からむこらむ
〜その92:エネルギーと生命の元〜
まず最初に......
こんにちは。最近気温差が激しい日々ですが、皆様如何お過ごしでしょうか?
管理人は、取りあえず安定傾向だと思うんですが........どうなりますかね。まぁ、確実に言えるのは、鍋が美味しい時期だなぁ、ということでしょうか(笑)
さて、今回は「秋の感謝祭」で遊び過ぎまして、エイプリルフールと同じ状況という有り様だったのですが........(^^;
ま、軽い話を考えたんですが、ちょっと先を考えるにやっておかないといけない部分があります。ので、そこら辺の布石ということで進めたいと思います。話の対象は「糖」。甘いものとか、そういうイメージが多いとは思いますけど、生化学的にはそれ以上の役割を担っていますので.........
ま、あんまり難しいことやっても仕様がないですので、軽く、と言うことで。「こんなもんなんだ」という認識をしてもらえれば大丈夫だと思います。
それでは「エネルギーと生命の元」の始まり始まり...........
さて、過去において.......「その28」で五大栄養素の話をしましたが.........
この「その28」において「三大栄養素」として挙げているものに「炭水化物」という物を挙げました。これ、実は一般に「糖類」と呼ばれるものになるのですが........
ここでちょっと聞いてみましょうか?
皆さんの持つ「糖」のイメージとは何でしょうか?
.......なんて聞かれたらどういう答えになりますかね?
まぁ、結構似たような方向性になるとは思うんですけど..........生化系の学生さんだと大分出るでしょうけどね。一般ではどうでしょうか? おそらくは砂糖とか、「食」に関するものが多いような気がします。
確かに、「糖」と言うものは一般に良く知られていると思いますし、重要なエネルギー源でありますが.........
ま、今後でも大分重要になるので、今回はこの話、といこうと思います。
さて.....皆さんは他の生命ないしはその生産物を「食べる」ことで「生きて」います。まぁ、こんな基本的なことは御存じでしょうけど.........しかし、皆さんはこの生物の営み、と言うものは「根本的な部分」では何で成り立っているか御存じでしょうか?
ちょっと考えて欲しいのですが...........まぁ、そんなに難しい言葉ではありません。一度は聞いたことがあります。
解答は........「光合成」となります。
さて、この光合成。植物生理の話でも特に聞かないかぎりは........そうですね。一般では「植物が二酸化炭素を吸って酸素を吐き出す」って話のイメージが強いかも知れませんが........どうでしょう? これは確かに合ってはいますが、詳しく言えば「半分だけ正解」といった所になります。
何故か?
「光合成」と言うのは、どういうものか、というのを簡単に説明をしてみますと、植物は太陽光線のエネルギーを葉緑素が吸収して利用し、二酸化炭素(CO2)と水(H2O)を取り込んであるものを作りだす、ということを指しています。この作りだすものの一つは、御存じの通り酸素です。が、もう一個作るものがありまして.......それは糖類、となっています。
ま、式を書いてみますと.........
と、なります。上段の「n」には整数が入ります。下段は一例でして、この場合ではブドウ糖が出来ています。
さて、ここでちょっと生物学ですが.......植物は「生産者」、動物は「消費者」と一般的には呼ばれます。これを考えると、植物は太陽、二酸化炭素、水から「エネルギー源」を作りだしてこれを蓄える(上記式では、糖類がこれに該当)のですが、動物はこういうことが出来ません。ですので、生産者たる植物の蓄えを食べることで基本的には生き永らえています。ピンと来なければ......食卓で炭水化物(=糖類)として、穀物や芋類という物が良く出てくる、というのを理解していただければ分かるかと思いますが.........
#麦、米などを使ったものは皆さんよく見るかと思います。
つまり.......生物の営みの根本部分は「光合成」によるもの、ということが言えます。そして、その生産する糖類により生命が成り立っているわけです。
さて、では糖類、ってのはどういうものがあるでしょうか?
化学的に言うと、糖と言うものは三種類に分類されます。どういうものがあるか、と言いますと........
