からむこらむ
〜その77:においを感じる〜


まず最初に......

 こんにちは。いよいよ東北以外は梅雨明けとなりますが、皆様如何お過ごしでしょうか?
 管理人、もとより暑いのと冷房が苦手..........まぁ、去年よりは楽ですがキツイ日々を送っております...........
#今、ふらふらです(爆)

 さて、今回は「におい」についての話。
 まぁ、タイトルの通り五感の中の「嗅覚」という物について、ですが。まぁ........余談が多くなりそうなならなさそうな(^^;;
#↑まだ書く前(笑)
 それでは「においを感じる」の始まり始まり...........



 春の新緑の頃に森や林などを歩くと、いわゆる「新緑の匂い」という物がしてくるのを御存じの方は多いでしょう。そして、食事の時に好物のにおいを嗅ぐと食欲が湧く、という方も多いでしょう。ある花の匂いが好きである、という方もいるかも知れません。
 しかし、長い間放置した食品のにおいや変な薬品のにおいなどは「嗅ぎたい」とは思えません........ま、いわゆる「悪臭」ってのは読んで字のごとく「嫌なもの」であることが多いと思います。

 人間の感覚にはいわゆる「五感」という物がありますが、その中の一つには「におい」を感じる、いわゆる「嗅覚」というものがあるのは皆さん御承知の通りでしょう。「におい」という物は生活に常に密着した物であり、意識しようがすまいが常に何らかの形で生活に関わっています。例えば、上記のような食事の時や園芸などはもちろんのこと、何かの物に対して特徴を示したり(「無味無臭」「○○の様なにおい」とか)、また内容(安全など)を判断したりするのに嗅覚を使うことは多くあります。
 さて........では質問。

「におい」の正体って何でしょう?


 余りにも抽象的、って気がしないわけでもないですが(^^;; まぁ、難しく考えなくて頂いて結構です。単純に、で結構ですが...........
 さて、どうでしょうか?
 答えは........単純に言ってみた場合「物質」となっています。もうちょっと「化学」っぽく言えば「分子」という言葉になるでしょうか。
 そう、「におい」は基本的には全て「物質」であったりします............
#裏を返すと、このにおいの物質を破壊すれば「消臭」が可能であるわけですが。

 さて、体の中で「嗅覚」をつかさどる器官は御存じの通り「鼻」です。「におい」という物は鼻で感じるわけですが、その中でも.........ちょうど鼻の奥の上部にある部分で「におい」を感じています。
 取りあえず最初にこの部分。つまり「嗅覚」........「においを感知する」システムについて最初に触れることにしましょう。一応、基本的にはその68でやった「生体応答」の一種となりますが。

 「におい」の物質は「臭気物質」と呼ぶのですが、この臭気物質は鼻に入ると鼻腔内で拡散していきます。そして、拡散した臭気物質が鼻腔奥の上部にある「嗅上皮」と呼ばれる場所に行き当たり、ここでの色々な働きの結果、神経の伝達(その73参照)が発生し、結果として脳が「におい」を感知する、というシステムになっています。
 この「嗅上皮」での感知の仕方は現在二種類あると考えられており、一つは嗅上皮において「におい」の物質に対する受容体(その69参照)が存在し、物質と受容体が結合した結果細胞が活性化して情報の伝達が行われ、「におい」を感知する、という方法です。この細胞の活性化の際に「cAMP(サイクリックAMP)」という物質が関与するのでこれを「cAMP説」と呼んでいます。
#実際には細胞の「活性化」と言うものは、「におい」に関してだけではなく様々な局面で受容体とcAMPは関与しています。
 この受容体によるにおいの「感知」に関しては、1991年に初めて受容体の分離に成功し確認されました。現在ではこの受容体は約1000種類ほどある、と推測されています.........つまり、1000種類の「におい」(もちろん似ていたり微妙な差を持つものもあるのでしょうけど)をかぎ分け、認知することが可能、ということを意味しています。
 もう一つは、cAMPが関与しない方法でして.........嗅上皮に存在する「嗅細胞」という細胞があるのですが、受容体ではなくこの細胞の細胞膜に直接「におい」の分子が作用することで細胞が活性化し(この際、cAMPは介さないで)神経の伝達が行われる方法があります。これは、上記のような受容体を経由しないで細胞が活性化する、という事実から考えられた物でして、この場合は個々の嗅細胞の細胞膜の組成がことなることで様々な種類の「におい」を分けていると考えられています。

