からむこらむ
〜その124:水と油の仲〜


まず最初に......

 こんにちは。乱暴な気候変動ですが、皆様如何お過ごしでしょうか?
 いやぁ、キツイですねぇ.......風邪引かれる方も多いようですね。

 さて、今回ですが。
 まぁ、家人の仕事のシフトもあるんですが、最近の妙な忙しさなども相まってなかなか良いのが無かったのですが........取りあえず、ま、リクエストに絡むものもありますので、今回は「布石」を久々にやろうと思います。まぁ、これが身近なものと繋がることと、今度のリクエストに絡むものなのですが.......
 まぁ、そんなに難しく考えずに、気楽に読んで言って下さいませ。って、実は急ごしらえだったりするんですがね(^^;;;
 それでは「水と油の仲」の始まり始まり...........



 小学生向けの実験なんかで良くあるテーマに「水と油」と言う物があるかと思います。
 ま、どういうものかと言いますと.......コップなりを用意して、ここに水と油を入れてみる........と? そう、おそらく皆さん御存じの通り、「水と油は混ざらない」と言うことで、上と下に層が分かれる、と言うものですが........
 御存じですよね?
 もし、御存じなければ、早速台所へどうぞ。簡単にできますから。
 この実験ですが、大抵は続きがあります。それは「水と油を混ぜる方法」でして、あることをすることで水と油が混ざる、と言うものです。これは、大抵は石鹸なり洗剤なり、となるのは上の話を知っていれば、大抵の方は御存じでしょう。
 御存じなければ、または懐かしい、と思われる方は台所でどうぞ。油と水をコップに注ぎ、これに家庭用洗剤.......食器を洗うようなのを入れて下さい。撹拌すれば混ざると思います。
 .......あ、興味ある方はシャンプーとか洗濯用洗剤でもどうぞ。多分出来ます......とは言っても、余計なものがちょっと多いですけどね。
 さて、仲の悪い「水と油」を混ぜてしまう洗剤。この裏の成分表を見てみたことのある方はいらっしゃるでしょうか? 無ければ見てみましょう。一般的なものなら大抵こう書いてあるはず.......「界面活性剤」と。で、大体はその後に括弧があって成分があると思いますが.......あ、一般的な洗濯用の洗剤も同じようなのが書いてあると思います。確認してみても良いかと思います。
 ところで、「界面活性剤」ってのは実は色々と見ていくと、洗剤のようなものにかなりの割合で見かけることが出来るものです。時々聞くこともある言葉であるかも知れません。
 でも、その正体は? と言うと.......余り詳しくない人の方が多いと思います。まぁ、化学の学生さんで知らなきゃ問題ですけどね(^^;;
 今回はこれについて......ま、本格的にやると化学の一分野の世界になりますので、基本的なことを簡単にお話してみようかと思います。


 では、まず.......「界面活性剤」とは何でしょうか?
 まぁ、ある意味読んで字のごとくなのですが、「界面」を「活性させる」という意味はかなりつかみにくいかもしれませんね.........ではまず、「界面」とは何か、というと文字通り「物の境界の面」となります。上の「水と油」の例でいうと、「水と油」の境界面が「界面」になります。もっとも、細かくいえばコップとこれらの境界、空気との境界も「界面」となりますが。まぁ、この説明で「界面」はピンと来るかと思います。
 で、この「界面」にもその物質に応じた特徴があるわけですが、この部分を変化させることができる物質があります。そういうような物質を「界面活性剤」と呼んでいます。つまり、上記の「水と油」の例でいえば洗剤がこれに当たります。
 これを簡単にまとめてみますと、まず「混ざることのない境界面」をもつ水と油が存在しています。これは密閉した中で振ってもやがては分離してしまいます。しかし、界面活性剤である洗剤を入れてやると、水と油の境界面にこれが作用して物性を変化させて、ついには「仲の悪い水と油」は交じり合うようになります。
 以上でおおまかな概要はわかっていただけたでしょうか?

