からむこらむ
〜その35:『買ってはいけない』検証(1)〜


まず最初に......

 こんにちは。 おかげさまで「祖母孝行」出来たのは良いのですが、帰ってきたら気温差5度に夏バテ復活気味の管理人です。 皆様、如何お過ごしでしょうか? 管理人の場合............あぁ.........ヤバ..........

 さて、今回はリクエストと友人のオファーに応じて、あの有名になった本『週間金曜日』の別冊『買ってはいけない』の中身について、管理人の視点からの検証をしてみたいと思います。
 内容は、「科学的」かどうかの検証、著者達の検証、データの検証、他を予定し、数回に渡って行う予定です。一体あの本はどこまで正しいのでしょうか?
 それでは「『買ってはいけない』検証(1)」の始まり始まり...........



 まず冒頭に若干経過を。
 7月16日〜7月17日にかけて、某チャットである方より『買ってはいけない』という本の(いろいろな意味での(^^;)紹介を受け、7月17日、本屋でその本を購入しました。中を見ると、「市販されている商品には、この様な物質が入っている。これは実はこういう毒で..........」という事が一つの商品につき2ページずつ書かれていました。 初見感想は過去ログを見ていただくとしまして.............まぁ、そこに書いてある通りだったのです。 で、「まぁ、その程度か」という認識のまま時間が経ち、そしてある雑誌にこの本の批判が出た(実は読んでいないので良く知らないのです)事と、時間があった事からこの本をもう一度読み直しにかかり、そしてそのデータを手元の資料とつきあわせていったところ.............非常に問題のあることが判明しました。
 さて、そして8月24日にゲストブックに記述したこの本についての管理人による指摘を載せたところ、(ありがたいことに)評価をいただき、また友人のオファーもありましてここにその詳しい内容を書いてみたいと思います。
 ただし......管理人の専門分野の知識などから、食品関係と農薬関係についてを中心に行いますので、その点は御了承下さい(^^;;(やっぱり、一人じゃ限度があります(^^;;)


●毒性についてもう一度

 今シリーズにおけるお話については、すでに「からむこらむ」その1その2を事前に読んでいただいたものとして行いますので、読んでない方や完全にお忘れの方はもう一度読み直して下さい。
#読まないと用語や考え方についてわからない点が出てきますので............

 さて、今まで管理人が主張しているように、化学物質の「毒」や「薬」というものはその本質においては一緒のものと言えます。単純にいえば「メリット」が「デメリット」を上回るかその逆かでその判断が変わってきます。そして、その本質において「量が多ければどんなものでも毒になる」という事実(「真理」か?)もまた存在します。
 そういった点において、最終的に問題になるのは「その利用法」であると言えるかと思われます。その本質を知り、適材適所に使えば非常に「有用」になりますし、そうでなければ「百害」をもたらすものとなるわけです...............例えば「包丁」。これは普段の料理にはかかせないものですし(まぁ、コンビニ弁当オンリーだとちょっと(^^;;)、その利用法において的確に使えばこれは有用な「道具」となるわけです。しかし、視点を変えると手に持って人を傷つければ立派な「凶器」になるわけです。つまり「正しい利用法」をするかしないかによって変わるという事が言えます。
 化学物質........特に皆さんにとってイメージの悪い食品添加物や農薬、医薬などもこれが言えるわけです。
#例えば、「ジキタリス」という毒は医療の現場で適量用いて「薬」として使用することもありますし、生きるために必要な物質である「水」とて30リットル飲めば死に至るわけで...........

 では、「毒性」というものに関してはどのような知識が必要となるでしょうか?
 これは非常に幅広いものとなるのですが、その根幹にあるのは「物質を扱う」という意味で当然のことながら「化学」が必要となります。特に基本は当然のことながら、有機化学に関する知識などは特に重要であると言えます。 そして、物質と生体に関するわけですので「生物化学」という分野の知識...........基本はもちろんのこと「代謝」関係の知識は非常に重要になってきます。大体この二つは根幹になると言えます。 そして、以上の知識を踏まえたうえで、更に微生物学、薬学、医学、栄養学、農薬学、食品科学などの知識を要求されていきます。
 非常に幅広い分野と言えるかと思われます。

 以上の点、認識をしておいて下さい。


●著者達の検証

 さて、いよいよ本の中身について触れていきましょう。
 この本の中では概ね4名の方が文を書かれています。どういう人達が書いているかを、雑誌の最後の座談会から見てみると..........「消費・環境問題研究家」やら「臨床環境医」「科学評論家」、そしてこの本の編集部の一人が書いている様です。
 では、上記の「毒性」の話に出した要求される知識についてとを見比べていくと..............お医者さん一人? 他の方にもやれ「消費」だ「科学」だなんて肩書きが入っていますけど..................肩書きは自由に書けます。問題はこの人達が本当にそういった分野についての研究をしたことがあるかです。 しかし..........この人達が書いている文章を読んでいくと、どうも.........「?????????????????」という部分が見えていくところがあります。 例えば、データミスはもちろんのこと、わかって使っているのか理解しがたい表現や、基本的な知識を持っていれば間違えようの無い部分、食品(特に農業)に関してどこまで知っているのか?など...............

