からむこらむ
〜その56:オゾン層の破壊〜


まず最初に......

 こんにちは。何というか、安定しているようでしていない体調の管理人です。 皆様いかがお過ごしでしょうか?
 やっぱり2月...........気温変動激しいです(T_T)

 さて、今回は前回の「オゾン層」についての続きの環境科学ネタ。今回はその、オゾン層の破壊という点についてのお話をしてみたいと思います。 まぁ、色々と言われているところではあるのですが...........
 それでは「オゾン層の破壊」の始まり始まり...........



 さて、まぁ「オゾン層」というものは前回参考にしていただくこととしまして.............(つまり、読まれていない方は読んで下さいね(^^;)
 今回は、「オゾン層の破壊(ozone depletion)」という点について触れてみましょう。

 まぁ、オゾン層の破壊については色々と聞かれているので御存じかと思いますが、あえて問いましょう。

オゾン層の破壊とは何が原因でどうなるのでしょうか?


 ま........簡単でも良いのですが...........一般常識の部類に入っている.........ハズ(^^;;
 まぁ、オゾン層の破壊による「結果」という部分は前回でも触れました通り。いわゆる「有害な紫外線が地上に降り注ぐ事による害」ですね。皮膚などに多量にこの紫外線が当たれば、皮膚ガンになる..........そういうことが起こりえます。

 あ、ここでついでに前回の補足をしておきましょう。書き忘れましたので(^^;
 前回話した「有害な紫外線」である「UV-B」ですが、これは260nmの波長のものは強力な殺菌能力を有します。また、ビタミンD(骨の生成や遺伝子の発現に関与)の生成にも関与します(つまり、最低限は必要、という事になりますね)。しかし、紫外線障害を引き起こしますし(297nmの波長のものは皮膚に作用)、他にも色素沈殿(黒くなるわけですね)、皮膚ガン、皮膚の老化と言ったことを引き起こします。 ここら辺は、「からむこらむ」の初回などでやった「リスク」が適用されるわけですが...........
#ちなみに。これを踏まえて少し考えてみると...........冬場などで日光不足となる北の地方では、ビタミンD不足による「くる病」(骨の成育異常による病気)が起きることがありました。一種の風土病。
 以上、前回分の補足です(^^;;

 さて、話を戻しまして..........
 では、何が「原因」でオゾン層が破壊されているのでしょうか?
 これは、まぁ.........ある程度は反応があって欲しいのですが(^^;; 御存じの方は色々と知っているかと思います。でも、おそらくその代表格は決まっているでしょう。
 そう、「フロンガス」ってヤツになるかと思います。


 さて、では「フロンガス」というものについて触れてみましょうか。
 フロンガス.......名前だけは聞くけど、良く分からん、って方は多いかと思います。 これは、通称「フレオン(Freon)」とも呼ばれることがありますが、これはデュポン社による商標名になります。 基本的には「フルオロカーボン(Fluorocarbon)」、「クロロフルオロカーボン(Chlorofluorocarbon)」と呼ばれる物質名の総称です。 それらの物質を構成する元素の数は実はかなり少なく、炭素(C)、水素(H)といった、有機化合物の基本となる二種類の元素に、フッ素(F)、塩素(Cl)がついたもの、となります。
 余談ですが、「フルオロカーボン」の「フルオロ〜」は「フッ素」を意味し、「クロロフルオロカーボン」の「クロロ〜」は「塩素」を意味します。また、両方に共通する「カーボン」は「炭素」を意味します。

 さて、もうちょっと詳しく踏み込んで説明しますと...........過去に炭素の構造について少し触れました。その中でも最も単純な有機化合物である「メタン(CH4)」について触れた事があるのですが........これは、下に示すような構造でした(その18参照)。


 中央の炭素(C)から伸びる四本の「手」に水素(H)が結合している形です。実は、フロンガスはこの四個の水素のどれかがフッ素(F)、または塩素(Cl)に置き変わった構造になっています。ただし、「メタン」を基本にしたものだけでなく、メタンより炭素が更に一個多い「エタン」をベースにしたフロンガスもあります。
 ま、書いているだけでは良く分からないでしょう。
 以下にいくつかの代表的なフロンガスの構造を示したいと思います。