 さて、ではこういう界面活性剤はどういう構造を持っているのか?
 当然化学物質ですので化学構造が絡むのですが.......ところで、化学で物質を扱う場合、重要な物性の目安として(物すごく乱暴なんですが)「有機溶媒(油)に溶ける」「水に溶ける」と言うような分類をすることがあります。これは、物質の性質に由来しているわけでして、あるものは水に溶けるが、有機溶媒には溶けない。またはその逆。あるいは「片方(または両者)にはある程度溶ける」などという特徴があります。例えば食塩。これは水に溶けることは皆さん御存じだと思いますが、有機溶媒(トルエンとか)には溶けません。逆にある物質などは有機溶媒には溶けますが、水には溶けません。しかし、お酒のエタノールなどは両者に溶けることが出来ます。これらは全て構造に由来していまして、「油に溶けやすい構造」「水に溶けやすい構造」と言うものが関与しています。
 界面活性剤の場合は「水にも油にも溶けやすい」と言うのが最大の特徴となっています。どういう構造かといえば、よく「マッチ」に形容されます。
 以下に一般的な界面活性剤の構造を示しておきます。



 界面活性剤で最も例に挙げられる物は以上のようなものです。一般に炭素の鎖である(大体、炭素7〜21個が連なった)アルキル基(その1819参照)より成る「水に溶けず、油に溶けやすい」親油基(疎水基)と、その末端の「水に溶けやすく油に溶けにくい」カルボン酸(その20参照)塩などの「親水基」より構成されています。つまり、「構造の片方は油に溶けやすく、もう片方は水に溶けやすい」と言う構造です。それは図の上のような「マッチ棒」で良く例えられます。
 この「特徴」を持つのが界面活性剤でして、そしてこれが重要な役割を持たせています。
 あ、ここで注意ですが......全部が全部上の構造、と言うわけではありません。要は「水にも油にも溶けるような構造を持つ」物なので、他のもの(タンパク質など、色々とありますが)でもこう言った特徴を持っていれば界面活性剤として働きます。
 ま、今回は余りアルキル基だなんだ、と言うのは考えなくて結構です.......「水に溶けやすい基と、油に溶けやすい基の両方を持つ」と言うことに注目して見てください。


 さて、ではこの界面活性剤を水に入れたらどうなるか?
 ここにコップを用意し、それに水を入れたとしましょう。そして、この水に界面活性剤(洗剤でもいいです)を入れたと想定します。
 さて、水に界面活性剤を入れると、この物質は親水基を持っていますから、親水基の部分は当然水とは馴染みます。しかし、構造の片方の親油基は水とは混じりません。はっきり言えば「水が嫌い」ですので、水の中にいるとこの部分は落ち着きません。ですので、「水のない所」を探すこととなりまして、結果として水面に行き着き、下図の様な形をとって安定します。


 つまり、水の中には親水基が。水が嫌いな親油基は水面から空中に向けて突き出た構造を取るようになります。これは、界面活性剤を入れ続けた場合、コップの水面全体が上図の様な構造で覆われるまで続きます。
 さて、では水面全体が界面活性剤で覆われるようになったとしましょう。しかし、この中に更に界面活性剤を入れるとどうなるか?
 界面活性剤は親油基の存在から、今まで水面に「逃げる」ことでどうにか落ち着くことが出来ました。しかし今度は水面はすでに界面活性剤で一杯。親水基は水の中なので良いのですが、親油基はこのままでは落ち着かない.......と言うことで、どうするかと言うと、下図のような構造を取ってどうにか安定します。


 これはどういうことかと言いますと、水の中が嫌いな親油基ですが、他の界面活性剤分子の親油基と親油基の部分だけをくっつけて落ち着こうとします。その結果、「親油基を中に、親水基を外に」した形で球状になります。この状態なら、中は親油基同士で水がないので落ち着きますし、球の外は親水基があって水と馴染んでいますから問題ありません。この様な物が出来る様になって更に界面活性剤を入れると、この「球」は増えていくこととなります。
 この球状の集合体を「ミセル(micelle)」と呼びます。この「ミセル」が出来始める濃度を「臨界ミセル濃度」と呼んでいまして、略して「CMC(Critical Micelle Concentration)」と書きます。

