からむこらむ
〜その134:キノコの季節〜


まず最初に......

 こんにちは。9月となりましたが、皆様如何お過ごしでしょうか?
 天気上では早くも秋雨前線が出てきましたが。これから残暑と秋の涼しさで風邪を引きそうになるのでしょうか? 皆様もお気をつけを。

 さて、今回ですが。
 ま、取りあえず岡山行きの大体の時期も決めたんですが、時間の都合上大ネタが出来ません(^^; で、まぁこれからの季節もありますので、ちょっくら食中毒とキノコの話でもしてみようかと思います。もっとも、各論はキリがないんで総論的な話になりますけどね。
 ま、気楽に読んで行って下さい。
 それでは「キノコの季節」の始まり始まり...........



 さて、表題の通り「キノコ」の話となりますが........皆さんはキノコはお好きでしょうか? 管理人は苦手です(^^;

 ま、好き嫌いはともかく、キノコと言うもの。これはおそらくは御存じとは思いますが、その正体は菌でして、大型の子実体(菌類が胞子をつくるときに形成する菌糸の集合体)を作る生物です。この子実体の大きなものを「きのこ」と呼びます。ま、結構学術的と言うよりは通俗的な言葉であったりするのですが..........
 御存じでしたか?
 ま、定義的な部分をもう少し触れておきますと........取りあえず担子菌類と言う種類に大部分が所属していまして、皆さんが見るキノコのほとんどが担子菌類の物です。基本的には森林で生活をする菌でして、森林の多い国で多く見られます。自然界では様々な植物・動物の、いわゆる「分解者」の役割を担っていまして、物質循環の一翼を担うという点でかなり重要な地位を占めています。

 さて、我々人類とキノコとの「付き合い」と言うものは結構古くから知られているのを皆さん御存じでしょうか? これは有史以前から付き合いがあったとされていまして、「食料」として、あるいは「医薬」として使われていました。紀元前以前の古代文明などと言ったところでは良く食べられていたようです。中でも、かなり明確な記録が残されているのはギリシア・ローマ時代でして、ローマ帝国の全盛期の頃にはかなり食べられていたことが知られており、普通に山の幸として宴会といった席でも、また普通の生活の中でも良く食べられていたことが知られています。その後も各地で身近な物として生活の中にありまして、例えばヨーロッパの話の中でもキノコが描かれていたりするケース(おとぎ話では多いですけど)があったり、また料理の中に入っていたりしています。
 日本でもここら辺の事情は一緒でして、古くから食材や医薬(漢方)として、あるときには物語の中で語られていたりしています。特に山林が豊富な土地と言うこともあってキノコは常に生活の中にありましたし、また利用してきました。もちろん、現在でも普通にありますので改めて確認するまでもないでしょう。それを反映してか、世界的にも日本人は「キノコが好き」な民族と言われています。

 ちなみに、日本語の「キノコ」という名称は比較的新しい言葉だそうでして、古くは「菌」と書かれていました。また、「茸(タケ)」と言う呼称もありますが、これは「猛り」「長ける」から来たものだそうで、生長の早い事を指していると言われています(竹も同じなのでしょうかね?)。また各地で独特の呼び方がありまして、西南日本では「ナバ」、奈良県の一部では「クサビラ」、近畿、東海、山陰、中国東半部、四国東半部では「タケ」、佐渡や能登では「ミミ」。東日本で「キノコ」で、東北では「モタシ」「モダシ」「モタセ」と言った呼称があるようです。

 余談ですが、国・民族で異りますがキノコというものは比較的「関心」が持たれる物のようでして、ある地域では「魔性の生き物」と、あるところでは「不老長生の霊薬」、「幸福の使者」などと言われたようです。後はその形状から男根に連想する地域も少なからずあると言われています。
 とにかくバリエーションが多く、独特の形状、特徴から様々な「話」もあり、ヨーロッパなどでは小人や妖精に関連があると言った民話・伝承が多く残っています。