 実際にはこれは氷山の一角でして...........他にも塩素の変わりに臭素(Br)を使ったものや、エタンをベースにした誘導体で二重結合の入っているやつとか、炭素四個の環状の構造を持つシクロブタンをベースにした誘導体とか色々と..........代表的なものだけで二十種類ぐらいあるのですが省略します。 ま、上記のはちょっと意味がありますので............
 さて、図ですが.......フロン11,12,22はメタンの構造を元に作られた化合物、フロン113はエタンをもとに作られた化合物です。
 上段が構造式、下が化学式、その下が名称、という事になります。名称の下の括弧でくくってある表記ですが.........これはこの物質を構成する元素の水素、炭素、フッ素、塩素の元素記号から取られた略号でして、長ったらしい名前をこれで略して使用することが多々あります(報告書等ではこのような表記が多いです)。
 以上のことから、フロンガスは一般にCFCと略号で呼ばれることがあります(総称で示すときには複数形で「CFCs」と表記される事も)。
#尚、フロン11はスプレーやポリウレタンなどに、フロン12は冷媒として使用。
#ちなみに、有機化学のルールに基づく名称もあるのですが、長ったらしいのでやめておきます。
#化学の受験生は答えられないと困りますけど........(^^;;

 さて、フロンガスを紹介したところで........少しまつわる話をしましょう。
 いきなりですが、何故人類はフロンガスを使用するようになったのでしょうか? これは工業の発達と密接にかかわっています。
 昔の話ですが、電気冷蔵庫、というものは非常に巨大で高価でした。これは、冷やすのに必要なガス、つまり冷媒としてアンモニアを使用していたのですが、当時のシステムでは非常に巨大な装置が必要となり、結果的に冷蔵庫全体が巨大になる............という具合になっていました。が、しかし。 デュポン社がフレオンを発明して、これが冷媒として有用であることが判明。これを用いれば電気冷蔵庫が小型化できることがメリットとなり、瞬く間に世界中に広がっていきました。しかも、その特徴は不燃、熱に安定、化学的に安定、生理無毒、空気とあらゆる割合で混合、引火しないなど.........非常に有用だったために、やがて冷媒としてエアコンなどに使用されるようになったのみならず、やがて局部麻酔に。そして、半導体製造(溶媒や洗浄用など)へ..........と、まさに現代の工業に無くてはならないものとなりました。
 が、しかし.........1982年。南極で世界で初めてオゾン層の極めて減少した部分、いわゆる「オゾンホール」が観測され、これをきっかけにオゾン層破壊物質としてのフロンの使用規制が叫ばれるようになりました。
 ま、これが..........現在のフロンガスによる問題、となります。

 さて、このフロン。一体どのようなメカニズムでオゾン層を破壊するのでしょうか?
 これはすでにある程度分かっています。フロン11を例に挙げてみましょう(一応、これはフロン11を例に挙げていますが、他のフロンでも同じ機構となっています)。


 要解説、ですね。
 1段階めは簡単です。フロン11が紫外線(UV)に当たって破壊され、構造中から塩素が抜け出ます。この塩素が要となります。
 2段階めの反応ですがこれは塩素がオゾン(O3)を破壊する反応です。オゾンは塩素と反応して破壊されます。この反応で生じる「ClO」は4段階めの反応で関与してきます。
 3段階めの反応ですが......青く書かれている「OH」は大気中に存在している物です。コイツはオゾンと反応して「HO2」と酸素を生じます。
 4段階めの反応ですが、2段階めで生じた「ClO」と3段階めの反応で生じた「HO2」が反応し、これがHOCl、いわゆる「次亜塩素酸」と呼ばれる化合物と酸素を生じます。
 5段階めの反応ですが、4段階めで生じた次亜塩素酸が紫外線と反応して分解、「OH」と「Cl」を生成します。