 実は、このプロフィールを見る時点で疑惑が浮かんできました。

本当にこの人達は「科学」がわかっているのだろうか?


 いいや、わかっていない..........少なくとも2人は確実に!

●「科学」的かどうかについて

 この本のスタイルは簡単です。一つの商品を取り上げ、2ページにわたって「この商品には○○が含まれている。この物質は××という特徴がある。これは体に対しては非常に有害で、△グラム与えたところ云々...........」というフォーマットで書かれ、そして最終的には取り上げた「○○」という物質を「断罪」しています。
 しかし...........著者達はある商品に関しては「エセ科学」と断定し、「信じるな」と叫んでいるのですが................どうも挙げられているデータを見ると、「科学的」とは非常に言い難いものがあります。 えぇ、もちろん数字は上がっていますね。こう具体的に数字を上げられると特にこういう分野についての勉強をしたことが無ければ、非常に説得力を持ちます。「何グラム入れて食べさせたら死んだ」「何パーセント入れて食べさせたらガンになった」................そう、「この物質は毒なんだ」って信じたくもなりますね........... でも、実はこれに致命的な欠陥があったりもするのです。

 いくつかの指摘をここで行ってみましょうか。
 食品添加物の分野では特に彼らは具体的な数字を提示し、その「毒性」を語り、そして「私はこんなものは食べない。食べるならば無農薬の野菜で............」と書いています。 しかし、重要なのは「この物質の毒性はこれこれだ!」という事でしょうか? 違います!! 本当に重要なのは、実際にはその物質をどれだけの量を自分が摂取しているか?という点です!! こういう点を忘れて語るのならば、全物質(必須栄養素だろうが何だろうが)について「これは毒だ!!」って書けるということについて彼らは全く気付いていません。 こういう事で書いてよいのならば、次のような文章が書けるのです。

「自然の水の中には、H216O以外の水の同位体が0.24%含まれている。これを20%含まれた水を飲ませたところ、実験動物に使用したラットは全部死んでしまった。よって水は猛毒だ。飲んではいけない!!」

 こんなバカな事を堂々と言えますか? 実際には、食品添加物の場合には大抵(これがミソ)規制値が設けられており(大抵は無作用量のレベル)、それを上回る数字で出荷したことが判明していれば厚生省から指導を受け、最悪は出荷停止、営業停止などの処分が下されます。 しかし彼らは...........実際には規制値の上限(あくまでも「上限以下」が使用される)の更に100倍、1000倍の数値のデータを平気で公表します。上の水のデータでいえば、人間は通常1.5〜2リットルの水を飲むのですが、「50リットルを飲ませたら、死んでしまった。よって水は毒である!!」って表記をしているのに等しかったりします
 こういうスタンスで発表して説得力はあるのでしょうか?
#もちろん、問題のあるものもあるのですが.................このままではそこらの麻薬の毒の話と対して変わらないという事。

 次にデータの信頼性はどうでしょうか?
 実際にこういった分野で投与実験を行う場合、「実験動物は何を使い(ラット、マウス、イヌ、ネコ、ウサギ等)、生後何日の性別はどちらの物をつかい」「その動物はこういう条件で」「どれだけの量を」「経口(口から)か、皮下注射か、静脈注射かで」「何日やった」という事を表記しなければなりません。更に、経口でも飼料の種類(飼料の成分が違う)という事は明記しなければなりません。 しかし...........どうもここら辺に関しては時折書いていないケースが多く、所々「?」マークが踊っています。 特に、自分たちに有利になるようにわざわざ「こういう疾患を持つ動物」に対して物質を「静脈注射」していたりします..............通常の健康な場合は? ましてや、通常は経口以外の摂取が考えられないのに注射したりするのは何故!?というデータを掲載しているのは科学のもつ「客観性」に対して著しく違うものであるように感じるのは管理人だけでしょうか?
 また、飼料に混ぜた場合に使用されるデータも、「実験動物の体重1kg辺り」だったり、「飼料1kg辺り」だったりと違ったりする所がありますので、こう言った部分は非常に重要です。

