からむこらむ
〜その76:雪崩と食中毒〜
まず最初に......
こんにちは。何というか、微妙に体調がおかしい管理人です。皆様、いかがお過ごしでしょうか?
管理人、最近は咳が止まらず少なからず不快です。まぁ、体調がよくはないのでしょうけどね.............サバイバルが続いています........(~_~;;
さて、今回はどうしようかと考えていましたら、某社の食中毒騒動がかなり広まったようですので、久しぶりにタイムリーな時事ネタをやってみたいと思います。
ま、色々とずさんな管理体制があった事などが分かっていますが、取りあえずは工場管理の話ではなくて検出された毒素を出す菌である黄色ブドウ球菌とセレウス菌について。まぁ、前者は色々な局面で聞くことが多い菌だったりしますが良く知られていませんし、後者は初めて聞く方も多いかと思いますので。今回は、これらの菌について話してみたいと思います。
尚、「雪崩」と言うのは、先日の朝日新聞に掲載された某社の風刺画より、です。
それでは「雪崩と食中毒」の始まり始まり...........
6月後半より続く雪印乳業の大阪工場の製品による集団食中毒事件がかなり大きくクローズアップされていますが...........
さて、この会社および警察・行政の調査により、現状では黄色ブドウ球菌とセレウス菌という二つの食中毒を引き起こす菌による食中毒である事が現在のところ判明しています。
今回は、この二つの菌について、簡単に説明をしてみようと思います。
最初に黄色ブドウ球菌の話をしてみましょうか。
黄色ブドウ球菌は、学術名では「Staphylococcus aureus」と書きまして「スタヒロコッカス オーレウス」(だったかな?)という発音になります。スタヒロコッカス属に属する、自然界では非常にポピュラーな菌でして、人・動物に住み着いている菌でもあります。どういうところに住み着いているかというと、皮膚、鼻腔、咽喉頭、糞便に住み着いています。皮膚などでは毛穴に住み着いていると記憶しています。
一応、普段は人が健康ならば悪さをせず(というか、「出来ず」)、逆に菌の侵入などを(結果的に)防ぐという役割もあったりするのですが、一端宿主となる人の体力・抵抗力が落ちると悪さを開始します。こういうタイプの菌は結構多く「日和見菌」と呼ばれています。また、化膿の原因となる菌でもあり、化膿巣を持っている場合にはこの菌による汚染の可能性が出てきます。
さて、この菌は「ブドウ球」という名を冠している通り形状は「丸っこいのが連なった」形状をしています。その形が「ブドウの房」の如く、と言うことでこの名称がつけられています。ですので、先日の報道では、雪印大阪工場の汚染原因と思われたバルブを検査したところ桿菌(大腸菌などがこの形です)しか見つからなかった、と書かれていたのですが、ブドウ球菌ならば「球状」の菌が連なっているはずですので顕微鏡で「見ただけ」でおおまかな判別が可能だったりします(ただし、「毒素」から黄色ブドウ球菌が原因菌であるのは「間違いない」との事ですが)。グラム染色に陽性の菌で、黄色色素を産生します(ですから「黄色」ブドウ球菌)。
成育温度は6.5〜45度と範囲が広いのですが、至適温度は35〜37度。成育pHは4.2〜9.3ですが、至適pHは7〜7.4。通性嫌気性菌でして、ここら辺は基本的には前回やった大腸菌と同じです。乾燥に強く、また食塩に耐性がありまして、15%の濃度の食塩(非常に高いです)まで耐性があるものもあります(→塩漬けにも強い、と言うことです)。
さて、種類は色々とありまして..........「ファージ」というウィルス(「T2ファージ」や「T4ファージ」なんていう「頭」に「胴体」「足」を持つのは有名でしょうか?)に対する感受性でおおまかにはI〜III群の三種類に分類されています。そしてそこから更にまた、色々と細分化していきます。
さて、食中毒菌としての黄色ブドウ球菌の説明をしてみましょう。
黄色ブドウ球菌の、今回の騒動の原因となった物はIII群に所属する連中がこの原因菌となります。この菌の数が106/g以上になるとエンテロトキシン(enterotoxin:腸に作用する毒素)を産出します(尚、「entero-」は腸や消化器を意味します)。いわゆる、前々回でもやった典型的な「毒素型」の菌です。この黄色ブドウ球菌の作りだすエンテロトキシンは血清型によってA〜Eの5タイプに分けられています。尚、この毒素はたんぱく質でできています。
この毒素、前回の「腸管毒素原生大腸菌」の部分でやった毒素で言う「耐熱性毒素」になりまして、加熱による死活も見られません。よって、食品の加熱を行って菌自体が死んだとしても毒素は残りますので、この点が厄介と言えます。
さて、症状ですが、潜伏期間は0.5〜6時間でして、平均が2.5〜3時間。初期症状は唾液分泌の増加でして、次いで悪心、下痢、腹痛、嘔吐、嘔気が発生します。この菌による食中毒では嘔吐、嘔気による症状は必発となっています。ただし、発熱はほとんど見られず、一般には軽症、短時間で症状は消退します。この為、一般にはこの菌による食中毒で死者は余りでないようです。
ま、今回の雪印での事件でも、発症者数は13,000人をすでに越えていますが、死者が0であるのはこういった背景もあります。
#もちろん、「運が良い」部分もあるでしょうが。
#決して許されるものではない、という事は忘れてはいけません。
尚、世界的には乳加工品、畜産物が原因食品となっていますが、日本では圧倒的に穀類とその加工品が多く、おにぎり、弁当、菓子による発症が多いようです。また、日本では主にA型のエンテロトキシンを産出する黄色ブドウ球菌が多いとされています。
尚、書いた通り食塩や乾燥でも増殖する強く「しぶとい」菌ですので、要注意となっています。
予防は、清潔第一、でして、皮膚や化膿巣にも済んでいるわけですから、手も洗わずに原料・調理したものに触らないというのは極めて重要です。もし、手も洗わずに食品を触るなどしてそのまま放っておけば..........?