 さて........注目して欲しいのは、あえて色をつけた「Cl」と「OH」でしょうか。両者がそろって初めてオゾン層の破壊が可能となるわけですが.............両者ともに5段階めの反応でまとめて出ますが、「Cl」はそのまま2段階めの反応に、そして「OH」は3段階めの反応に「再利用」する事が可能です(もっとも、後者は大気中に存在しているものですが...........)。
 つまり? そう、1分子のフロンから生じた塩素が元で、いつまでもオゾン層を破壊する「サイクル」が成立する、ということが言えます。 これがオゾン層破壊の問題点となります。
 しかも、上記の反応を見ればピンとくるかも知れませんが、実際にはフロンである必要はなく、塩素が存在すれば上記のサイクルが成立することとなります。 まぁ、もっともオゾンの破壊の「し易さ」に関しては量や性質の問題からフロンが結果的に問題になるのですが...........
 ま、ともかく、以上のようなことから、一度大気中にオゾン層破壊を行うフロンを排出した場合、上記の反応に基づいていつまでもオゾン層を破壊していく、という事になります。 もちろん永久、という訳ではなく、寿命があるわけですが.............これが非常に長い時間を持っていまして、問題になる、という事になります。(その54の表にある「寿命」が参考になるでしょう)。

 では、オゾン層は破壊されっぱなしか? と言いますとそうではありません。
 自然の中でもオゾン層を作り出すメカニズムがいくつか知られており(一酸化炭素、メタンなどから生成されます)、その様なメカニズムによってオゾンは生産されます。 が、しかし..........人類が大気中にばらまいたフロンの性質の問題(いつまでも壊し続ける)や量が余りにも多いためか、生産と破壊のバランスが一向にとれていない.........という事になります。
 現在では環境庁の資料によると、成層圏に存在する塩素の主要発生源は、発生源の82%が完全な人為起源の物となっており、フロン12が28%、フロン11が23%、四塩化炭素(CCl4)が12%、1-1-1トリクロロエタン(CCl3CH3)が10%、フロン113が6%、フロン22が3%となっています。自然発生源も寄与しているものとしては二種類が挙げられており、塩化メチル(CH3Cl)が15%、塩化水素(HCl)が3%となっています。
#余談ですが、塩化水素を水に溶かせは「塩酸」になります。 「塩化水素」は気体の名称。水溶液が「塩酸」という事です。

 オゾンホールについてですが......基本的に出来る時期、場所が決まっており、中心地点は北極・南極となります。ここを中心に「オゾン層の穴」が開くわけですが、南極では春に当たる9月〜11月頃にかけて特にオゾン量が減少し、オゾンホールが出来ます。 この規模、期間は徐々に拡大していっているのが現状です。
 オゾン濃度に関してですが、南北の極方向に近づくほどその濃度が薄くなることがわかっており、国内では国内五ケ所の観測所(札幌、つくば、鹿児島、那覇、南鳥島)で経年変化を観測していますが、札幌で統計的に有意な減少傾向が確認されているそうです。


 さて、長くなってきました。簡潔にまとめましょう。
 このようにして色々と問題になってきたフロンですが、1984年のモントリオール議定書(1996年までにフロン11,12,22,113の撤廃などを定める。のち改正)や最近の京都議定書(地球温暖化の原因となる温室効果ガスの抑制などを定める)などにより度重なる規制がなされて始めました。 が、大気中での寿命が長い事と、更に温室効果ガスとしても「優秀」な物のため(その54参照)、使用を止めた物がある現在でも非常に厄介な存在となっています。 オゾン層を(それほど)破壊しない代替フロンの使用も進められていますが、一部は温室効果ガスとして「優秀」だったりしまして.........なかなか難しい問題となっています。
 これを解決するには? とにかく「出さない」という事。そして、時間が経過してフロンが寿命を迎えるのをまつ、という事しかないようです。
#事実、フロンガスの製造を禁止された後もオゾン層破壊はフロンの寿命が長いために進んでいます。
 一応、最近ではどうなっているかと言いますと..........統計的なものを見てみますと.........対流圏中のフロン由来の塩素濃度は1994年にピークを迎え、減少傾向に転じたことがアメリカ海洋大気庁(NOAA)により確認されているよです。 また、1997年に改正されたモントリオール議定書が全締約国に尊守された場合、国連環境計画(UNEP)の報告によれば成層圏中の塩素濃度(および臭素濃度)は2000年以前にピークに達し、またオゾン層破壊のピークは2020年までに訪れ、成層圏中のオゾン破壊物質濃度は2050年までに1980年以前(つまり、オゾンホールの確認される以前)のレベルまで戻る、という予想がなされていますが............... 尊守してくれるかどうかが結構難しいかも知れません。