 ま、色々とそう言う話は面白いのが多くあるのですが、キリがないので取りあえず先に進むとしまして.........
 さて、食材としてのキノコは栄養価が高くタンパク質を多く含むうえ、その他の栄養素も多く含まれていることが知られています。中には成分上わずかに肉の味がすると言う物もあり、場合によっては肉の代用として用いられていました.........それはある意味において十分に役割を果たしていたと思われます。こう言ったものは、人類の経験として色々と学んでいったものだと考えられています。
 しかしながら、この「人類の経験」の裏には色々と犠牲もありまして......皆さんも御存じの通り、キノコには食べられるものもあれば、毒を含む物があることも知られています。当然、今ほど情報の繋がりや蓄積の無い昔ではかなりの、時としては命がけの「試行錯誤」が、あったことは容易に推測されます。
 こう言った知識の一部は色々記載・利用されていたようでして、例えばちょくちょく「からむこらむ」のシリーズで名前が出てくるローマ皇帝ネロが皇位に就いた裏には、彼の母親による数々の暗殺があったと言われていまして、その際彼女は毒キノコを使っていたと言われています。他にも史実として数々の暗殺用に「極普通に」用いられたりしたようです。また、日本の今昔物語でも毒キノコを使って高僧の暗殺を目論んだ悪僧の話や、キノコを食べて踊り狂った話などが残されています。他にも世界各地での童話などに使われた話が残っていますので、そう言った記載・利用については現在でも我々は知ることが出来るでしょう。

 ところが、今でこそある程度の知識が一部にはあるわけですが、残念ながら今現在でもキノコによる中毒は毎年のように発生しています。
 これはどういう背景があるのか、そしてどういうものがあるのか?
 取りあえず各論的なものは今回はおいておきまして、そのおおまかな概要について、つまりはキノコ中毒のイントロ的なものとして今回は簡単に触れておこうと思います。


 ではまず.......食中毒を起こすキノコにはどういうものがあるか?
 日本にあるキノコは種類色々と資料によりばらつきがあるのですが、大体4000〜5000種ほど、春から秋にかけて生育しています。食用に供されるキノコはこのうち約130種。毒キノコは「主として」約30種ですが、100〜130種はあるとも言われています。この中でも致死性のものは多くないですが、存在しています。他は毒はなくても食べられない(石のように堅かったり、美味くなかったり)と言ったものになります。
 キノコ中毒の中でもっとも多く発生しているのはツキヨタケと言うキノコによるものでして、これによる中毒が報告事例の半数を超えています。これは食用のヒラタケ、ムキタケと間違えて取ったケースが多くあるようです(ヒラタケは『今昔物語』で、強欲な国司の代表として知られる藤原陳忠の話に「美味いもの」として出てきます。また、ムキタケは夏のキノコです)。こう言った「食用」と誤ったケースは多くあり、ツキヨタケ以外でも多いケースとなっています。こういった原因には、見分け方が純粋に難しい、と言うものから誤った知識、他にもキノコの小さいときの形状が見分けがつきにくい、と言うケースがあるようです。こう言った「間違い」によるケースは日本だけでなく、世界的な傾向となっています。
 ただ、流石に有名なせいかベニテングタケと言った「いかにも」な物によるケースはあまり無いようです。
 尚、面白いことに意外と「毒がありそうに見えて」毒が無かったり、大した中毒にならないケースもありまして、毒々しい色をしている割にはベニテングタケは大した毒性はなく、美味ということで実際に塩漬にして食べたりするところもあるようですが.......ただ、「当たる」と丸一日トイレの中、と言う話ですので止めたほうが身のためですが。ただ、こういうケースもありますが、「毒がなさそう」に見えて「死亡」するケースのキノコも当然ありますから、正しい知識を持った人が必要と言えます。

