からむこらむ
〜その125:石鹸を作ってみる〜


まず最初に......

 こんにちは。暑い日が続いていますが、皆様如何お過ごしでしょうか?
 いやぁ、身体への負担が大きいですが。熱中症などには皆さん気をつけましょうね.........

 さて、今回ですが。
 今回は前回の続き、と言うことで界面活性剤の話。しかも、身の回りのもの一個に絞ってやってみようかと思います。
 まぁ、そんなに難しく考えずに、気楽に読んで言って下さいませ。って、実は今回も時間がなくて急ごしらえだったりするんですがね(^^;;; そうそう、久しぶりに実験物を入れてあります。是非ともおためしあれ。
 それでは「石鹸を作ってみる」の始まり始まり...........



 まず、前回はちゃんと読んでおいて下さいね。

 皆さんの日常生活において使うものの一つに、「石鹸」という物があるとは思います。まぁ、用途はここで触れる必要はないでしょうけど。
 さて、このありあふれた物質。皆さんは辞書で引いたことありますかね? 結構無いような気がしますけど.........よろしければどうぞ。広辞苑や大辞林、理化学辞典などで引いてみる限り、きっと皆さんの知っている「石鹸」とは違う印象のことが書かれていると思います。
 .......引いてみました?
 一般に「石鹸」と言うと、台所やら洗面所にある、洗浄用の固形物質となりますが、辞書的にはそういう扱いが中心とは言い難いです。実際、手元の大辞林などを見てみると、一番最初に「洗剤として用いる、高級脂肪酸のナトリウム塩。」と書かれています。他の辞書......広辞苑などでも同じように「化学的」なことが書かれています。
 今回は、前回と絡め、ここら辺の話をちょっとしてみようかと思います。


 さて、有機化学を学んでいくと.......まぁ、大学受験生で化学科狙おう、と言う人は一度はやるものの中に「けん化」という化学反応があります。これはどういうものか、と言いますと.........まぁ、ちょっと難しいですが、アルコールと酸が結合したものを一般に「エステル」と言うのですが、これを一般にアルカリを用いて加水分解を行うことを言います........って、訳分からんですよね、普通では(^^;;
 まぁ、高校とかで使うような説明をしてみますと........



 大体こういう説明が入ります。左は「グリセリド」というエステルでして、その105でもやった多価アルコールであるグリセリン(赤い部分)と、脂肪酸(青い部分)で構成されています。「脂肪酸」は脂質の一つでして「R」にはアルキル基(その20参照)が入ります。そして、これを水酸化ナトリウム(カセイソーダ:NaOH)で加水分解をしてやると、本来の「グリセリン」と脂肪酸とナトリウムイオンが結合した「脂肪酸塩」に分離します。
 この様な化学反応を「けん化」と呼びます。

 さて、実はこの時出来る脂肪酸塩ですが、Rのアルキル基が長いと「高級」と名称に付く(別に何か偉い、とかそういうものではないです)ので、一般に「高級脂肪酸」となるのですが、このRが長く、高級脂肪酸のナトリウム塩となった場合には上記の「石鹸」の定義と一致する、つまり「石鹸」となります。大体、この時の炭素数は10〜20程度が一般的です。
 ちなみに、何故「けん化」と言うかと言えば、上記反応に基づいて石鹸(脂肪酸塩)を作ったから、つまり「石鹸を作る化学反応」と言うことで「けん化(鹸化)」となっています。もともと「石鹸」とは動物や植物の脂から作ったものでして、天然のアルカリとその脂を反応させて作ったものです。こういった「脂」は大体は上図の左のエステルの構造をとっていまして、まさに上図の反応式に基づいて(アルカリは色々とありますけど)石鹸を得ていました。
 ただ、今現在ではこういうグリセリドからいちいち作らず、そのまま高級脂肪酸とアルカリを反応させて作ってしまいます。また、実際には現在は別のタイプの構造を持つものが多いですが。
 ま、ここら辺は次回辺りに触れることとしましょう.........