 ただ、各企業も努力していまして.........特に日本では脱フロン化には早く動きが見られ、半導体工場などでは、洗浄用には純水の更に純度の高い「超純水」や(超々純水なんてのもあったような.........)清浄空気による洗浄などを導入して、しかもフロンなどに使用していた処理施設が無用なために結果的に安くついて、しかも歩溜まりが向上した、というオチがついたそうです(^^;
 しかし..........飛んでもない話もありまして...........
 アメリカでは大量の中古車のエアコン用の冷媒に現在では生産禁止のフレオンが使われているのですが................これの密輸入が行われている、と言われています。 物の本によれば、フロリダのマイアミではいわゆる「ヤク」の密輸で有名だったのですが、最近では「ご禁制のフレオンの密輸」がはるかに流行っているそうで..........しかも、「ヤク」類よりも儲けが良い、と来ているので始末に終えない状況になっているようです。 ちなみに、「ご禁制の品」の製造元は.........旧ソ連と中国、と言われています(設備と技術力の問題)。

 まぁ、こう言った部分もどうにかしないと一向に解決しないんですけどね.............
#結構アメリカってのはここら辺は(どこも似たようなものですが、「特に」)いい加減な国ですから............
#アメリカがゴネて失敗した会議が結構ありますし。

 ま、それはともかく..........
 以上、駆け足ですがフロンガスによるオゾン層破壊、という話になります。
 まぁ.........将来はどうなるのでしょうかね............. 技術、というものが無駄にならなければよいのですが..............
 長くなりました。今回は以上、という事にしましょう。


・補足
 書こうと思ったのですが書き忘れた与太がありますので、追加を。

 モントリオール議定書によるフロンガスの規制ですが、これが意外な団体に対して影響を出すこととなりました。 何の団体かと言いますと..........警察です。
 さて、警察は色々な刑事事件に関して調査をし、被疑者を特定していくわけですが、この被疑者の特定方法の一つに「指紋の照合」があることは皆さん御存じの通りかと思います。 さて、指紋の照合を行うにはまず指紋を検出しなければなりませんが..........色々と検出方法(化学反応を利用しています)があるのですが、検出方法によってはフロンガスを使うそうです。が、しかし.......このフロンガスが規制対象の物だったそうで(^^;; ですので、このフロンの代替物質の発見が急務とか(^^;;
 妙なところで妙なことが..........ありますねぇ...........(^^;;;




 さて、終わった.........まとまったのかな?(~_~;;
#今週も変わらず体調不良

 さて、今回の「からこら」は如何だったでしょうか?
 今回は、オゾン層破壊、という部分とフロンガスについての話でした。しかも、「これでおしまい」ではなく、将来も確実に影響する部分、という事になります。 まぁ、有名な話というか、良く聞く話だとは思うのですが.............
 色々と興味を持ってくれれば嬉しいです。

 さて、今回は以上です。
 御感想、お待ちしていますm(__)m

 来週は全く考えていません(^^;; 何やりましょうかね? まぁ、気圏に関する話がもう少しあるのでそちらでも良いですし、別の話にしても良いですし..........ま、考えます(^^;; リクエストがあれば、言ってやって下さい(もちろん、すぐ出来るものと出来ないものがありますが(^^;;)。
 来週をお楽しみに..........

(2000/02/08記述 同02/11補足)


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