からむこらむ
〜その81:鋼玉の活躍〜


まず最初に......

 こんにちは。お盆のまっただ中ですが、皆様いかがお過ごしでしょうか?
 帰省中だったり、居住地域にいたり出社したりと色々いらっしゃるとは思いますが........管理人は自宅でマイペースを続けています。ま、その内のんびりと「祖母孝行」に行こうとは思っていますけどね(^^;;

 さて、今回は前回の続き。
 前回は「コランダム」としてルビーとサファイアという宝石について触れてみましたけど.........実際にはこの鉱物は非常に幅広く使われている鉱物であったりします。実際には宝石では収まらない程の活躍が見られるものです。しかも、それが生活に密着していたりします。
 今回はそういう方面について、「総論的」に触れてみたいと思います。いや、細かくやると大変なことになりますので(^^;;;
 それでは「鋼玉の活躍」の始まり始まり...........



 では前回の続きといきましょうか。

 「宝石」というものは文字通り「宝」の石。当然のことながら希少価値の物です。
 しかし、この「宝の石」を合成しようとする動きがありました.........つまり、人工のダイヤやエメラルド、ルビーなどを作ることは出来ないのか? 19世紀はこの研究が大分進んだ時期でもありました.........そして、最初の人工宝石が出来た時期でもありました。
 最初はこの話から........

 時は1891年。フランスの化学者ベルヌーイ(「ヴェルヌーイ」と書いてあるものもあります)はある方法にて世界で最初に「人工の宝石」を作りだしました........世界で最初の人工宝石。それはずばりルビーだったのですが...........
 さて、彼はどうやって作ったのか?
 ルビーの組成は前回触れた通り、酸化アルミニウム(Al2O3)のアルミニウムがある程度の割合でクロム(Cr)に置換しているわけです。つまり? 酸化アルミニウムを原料にクロムを混ぜてこれを結晶化させていけば、ルビーは出来るのではないだろうか? ..........というわけで、彼は装置を組み立ててこれを実践し、その結果成功しました。
 では、実際にはどうやって作ったのか? 簡単に言えば........酸化アルミニウムに少量の酸化クロムを混ぜた原料の粉末を用意します。これを少しずつ装置内で酸素と水素と一緒に混合しつつ降らせていき、2000度程度の火炎で加熱すると.........やがて霧状の液滴となり、あらかじめ装置内の下に設置してある種子結晶に積もって円筒状のルビー結晶が成長していきます。種子結晶というのは、こういう結晶を成長させるのに必要なものでして、結晶が成長する「核」となります。
 この方法。やり方から「火炎融解法」と呼ばれていまして、開発者の名を取って「ベルヌーイ法」とも呼ばれるものです。ベルヌーイは記録によると3時間で10〜15カラット(1カラット=0.2g)の美しいルビーを作った、とされています。
 この方法はやがて他の宝石にも適用されるようになり、サファイア始めスタールビーやスターサファイアが作られます。スター石の場合はスターを出すためにチタン(前回話した通り)を加えるのですが、結構生成が大変だそうで温度調整をミスると脆くなる、とされています。が、上手く作ると天然よりも鮮やかなスターが出るそうです。
 尚、この技術は現在でもまだ改良されつつ用いられていまして、この方法によって直径10cmの環状結晶を作りだすことが出来ます。直径10cmのルビーって言うのも凄いですが........難点もありまして、成長が早いという利点があるのですが、結晶が成長する過程で生じる「線」が結晶中に出やすく、一発で「人工」とばれてしまうそうです。

 ともかくも、ベルヌーイにより人工宝石が出来まして、時代が下った1902年に彼はこの製法を発表します。それ以降、様々な人工宝石の合成法などが生みだされ、そして実際に人工宝石がつくられていくことになります。