という物になりますが........結構「聞いたことがある」とは思いますがどうでしょうか? ま、詳しくは後述しますが.......細かくなると、これがじつに種類が豊富だったりします。これは、生体内で非常に多くの役割を担っている、という意味でもありますが。
単糖類、と言うものは糖の「基本形」みたいな物でして、ある種「基準」的な物となります。代表的なものは「ブドウ糖」などがあります。単糖類が2〜10個結合したものを「オリゴ糖」と呼んでいます。ただ、単糖同士が一個ずつ結合すると「二糖類」呼んでいまして、二糖類を「オリゴ糖」とはあまり言いません。二糖類の代表は「ショ糖」......つまり「砂糖」があります。更に単糖類が10個以上結合しますと、これは一般に「多糖類」と呼ばれます。これの代表例は「でんぷん」があるでしょうか。
身体に取り込まれた糖類(=炭水化物)と言うものはどういう働きをしているか、と言うと.........まずは「食」に密接に関わる通り「エネルギー源」としての側面があります。が、それだけではなく、生物の「骨格」などを形成したり、細胞での「識別」などに関与したりとじつに色々な役割をしています。
ちなみに、英語で書いた際に末尾が「-オース(-ose)」となるような物は糖類であったりします。
最も単純な「糖」は「D-グリセルアルデヒド」という化合物でして、炭素三つから成る化合物です。
ま、特に学生さんでなければ構造なぞは「ふ〜〜〜ん」程度で結構ですが(^^;
炭素三つ、ですが、これに炭素を一個ずつ追加していきまして、様々な糖が出来ていきます。が、その23、その24で触れたような「向き」が関与していきまして、炭素一個増えるごとに「枝分かれ」式に構造の種類が増えていきます。
さて、ではまず......単糖類に注目してみましょうか?
単糖類は一般に炭素が6個の物に生物に重要なものが多くあります(5個の物でも重要なものはありますが)。ま、炭素が6個(6=hexa-:その14参照)の糖(-ose)より「六炭糖(ヘキソース)」と呼ばれるのですが....... その構造は骨格が「六角形」だったり「五角形」だったりします。前者は「六員環」と呼び、後者は「五員環」と呼ばれる形になります。六炭糖は六員環になったり五員環に変化することが出来ます。安定なのは六員環の方なのですが........
さて、単糖類の代表選手は「ブドウ糖」です。いわゆる「グルコース」(glucose)というヤツでして、これはギリシア語で「甘い糖」が語源となっています。その構造は2種類ありまして........
左がα型。右がβ型、と呼ばれるものです。まぁ、細かいところまでは普通の人にはどうでもいいですが、青い部分の構造が違っています(左右両端の「-OH」が「下を向いている同士(=α)」か、「上と下(=β)」か)。これはちょっと頭に入れておいて欲しいのですが......いや、「たったこれだけ?」って思うかも知れませんが、これが多糖類で大きな差を生み出す、と言うのが自然の面白いところなので..........それは次回の多糖類の時に説明しましょう。
#学生さんはもっと突っ込んでやらんとダメですけど。
#生体では「D型」しか使えない、とかピラノースにフラノースとか........