 さて、ではミセルの話をしましたので、最初の方の話に戻してみましょう。つまり、「水と油に洗剤を入れると何故混ざるか?」と言う話です。
 まず、コップに水と油が入った状態があります。比重の関係から水が下に。油が上にあるのが一般的でしょう(もちろん、油の種類では上下が逆になりますが)。これに洗剤(=界面活性剤)を十分に入れて振ってやるとどうなるか?
 上の、水に界面活性剤を入れた話では、界面活性剤の親油基は水の中では落ち着かないので水面に、と言うことでした。しかし、今回は状況が違いまして親油基の好きな油が存在しています。が、当然分子の片方は親水基ですから水が好き.........と言うことで、どうなるか? と言うと......界面活性剤はミセルを構成するのですが、その構造は内部に油を取り込んだ形、となります。図にすると以下のようになります。


 図の真ん中の青い球は油、回りは界面活性剤と思って下さい。つまり、油を界面活性剤が包み込む形でミセルを形成します。このとき、界面活性剤の親油基は油の方へ、親水基は周囲の水を向く形となって安定します。
 この様なミセルを構成することで「油が水に溶け込む」、つまり「可溶化」することとなります。

 尚、注意ですが......この様なケースでは水が多くある、と言う想定で話していますので「水に油が溶け込む」と言う形になっていますけど、当然状況によっては逆、つまり「油に水が溶け込む」と言うケースも当然あります。この場合、図で示したような界面活性剤の「向き」は上の水でのケースとは逆方向を向きます。ミセルも「親水基が中、親油基が外」に向く事となりますので、ご注意下さい。
#図が面倒ですので、言葉で説明しておきます(^^;;
 ちなみに、水の中に油がある(上の説明)状態を「水中油滴型(O/W)」と。逆に油の中に水が、と言う状態を「油中水滴型(W/O)」と呼んでいます。

 さて、話を戻しまして油を界面活性剤が包み込んで、水の中に存在出来るようになりました。この様な溶液を一般に化学では「エマルジョン(emulsion) 」と呼んでいます。そして、この様な現象を「乳化(emulsification)」と呼んでいます。まぁ、実験中ではちょくちょくお世話になることもある現象です........厄介な面で、と言うこともあるのですが。ただ、これは実は皆さんの生活では重要でして、いくつかの食品に含まれる「乳化剤」と言うものはこの現象を引き起こして、油成分を水の中に(あるいは逆)取り込ませる物.......つまり、この乳化剤は界面活性剤の一種だったりします。
 この様な現象を見せる身の回りのものは冒頭に挙げた洗剤のような物のほかにも結構ありまして、例えば牛乳。「牛乳は何故白いの?」と言われれば、水の中に牛乳の脂肪成分が溶け込んでいるから、となっています。これは牛乳の中に含まれるカゼインというタンパク質が界面活性剤の役割を果たしているからでして、これが無ければ、多分牛乳は水と油にわかれて、と言う奇妙な状況になっているでしょう。他にも、バターやマーガリン、マヨネーズ、アイスクリームと言った食品や、化粧品などの乳液もこの様な界面活性剤の役割が重要となっています。
#化粧品の乳液の場合、「しっとり感」はO/W、「さらっと感」はW/Oの調整によるものとなっているようです
 ま、こう考えると結構、界面活性剤と言うのが身近にあるのは分かって貰えるかとは思いますが.........

 あ、ここで余談ですが。まぁ、生活で色々と体験することがあるかと思いますけど.......
 マヨネーズや牛乳というのはO/W、つまり水中油滴型の構造となっています。ですので、水との親和性が高いので食器についたマヨネーズなどは水であっさり洗い流すことが可能です。しかし、マーガリンやバターと言うものはW/O、つまり油中水滴型ですので油の性質が強めです。ですので水では洗い流すのは難しく、洗剤を用いないと洗い流すのは辛くなります。
 ここら辺はちゃんと「化学」が関与しています。