 ちょっと外れますが、合成法はベルヌーイの方法の他にもありまして........「結晶引き上げ法」「熱水合成法」「融剤法」なんてのがあり、宝石の種類や必要(大きさや時間など)に応じて合成されています。ま、これはこれで面白いのでいつか独立してやるつもりでいますけど............現在ではほとんどの宝石が現在合成可能です。とはいってもダイヤモンドは少し例外的(薄層のものは出来るが、大きな結晶を作る技術は未だ研究中)ですが、それでも合成できます。
 ちなみに、結晶引き上げ法なんてのは「完ぺきな」(=化学的に「純粋な」)宝石が作れる方法として有名でして、半導体用のシリコンはこの方法で直径30cm、長さ数十センチ〜2mぐらいの「単結晶」が合成可能とされています。また、アクアマリンはこの方法だと3時間で100gぐらいの結晶が作れるとされています。
 100gの「完ぺきな」宝石........500カラットですか............
 もちろん、不自然に「完ぺき」な宝石は詐欺に使うには怪しまれるので、作る側も作る側で大分「天然に似せる」工夫をしているようです。例えば、天然物には傷があったりするのであえて自然に見せかけるようにして作るとか.........まぁ、イタチごっこ、って話ですけどね(^^;; ここら辺の詐欺的な話は結構面白いのでまたいつかやるつもりです。
#ま、一番面白いのはダイヤモンド合成の話なんですけどね(^^;;
#尚、一部の化学の本に「チャザムのルビーが最初」って書いてあるのを見たのですが、チャザムは最初に「エメラルドを合成した」人物ですので、正確には「チャザムのエメラルド」です。

 尚、前回書いたようにルビーはアルミニウム100につきクロム1の割合で置換すると最高級品である「ピジョンブラッド」になるわけですので、合成する際にはこの割合で上手く作るようにする、との事です。また、サファイアは色によって(前回書いたように「赤以外」は全部サファイア)元素を変えるそうで、ブルーサファイアでは酸化鉄1%、酸化チタン0.1%。ゴールデンサファイアは酸化ニッケル0.3%と酸化クロム0.01%を酸化アルミニウムに加えて作るようです。

 ついでに余談になりますけど、サファイアですが産地によっては青が不透明で宝石に使えない、ということで人工的に色の調整がなされているのが多いそうで...........しかも、その技術はバンコクにしかない、という話もあります。
 ルビーやサファイアなどの宝石類は一般にルートがしっかりと確立されているのですが........旅行先で変に安い原石があって購入しても、実は「合成品」ってオチが結構あるようですので、皆様お気を付けを(^^;;


 さて、こうして合成される宝石......実際には「宝石」のみならず「鉱物」全般なのですが.........これらは現在の社会で大分活躍をしてくれています。宝石ならば装飾用として、というのもありますが、それのみではなく他の局面でも活躍してくれてます。
 しかも、極めて重要な部分で。

 前回触れたように、ルビーやサファイアという宝石。鉱物として見ると「コランダム」と分類されます。
 このコランダム........何度か出ているようにAl2O3、いわゆる酸化アルミニウム(アルミナ)の結晶です。ルビーやサファイアは合成可能ですが、当然のことながら「宝石ではない」コランダムも合成が可能です。そして、前回にこのコランダムは天然ではどこにでもある比較的ポピュラーな鉱物であると書き、そして身近に関与しているとも書きました。
 では、これが何に役に立つのか?。

 天然に産出するコランダムは色々とありまして........ま、奇麗なものは「宝石」な訳ですが、圧倒的にそういうものは少数です。大半は磁鉄鉱などが混じった黒い色をしていたり透明だったりと、「宝石」としては使えません。
 では、これは何かに役に立つのか?
 前回触れた通り、コランダムという鉱物はモース硬度が9という、天然ではダイアモンドに次ぐ大変堅い鉱物です。そして耐摩耗性に非常に優れていることが知られています........というので、昔よりこれは研磨材として使用されていました。例えば、遺跡より発掘される装飾品などはコランダムなどを用いて研磨したのではないか、という物もあります。
 研磨材としてのコランダムは現在でも使われていまして、天然の黒色などのものは「エメリー」という名前の研磨材で使用されていました。合成のものもありまして、そういうものは「アランダム」と呼ばれています.........おそらくは、現在は合成品が大分シェアが大きいと思われますが。
 ところでエメリーは研磨材のほかにも舗装道路にも使われています........ってピンと来ませんかね? 道路のどこに使われているかというと、「とまれ」とか横断歩道の「縞」の部分。ここに使用されていまして、粉末状にしたものを塗料に混ぜています。これはそのままだと塗料で滑りやすくなるのですが、エメリー粉末のおかげで摩擦を大きくしてブレーキの利きを良くする、という作用があります。
 ルビーやサファイアの仲間が道路の舗装に使われている、って考えると結構面白いと思いません?

