からむこらむ
〜その34:融合する核とエネルギー〜


まず最初に......

 こんにちは。 処暑も過ぎ、いよいよ秋深まる...........ハズですがちょっと暑い日にげんなりの管理人です。皆様、如何お過ごしでしょうか?

 さて、今回は軽めの.........例えば血液型の話とか考えたんですけど、Kenさんより「核融合」についてのリクエストがありましたので、そのお話。
 核分裂を手に入れた人類が次に踏みだした「核融合」とは何なのか? 簡単にやってみたいと思います。
 それでは「融合する核とエネルギー」の始まり始まり...........



 まず最初に...........「狂気」ともいえる時代の話から.............
 1961年10月30日のフルシチョフ時代のソビエト社会主義共和国連邦。第22回ソビエト共産党大会の最終日。北極圏のノーバヤゼムリャーにおいて、全長8m、重さ20トンの核爆弾..........いわゆる「水爆」がソビエト空軍所属のツポレフTu-16ジェット爆撃機から投下されました。これは上空4000mで炸裂しますが.................
 さて、当時は軍拡競争の激しい時代。米ソの冷戦は激しい核開発の波にさらされていました。「もっと破壊力を」の考えの下に、1950年代半ばに開発された水爆などの兵器を軸に、戦略兵器の開発にいそしんでいたのですが..................ノバヤゼムリャー上空において炸裂した水爆は、空前絶後(文字通り)の50メガトンの破壊力で、爆発により出来た火球は直径10km。直径200kmに渡る大地を焼き焦がし、自ら投下したにも関わらず爆撃機は破壊されかけ、周囲には磁気嵐(世界最大)によって40分間もの通信が途絶.............. この1発で第二次世界大戦中に消費された全火薬量の10倍の破壊力が生じたといわれています。


 さて、冷戦時代の「狂気」ともとれる軍拡競争の中で生まれた、核の利用法の一つとしてでてきた物の中に、皆さんが一度は聞いたことがあると思われる「核融合」というものがあります。さて、これはどういったものなのでしょうか?
 「核分裂」というものは、過去に何回かやった様に「大きな核が分裂する」ものでした。では「核融合」とは何でしょうか? これは単に「原子核2個が結合(融合)して原子核1個を生じる」反応の事になります。 では、これは核分裂のようにウランやプルトニウムがくっつくのでしょうか? この答えは「NO」です。実際にはウランのような重い元素は全く関与しません。
 それでは「核融合」について説明していきましょう。


 核融合という言葉そのものは少なくとも聞いたことがあるかと思います。そう、上記の「水爆」の他にも、「太陽」がしているとか.............が、それに関わる元素や反応について言える方はいらっしゃるでしょうか? おそらくこれは少ないかと思います。
 そういうことで...........問題。
核融合反応の例を挙げてみて下さい?

 さてさて..........具体的に挙げられるでしょうか? どういった反応が起きているか.................
 まぁ、難しいですので、答えを言いますと...........以下のような反応があります。