今回の雪印の事件。おそらくはこう言った点を守らなかったことも一因(あくまでも「一因」)なのではないかと思われます。そう、意外と化膿巣を持った人が作業した、とか手洗いを怠ったなどあるかも知れません(「かもしれない」ですからね)。
#他にもずさんが過ぎていますので...........
#ニュースを見ると、返品された物を「再利用」して原料に入れていた、などあります..........言語道断です。
尚、今回は食中毒に注力していますが、病院でもこの菌が関与していることは覚えておいても良いでしょう。
いわゆる、院内感染と呼ばれる事がありますが、「MRSA」(マーサ)をいう物を聞いたことがある方は多いかと思います。一時期かなり問題になりましたが...........これは、「メチシリン耐性黄色ブドウ球菌」の事でして、ある種の抗生物質に耐性をつけた黄色ブドウ球菌のことです。
院内感染の問題というのは、一般には病院では薬剤を大量に使う(というか、正しい使い方が守られていないという説もありますが)せいで菌がそう言った薬剤に耐性をつけることから薬剤によって死なず、体力を落としたときにそう言った菌を原因とした感染症を起こして場合によっては死亡する、という点にあります。去年、おととしでは抗生物質に耐性をつけた結核菌が大きく問題になり、また最近でもどこかの病院で院内感染による死者がでましたが..........
#しかも、この病院では「院内感染」を起こす菌という認識が無かったというのも怖いですが。
さて、話を戻しましてMRSA。これは最初に書いたように黄色ブドウ球菌は「日和見菌」でして、普段は問題なくても病院の患者の様に体力・抵抗力が無い時にこの菌が患者に悪さを働き始め、菌を殺そうと思っても、薬剤に耐性があるため効かず、そのまま敗血症や肺炎を起こして死亡させてしまう、というのが問題になります。一時期、かなり問題になりましたが.........現在でもかなり問題なのではないかと思われます。この場合は、薬に頼らず、その人の「生命力」で回復させる以外には手段がありません。
一応、黄色ブドウ球菌に関連してこの事も書いておきます。
さて、スペースの問題もありますので、次に行きましょう(^^;; 長くなりますので軽く。
さて、雪印の件で問題になった菌にもう一個「セレウス菌」と言うものがあります。この菌は学術名を「Bacillus cereus」と言いまして、発音は「バチルス セレウス」です。バチルス属に属する菌です。あ、余談ですが、いわゆる「納豆菌」もバチルス属だったりします(「Bacillus natto」だったかで通じるという話ですが.........?)。って言っても、別に納豆菌が食中毒菌である、という訳ではありませんので念の為。
#まぁ、嫌いな方は多いようですが。
で、この菌は自然界に広く分布している菌でして、土壌中、下水、ほこりの中など「どこにでも」いる菌の一つです。
この菌の形状は桿菌でして、芽胞を形成するのが特徴とされています。芽胞はやがて発芽して自身の増殖が行われます。好気性菌でして、酸素がないと育ちません。グラム染色に対して陽性を示します。運動性は持つものと持たないものがあり、分かれています。
さて、この菌は米飯などの食品中でしばしば食中毒を起こします。食中毒の原因となる食品では豆腐、生米、にぎり飯、すしなどの穀類加工食品が多く、高率に分離されます。食中毒を起こすには106〜108/g以上の菌量が必要になります。この菌は更にたんぱく質や多糖などを分解していく性質がありますので、食品の腐敗・変敗........つまり「食品が傷む」という事を引き起こす菌でもあります。
食中毒のタイプは毒素型でして、食中毒に関しては二種類の毒素を産出する事が知られています。一つは「嘔吐型」でもう一つは「下痢型」です。
「嘔吐型」はアミノ酸が連なったペプチド性毒素でして、加熱・酸(胃酸など)に対して安定でかなり厄介なタイプです。セレウス菌による食中毒はこのタイプが多く、潜伏期は1〜5時間。悪心・嘔吐が主症状でブドウ球菌による症状に似ているとされています。米飯、焼き飯、スパゲッティーなどが原因食品でして、日本ではその食文化から米飯類によるものが多いようです。100度30分の加熱によってもセレウス菌の耐熱芽胞は生き残ってしまうので、調理・加熱から時間を置くとこの芽胞からセレウス菌が増殖を開始しますので、早めに食べないとセレウス菌の増殖から毒素が作り出されて食中毒を起こす、という問題があります。