 また、コランダム.......というよりも分野によっては「アルミナ」の方が通りが良いですが........酸化アルミニウムはその硬度、耐熱性、高熱電導性、電気絶縁性などからIC基盤、絶縁体(碍子(「がいし」)など)、研磨材、研削剤、アルミナ繊維(商品名「Almax」なんてのは有名か?)などに。そして、アルミナは生体適合性があるため、人工歯根、人工関節などに使用されています。
 いわゆる「ファインセラミックス」などと呼ばれるような分野の、「セラミックス素材」として、このアルミナはかなり使用されている材料となっています........例えば、各種繊維や半導体関係、工業分野各種、生体適合性などから生体への応用→医療分野での活躍など、極めて広範囲に使用でき、そして更なる発展が期待されています。
 つまり、現在の技術の「最先端」で大活躍をしている素材であったりします。
#また、工事現場では「アルミナセメント」という、アルミナを含むセメントが使用されることがあります。

 では、コランダムに続いて宝石である「ルビー」と「サファイア」は宝石としての用途のほかに合成物は何か使えるのか? と言いますと.........
 ルビーは色々とありまして........まず、アナログ式のクオーツ時計の「歯車」に2〜6個、ぜんまい式に7〜20個使用されています(よって、デジタルでは使われません)。これに使用されているルビーは0.5〜2mm以下で許容される誤差は2ミクロンという物が要求されるそうで..........とてつもなく製作に高い精度が要求されています。また、コンピュータの磁気テープクリーナーの刃(やすり部分)、化学天秤のエッジナイフ、ドットプリンターのノズルとガイドなどにも使用されています。
 サファイアの方も負けずにたくさんありまして.........合成されて出来る無色透明のホワイトサファイアが良く使われているようでして、その耐久性から時計の窓や人工衛星の窓、電気計器の軸受け石、化学天秤のナイフエッジ、レコード針などに使われています。また、CDの読み取り部分の窓にもこれが使われています。そう、皆さんが音楽聴くときはレーザーでCD上の情報を読んでいくわけですが、そのピックアップレンズ周りに使用されています。


 ま、「コランダム」よりも酸化アルミニウムに関して.........ボーキサイトから色々とアルミニウムを取って........なんて話も面白いのですが、それはまたアルミニウムの話をする時にするとしまして.............取りあえず大分書きましたし、スペースがありません。
 駆け足ですが、次で最後、としましょう。


 ちょっと質問ですが..........今世紀最大の三大発明は何であるか? と聞かれたら皆さんはどう答えるでしょうか?
 物の本によればこうなっています.........一つは「トランジスタ」。一つは「原子炉」。
 そして.........「レーザー」だそうです。

 1953年。アメリカの研究所でタウンズ(Towns)らによって電波の周波数を上げる(軍事レーダーの研究だった)が行われていました。この研究の中で、研究の結果、「位相の揃った電波」.........いわゆる「メーザー」(Maser)として知られる「誘導放出によるマイクロ波増幅」の現象を人類は発見することになります。
 この現象の研究は進み、やがて電波のみならず、同じ「波」である「光」に対してもこの増幅現象を起こそうと研究が進められました。
 そして、1960年。メイマン(Maiman)らによって進められたこの研究は、やがてメーザーより発展して光の波長領域における増幅に成功します。これは、「誘導放出による光の増幅」(Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation)より「Laser」。いわゆる「レーザー」と呼ばまして、この時は「赤い」レーザーを放出することが出来ました。これが記念すべき最初に見られたレーザーとなります。
 このレーザーはやがて様々な素材などを使用し、そして様々な可能性が研究されて応用され、そして現在に至っています。

 このレーザーというもの。一体どういうものかというと........ま、難しく説明すると果てしないですし難しいので単純に言ってみますと.........
 電灯などの「光」は様々な波長の光がありまして、それが360度(実際には立体的ですけど)に放出されています。そして、その波はバラバラでして........それぞれの波が「学校の校庭でバラバラに遊んでいる」様な状態になっている、という感じになっています。
 が、しかしある「特定の波長」の光を「特定の分子」に通してやると、その波長の光が「奇麗に揃って」出てきます。これは電灯などの光とは違いまして、「一つの方向に全く同じ波」が出てきまして。ま、上記の例で言えば「全員が一糸乱れぬ状態で行進している」ような状態になります。
 これがレーザーでして、レーザー光は拡散せずに一つの方向に放射される特徴を持ち、そして高エネルギーを持ち、その集中が可能です。
#ま、難しく簡潔に言えば、「波長と位相の揃った光」なんですけど...........

