からむこらむ
〜その93:貯蔵と構造と血液型〜


まず最初に......

 こんにちは。大分冷えていますね。北はもう冬に突入だとか。皆様如何お過ごしでしょうか?
 管理人は一応、安定しているようです。まぁ、去年よりは大分良い感じなので.......ま、頑張れるかなぁ、と思いますが。

 さて、今回は前回の続き、と行きましょう。
 前回は「糖」の話でも、光合成から出来るまでと単糖類、二糖類、オリゴ糖について話しました。今回は、更に糖類が連なっていって出来る........「多糖類」と呼ばれるものについて触れてみたいと思います。まぁ、生命の基本的な部分、ですので触れないといけませんので.......
 ま、前回と同じく「こんなもんだ」という感じで認識していただければ大丈夫だと思います。
 それでは「貯蔵と構造と血液型」の始まり始まり...........



 さて、前回には「糖」の基本として「単糖類」と「二糖類」の話をしました。
#とは言っても、本当に深くやると洒落にならんぐらい専門的にできるのですが(^^;;
 では、今回は.........前回触れておかなかった「多糖類」という物に触れてみたいと思います。

 多糖類、と言うのはどういうものか、と言いますと..........科学的に言えば、「単糖がたくさん結合していったもの」という事になります。前回では10個ぐらいまでの物を「オリゴ糖」と言いましたが、それ以上となると「多糖類」と呼んでいます。
 では、多糖類とはどういうものがあるか?
 皆さんの身近な多糖類、と言うと.......どういうものが思いつかれますかね? ま、代表的なものとしては「でんぷん」という物があります。

 「でんぷん」、と言うのは皆さん御存じのものだとは思いますが.........よくお世話になっていますよね? なっていない? いやいや.......時として良く食べているかと思います。例えば? そう、芋類や小麦、トウモロコシはもちろん、日本人の主食である米にもこのでんぷんは含まれています。お世話になっていますよね?
 一応、もう少し書いておきますと.......高等植物が光合成によって糖を生みだすとは前回書きましたが、その糖を「貯蔵」する際に、この糖をくっつけていって「でんぷん」とし、根などに蓄える.......そして、人間などがそれを取って、栄養源としている、と言うことになります。
 では、「でんぷん」とはどういう構造で成り立っているか、と言いますと.......前回触れたブドウ糖(=グルコース)で成り立っています。前回の図を流用しますが



 という構造です。
 でんぷんでは左の「α」のグルコースが使われます。

 さて、「でんぷん」と言うものは実は更に分けることが出来ます。それは「アミロース(amylose)」という物と「アミロペクチン(amylopectin)」という物です。両者ともα型のD−グルコースが使われていますが、ちょっとしたところで違いがあります。
 まず、単純なアミロースを説明しますと.......構造としては以下の図のようになっています。



 上段は「まとめて書いてみた」場合です。下段は省略形で書いていますが(環の上下に出ているのは「-OH」です)、その連なっている様子です。全てα型のD−グルコースでして、それが横に「ずら〜〜っと」並んでいます。専門的には、「α-1,4結合」と呼ばれる結合が続いています。分子量としては大体4万〜15万ぐらいです。グルコース単体の分子量を180とすれば、大体220個〜1000個ぐらい連なったものが一分子として存在することになります。

 では、アミロペクチンはどういうものか、と言いますと、これもα型のグルコースが連なっているのですが、少し違いまして..........ま、構造が大きいので「省略形」の方で書きますと



 という形になります。ご覧の通り「横一列」のアミロースとは異り、「上下」の方へと「枝分かれ」している部分があります。この部分を専門的には「α-1,6結合」と呼んでいますが、これがあるのがアミロペクチンの特徴です。大体30個ほど「横に並ぶ」と枝分かれをすることが知られています。
 でんぷんはこの2種類の多糖類で成り立っています。
 では、食用とする植物ではアミロースとアミロペクチンのどちらが多いか? と言いますと........一般にはアミロペクチンの方が多く、割合としては70〜80%ぐらいが普通のようです。が、中には98%がアミロペクチン、という穀類も存在するようですし、30%以下などという物もあり「様々」であると言えます。
 この含有比率は「食」では結構重要のようでして、性質上アミロースが少ない米の方が柔らかくて粘り気がある、という特徴があります。日本の米で「良質」の物でアミロースは16〜19%。評価の低いもので21〜23%。タイ米では30%近い、というデータがあります。もっとも、国によって調理法が違いますから、「不味い/美味い」を単純にに決めるのは誤りですけどね。

