からむこらむ
〜その80:鋼玉、紅玉、青玉〜


まず最初に......

 こんにちは。全然気温が下らない今日この頃、皆様如何お過ごしでしょうか?
 一応........そうですね「残暑お見舞い申し上げます」と言うことで(^^;; とても立秋過ぎたとは思えませんけど。
#相も変わらず管理人は体調不安定です(爆)

 さて、今回はネタを考えるのを忘れていてちょっと慌てたんですが.........(^^;;
 え〜.........久しぶりに宝石の話をしてみようかと思います。とは言っても、実際には「宝石」だけではない、という話になるんですけどね。
 美しい色であり好まれつつ、その特性から工業用にも用いられる宝石.........の話です。ま、今回は「宝石」ですけど、ある意味次回からがメインですが(^^;;
 それでは「鋼玉、紅玉、青玉」の始まり始まり...........



 時代は第二次世界大戦.........東南アジア、ビルマ。
 日本軍とイギリス軍による死闘の中生き延びたある日本兵は、彼の地で僧となります。彼は彼の地で死んだ日本兵とイギリス兵の埋葬を行うのですが.........墓を掘る最中に、その土の中から大きな赤い宝石を見つけます。「これは人間の魂だ」。そう思った彼はこの地で死んだ全ての兵士の魂と考えて大事に保管し、寺の祭壇に祀ります。
 結局、彼は捕虜収容所の仲間の日本へ帰還の際、仲間と面向かって何も言わず、ただ竪琴で「あおげばとうとし」を奏で、そして去っていき、彼の地でそのまま僧として残りました..............

 って話、御存じでしょうか? いわゆる「ビルマの竪琴」のある部分の要約ですが..............
#つまり、「僧」は水島上等兵になりますね。
 さて、彼が手にしたこの赤い宝石。これは何だったのか、というと.........いわゆる「ルビー」として知られる宝石でした。古来よりビルマ......現在では「ミャンマー」ですか。この地ではルビーが良く取れた、そして現在でも有名な産地の一つとして知られています。
#そして他の理由もあって外国勢により狙われ、そして帝国主義全盛の頃にイギリスによりビルマは侵略されてしまうのですが。

 さて、そういうわけで今回はこの宝石についてちょっと触れてみましょう。


 ルビーという宝石........まずこれの組成について触れてみましょうか。
 この宝石はどういう鉱物で出来ているかというと.........「コランダム」と呼ばれる鉱物です。「コランダム」という物は実は結構単純な鉱物でして、化学組成はAl2O3.........つまり、アルミニウムの酸化物です。工業的にはいわゆる「アルミナ」と呼ばれるものになります。科学的に安定な化合物でして、熱や酸・アルカリにも強く、頑丈。無色の固体です。
 このコランダム。天然には「鋼玉」とも呼ばれる物でして、名称通り非常に堅い鉱物です。いわゆる「堅さ」を測る「モース硬度」の標準鉱物としても使われているのですが、その硬度は9。天然ではダイヤモンドに次ぐ堅さを誇っています。形状は一般的には六角柱や平たい六角板状のものが多いのですが、スリランカでは両端が垂になった「ビール樽」状の物が多いと言われます。
 では、このコランダムという鉱物が「珍しいものか?」というとそういうものでもなくて............実はそこら中にある鉱物です。砂や砂利の中に結構あるものでして、その堅さから風化に強い、という特徴があり周辺のものが風化してバラバラになってもコランダムだけ残っている、という感じになります。結構ポピュラーな化合物と言えます。

 では、これとルビーの関係は何か、と言いますと...........通常コランダムは透明(ないしは黄色)なのですが、その58でやったエメラルドの話などと同じように、「入り込んでいる元素」という物が関与することで着色します。この入り込んでいる元素により「着色」された物が宝石として珍重されます。
#ですから、単なるアルミナでは宝石の価値はないです。