 さて、これである程度のことは説明できたのですが.........最後にいくつか。
 昔、NHKで「クイズおもしろゼミナール」と言うのをやっていましたが(個人的に好きでしたが)、あるときにこういう実験をしていました。それは、コップの口まで水を満たします。そして、これにある大きさの釘を用意し、この釘が何個入ったら水がコップからこぼれるか、と言うものでした。で、番組中の実演では、結構な数の釘を入れても水がこぼれることはありませんでした。
 これ、いわゆる水の「表面張力」の問題でして、釘を入れても表面張力が大きいためになかなかこぼれず、横から見ると「コップの口からこんもりとドーム状」になって「耐えて」いました。
 さて、界面活性剤と言うものはこの表面張力を下げる働きをします。ですので、洗剤などを入れた水で同じ実験をするとどうなるか、と言うと表面張力が下るので以前より「耐えられなく」なります。ですから、釘は水だけの時よりも少ない数を入れるだけでこぼれることとなります。
 上手くやれば、ここら辺は子供向けのマジックとして使うことも可能ですね.........
#「魔法の液を入れると......」と言う感じで。

 また、シャボン玉も実はここら辺の、界面活性剤と表面張力が関与しています。
 「泡」と言うものは実は表面張力が小さくならないと出来ないものでして、水だけだと表面張力が強いので「泡」が出来ず、仮に水面を叩いても出来た泡はすぐに壊れてしまいます。しかし、シャボン玉や洗剤の例のように、界面活性剤を入れてやると泡が出来やすくなります。ついでに言うなれば、ビールと言うのは泡が良く出来ますが、これもビール中に界面活性剤となる成分が入っているから、と言うのが原因となるのですが........
 この「泡」。どういう構造を成すか、と言うと.......シャボン玉の例でやってみますと、下図のようになります。



 いびつ、かつ半分だけで恐縮ですが(^^;; 基本的には「水の玉」ですが、その表面には親水基を水に向けた界面活性剤が。その内部には内部の空気に疎水基を向けた界面活性剤が存在しています。これによって「シャボン玉の膜」が構成されることとなります。
 こういう形で「泡」が存在することとなります。
 尚、シャボン玉の場合はこの「膜」は約2μmほどあるそうですが、時間とともに薄くなってやがては1/400程度に薄れます。この薄くなる様子は、実はシャボン玉の色の変化で表されています。これは、光の干渉からシャボン玉が「色」を持つのですが、膜の厚さが変わることで光の干渉の具合が変化しますので、これに伴って色も変化するのが原因となっています。
 ちなみに、シャボン玉は「にかわ」や「洗濯のり」などを入れることでこの膜を「補強」することが出来まして、サーカスなどのパフォーマンスで御馴染み、「割れにくい巨大なシャボン玉」を作ることが可能です。
 お暇な方は挑戦してみて下さい。
#ネット上でも探せると思います。


 と言うわけで長くなりました。以上、界面活性剤を簡単に話してみましたが........
 実際にはこの界面活性剤に絡む化学は物すごく奥深いものでして、一分野を形成するぐらいの重要な物だったりします。まぁ、突っ込むと本当に物すごいものが出てくるんですが、そこまでいけませんから、簡単に(というか、結構さらっと書いていたりするんですが(^^;)と言うことで........大丈夫でしょうかね?
 ま、次回は、この界面活性剤に絡んだ話をしてみようと思います。

 そういうわけで、今回は以上、と言うことで.......




 急ごしらえは辛いねぇ(^^;;

 さて、今回の「からむこらむ」は如何だったでしょうか?
 まぁ、急ごしらえで、その上「布石」でしたけど......図もやや汚いですが(^^;; まぁ、ちょっとリクエストがありましたので、そっちの方向に持って行くのもあって今回は界面活性剤の話をしてみました。まぁ、ここでは余り有機化学の構造は考えなくて結構ですので(^^;; 水に溶けやすいか、油に溶けやすいか、と言うのを気にしていただければ大丈夫です。
 .......って、話の方は大丈夫でしょうかね?

 さて、次回はそういうわけでこの界面活性剤に関わるお話、です。
 内容は.......まぁ、久しぶりに物作り、といこうかと思います。ちょっと薬局行かないとダメですけどね(^^;; まぁ、安上がりなものです。

 そう言うことで、今回は以上です。
 御感想、お待ちしていますm(__)m

 次回をお楽しみに.......

(2001/06/26記述)


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