 更に数字や単位に関しては問題があるケースが見られます。例えば、ある歯磨き粉の商品に対してこの様な文章があります「合成洗剤が4%含まれている歯みがき剤を口に入れた直後は、なんと口の中は40000ppm(1ppmは0.0001%)の濃度になってしまう。」(原文ママ)...............ハイ、ここで単位の講座をしましょうか。「ppm」とは「parts per million」.......つまり「100万分の何ちゃら」という数値です。では「%」とは?これは散々使っているからわかるでしょうけど、様は「100分のいくつ」です。では、このケースで見ると、「4%」と言うのは「100分の4」=「4/100」であることはわかりますよね?では、「40000ppm」という数字はと言いますと...........「100万分の4万」=「40000/1000000」ですが、これは約分をすれば(10000で割る)なんと、「4/100」=「4%」!! つまり、上記の文章は、(食塩水を例として扱えば)「4%の食塩水を口に含むと、口の中には4%の食塩水があります」という、当たり前の事が書いてあったりします。こんな科学で使う基本的な事(単位を使うという事)をちゃんとわかっているのか、この時点でかなりの疑問が出てくるわけで!(単に算数が出来ていないのか?)
 また、所々数字に関しては「信頼性に欠ける」というデータを堂々と掲載したり、管理人の手持ちの資料(専門書)と数字が違ったり、代謝(「必要な科学知識」でもOKです)に関する記述が根本的に欠如していたり書いてあっても全く違う事を書いていたり、そして実際に使用される数字(理想は自分たちで実験をして割り出すのが良いのだが)については一言も書かなかったり..............実は、この本に書いてあるデータを信用してよいのかという部分からかなりの疑惑が出てきてしまっています。

 また、彼らは次の点に関する評価は完全にはしていません。それは「この物質が使われているのは何故か?」 いや、もちろん「保存料として」とかいう表現は使われていますが、それで終わっています。「実際にそれがなかったらどうなるのか?」「その対処はどうなるのか?」という観点についてはほとんど触れず、ひたすら「断罪」に終始しています。 世の中に「批判本」という物は一杯あり、中でも(管理人の専門の農薬に関する批判本として有名な)レイチェル・カーソン女史の「沈黙の春」は(若干偏っている部分もあるんですけど)ただいたずらに「農薬はイケナイ」という表記をしているわけではなく、しっかりとそれのもたらした恩恵と、そこから始まった人間達の誤った利用法に言及してから批判をし、その対処を書いているわけで...................そう言った批判ならば真摯に受け止め、また戒めという重大な役割を行うのですが、『買ってはいけない』の場合はその様な部分はほとんどありません。揚げ句の果てに、いたずらに「自然の物なら安全性が高い」とか(でも、天然添加物はダメらしい(^^;;)、「無農薬」なら良いとか................... 科学の発展にともない色々と判明した「ほとんど全ての食品には毒物が含まれている」とかそう言った部分の「常識」に関しては著しく欠如している部分があります。
#農薬が無くなると、世界がどうなって人口はどれだけになるか考えたこと、ありますか? 食品添加物がなくなると、世界がどうなって市場がどうなるか考えたこと、ありますか?

 まぁ、他にも色々と書きたいことはあるのですが、非常に長くなるので取りあえずやめておきましょう。
 この本の中で管理人が基本的に評価しているのは次の点だけです。それは............

「消費者には知る権利がある」

 これは非常に重要なことです。「自分たちの生活に密接に繋がっているものを知る」という権利は現代において非常に重要なことであり、企業もそれに答えるべきという事をこの本で著したことは高く評価しています(ただし、当然のことながらそれを要求する消費者側も相応の知識を持っている「義務」があると管理人は思っていますが)。 しかし..........この折角の良い点も、彼らのいう「科学」と言う名のかなり怪しい「科学」により潰されている................そう管理人は思っています。


 あぁ、長くなりました。
 取りあえず今回はここまで。次回は、食品添加物と農薬に関して「何故必要か」と、本で取り上げている表記についての比較をやってみたいと思います。




 はぁ.........やっぱり書き始めると長くなる(^^;;

 さて、今回の「からこら」は如何だったでしょうか? ちょっと暑すぎて頭が飛び気味なんですけどね.........(~_~;;
 リクエストやらオファーやらを受けて今150万部以上売れたと呼ばれる『買ってはいけない』の検証の第1回目を行ってみました。 この本には良いことが書いてありましたが、それの利点をはるかに上回る「偏った」事が堂々と書いてありました。そして、色々と話を聞いてみると、この本を読んで実際にはかなりの不安を感じ、そして中には信じていらっしゃる方がいるのですが.............どうも調べれば調べるほどおかしい部分が出てくる、と。 そういうことでやってみたのですが.................
 まぁ、今回は根本的な視点に関する指摘をしてみました。これでこの本の「おかしい」部分が少しでもわかっていただけたら幸いです。

 さて、このシリーズですが、次回には管理人の専門部分があるので食品添加物と農薬が使われている経緯と、この本における、その点の「相違」を。そして、その次辺りに具体的に物質と、本で挙げている毒性データを比較し、実際にはどうなっているのかを挙げてみたいと思っています(そういう意味では、次回以降が具体的で分かりやすく、メインになるのかも)。お楽しみに.................

 あ、御感想、お待ちしていますm(__)m

 さて、それでは今回は以上です。次回以降に具体的になってきます。お楽しみに...........m(__)m

(1999/09/14記述)


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