2H + 3H → 4He + 1n + エネルギー

2H + 2H → 3He + 1n + エネルギー


 え〜と、「H」は御馴染み水素です。詳しくはその10なんかにも出てきました.........重水素(ジュウテリウム)と三重水素(トリチウム)、後は「He」はヘリウムですが、質量数4の物は「普通の」ヘリウム。質量数3のものは「ヘリウム3」と呼ばれるものです(月で豊富にとれて、エネルギー源になるとの期待があるものです(^^;;)。「n」は中性子です。
 さて、上の式では、重水素と三重水素との反応で、ヘリウムと中性子、それにエネルギーが出てきます。 下の式では、重水素同士が反応してヘリウム3と中性子、エネルギーが出来てきます。
 つまり.......この場合関与するのは「水素」のみ。 つまり........「水素爆弾」というのは、この水素同士の核融合反応を爆弾に転用したために「水素」爆弾、となります。
 しかし.........元素周期表で最も軽い元素の水素でどれだけのエネルギーが出せるのでしょうか? エネルギーは「その30」で出てきたかの有名な反応式「E=mc2」に基づいて、反応前と反応後の水素とヘリウムと中性子の質量の差が出てきますので、その差分の質量(=「m」)がエネルギーに変換します(つまり、元素の種類には関係なく、単純に質量の問題になります) そのエネルギー..........欠損する質量が(たったの)1gならば2×1013cal................といってもピンと来ませんね(^^;; まぁ少し具体的にいえば3000トンの石炭を燃やした時に生じるエネルギーに相当します(もっとピンと来ませんか(^^;;)。
#実際には、この式を適用する場合には、原子核の結合エネルギーというものを考えていった方が良いのですが、面倒なので省略します。

 さて、ここで重要なことがあります。 それは、単に水素がくっつくだけならば............そう、世界中すでにどっかんどっかん爆発していて、地球は最初から存在せずにいるのではないか? しかし、実際にはそういうことは起きていません。では、何故か? これは、核融合するには「条件」が必要となるからです。
 ではその条件とは何か...........? それは「高温」というものがあります。 つまり、核融合は高温状態でないと起きないわけです。
 では............何度ぐらいで核融合反応は起きるでしょうか? 少なくとも、摂氏100度ではありませんね(^^;; お湯を沸かして核融合はしませんし。 では1000度?いいえ、全然足りません。 1万度でもありません。 大体、108度..............100,000,000度............1億度程度の温度が必要となります。 こんな温度は.........そう、身近(?)には太陽ぐらいしかありません。 しかし、こういう温度でプラズマ化させてやらないと反応が起きず..............つまり........核融合には本当にばく大なエネルギーを使ってやる必要があります。

 では、水爆はどうやって核融合反応をさせるのか? そう、単に水素詰めただけでは全然爆発しません。火薬程度では億まで温度を挙げられませんし.............
 ここで、ちょっと記憶をたどってみましょう。 水爆に必要な技術には何があるか.................嫌な話ですが、各国とも自国で核開発を行う場合には、必ず原爆から作っています。突然水爆からは非常に難しいのです。これは何故かというと............実は、水爆の引き金となる温度を作り出すのに原爆を、つまり核分裂反応を利用する必要があるからです。 つまり、核分裂によって生じるばく大なエネルギーを使って核融合に必要な温度まで上げてやり、そこまで上がってから核融合反応を進めてそのエネルギーを開放して.............爆弾となるわけです。

 さて、この核融合ですが........反応式を見ていただければわかる通り、核分裂反応に比べて放射性物質を生み出しにくいというメリットがあることから、ある意味において期待されるエネルギー源(少なくとも、高レベル放射性廃棄物は原発に比べて減るわけで)であります。 まぁ、軍事的にも、比較的早めに放射能が消えてくれるために占領しやすいというメリットがあるわけですが................(根こそぎ破壊してそれは無意味ですが)。

 尚、爆弾ついでで書いておきますが..........
 いわゆる「中性子爆弾」というものを聞いたことがあるかと思います。そう、素粒子である「中性子」によって建築物などの破壊を最小限に抑えて生物だけ殺すというやつですが................ この技術は実は水爆の応用となっています。 そう、上記の核融合反応で生じる中性子をうまく増やしてやるようにして作る爆弾です。
 尚、この爆弾のメリットは、放射性物質をそれほど生み出さないのと、対象となる地域を最小限の破壊で敵の殲滅を行えるという、まことに軍事的なメリットがあります。 言うまでもなく愚行ですが!!!