 でんぷんは体内ではアミラーゼ(amylase)という酵素により分解され、デキストリンという「でんぷんが酵素による加水分解で低分子化」したものに変化します。これは更に分解されまして前回触れた「麦芽糖」になります........実は、ご飯を長く噛むと甘くなる、という経験を持っている方も多いかと思いますが、これは実は唾液中のアミラーゼによるでんぷんの分解の結果、と言えます。また、ひいては麦芽糖まで分解すれば消化吸収には有利、と言う事も言えますので、「ご飯はよく噛んで食べる」というのは...........
 尚、アミロースの方がアミロペクチンより分解されやすくなっています。

 そうそう。でんぷんというと小学生の頃に「じゃがいもを切って、表面にヨウ素を塗る」という事をやった記憶が無いでしょうか? いわゆる「ヨウ素でんぷん反応」という物でして........青くなる、という物なのですが。しかし、でんぷんでなく、これを構成するグルコースだけであると、ヨウ素による呈色が出来ません。やった事がなくても御存じの方は多いかと思います。
 これ、何故ヨウ素を塗ることで青く呈色するかと言いますと........実はでんぷんの構造が関与しています。上に触れたアミロースは「横に連なっている」という事ですが、実際には立体的に見ると「6個で1ループ」する「らせん」となる.......「コイル状」の構造をしています。実は、グルコース6個で1回転すると生じる内部の空間にこのヨウ素が入り込むことが出来まして、それにより青に呈色する、と言うのが種明かしだったりします。アミロペクチンでも呈色しますが、この場合は紫、または赤色となります。
 唾液などを使ってでんぷんが分解した場合、こう言った「ヨウ素が入り込む構造」が存在しなくなりますので、グルコースなどにヨウ素を入れても青く呈色はしなくなります。

 さて、人体でもこう言った「でんぷん」のような構造をエネルギー源として持っていることが知られています。
 動物組織ではエネルギー源の貯蔵、と言うことで「グリコーゲン(glycogen)」という物が存在していまして........通称「動物でんぷん」とも呼ばれています。これの構造はアミロペクチンに似ていますが、アミロペクチンが「30個ぐらいで上下に枝分かれ」だったのに対し、8〜10個程度で枝分かれしています。つまり、細かく枝分かれした構造をとっています。
 グリコーゲンは人では約350g程度を限度として、肝臓や筋肉に蓄えられています。
#過剰にエネルギー源を取ってしまえば、基本的には「脂肪」になります。

 ま、食に関してでんぷんは更に色々と書ける(何故炊いた米は時間を置くと不味くなるのか、など)のですが、それは別の機会にしまして........先へと進みましょう。

 さて、今まではエネルギー源としての多糖類の話をしました。ま、エネルギーの「貯蔵」を目的としていますのででんぷんなどは「貯蔵多糖類」と呼ばれています。そして、それらは「α型」のグルコースで成り立っていました。
 では.......ちょっと最初の図を見て下さい。前回にも書きましたが、グルコースには「α」の他に「β」があります。では、β型のが連なったものはないのか? 実はこれはきっちりと存在しています。

 β型のグルコースが連なると何になるか? これは一般に「セルロース(cellulose)」と呼ばれる化合物になります。



 大体一分子辺り、β型のグルコースが3000個連なったものとなっています。構造を見ると、アミロースなどと比べると、グルコース同士の結合部分の「向き」が違うことに気付くでしょうか? これは、左右の「-OH」の「位置」の違いから生まれるのですが......... α型のグルコースでの「α-1,4結合」に対して、この結合はβ-1,4結合と呼んでいます。
 さて、では「たった一ヶ所」の構造が違うこれらが多糖類になることで、どういう違いを生みだすのか?
 セルロースと言うのはまず構造的には「まっすぐ」となります。文字通り直線的な構造となりまして、繊維となりやすく、実際に「繊維」となります。代表的なものとしては木綿や麻などはセルロースでできた繊維です。化学的に水を吸収しやすいため、汗をよく吸います。
 また、繊維質であるうえに構造的に頑丈なことから、植物の「骨格」を成す化合物でもあります。どういうところにあるか、と言うと植物が持つ「細胞壁」と言うものがありますが、その構造の主成分がセルロースです。
 尚、木材から「リグニン」と呼ばれる、木材を堅くしている物質を除き、セルロースだけにしたものを工業的には「パルプ」と呼んでいます。