尚、各炭素(C)に結合する「-OH」の位置が「上か下か」で「違う糖」になりまして、生体でも違う役割をすることが知られています。
さて、このブドウ糖。皆さんは良く聞かれるかも知れませんが、人間にとっては身体を動かす「基本的なエネルギー源」です。ブドウ糖の形ならばどの細胞にも入ることが出来、エネルギー源となります。いわゆる「糖」と言うと大抵はこれを指します。通常では多糖類として肝臓や筋肉に蓄えられていまして、「グリコーゲン」と呼んでいます.......いわゆるお菓子で御馴染み、「グリコ」のもとでして、必要に応じてブドウ糖に変換されています。ですので、蓄えられているグリコーゲンの量が多いと持久力がある、と言えますが。自然界にはブドウ糖がたくさん連なった「でんぷん」という形で多く存在しています。これより、でんぷんや砂糖などの様々な多糖類や二糖類などからブドウ糖は作ることが出来ます。
ちなみに、読まれている方で気にされている方もいらっしゃるかも知れませんが........「血糖」というのは、血中のブドウ糖を指していまして、ほ乳動物には大体0.1%程度含まれています。この濃度はグリコーゲンと血中のブドウ糖量の取り込み-放出のバランスで成り立っていまして、血中のブドウ糖が多くなると、膵臓のランゲルハンス島のβ細胞で作られる、御馴染み「インシュリン」によって取り込まれます。が、これが少なくなるか出来なくなると、ブドウ糖が取り込まれなくなることから血中のブドウ糖量が多くなり、最終的にはいわゆる「糖尿病」を引き起こしたりします。
ちなみに、血中のブドウ糖の濃度が高くなりますと満腹中枢が刺激されて食欲が低下、低くなると食欲中枢が刺激されて「腹減った」、となります。
余談ですが、このブドウ糖の構造は最初は大分難しいものでして、最終的な絶対構造を確定し、更にグリセルアルデヒドと糖の関係を研究したエミール・フィッシャー(Emil Fischer)は、その研究でノーベル賞をもらっています。
ま、この研究が無ければ生化学は先に進まなかった、と言う点では重要という事なのですが。
さて、単糖類は他にもありまして.........代表的なものを更にいくつか挙げてみると「果糖」と「ガラクトース」「マンノース」という物があります。いずれも炭素六個の「六炭糖」です。後は「リボース」と呼ばれる、炭素五個の糖、つまり五炭糖(5=pentaより、ペントースと言う)もあります。
果糖は「フルクトース(fructose)」とも呼ばれていまして、果実に多く含まれる糖です。これは、生体でグルコースに変換されます。「ガラクトース」は乳糖を加水分解することで得られます。これも体内でグルコースに変換されます。「マンノース」は生体で「糖タンパク」という重要な役割をする物質があるのですが、その構成成分としてよく使われる物です。そして、「リボース」は最近御馴染み「DNA」などの遺伝子関係の構造に必須の糖です。
ま、二個ほど図にしておきますと........
となります。
左の果糖は五員環と六員環で示していますが........これは体内でブドウ糖に変換されるのですが、果糖そのものは肝臓の細胞にしか入り込むことが出来ません。右はリボースでして、図中のはDNA中で取っている構造です。このリボースとリン酸、そしてよく言われる「A」「T」「G」「C」などの記号で表される物質(「塩基」:baseと呼んでいます)がくっつき、連なることによって彼の有名な二重らせん構造を取っています。そして、このリボースはご覧の通り、今まで挙げたものとは異り、基本骨格が「五角形」である五員環の構造を取っています。
面白いのでここで書いておきましょう。
実は、DNA中の糖は例外なく五単糖となっています。これにまつわる話として、過去にスイスのある科学者(E.Eschenmoser:発音分かりません(- -;)は「何故DNA中の糖は六炭糖でないのか?」という疑問を持った、という話があります。つまり、何故自然はDNAの糖をより安定な構造を持つ六員環に出来る六炭糖にしなかったのか?
答えは面白い事実を示します。
ま、聞いたことがあるかも知れませんが、DNAと言うのは「二重らせん構造」でして、「二本の鎖」で成り立っており、これが「ほどける」ことで情報の「複製をする」、ということが良く言われているかと思います。
さて、科学者は人工的に六員環の糖を使って、DNA(もどき)を作ってみたそうです。そして、これでもって色々と実験を行ってみたのですが..........結果はどうなったか?
これ、作ることは出来たのですが、「構造が安定しすぎた」のが原因らしく、「DNAがほどけなかった」という結果だったそうです。しかし、五炭糖であれば問題なくほどけた、とか。
つまり、「自然が行った選択」と言うものは、必然的なものだったということにもなりますが........
