EHECですが、もう少し書いておきます。
 1982年のハンバーガーの件以降、アメリカ、カナダ、イギリスで大規模な事例があり、1984年にアメリカの老人ホームでひき肉が原因で(死者/患者=4/34)、保健所で人が原因で(0/36)。1985年にはカナダの老人ホームでサンドイッチと人が原因の事件(19/73)が。1987年にはアメリカの養護施設でひき肉と人が原因(4/51)の事件がありました。更に1988年にアメリカの保育所で人が原因の感染(0/16)、1989年にはアメリカの村で水道水を原因とする集団食中毒(4/243)。1990年にはイギリスの村で同じく水道水を原因とする事件(0/4)もありました。
 基本的には、死亡率が高く、施設による集団感染により大規模に起きるのが特徴的と言えます。
 日本では1996年の大発生をきっかけとして、厚生省が集団食中毒に対応すべく対策をとり、内閣の指示の下で「病原性大腸菌対策本部」を設置して様々なマニュアルの作成、サンプルの確保、DNAの分析、検査などを行っています。報道との効果も相まってか、前ほどO157による大規模な物は起きなくなりましたが、家庭で発生する事例は結構あるようでして気を付ける必要があります。
 また、他の菌でも大量の食中毒などが発生しており、大腸菌のみならず別の菌に対しても注意を向けないといけないようです。


 さて、一応最後に予防に関して書いておきます。
 「予防」と言うのは極めて重要な手段でして、これを怠るとあっさりと感染し症状を引き起こすことがあります。
 ま、他の菌でも同じなのですが、列挙していきますと........
 などが挙げられます........ま、手っ取り早く言えば「清潔にすること」です。とは言っても、「絶対」ではないですが。
 特に検診に関しては重要でして、人間が保菌者である場合には自らが食中毒の感染源となりうる可能性がありますので、調理などを行う人は特に検診を受けておく必要があるようです。つまり、食品に菌がくっついて、それをしばらく放置してあった場合には菌が増殖するために食中毒を引き起こす可能性が出てくる、という事になります。
 また、通性嫌気性菌である、と書きましたが.........この為に食品で「無酸素で窒素充填しました!」とあっても、殺菌が不完全な場合にはこの手の菌(大腸菌のみならず、嫌気性菌全体)は増殖していき、やがて毒素型ならば毒素を、そして感染型ならば悪さをするレベルまで増えてしまいますので、そういう点にも注意する必要があります。


 さて、取りあえず以上が大腸菌と食中毒の話、となります。
 これからの季節.......統計的に食中毒が増えることが知られています(微生物の繁殖に適している→理には適っています)。7月の食中毒発生件数は6月の倍になり、それ以降秋までは増加傾向になります。また、最近は一件辺りの食中毒患者数が増加しているのも特徴的であったりします。
 また、前回にも書きましたが、食中毒になると最終的には体力勝負となります。そして、大抵の場合は弱っているときにかかる事が多いですから.......
 皆様もくれぐれもお気を付けを。
#尚、食中毒の発生件数が一番少ないのは2月です。

 それでは今回は以上、と言うことで..........




 そういうわけで終了、と。

 さて、今回の「からこら」は如何だったでしょうか?
 今回は食中毒は食中毒でも、「大腸菌による」食中毒について触れてみました。まぁ、早速何というか、食中毒がタイムリーになっていますけど(^^;; ま、「食中毒と大腸菌」と言うとO157が大きく扱われますが、実際には、という部分もありますので触れてみました。 一応、他にも応用できる話もしておきましたけどね...........
 ともかく、食中毒と言うものにより理解が進めば幸いです。
 食中毒に関しては、世間でも騒がしくなっていますのでお気を付けを..........m(_ _)m

 さて、今回は以上です。
 御感想、お待ちしていますm(__)m
 次回は........決めていません(^^;; ま、適当に考えます(^^;

 それでは、次回をお楽しみに.............

(2000/07/04記述)


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