 ちなみに、「どっちが正しいの?」と聞かれた場合は..........「両方」と言えるようです。つまり、実際にはどうやら両方の機構を利用して「におい」を感じている、と現在考えられています。

 では、これら臭気物質はどれくらいの量で嗅覚応答が出来るかと言いますと........臭気物質の種類によって異るのですが、閾値(「いきち」または「しきいち」:生体に作用し始める量→小さいほど微量で作用する、ということになる)で空気1リットル当たり5×10-6mgとかなり微量で探知することが出来ます。
 また、面白いことに色覚の場合には三原色によって白色化が起こる(光の三原色を混ぜる→白色)のですが、嗅覚に関してはにおいが「混ざって」も第二、第三のにおいを感じることが出来るために、においが混ざったからと言って「無臭化」ということは起こりません。ただし、嗅覚は短時間で飽和(選択的疲労)化という現象が起こり、一番最初に感じたにおい(第一臭気)による嗅覚というものはやがて麻痺してしまいます。ですので、「飛んでもない」においの所(まぁ、想像にお任せしますが(^^;;)に行っても、しばらくすればロクに何も感じなくなるのはこの為、と言えます。
#もっとも、常ににおいが変化しているような場所だと無理でしょうけどね...........(^^;;
 もっとも、実際に「におい」と言っても一種類だけではなく様々なにおい分子が「ブレンド」して色々な「におい」を作りだしることが多いということは頭に入れておいて欲しいと思います。例えば、コーヒーでは実に789種類(もちろん種類で違うでしょうけど)ものにおいの成分が入っているそうです。中には「悪臭」とも言える成分も入っているそうでして(何、とは言いませんが(^^;)、こういったたくさんの「におい」が色々と混ざり合うことで本当に複雑な「におい」を作りだしている、と言えるわけですが...............

 余談ですが、管理人の行っていた大学/大学院で研究室に所属していたときには蝿の飼育をしていたのですが(これもその内ウケ狙いでやろうかと思っていますが(笑))、飼育室に入ると最初はやはり「う......」となるわけですがしばらくすると慣れてしまって全くにおいを感じなくなります...........が、当然「におい」は物質と書きました。と言うことで........このにおいが白衣についたりするわけですので........自分がにおわなくても周りは感じるために一発で「飼育室行った?」と聞かれることとなります(^^;; ついでに「あんまり近寄らないでね」ってことも言われるのですが。
 もちろん、白衣を脱いでしばらくしてから再度においを嗅いでみると、嗅覚の麻痺が回復しているためににおいを感じるのですが(^^;; もっとも、においの物質がやがて拡散していきますのでそうなればにおわなくなります。

 さて、臭覚に関しては「テスト用」化合物、というものが存在しています。
 ま、いくつかあるのですが..........例えば、
 英語と専門用語で恐縮ですが(^^;; まぁ、フェノールは「石炭酸」と呼ばれる物ですので、そのまんまです。酢もそうでしょうか。大蒜はアミノ酸から作られる、硫黄を含む化合物ですが、ニンニクのにおいの他にも若干の構造を変えるだけでタマネギやネギ、ニラ、ラッキョウのにおいに変化します。樟脳はタンスに置いてある防虫剤のにおい、というとピンとくるでしょうかね? 汗臭はイソ吉草酸と呼ばれる化合物です。
 一応下にいくつかの構造式を示しておきますが、まぁ、「こんなものがある」程度の認識でこれは結構です。



 ちなみに、ニンニク臭、と言うと........ニンニクを食べなくても感じるものがあるのを御存じでしょうか?
 「血行性嗅覚現象」という現象があるのですが、ビタミンB1を静脈注射すると、しばらく後にニンニク臭を感じることが出来ます。別に静脈注射しなくても、一部錠剤でビタミンB1などを摂取すると「鼻の奥に感じる」ことが出来ますが(^^;; 経験のある方はいらっしゃるのではないでしょうか?