 レーザーの応用範囲は極めて広く、身近なものではCDやDVDなどのレーザー読み取りがあるでしょうか? また、代表的なものに距離の測定があります。更に挙げてみれば、ドリルとして使用されており、ダイヤモンドに穴を開ける作業が過去には一日がかり(ダイヤモンド製ドリルを使った)だったのですが、レーザーのおかげで2秒程度で開けることが出来ます。また、切断用ナイフや溶接、焼き入れ、核融合、兵器など.......に使用されています。
#兵器ですが、レーガン政権下におけるいわゆる「SDI計画」の産物ですね..........
#現在は、艦船へのミサイル攻撃の迎撃に装備されているとも言われますが......? また、航空機の乗組員に焦点を当てて失明させるという「人道的な」兵器とかの(愚かな)構想もありましたね.........

 さて、このレーザー。「特定の分子に特定の波長の光を通す」と書きましたが、この「特定の分子」について書きますと...........世界で一番最初に使われたのは、合成のルビーであることが知られています。1cm程度の大きさのものを用意し、これにフラッシュランプで結晶を照射して、ルビーの内部のクロムの影響により赤いレーザー(694.3nm)が発振されました。
 つまり、今世紀の「三大発明」の最初は、ルビーという宝石........しかも、合成物でありました。
#尚、この「特定の分子」。特に固体にこだわる必要もなく、液体や気体でも可能でして、現在のところ約70の元素がレーザー発振が確認されています。

 尚、固体レーザーとしてルビーレーザーは良く使われていたのですが、最近は人工宝石である「YAG(ヤグ:Y3Al5O12:Y→イットリウム)」が主力だそうで、色々な利点がある(発光しやすい、効率が良い、応答が早いなど)為に、光通信、光ディスク、CD、バーコード読み取り、レーザープリンターなどにこのヤグレーザーが使用されています。
 皆さん、お世話になっているでしょう?

 また、今回の話の主役の一つであるサファイアもレーザーに使用されていまして、レーザーメスとして医療用に使用されています。
 このレーザーメス。このメリットは切開すると血管も含めた組織が凝固、蒸発するので出血がしにくい、というメリットがあります。


 以上のように「コランダム」という鉱物。「宝石」などとして用いられたほかにも現在ではかなりの広い分野にわたって活躍をしています。
 まぁ、大分駆け足なんですが、こういう感じで色々と使用されている「宝石」。
 お時間あれば、探してみるのも面白いかも知れませんね..........

 さて、本当に「総論的」でしたが。
 今回は以上、としましょう。


・補足 2001/06/06
 「てふてふ」さんより、2001/06/04にゲストブックにていくつかご指摘を頂きました。以下に引用します。
 人造サファイアはルビーのお話がでてきますが、小さな人造結晶も使い方によっては面白いという事例をご紹介します。
 自動車のホワイトパールなどの塗色名に「クリスタルシャイン」という名称が付記されているものがあります。実は、これらは、人工的に合成された小さなアルミナの薄板状の結晶を母体にして作られたパール顔料が使われているのです。
 従来の天然雲母から作られたパールよりも輝きが強く透明感があるのが特徴です。

 情報、ありがとうございますm(_ _)m




 てなもんで、終了。

 さて、今回の「からこら」は如何だったでしょうか?
 ま、ちょっと駆け足でしたけど総論的に、「コランダム/アルミナ」の利用に関する話をしてみました。まぁ、色々と広範な範囲に利用されている、ということに興味を持っていただければ幸いです。前回書いたように「意外なところで」ってのがあったと思いますけど........どうでしょうか?
 とにかくも、楽しんでいただければ嬉しいです。

 で、次回はどうしましょうかねぇ?(^^;;
 まぁ、取りあえずは考えますね。

 さて、今回は以上です。
 御感想、お待ちしていますm(__)m

 それでは、次回をお楽しみに.............

(2000/08/15記述 2001/06/06補足)


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