 さて、ルビー(ruby)という物はいわゆる、最初の文章で書いたように「赤い」宝石な訳ですが、その語源は中世ラテン語の「赤い」を意味する「ルビヌス」に由来します。とは言っても、中世以前にはルビーの他ガーネット(とは言っても、ガーネットも色々と色がありますけど)の様な「赤くて透明な宝石」をまとめて「ルビー」とも呼んでいたようですが(^^;; 日本語では「紅玉」とも呼ばれます......って使う方もそうはいらっしゃらないでしょうけど.........(ダイヤモンドを「金剛石」という人が少ないのと一緒ですね)。また、元素に「ルビジウム(Rb)」ってのがありますけどあちらは直接の関係はないです。念の為。
#余談ですが、「ruby」を調べると、宝石の「ルビー」の他に文の読み方を示す、いわゆる「ルビ」も意味するようです。
 「赤」という色から「情熱」「愛情」の象徴とも考えられ、インドでは「血」に絡むとも考えられたようで炎症、出血を治すという効能があると信じられたそうで、出産のお守りとも考えられました。
 主な産地はミャンマー(ビルマ)、タイ、スリランカ、タンザニアなどが有名ですが、最大の鉱脈は現在はミャンマーにあるようです。日本でも採れるらしいのですが、宝石に出来るほどの物はないそうです。
#「コランダム」はどこでも取れるのですが。
 あ、付け加えるに7月の誕生石、ですね。

 では、ルビーの「赤」は何故出来るかというと..........上記の通り、「中に入り込んでいる元素」が問題になります。この入り込む元素は何か、というと.........元素記号「Cr」、いわゆるクロムが関与しています。
 Al2O3の結晶はアルミニウムと酸素が規則正しく並んでいるのですが、この構造数百個に一個ぐらいの割合でクロムがアルミニウムに換わると.........赤く色づいてきます。1000個に1個ぐらいの割合だとピンク色、ですがこの割合が増えていくごとに赤味が増していき、そして100個に1個の割合になると........「鳩の血」、いわゆる「ピジョンブラッド」と呼ばれる最高級のルビーとなります。
 100個に1個で「最高級」の赤味というが.........じゃぁ.......更に増えていったらどうなるか? どうなるかと言いますと.........10個に1個の割合で灰色になります。ここまで来ると「ただの石」となります。
 まさに「過ぎたるは及ばざるがごとし」の例え通り、となります(^^;;;
#一応、遷移元素が色に重要なのですが..........


 さて、コランダムの宝石はルビーのほかに実はもう一個あるのを御存じでしょうか?
 いわゆる「サファイア」と呼ばれる宝石なんですけど...........これもコランダムでして、基本的な化学組成はルビーと共通しています。「その58」で触れたエメラルドとアクアマリンの関係と同じ、となります。

 サファイア(sapphire)はその由来をラテン語で「青い」を意味する「サフィルス」に求めることが出来ます。話によればこの語源を更にさかのぼるとサンスクリット語になるらしいのですが.......... ややこしいですが、古代ギリシャ、ローマでは「サファイア」というと今で言う「ラピラズリ」を指していたそうで、「アメシスト」「ヒヤシンス」とも呼ばれていた宝石がこのサファイアではないかと考えられているそうです。 ルビーの「紅玉」に対して「青玉」、「青宝玉」と日本では呼ばれています。
 さて、古来よりサファイアの青は「神秘的な」色という事で神聖視されていたようで、魂に安らぎを与えるもの、とか神の恵みを得られるもの、または慈愛、徳を意味するものと信じられていたようです。また9月の誕生石でもあります。
 主な産地はルビーと同じくスリランカやミャンマー。後はオーストラリアなどがありますが、カシミール地方の物は有名で世界のサファイアの評価基準となる高品質のものを産出しています。日本では福島県、岐阜県、広島県などでサファイアが採れるようです........が、ルビーと同じく宝石に出来るほどのものはないようです。

 ではサファイアの「青」は何が原因になるか?
 これは面白い話がありまして、最初はコバルト(元素記号「Co」)が原因ではないか、と考えられていました。というのも、コバルトを含む物に青が多いから、というのが一因だったようですが。しかし、サファイアを分析してみるとどうやってもコバルトが出てこない..........が、微量の鉄(Fe)とチタン(Ti)が出てくる..........はて? という事になります。色々と調べてみると、コランダムに少量の鉄を加えても実は黄色くなるだけで青くはならない。チタンだけ入っても無色透明..........しかし、鉄とチタンが両方入っている場合に初めて青くなる、ということがわかりました。
 ま、ちょっと難しいので分からない方は流していただいて結構ですが........鉄は2価、チタンは4価の正電荷を持っていますが、光(Δν)によって電子が移行して両者とも3価の正電荷を持つようになります。この(電荷移動の)結果、黄色から赤の波長の光を吸収して青色を呈します。ま、手っ取り早い話「鉄とチタンの間で電子のやり取りの結果青くなる」と思っていただければ充分です。
 サファイアの「青」に鉄とチタンが必要である、という事を踏まえたうえで........この色は両者の距離によって変化していきます。面白いのはサファイアに圧力をかけると青が増し、加熱すると青が薄くなる、という事が知られています。というのは、圧力をかけることでチタンと鉄の距離が縮まった結果電子の移動が容易となるわけでして、色が濃くなります。逆に加熱すると膨張から距離が離れるために電子の移動が困難になり、結果色が薄くなります。
 もっとも、サファイアは「青」が代表的ですがそれ以外にもありまして、オーストラリアで産出するイエローサファイアはニッケル(Ni)、グリーンサファイアはコバルトが不純物として入っています。更にニッケルとクロムが入るとオレンジ色になり、ゴールデンサファイアと呼ばれるようです。他にも無色透明の「ホワイトサファイア」もあります。


