からむこらむ
〜その101:白さと高貴さと〜
まず最初に......
こんにちは。思いっきり冷え込む日々が続きますね。皆さん、如何お過ごしでしょうか?
いやぁ......鍋とか帰り道につまみ食いする肉まんとかが美味しいですよねぇ........思いませんか?(笑)
さて........「からむこらむ」も2周年、となりましたが、今回は前回の続きの話をしようかと思います。
で、前回は銀の歴史やイメージ、性質などについて触れてみました。まぁ、それだけでも結構面白いのですが、今回はその利用法などについて触れてみたいと思います。ま、色々とありまして、人によっては「知っている」エピソードなんてのもあるかも知れませんが。
それでは「白さと高貴さと」の始まり始まり...........
さて、では歴史などは前回を参照していただくとしまして、今回は利用法について「広く浅く」触れてみましょうか。ついでに、それに絡んだ与太でも.........ちょいと駆け足になるかも知れませんけどね。
#まぁ、一個一個細かくやるとキリがありませんから(^^;
さて、銀の利用はなかなか幅広く、調べてみれば色々とありますが.........大きく分けると二つに分けられるようです。
まぁ、この「二つ」。どういうものかと言いますと「状態」の事になります。一つは「合金」としての銀の利用。もう一つは「化合物」としての銀の利用という物に分けることが出来ます。
まずは「合金」としての銀の話について触れてみましょう。
合金と言うのは手っ取り早く言えば「他の金属を混ぜて性質を変えて利用する」という事です。ま、銀は前回触れた通り電気伝導率や熱伝導率、光の反射率は良いものです。また、酸素とは通常反応がしにくく、一部の環境を除き容易には錆びません。よって工業的には非常に利用価値が高いのですが、「柔らかい」という難点があります。そう言った点を「補う」為に他の金属を混ぜて合金とし、強度を増したりして使用することが多くあります。
では、どういう方面で使われているか?
例えば例を挙げてみると、銀の合金が頻繁に使用されるものにリード線や接点があります。この「接点」は電気機器に使用される「電気接点」です。これは、純銀であるケースもあるようですが、実際には合金が多く、90Au-Ag(90%金(Au)+10%銀)の物はコネクタやリレーなどの接点に使用されます。また、90Ag-Cu(90%銀+10%銅(Cu))や60Ag-Cuなどは家電用スイッチ、サーモスタット、リレーなど。他にも銀とニッケルの合金や銀と酸化カドミウムなども電磁開閉機や遮断機、継電器などの接点として使用されています。このほかにも、銀とパラジウム(Pd)、アンチモン(Sb)、イリジウム(Ir)などの合金も接点として使用されています。また、銀-銅の合金では銀鑞や半導体などにも用いられています。
他にもいくつかありますが、宝飾用としての合金として有名なものに、「スターリングシルバー」と呼ばれる92.5Ag-Cuの物があります。これは、イギリスのイースターリングスという人物による合金でして、そのまま「スターリングシルバー」と呼ばれるようになったものです。これは、純銀のままでは柔らかすぎて使用できない宝飾用銀製品に使用されています。また、90Ag-Cuの物はよく貨幣に用いられていまして、これを「コインシルバー」と呼んでいます。
尚、日本での東京オリンピック記念の100円銀貨は60Ag-Cu-Zn(銀、銅、亜鉛)合金だそうで、1000円銀貨はスターリングシルバーと言われています。
ほかに銀合金が良く使われるものにはフルートなどの楽器があります。これは、銀だと柔らかすぎる、と言うほかに音色も絡んでくるようですが...........
そうそう。忘れてはならないのは、アマルガム(銀と水銀と合金)などは詰め物として歯科で治療に用いられます。お世話になっている方、いらっしゃいませんか? この銀による詰め物。最近は水銀以外の物で使われるようですけど.........面白いことに、この詰め物の最初はフランスで行われたそうでして、この時は銀は銀貨を削って得たそうです。
一方、銀化合物の方ではどうか?