 さて、ではキノコによる食中毒の報告はいつが多いのか?
 キノコによる食中毒は植物性の食中毒に分類されます(その74参照)。植物性の食中毒は統計的に見て大体春と秋に多いとされていますが、特に秋の、丁度今の9月から10月頃に急に増加し、ピークを迎えることになります。そのピークの中の大半がキノコによる食中毒であることが知られています。これはいわゆる秋が「キノコ狩り」のシーズンであることと深く関係しています。
 キノコによる食中毒の発生原因は大体決まっており、個人・家族によるキノコ狩りがもっとも多くなっています。これは知識の欠如と過信、また見分け方に関する俗説などが背景にあります。この毒キノコを見分けるという俗説はかなり色々と、そして根強く存在していまして、代表的なものに
 と言ったものがあります。ついでに地方によっては「なすと一緒に煮ると毒が抜ける」といったものもあるようでして、現代(1987年)においてこれを実践して食中毒になったケースがあります。しかし、こう言った物は「例外」「根拠無し」が多くあるのが実際でして、余り役に立ちません(ついでに、銀製のスプーンの話はその101で触れた通り根拠としては薄いです)。
 実際、素人の知識と図鑑による過信がこういった食中毒の原因でもっとも多い理由となっており、この点を防ぐだけでかなりキノコによる食中毒が減ると言われています。これは決して軽視できるものではありません。しかも発生するときには大体は「キノコ狩りの後に、家族等団体で料理」ということで集団で食中毒が発生する事が多い点も無視できないでしょう。他にも、先ほどの例のように外見は同じようなキノコでも実際には違うものであったりするケースが多く、そういった「類似」の識別ミスによるキノコ中毒が多いとされています。
 この様な点を踏まえ、もし皆さんの間でキノコ狩り、と言う話がありましたらプロの人を随伴していく事を強く勧めます。実際、そういう呼びかけは、保健所等関連施設からなされています......守らない人が多いようですが。
 ちなみに、一般に流通しているキノコは大半が人工栽培のものですので、それほど問題になることが無い、ということは書いておきます。もっとも、路上販売の物を買って中毒を起こしたケースもありますので、油断は大敵です。

 続いて、キノコ中毒による症状にはどういうものがあるか?
 これは色々と、キノコの持つ成分によって左右されますので、一概にどうとはいえません。また、一つの毒性分だけでなく、複数の成分を持つものが多くありますので、実際には色々と難しいものがあります。が、ある程度はおおまかな分類は可能となっています。
 まず、もっとも多いのは典型的な食中毒症状である、下痢、嘔吐、腹痛といった症状があります。ただ、こういうケースだけでなく、キノコの毒性分としては神経に作用するものがかなりありまして、神経伝達のかく乱を引き起こしてよだれが止まらなくなったり、痙攣、異常な興奮を引き起こすこともあります。物によっては幻覚を引き起こしたり、精神の錯乱を引き起こすこと物もあります。また、臓器の機能を低下させるものもあり、更には細胞の破壊なども引き起こす物もあるようです。
 これらはキノコによってかなり違いますので、一概に言えませんが、比較的高い率で死亡するキノコもありますので、相当に注意が必要となります。また、保存などの間に自己消化・分解などを起こして毒成分を生み出す様なケースもあるようですので、そう言った「消費期限」的な要素も気をつける必要があるでしょう。
 日本において最強なものはドクツルタケ、タマゴテングタケなどと言ったものでして、これは一本分程度(50g前後)で死に至らしめます。主成分は「アマニタトキシン」と言う混合物でして、嘔吐、下痢、腹痛と言う症状から細胞の破壊による肝臓・腎臓の破壊を引き起こし、ついには痙攣、コレラ様の症状を引き起こして死亡します。かなり怖いキノコです。
 これら食中毒を起こすキノコの原因物質は解明が進んでいる物もありますが、中には量が少ないために解明が進まない、と言った例もあります。また、中毒の原因が単一化合物による物とは限らず、色々とそう言った点で研究が難しいケースがあるようです。

 こう言ったキノコの毒性は昔からかなり恐れられていまして、普段の生活の中での食中毒に繋がったケースは結構あるようです。
 歴史的に見た場合、事故として数々の重要人物がキノコ中毒で死亡した(ないし「様にみられる」)記録があるようです。ローマ時代にも多かったのか、この時代のある学者は「キノコは食料としては疑問である」と述べた人物がいたとも言われています。
 ただ、ある程度「知られる」毒キノコには「活躍」の場があったのは確かでして.........ヨーロッパなどでは上述したネロの他にも、「政敵暗殺」の為に用いたと言う様な話がある一方、他にも個人的な「事情」や、裏切り、悲恋の際にそう言った毒キノコが用いられた事もあるようです。
 しかし、一方ある種のキノコ......ま、大体は幻覚性の症状を起こすものは国、民族によっては「神事」の際の儀式に用いられていたケースもありまして、代表的なものとしては南米で、ある種のマッシュルームを神事に用いた事例があります。これは「食中毒」とは違うのですが、ちょうど幻覚剤の機構解明などが盛んなときでして、学者からかなり注目を受けたケースです。もっとも、こういう儀式のほかにも国によっては宴に用いたりしたケースもあったりするので、「毒」と言うだけでなく様々なつきあい方があると言えます。
 もっとも、我々の日常生活においてそう言う症状は「キノコによる食中毒」と判断されるものですが........