 さて、ルビーとサファイア、そしてコランダムですが........この区別について書いておく必要がありますので書いておきます。
 これらを「鉱物」としてではなく、一般に言う「宝石」としての区別というのは結構いい加減だそうで。元素で違うといえば違うのですが、どうも宝石として比べると「真っ赤なもの」をルビーと称するようで、それ以外は全て「サファイア」と呼ばれるようです。青なら「サファイア」。例え赤系統のものでも「色が薄い」となると「ピンクサファイア」になってしまうとか。白、黄色などもあるのですが、これだと「コランダム」になるようです。
 非常にいい加減というか、分かりやすいというか(^^;;;

 尚、ルビーとサファイアには「スタールビー」「スターサファイア」なんてのがあります。これは不透明なルビー、サファイアをカボションカットというカットに磨くと時として三つの方向に光のバンドが現れて、しかも石の中などに固定されず石を傾けた方向に光が動く.........という現象が起こります。こういう現象を「アステリズム」または「星彩」と呼び、こういう石を「スター石」と呼びます。で、そのスター石がルビーならば「スタールビー」となります。
 これは具体的に説明するととてつもなく面倒なのですが..........
 簡単に言いますと、スタールビーの場合、コランダム内に「ルチル」という酸化チタンの針状結晶が入り込んでいます。これが三方向に向いているために光の屈折、散乱が絡んで結果、星状の光のバンドが現れます。これが、アステリズムが現れる原因となっています。
 尚、スター石は他にも水晶、スピネル、ガーネットなどにもあります。
#スタールビーの有名なものはインドにありますね.........

 ところで、ルビーやらサファイア。そしてコランダムは工業用にも非常に幅広く役に立っている事が知られています。とは言っても、ピンとくる方はそう多くはないと思いますが..........「宝石」としてでなく「工業利用」、たとえばレーザーや絶縁体、セラミックスに色々と活躍していますし、また生活に密着したところで活躍しています。
 また、ルビーは人工合成された最初の宝石としても有名なのですが..........

もうスペースがありません。次回に持ち越すこととしましょう。

 そういうわけで今回は以上、ということで............

・補足 2000/08/13
 某所でお世話になっている「SAGARA」さんより、文字の読みなどに付く「ルビ」に付いて補足を頂けました。
 これは、もともとルビのサイズが欧文での書体の大きさ(宝石の名前を冠する)でいう「ルビー」に相当するから、ということでした(裏とリ済み)。

・補足 2001/06/06
 「てふてふ」さんより、2001/06/04にゲストブックにていくつかご指摘を頂きました。以下に引用します。
人造サファイアはルビーのお話がでてきますが、小さな人造結晶も使い方によっては面白いという事例をご紹介します。  自動車のホワイトパールなどの塗色名に「クリスタルシャイン」という名称が付記されているものがあります。実は、これらは、人工的に合成された小さなアルミナの薄板 状の結晶を母体にして作られたパール顔料が使われているのです。  従来の天然雲母から作られたパールよりも輝きが強く透明感があるのが特徴です。  情報、ありがとうございますm(_ _)m




 てなもんで、終了。

 さて、今回の「からこら」は如何だったでしょうか?
 今回は久しぶりに宝石ネタ、ですが.........まぁ、前回の反省を生かしもうちょい深く突っ込んでみました。ま、今回は宝石オンリーで大分書いてみました。とは言っても、コランダム/アルミナは工業的に重要ですし、これらの宝石も重要ですので次回に触れる予定です.......というか、次回がある意味メインです(^^;;
 まぁ、取りあえず次回にそこら辺を触れたいと思います.......結構意外なところで、ってのがあるでしょうしね。
 ま、楽しんでいただければ嬉しいです。

 さて、今回は以上です。
 御感想、お待ちしていますm(__)m
 次回は今回の続き、ということになります。

 それでは、次回をお楽しみに.............

(2000/08/08記述 同08/13補足(Thanks>Ms.SAGARA))


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