銀化合物も色々とあるのですが、合金ほどのバリエーションはありません。が、重要なものが多くあります。いくつか列挙してみますと、シアン化銀(AgCN)、シアン化銀カリウム(KAg(CN)2)、塩化銀(AgCl)、硝酸銀(AgNO3)などがあります。
最初の二つはいわゆる「青酸系化合物」なのですが、両者とも銀メッキとして重要な役割があります。どういう局面で使用されているかというと、例えば鏡は銀メッキしたものですし、魔法瓶の内張も銀メッキです。他、様々な装飾品や食器、電気・電子部品などの工業品の銀メッキにはこれらの化合物が使用されています。もっとも、有毒でして取り扱いには気を付けないといけませんが..........
塩化銀は特に電極に用いられています。これはちょっと専門的ですが、塩化銀を銀電極上にコーティングしたものは安定した電位を示すために、電位差を測定するときの基準電極として使用されます。また、幅広く用いられるpHメーターのガラス電極が用いられますが、この電位の基準として用いられています。他にも赤外線透過フィルターにも用いられるようです。
硝酸銀は重要でして、医薬品や分析用の試薬に使用されています。また、化学反応で臭化銀(AgBr)を作れば、これが感光する性質(光が当たることで銀と臭素に分離する)を利用して、これを写真感光用として使用することが出来ます。
写真感光用としての銀は日本では非常に重要でして、1998年時点で日本の銀消費の半分以上(52.9%)はこれによるものです(硝酸銀として1564トン)。これは他の需要と比較して群を抜いた数字でして、それだけ写真用への消費が多くある、と言うことが言えます。もっとも、最近はデジタルカメラの普及により、写真感光用の銀の消費量は減少している、という事ですが。
#尚、写真の話はここではちょっと省略させてもらいまして別の機会に、と言うことで。
さて、ここで上に出た医療用の銀の話を少し。
医薬としての「銀」は一般には余り知られていませんが、なかなか強力なものです。特に、バクテリアやその他下等生物には微小濃度でも強い殺菌力を有します。例えば、硝酸銀は1〜2%水溶液では新生児の淋病感染による眼炎予防の為の点眼用に。0.01〜0.5%水溶液では殺菌消毒薬として使用されます。どれくらい強力であるかというと、物の本によれば0.025%の水溶液でチフス菌(結構しぶとい病原菌)を2時間以内に殺す能力があるとされています。
これらの効果は銀がこう言った下等生物の酵素を失活(不活性化)させるためと考えられています。
尚、この硝酸銀は少し問題がありまして、過去の錬金術師には「月の結晶」となどと呼ばれていたのですが、「地獄の石」とも呼ばれていました。これは、硝酸銀は刺激性が強いためでして、皮膚に触れると周囲の組織を酸化させてしまいます(自らは銀に→酸化還元反応です)。しかし、この硝酸銀または酸化銀(AgO)とある種のタンパク質を反応させたものも医薬用として使用されています。これだと、硝酸銀による刺激性を抑えるというメリットがありまして、鼻炎や扁桃腺炎の塗布剤として、また尿道や膀胱の洗浄用として、など様々な局面でこう言った水溶液が用いられています。
#もっとも、この硝酸銀の特徴を利用して、壊死した組織を焼くという利用もあるようです。
#また余談ですが、生化系では銀はタンパク質の検知などにも使われるようです(感度が鋭い)。
これらの効果については昔から経験的に知られていたようでして、古くは古代エジプトで硝酸銀を殺菌剤(ただし「菌」の概念は当時無かったので「消毒剤」なのでしょう)として使用されていました。飲料水の腐敗防止に銀製容器が使用されていたり、負傷者の手当てに銀箔を張った、という記録もあるようです。
おそらくは、こう言った「効果」から色々と、前回触れたような「魔除け」などのイメージが付加していったものと考えられますね...........
尚、これに絡む話として面白いものがあります。
前回に銀は毒性がある、と書きました。実際にありまして、60mg以上の摂取で中毒を起こし、致死量は1.3〜6.2gとなっています。中毒症状は日常ではまず見られませんが、ある種の職業(銀の細工・加工などを行うようなところ)では起こる事があるようです。銀は組織細胞や腎、骨髄、肝臓などに影響を与え、皮膚や結膜が青みがかった灰色に着色されます(銀沈着症)。まぁ、体中に斑点が出て広がったりするそうですが.........面白いことに、銀中毒患者は伝染病にはなかなかかからないそうです。これは、おそらく上記の殺菌作用の理由によるものかと推測できますが...........