安定のしすぎ、と言うものダメ、と言うことなんですね.........(^^;;
さて、ちょっと長くなるのですがもう一個触れておきましょう。
単糖類が二個ずつくっついたものを「二糖類」と呼んでいます。これは自然界には多く見ることが出来まして........理由としては天然のオリゴ糖を加水分解すると二糖類を多く出すことにあります。
さて、二糖類にはどういうものがあるか? と言いますと.........身近なものとしては「砂糖」があるでしょうか。これは「ショ糖」と呼んでいまして、「スクロース(sucrose)」とも呼ばれます。まぁ、サトウキビやてんさい(砂糖大根)から取れる成分で、調味料などとしても非常に重要です.......なんて言うまでもないですか(^^; 他にも水飴に多い「麦芽糖」なんてのもあります。これは「マルトース(maltose)」とも呼ばれまして......英語での名称の通り、ですね(malt- + -ose)。後は「乳糖」というのもありますか。乳汁に多く含まれ、「ラクトース(lactose)」とも呼ばれます。身近なものではこの三つが代表的だと思われます。
ま、構造を示しますと
となります。まぁ、見ていただければ分かりますが、「二個の単糖がくっついた」形になっているのが分かるかと思います。
化学的に言えば、上記に挙げたものはショ糖はブドウ糖(グルコース)+果糖(五員環のフルクトース)、麦芽糖は二個のブドウ糖(グルコース)が結合。乳糖はブドウ糖(グルコース)+ガラクトースという構造を取っています(上図中では、左下がガラクトース)。加水分解すれば、それぞれの単糖類が出てきます。
色々と特徴を見ますと.......ショ糖は消化吸収が早く、分解してブドウ糖を生じて速やかに血糖を補ってくれるので、疲労回復には持って来いです。料理にも「砂糖」として良く使われますから、皆さんにとっては御馴染みかと思います。が、ブドウ糖の例の通り血糖が補われるために満腹に成りやすいといえばなりやすいです。また、果糖を生じますが、果糖の性質上脂肪に変換されやすいので、ブドウ糖が連なったでんぷんよりはショ糖の方が太りやすい、という特徴があります。
尚、ショ糖を加水分解してできるブドウ糖と果糖の混合物(1:1で出る)を「転化糖」と呼んでいます。
麦芽糖は甘酒の甘味成分であり、そして水飴に多く含まれるものです。と言うよりも、水飴というのはブドウ糖がいくつか繋がって出来たオリゴ糖であるデキストリンと麦芽糖の混合物だったりします。ですから、水飴というものはまさに「糖の塊」とも言えます。そして、甘い、とも言えます。
乳糖はほ乳動物の乳汁に含まれるものでして、乳幼児の栄養源となります。乳幼児はこの乳糖の分解酵素を多く持ちますが、成長して離乳後に乳汁を飲まなくなると、この分解酵素を作らなくなるために、大人が突然牛乳を飲むと「腹が下る」となります(「乳糖不耐症」と言います)。が、少しずつならしていけば、また大人でも乳糖の分解酵素を生産することが出来ます。ただし、ヨーロッパ系の民族や一部アフリカ系民族は突然変異により成人してからも乳糖分解酵素を大量に分泌できると言われています。
ま、エネルギー源として単糖、二糖類はよく用いられる、というのは覚えておいても良いかと思います。もちろん、それだけではないのですが.........
っと.........さて、まぁ長くなったので取りあえず締めようと思いますが........
最後に一言だけ余談を。
実は、この糖と言うものは血液型の決定に関与していることが知られています。ま、ここら辺は次辺りに書くことが出来たら書いてみようと思いますが........
性格にまでは関与しないようです(笑)
さて、では次回に多糖類の話と諸々をやることとしましょう。何故でんぷんにヨウ素を塗ると色が付くのか? とか、色々とありますので。
では、今回は以上、と言うことで.........
終わり.........
さて、今回の「からこら」は如何だったでしょうか?
ま、今回も書くことが大目でしたので、ちょっと駆け足でしたけどね(^^;; 後は、ちょっと「授業的」になってしまったかも知れませんが.......... まぁ、これも深いところまでいくと、バリバリ有機化学と生物化学の深い深い所まで行けるのですが、そっちは専門の人達の領域ですので、こういうところでは触れられません(^^;;
ただ、糖と言うものは生体や自然界では「基本的な物質」ですので、「授業的」な所は勘弁して下さいm(_ _)m
取りあえずは、「ふ〜ん」程度で十分ですから.........ま、これで先にまた色々出来ますので(^^;;
さて、次回は続きをしようと思います。多糖類の話の他、諸々と糖に関する話(食や化粧品など)をしてみたいと思います。どこまで出来るかは分かりませんが(^^;;
さて、今回は以上です。
御感想、お待ちしていますm(__)m
次回をお楽しみに.............
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