 さて、ご覧の通りセルロースもブドウ糖から成り立っている化合物です。が、残念ながら人間ではこれを「栄養源」として使用することはほとんど出来ません。何故か、と言うと........でんぷんでは「アミラーゼ」という酵素によって分解が出来ましたが、ヒトでは(実際には高等動物)セルロースを分解する酵素を持っていないためです(ただし、腸内細菌の一部が、少量分解できる様ですが)。しかし、人間にはこのセルロースが必要となっていまして........いわゆる「食物繊維」の一種として腸内の掃除に必要であったりします(つまり、「お通じ」に効果的、と言うこと)。これは極めて重要でして、食物繊維が不足すると大腸ガンになる可能性が高い事が知られており、また糖尿病や心臓血管系の疾患も起こすことが知られています。
 ま、繊維の多い野菜などはしっかり取れ、という意味でもありますが..........

 っと、脱線していますが.......では、このセルロースを栄養源に出来る動物はいるか、と言うと.......存在しています。草食動物では重要です。
 草食動物.....まぁ、反すう動物ですが、これらはセルロースを分解する酵素を自身では持っていません。が、胃や腸に寄生する微生物によりセルロースが消化・吸収されてグルコースにすることが出来、これを栄養源として生命を維持しています。また、カタツムリやナメクジ、シロアリや微生物などはセルロースをグルコースに加水分解をすることが可能です。

 さて、セルロースの様に、生物の構造に関与する多糖類を「構造多糖類」と呼んでいます。
 この構造多糖類、と言うもの。植物ではセルロースが代表例なのですが、動物でもこの構造多糖類が大きく関与しています。それは、実になじみの深いものでして.......例えば昆虫の外骨格や、海老や蟹などの甲殻類の「殻」という物。これらも構造多糖類の一種でして、「キチン(chitin)」と呼ばれています。
 「キチン」はN-アセチル-D-グルコサミン、という化合物が多数結合したものでして、「殻」を形成します。意外かも知れませんが、アレも糖の一種だったりします。また、炭水化物ですので「燃やす」事が可能です.........ま、小さいときに勘違いした経験をお持ちの方もいらっしゃるかも知れませんが、海老や蟹の「殻」。カルシウムじゃ無いんですね(^^;;



 これが、β-1,4結合(セルロースの様な結合法)で連なったものが「キチン」となります。


 さて、以上のようなものが代表的で色々と書くことの出来る多糖類です。が、体内では更に多糖類はたくさんありまして........
 例えば、細胞間の間で「接着剤」や「潤滑油」的な役割をする糖類が存在しています。例えば、「ヒアルロン酸」という物があります。これは、上記のN-アセチル-D-グルコサミンとD-グルクロン酸という化合物が交互交互に連なっていった化合物です。この化合物は接着剤や潤滑油的な作用のほかに、保湿の役割などをしまして、体内では角膜や関節などに含まれるほか、皮膚にも存在しています。最近では保湿性を買われてか、化粧品(基礎化粧品になるのでしょうか?)に含まれてますので、女性陣はちょっと成分表を見てみるのも良いかも知れません。
 また、コンドロイチン、という多糖は軟骨や腱、骨の構成成分などとなっています。
 ま、他にも色々とありますけど........とにもかくにも生物内で色々と重要な役割をしている、と言うことは頭に入れておいても損はないでしょう。


 さて、糖類は上記のようなエネルギー源や、構造に関与するだけでなく、更に重要な役割があります。
 難しい上に、目茶苦茶な役割の数がありますので簡単に触れておきますが、「糖タンパク」という、糖とタンパク質が結合した物が体内に存在しています。これは、体内での糖の輸送を行ったり、また別の物質(ビタミンや脂質など)の輸送も行います。それだけではなく、潤滑剤的や役割もしますし、生体構造をになったり、ホルモン作用、酵素の一部、免疫、細胞の接着や認識という物に関与しています。また、南極海にいる魚類が「凍らない」、つまり「不凍因子」としても機能していると考えられています。
 更に糖タンパクは........血液型にも関与しています。