 ちなみに、そう言った幻覚性キノコの知識は近世ヨーロッパでもかなり広まっていたのは確かでして、有名なルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』にそれをにおわせるシーンがあります。興味のある方は読み返してみると面白いかと思いますが.........ま、侯爵夫人の家の後でアリスは芋虫と出会い、そこでキノコを食べて元の大きさに戻る、と言うシーンがあります。ここの記述、実は結構「裏」を読むと面白いものでして、「元の大きさ」に戻るために極端な巨大化をしたりしますが、その表現が幻覚性キノコによる症状をにおわせている、と言う学者がいます。
 他の幻覚物質に関する研究も併せて考えてみると、この点は「なるほど.....」と思わせるものがありますが。
 また、こう言った事例から興味をもって研究を進める人も中にはいまして、アメリカのモルガン商会の総裁であったワッソン(R.G.Wasson)は趣味が高じてキノコの民俗学的研究を発展させ、世界各地のキノコにまつわる研究をした、と言う人もいます。彼の発表した説で特に有名なのは実は過去に「からむこらむ」でも触れていまして、その102で触れた「ソーマ」の話は特に有名だったりします。

 ま、それだけ様々な話が多い、と言うことはそれだけ生活との密接な関係を示す物、と言えますがね。
 ただ、いくら付き合いが長くても何故キノコがこういう「毒」を持つのか、と言うのは(他の植物等でもそうですけど)良くわかっておらず、こう言った点で色々と自然の奥深さや謎、と言うものはありますが..........

 さて、やや脱線も入っていますが、以上がキノコの食中毒の総論的な話となっています。ま、各論はまた別に触れたいと思っています。
 とにかくこれから「秋の味覚」のシーズンを迎えるわけですので、色々と美味しいもの出てくると思います。そう言った秋の味覚を求めてキノコ狩り、と言うのも良いものだとは思いますけど、とにかく秋の食中毒とキノコは切っても切れない関係にありますので、くれぐれも気をつけていただきたいのですが.........とにかく、行かれる場合にはプロの随伴を強く奨めます。
 ただ、最近にちょっと気になるニュースもありまして........
 日本の毒キノコは口に含むだけなら問題はない、と言うことで識別法の一つとして「少量齧って吐き出す」と言う方法があります。が、最近のニュース(2001/08/26)によると、九州でこの方法で識別しようとした人が齧って吐き出した後に、口内が腫れあがった上、全身のしびれ、舌の感覚の喪失、衰弱(10日間と言うケースも)と言う症状を引き起こした事例がでてきました。食用にされる「シロハツ」に色や形がよく似ていると言う事なのですが、日本では今まで確認されていないキノコでして、全国にある可能性もあると言うことで注意を呼びかけている、と言う事でしたが.........
 ま、キノコ狩りをしよう、と言う方もいらっしゃるとは思いますが、こういう話もあります。
 くれぐれもお気をつけを。

 そう言うことで、今回は以上、と言うことで........




 終わり、と。

 さて、今回の「からむこらむ」は如何だったでしょうか?
 今回は取りあえず季節でもありますので、またちょくちょく触れる点も多いのでキノコの食中毒について、総論的な物を軽くやってみましたが.......ま、色々と書こうと思うと流石に「つきあい」が長い為かかなり話があるのですが。そう言うのは各論的なもので、と思います。
 とにかくも、好物とされる方もいらっしゃるでしょうし、自分でキノコ狩りに、と言う方もいるとは思いますが本当に中毒の報告が多いですので、過信は禁物と言うことは覚えておいて下さいね。ニュースにされないよう、くれぐれもお気をつけを!

 さて、と。次回はどうしますかね.........
 ま、とりあえず適当に決めようかと思います(^^;; また、来週やってから一回か二回ほど「夏休み」と言うことでお休みさせてもらう予定です。

 そう言うことで、今回は以上です。
 御感想、お待ちしていますm(__)m

 次回をお楽しみに.......

(2001/09/04記述)


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