 さて......食品のにおいとか、花の香り、香料などにも触れたいのですが、今回はスペースが足りませんので..........
 そうですね、この話をして今回は締めることとしますか。

 最近はどうなっているのかは全然分かりませんし、管理人もそれほど興味が無いのでそれほど詳しくないのですが..........
 さて、ここ数年「芳香療法」なるものが流行っているのは皆さん御存じの通り、かと思います。聞いたことが無い? いえいえ。英語でいう「アロマテラピー」ってヤツです。聞いたことがあるでしょう? ま、一般に言われているのは、個人によって香りを「調合」しまして、精神を落ち着かせたりする、とかそういうやつですね。
 さて、これ、本当に意味があるのかと言うと、松柏類の香りであるαーピネンという物質が疲労回復に効果があったり、ナツメグの香りが血圧降下作用がある、などという生理活性がある、とされています..........まぁ、「におい」による刺激で脳にそう言った作用を与える、というのは間違いではないと思われます。
 では、これは日本では比較的最近のことなのか、と言うと.........そうでも無いようです。

 時代はさかのぼること500年以上前。
 ある種の香料などは昔から古今東西問わず神事・祭事などの宗教儀式に用いられていたわけですが、足利幕府の8代将軍である(東山文化や鹿苑寺の「銀閣」、そして応仁の乱の引きがねになった人物として有名な)足利義政が沈香(じんこう)の香りが人間の精神を静める、ということで沈香を中心とした宗教儀礼を制定した、とされています。ま、これが日本独特の「香道」の始まりとされていますが..........
 まぁ、将軍としての才覚はともかくも、義政が見抜いたように嗅覚と言うものは視覚・聴覚などに比べて人間への影響、特に感情や健康に影響を与える、と言うのは確かなようです。
 ちなみに、平安時代からは薫物(たきもの).......つまり沈(じん)・白檀(びゃくだん)・麝香(じゃこう)などの香料を適宜練り合わせて作った香(こう)なんてものもあり、その配分などによってに成分を当てるなどの「遊び」がありましたけど、「香道」と言えるものではありませんでした(もっともハイレベルだったそうですが(^^;;)。またこの薫物の本来の目的というのは当時の風習で、「ゆする(「さんずい」に「甘」:漢字がでません)」という毎朝出てくる米のとぎ汁に櫛の歯を漬けて貴族の女性の髪の毛をすく(癖直しの他、髪に栄養を与える目的があり、のぼせを下げる効用をもつとされた)という習慣があったのですが、こういうことをしているうえに風呂には滅多に入らないのでにおいが飛んでもないことになる........というので、薫物を髪にたきしめてにおいをごまかす、というのが「本来の目的」でしたので、いわゆる「芳香療法」とは違うものだったのではないかと言えます。
#分かりませんけどね。

 尚、沈香と言うものはアジアの熱帯地方のジンチョウゲ科の植物でして、木質が堅く水に沈むことからこの名前がついたそうです(と言うことは、輸入物になります→中国との貿易→高価)。沈香はこの木を土中に埋めて発酵させて得られる香木でして、この中でも光沢のある黒色の優良品を「伽羅」(きゃら)と呼んでいます。
 伽羅は白装束にたきしめることもあるようですが..........これまた余談ですが、劇画「子連れ狼」の後半部分で拝一刀と息子大五郎の白装束には伽羅がたきしめてあり、「伽羅は毒にあうと沈降してそれを示す」と言うことから阿部怪異による毒殺を逃れる、なんて話があったりするのを管理人はついつい思い出してしまいます。
 まぁ、本当にどうでも良い余談ですけどね(笑)


 ハイ、長くなりました。
 「におい」に関して食品や香料などに触れようと思ったのですが、今回は一応「嗅覚」に焦点を合わせてみました。これらの話は次回にでも触れてみたいと思っています。

 そういうわけで、今回は以上、と言うことで..........




 うぅ......不快指数高い........

 さて、今回の「からこら」は如何だったでしょうか?
 今回は思考能力のクラッチ全開となってしまいまして今一つまとまりに欠けているようですが(^^;; 取りあえず「嗅覚」という物に焦点を当ててみました。まぁ、基本的には「生体応答」の一部なのですが...........
 本当は、食品の匂いとか、香料についてとかそういう話まで行こうかと思ったのですが、思考能力が落ちているのと、嗅覚の基本的な部分で思いのほか食ったので次回以降ということにしました(^^;;
 まぁ........その分密度は上げようとは思いますけどね(^^;;

 さて、今回は以上です。
 御感想、お待ちしていますm(__)m
 次回は........取りあえず問題なければ今回の続き、としたいと思います。ま、どうなるか分かりませんが.........(^^;;

 それでは、次回をお楽しみに.............

(2000/07/18記述)


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