 血液型、と言うのは色々とあるのですが........まぁ、いわゆる一般的なヤツでして「ABO式」と呼ばれる血液型。これに糖タンパクが関与しています。
 日本ではA型が4割、O型が3割で、Bが2割、ABが1割となっています。世界的にはO型が多いのですが............さて、これらはどうしてこういう「型」に分かれるか、と言うと.........
 血中には酸素の運搬役として良く知られる「赤血球」という物があります。ま、皆さん御存じでしょうけど.........この赤血球の細胞膜の構造に注目してみますと........実はここにはたんぱく質があるのですが、これに糖がくっついています。つまり上に書いた「糖タンパク」があるのですが、このたんぱく質につく糖の種類によって血液型が決定します。
 ま、赤血球の特定の場所で違いがあるのですが、その特定の場所の糖タンパクの糖が、キチンのN-アセチル-D-グルコサミンであれば「A型」に。前回触れたガラクトースが付けば「B型」。両方付いたら「AB型」でして、何もなければ「O型」となっています。

 余談ですが、このABO式の血液型は民族・人種・動物によって違うことが知られていまして、インディアン(ネイティブアメリカン、の方が良いのかな?)ではO型しかいないそうで......... まぁ、ABOによる性格の分類は根拠が無い、と言うのが実験で出ていますが.......さてさて?(^^;;
 もっとも、実際には更にRhによる分類なんてのもありますし、更に細かくやれば.......特に犯罪捜査レベルまでいって、更に色々な検査法を複合していけば、血液型というのは「数百万人に一人」というレベルまで分類可能となっています。
 ........そこまで行けば、「性格の分類」が出来るのかも知れませんけどね。
#必要とするサンプル数が「膨大」というレベルを超えていますが(^^;;


 さて、糖タンパクのほかにも、糖類は更に色々と役割があったり、生体に利用されていたり、天然物中にあります。
 例えば、ある種の糖類は解毒代謝に用いられたりしますし(ここら辺は管理人の専門ですが(^^;;)、またある種の抗生物質........例えば、結核に有効として世に出た、ストレプトマイシンという物は糖が構造中に入っています。
 後者のように、糖と無関係な物質と、糖が結合したようなものを「配糖体」と呼ぶのですが、これは自然界に広く存在し、あるときは「毒」として。そしてあるときは「薬」として活躍するなど、非常に幅広く存在しています。
 また、糖類は代謝を受けて、例えばその91での紅葉について触れたように、色素になったりします。それだけではなく、匂いの成分などにも変化しますし.........非常に幅広く関与をしています。

 ここら辺はいずれ、色々と取り扱うこととしましょう。


 さて、長くなりました。
 まぁ、色々と書いていますけど、取りあえずは「糖」と言うものが色々とある、と言うことは何となく理解していただけたかと思います。ま、構造とか出てきて「?」という方もいらっしゃるかも知れませんけど(^^;; その道を志す学生さんでなければ、「ふ〜〜ん」程度で結構ですので。
#その道の学生さんだったら、当然もっと知っていなければなりませんが..........
 とにかくも、「色々なところで、色々と働きがある」と言うことは覚えておいて頂ければ。そして、何となく「糖」と言うものが分かっていただければ、幸いです。
 今後、ちょくちょく関与してきますので.........

 では、まだたくさん書き残している部分がありますが.........各論的な部分は別の機会にする、と言うことで。
 今回は以上、と言うことにしましょう。




 終わった.........

 さて、今回の「からこら」は如何だったでしょうか?
 今回も書くことが大目でしたので、駆け足となってしまいましたが..........まぁ、本格的に、そして細かくやると洒落にならない回数となる分野ですので、その点は御了承をm(_ _)m 取りあえず、最後に書いたように、「色々とある」と言うことなどを何となく分かって頂ければ、と思います。
#本当に、これだけで何回でも出来るくらい、という分野ですので(^^;;
 ま、取りあえずある程度基本的なことは触れられたかと思います。これで、また色々とネタの選択肢を増やすことが出来ましたので.........(^^;; 一応、でんぷんの「味」に関してや、ヒアルロン酸や配糖体に関する話は将来的に予定していたりしていますので、興味のある方はお楽しみに.........
 ま、布石という意味もありますので。

 さて、次回は何にしましょうかね? ま、色々とありますけど.........適当に選んでおきますか。
 次回はもうちょっと分かりやすいのにでもしましょう。

 さて、今回は以上です。
 御感想、お待ちしていますm(__)m

 次回をお楽しみに.............

(2000/11/21記述)


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