 そうそう、余談ですけど。
 「脂肪酸」と言うと「太る」とかそういうイメージがあるとは思いますが、そういう単純なものではなく、生体の必須成分です。いわゆる魚に含まれる「DHA」や「EPA」などというのはこれの一種になります。また、普段調理でも使いまして、酢(酢酸)は一番簡単な脂肪酸(Rにメチル基の入ったもの)だったりします。また、リノール酸、リノレン酸と言うのもこれら脂肪酸です。構造に二重結合が入ると「不飽和脂肪酸」と言いまして生体での重要な役割を担っているものが多いです(もっとも、代謝途中で活性酸素が生まれたりと色々とありますけど)。
 ただ、上図構造の左のエステルは、いわゆる「トリグリセリド(TG)」という物でして、血液検査でこの項目が多いと循環器系の障害を警告されることとなります。
#コレステロールとは別物ですので要注意。

 さて、こうして「石鹸」、つまり高級脂肪酸塩があるわけですが.........
 前回触れましたが、洗剤には多く界面活性剤が入っています。ま、その定義なども前回触れましたが........この高級脂肪酸塩は構造を見ると、実は全く界面活性剤でして、親水基と親油基をその構造に持つこととなります。
 例えば、炭素が16個の脂肪酸のナトリウム塩の構造を見てみますと.........



 前回の界面活性剤の説明に則して描くとこう言うことになります。つまり、完全にこの脂肪酸塩は「界面活性剤」と言うことです。よって、当然その挙動も前回の界面活性剤と全く同じ、となります。


 さて、では前回触れませんでしたが何故石鹸......この界面活性剤が洗剤の主成分となる、つまり「汚れを落とす」のか?
 一般に「汚れ」と言うのは「油分」が問題となっています。まぁ、水に溶けるものならそのまま水洗いである程度は落とせてしまいますから、当然といえば当然なのですが(もちろん、繊維の奥に、とか色々とありますが、そこら辺は今回は省略します)。ただ、油は水とは混じりませんから、水で洗っても落ちない。しかも油は繊維などとくっつきやすいので、はがれにくいことから「汚れ」となる.........と、ここで洗剤の主成分である「界面活性剤」が活躍する事となります。

 まず、ここにある面に油がついたとしましょう。そこに界面活性剤が入ったら? これは次のような形で洗浄効果を出すこととなります。


 相変わらずいびつで恐縮ですが(^^;;
 水色部分が油だと思って下さい。これは繊維についた油でも良いですし、皿にくっついた油分、と考えてもらっても結構です......後者の方がイメージしやすいでしょうか?
 さて、ある面に油(=汚れ)がついた状態(I)があります。これに界面活性剤が入ると、前回の通り「親油基は油が好き」、と言うことで親油基を油側に向けて、これとくっつきます。この様な形で界面活性剤が続々とくっつきまして、やがては油の周囲を界面活性剤が覆うこととなります(II)。この状態になると、界面活性剤の親水基側が水に引かれるようになり、水の方へと動こうとする結果油を面から引っぺがす動きになり、実際に引っぺがしていきます。そして、少しずつ引っぺがしていった結果、面と油との間にまた「すき間」ができますので、そこを埋めるように界面活性剤がまた結合していきます(III)。そして、更に水の方へと移動していき、最終的には面から油は引きはがされまして、周辺を界面活性剤で覆われた、つまり前回説明した「ミセル」を構成して水の中に溶け込むこととなります。
 このシーン、実はよく洗剤のCMでみることのある「繊維から油を引きはがす動き」と全く同じでして、理屈はこの様な物となっています。
 これが界面活性剤による「洗浄」の基本的メカニズムとなっています。

 尚、「汚れは油である」と言うことなら、「じゃぁ油を良く溶かす有機溶媒(溶剤)を洗濯に使えば?」と言うのがいわゆる「ドライクリーニング」の発想となっています。つまり、ドライクリーニングとは有機溶剤(水とは混ざりません)を使ったクリーニングのことでして、ここで言う「ドライ」とは「水を含まない」と言う意味で「ドライ」ということになります。この場合は、界面活性剤と同じようなメカニズムではありません。「砂糖を水に溶かす」のと同じ感覚で「油を有機溶剤に溶かす」メカニズムとなります。
 もっとも、ここら辺は溶剤がまた色々と問題があったりするようで、難しいものもあるようですけどね..........