一方「下痢型」はタンパク性毒素でして、加熱や胃酸(胃は別に消化のみならず、殺菌やこういった役割もあります)などで失活されやすいのが特徴です。ですので、食品中に産出されても加熱や胃酸によって容易に失活しますので、下痢型毒素による食中毒は嘔吐型よりも少ないです。潜伏期は8〜16時間。腹痛・下痢(水様性)を主症状としまして、ウェルシュ菌という食中毒菌に似た症状を出します。食品中のセレウス菌が腸管内で増殖してからエンテロトキシンを産生する物と考えられており、この点では「中間型」と言えるタイプです。原因食品では肉類、スープ類、プリン、生クリームなどが主なものとなっています。
ただし、いずれのタイプでも全体的に症状は軽く、1〜2日で回復します。
これも、今回の雪印の事件での死者が少ない要因の一つとは思われます。
#もちろん、「運が良いだけ」という部分もあります。
ちょっと書いたので書いておきますが。
ウェルシュ菌はどこにでもいる菌ですが、ガス壊疽、敗血症などの感染症を起こす菌でして、食中毒の原因菌の一つです。通常は人の腸管内にいますが、日本人の高齢者の腸管内には高率で存在している事が知られている菌です。
ま、スペースが無いので今回は書きませんが(^^;;
さて、取りあえず以上が今回の雪印大阪工場による集団食中毒事件の原因菌として発表された菌について、です。
前回もあわせて考えれば結局のところ、普段どこにでもいる菌がこういった食中毒の原因となるわけですので、普段の衛生管理体制を怠れば今回の集団食中毒事件に繋がりかねないものがある、という事は頭に入れておいて頂きたいと思います。
例え、症状が軽くても、です。
水や食料と言うものは常に生活に密接に関与しているもの........と言うよりは、「必要なもの」であるわけですので、そう言った物の生産に関わる企業がこういった事件を起こせば当然のことながら重大な責任を伴います。水・食料への毒物混入は古今東西を問わず極めて重要な犯罪になりますので、意図の有無に関わらずずさんな管理体制であれば「毒物混入」を看過していたとも言われても仕様がないでしょう。
もちろん、社会的制裁は有形・無形で今現在受けているわけですが............
もっとも、今回は企業の引き起こした食中毒、という点で注目されているわけですが、家庭での食中毒に前回・今回の様な菌が良く関わって来ていることも忘れてはいけません。食中毒の発生場所としての「家庭」と言うものは非常に大きい割合を占めていますから。
皆様も、くれぐれもお気を付けを............m(_ _)m
さて、取りあえずスペースもありませんので今回は以上、と言うことで。
体力を落とさないように、気を付けて下さいね(^^;;
てなもんで終了、と。
さて、今回の「からこら」は如何だったでしょうか?
今回はかなりタイムリーとなりましたので、雪印の集団食中毒事件から注目された「黄色ブドウ球菌」と「セレウス菌」について書いてみましたが........どうでしょうか? ま、黄色ブドウ球菌はMRSAなども絡めてみましたけどね。結構、身近にいる菌が原因菌であることは覚えておいても損はないかと思います。
ともかく、前回にも書きましたが、食中毒と言うものにより理解が進めば幸いです。
体力を落とすと容易にかかりやすいですので、お気を付けを..........m(_ _)m
さて、今回は以上です。
御感想、お待ちしていますm(__)m
次回は........決めていません(^^;; 匂い、でもやりますかね..........さもなくば別のでも、とも思いますが。
それでは、次回をお楽しみに.............
(2000/07/11記述)
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