 さて、では非軍事エネルギー源としての核融合について触れておきましょう。
 世界各国でエネルギー問題が(いろいろな意味で)深刻になる中、核融合というものは非常に期待されているエネルギーの一つとなっています。理由は、水素はどこにでもある........つまり「安上がり」な事と、放射性廃棄物が少ないため、核分裂反応を行う原発に比べて「クリーン」であるという事に期待があるからです。
 「クリーン」という観点で見た場合、上記では水素同士の反応を挙げましたが、こう言った反応も存在します。

2H + 2H → 3H + 1H + エネルギー

1H + 7Li → 24He + エネルギー


 この様な反応を用いれば? そう、中性子は生じませんし、しかも他の核分裂物質を生じないというメリットがあります。 これはつまり、万が一の事故があっても周辺が吹っ飛ぶだけで、放射性廃棄物........つまり、死の灰によるチェルノブイリの様な惨事を抑えることが可能という点でもあります(もっとも、三重水素は放射性で難点がありますが(^^;;)

 さて、では核融合を行うには..........まず、「器」が必要になります。そう、「核融合炉」と呼ばれるものですが...........1億度あったら? どんな物質を使っても問答無用で溶けます。ですので、何らかの形でプラズマを封じ込める「閉じ込め」という技術を必要とします。
 この「閉じこめ」装置のタイプの一つに、磁場によってプラズマを閉じこめる「磁場閉じこめ」と呼ばれるものがあります。これは旧ソ連の技術「トクマク」と呼ばれるタイプのものが現在の主流としてあり、この「トクマク型」としてECの「JET」、アメリカの「TFTR」、日本の「JT-60」、旧ソ連の「T-15」とあります。 しかし.......この高温を封じ込めるという時点で非常に高い技術力を要しているのが現状です。
 また、温度を上げるのにはレーザーが期待されています。

 しかし、まぁクリーンとかそういった意味などでも、非常に期待されているエネルギー源なのですが.................そう、すでに出来ていれば核廃棄物問題でごちゃごちゃ言うわけが無く...........つまり、技術的に非常に高度であり、また「制御」という部分で難点を抱えているのが現状であります。
 これで、いわゆる「低温核融合」とか「常温核融合」だなどが注目されたんですけど...........どうも追試を行った限り、限りなく「眉唾」ものというのが現状でして.............(^^;;

 また、問題点の一つとして..............軍事利用と密接に繋がっている点があります。
 例えば、レーザーに関しては出力を上げればSFに出てくるようなレーザー兵器との開発や、また臨界前核実験で使われていたりと............常に表裏一体となっている部分があることが否定できません(軍用を転換して民用にしている部分もありますし、その逆も出てきますし............)
 そう、次期エネルギー源が発達すると、その陰で強力な兵器がまた出来てくるわけで.................... 現代の社会システムの構造的問題といえばそうなのですが、それを考えるのは...........各個人となります。


 まぁ、もう少し色々とあるのですが、今回は長くなりました。
 ここまでとしましょう。




 さて.......ヘビーな終わらせ方.........(--;;

 さて、今回の「からこら」は如何だったでしょうか?
 昨日リクエストを受けて、取りあえずちゃっちゃと頭の中で構築していったのですが.............まぁ、言いたいことはわかっていただけるでしょうか。
 取りあえず将来にわたるエネルギー問題はある意味深刻な状況になっていまして..............どこを見ても打開が難しい状態となっています。そう言った中では核融合という技術は資源が豊富にあるなど、ある意味期待されているのですが...............非常に技術的に難しいことで、現状での実用化は容易でないといえます。 また、他の政治的な部分が絡むなど............世界各国で協力していますが、まだ難しいところが多いのです。
 まぁ、色々と.........考えて頂ければ、少なくともここに書いた価値が出てきますので.............

 御感想、お待ちしていますm(__)m

 さて、それでは今回はこれまでです。来週と再来週の2回分は「祖母孝行」の為お休み。その次から再開したいと思います。 と言うことで、ネタはまだ考えていません(^^;;
 リクエスト、お待ちしていますm(__)m

(1999/08/24記述)


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