 さて、石鹸の話が出来ましたので、久しぶりに(リクエストもありましたから)ちょっとした実験でもご紹介しましょう。
 この方法は岡山県環境保護センターで開発された方法でして、基本的に家庭である廃油を使い、リサイクルで石鹸を作り出す、と言う方法です。結構有名なものみたいですので、御存じの方もいらっしゃるかも知れませんが..........
 ま、管理人が高校の化学でやった実験でもあります。

 まず用意するものは以下の通り。
 空き缶は、少し大きめのほうが良いでしょう。また、一方が完全に開放されている様なものにしてください(缶切りできっちり蓋を開けておきましょう)。
 その他、かき混ぜるものも必要です。気分の問題もあるでしょうが、不安ならコンビニ弁当で不要となった割りばしや、スプーンなど工夫して下さい。
#粉石鹸とオルトケイ酸ナトリウムは個体ですが、管理人が高校の時には体積の方(ml単位)の方を使用しました。

○注意
 この実験は油と火を使いますので、くれぐれも火傷や引火には気をつけて下さい。
 生徒さんなら保護者がいたほうが良いです。

 ○実験操作
1:廃油、粉石鹸、オルトケイ酸ナトリウムを空き缶に入れ、弱火でゆっくりとかき混ぜながら加熱(強火にしないこと! 油を使っていることを忘れずに!)。
2:15分ぐらいしたら、空き缶の中身を水にたらし(適当な物に水を張り、そこに撹拌していたもので一滴垂らしてみて下さい)、油膜が浮かばなくなったら火からおろす。
3:100mlの水を加え、よく撹拌する。
4:3%のオキシドール40mlを混ぜて漂白する。

 以上で石鹸の完成です。

○実験操作の解説
・1:けん化
 オルトケイ酸ナトリウムによる加水分解。このメカニズムは、けん化での説明と全く同じです。弱火でじっくりやって下さい。引火は絶対に気をつけること! また、かき混ぜるのは怠らないで下さい。
 尚、粉石鹸は反応の促進剤として使っています。また、油によっては臭いが良くないでしょうから、しっかりと換気をしましょう。

・2:けん化の確認
 けん化がすすんで、脂肪酸塩(=界面活性剤)が出来ていれば水に溶けることとなります。溶けなければ、まだけん化が進んでいません。どうしても進まない場合は、少しオルトケイ酸ナトリウムを加えて下さい(一気に入れてはいけません)。

 こうして出来た脂肪酸塩は界面活性剤、つまり「石鹸」となります。
 尚、漂白をしっかりすれば洗濯にも使用可能です。オキシドールによる漂白の原理は、ラジカルの酸素による漂白(その84参照)です。熟成をしっかりさせると尚良いようですが.........
 この方法で出来た石鹸は、水分の調整を行うことで「練り」「半練り」「液体」で使用することが出来ます。また、天日に干せば粉石鹸としても使えます。


 この、岡山県環境保護センターの方法が優れている点がいくつかあります。
 リサイクル、と言う点がまず一つです。
 そして、安全性などの点でも優れていまして........それまでは水酸化ナトリウムをアルカリとして使い、反応促進剤としてみかんの皮・ご飯粒を使い、バーナーで数時間の強火による加熱を行っていました。しかし、水酸化ナトリウムは厄介な試薬でして、特に知識の無い一般の人にはやや危険な物(特に熱いものは)となります。また、みかんの皮などの反応促進剤は水質汚染の原因ともなります。
 しかし、それほど危険ではない(ガラスと同じ組成である)オルトケイ酸ナトリウムが水酸化ナトリウムの代替となります。また、この方法だと家庭用コンロで15〜20分程度加熱すればすぐ出来る、というメリットもあります。

 ま、夏休みに中高生向け、あるいは子供向けの実験としても使えるでしょう(もちろん、親がいたほうが良いです)。使い道が無ければ、シャボン玉で遊んでみても良いかも知れません。
 試された方がいらっしゃいましたら、是非ともご報告を。


 と言うことで長くなりましたので、今回は以上で。
 次回は、洗濯と界面活性剤の話をもう少ししようかと思います。




 大丈夫かな?

 さて、今回の「からむこらむ」は如何だったでしょうか?
 まぁ、今回もちょっと急ごしらえだったのですが。まぁ、前回の界面活性剤と石鹸の話に絡め、ついでに石鹸の作り方、と言うことにしてみました。まぁ、比較的手軽にできますので、興味のある方は是非。いや、ちゃんと使えるものですからね(^^;
 試された方は是非ともご報告を、と思います。

 さて、次回は洗剤に絡み、そこら辺の話をもう少ししてみようかと思います。
 ま、基本的な話はしましたから、もう少し現在での話など、と思いますので.........

 そう言うことで、今回は以上です。
 御感想、お待ちしていますm(__)m

 次回をお楽しみに.......

(2001/07/03記述)


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