っと、以上がちょっと駆け足ですけど銀の利用法の説明となります。
さて、ちょっと話を変えましてこの銀と言うもの。
前回触れた通り、銀は酸素とは反応性が乏しいのですが、硫黄とは非常に容易に反応することが知られています。概ね、「銀が錆びる」と言うのはこの硫黄と反応して硫化銀を(Ag2S)を生成した為です。ま、どういうケースでこう言うのが起こるのか、と言うと........例えば都会。排ガスなどに酸性雨の原因として酸化窒素化合物と酸化硫黄化合物が含まれていることが知られています。こういった硫黄化合物も銀とは容易に反応しますので、場所によっては「銀製品を置いたらあっという間に錆びた」というケースがあるようです。また、日本だと温泉が各所にありますけど、「銀の装飾品(指環など)を身に付けたまま温泉入った」為に、風呂から上がると真っ黒に、なんてケースもあるようです。他にも、皮膚にあるタンパク中の硫黄と反応したり、卵など食品中の硫黄と反応してしまったり、ゴムと接触していたがためにゴムの硫黄分と反応して銀が黒ずんでしまう、というケースもあります。もっとも、「反応条件」もありますので、進行速度は色々な条件に左右されることが多いですが。
ま、以上のように銀製品には「硫黄は大敵」という事なのですが........
では、こう言った錆びてしまった銀はどうやって回復すればよいのか?
いくつか方法はありまして.........ある程度のものでしたら、重曹や歯磨き粉、市販の銀磨きなどで磨くと研磨効果で銀の素地が出てきます。が、しかし重傷になったら? この場合は酸を使って処理してやる必要があります........この作業を「てんぷら」って呼ぶそうですけどね。もちろん一般で出来るものではなく「御相談は専門店へ」となります。
一番大事なのは、「傷は浅いうちに」という事です。
しかし、硫黄と銀の関係。「悪い一方」ではなく、中にはよいほうへと働くものもあります。
例えば、「燻銀(いぶしぎん)」という言葉を御存じでしょうか? 目立たないのに深い味わいを持つものに対する形容として用いられていますが........一応、本当に「燻銀」というのはありまして、銀を硫黄でいぶし、表面の光沢を消したいわゆる「艶消し銀」です。これは、宝飾品のほかにも江戸時代では煙管の雁首や、吸い口に使っていました。これは、銀に硫黄蒸気を当てることで銀の表層に硫化銀の膜を作ります。適度に覆う事が出来れば「燻銀」の味わいが出る、という事になります。
銀を磨く、と言うと.........
ヨーロッパの貴族は銀をよく用いていました。これは、権力の象徴などもあるのでしょうけど..........食器や燭台、フォークなどにも用いていました。さて、こう言った貴族の生活を描いたものの中で執事という存在が出てきますが、この執事(butler)のこの語源は「瓶」を意味する「bottle」であると言います。もともとはワインや食器の管理者、という意味だそうでして、代々貴族に伝わる銀食器などの「手入れ」はこの執事の仕事となっているそうです。
ですので、その家に置いてある銀製品を見ることで執事の才能がわかる、なんて話があるそうですね........当然執事の能力と言うのは「その家の格」を表すもののようですので、こう考えると執事も大変だなぁ、などと思うのですが。
あぁ、これも書かないといけませんね..........
銀の「神秘性」というか「効能」として有名なものに「毒を知らせる」という物があります。御存じの方もいらっしゃるかも知れませんけど、これの理由を御存じの方はそう多くないように見えます。
ま、これはちょっと歴史的な背景も相まっていまして...........銀が探知できる「毒」。これは実は限定されていまして、中世に最もよく毒殺に使われたヒ素(その25、その26、その27)を主に探知することが出来ました。これは、当時の毒殺に使用される様なヒ素は色々なバリエーションがありますけど、原料としては硫黄を含むヒ素化合物が多く(ヒ素化合物は火山帯でよく取れます)、当時の技術から「硫黄0」の物がまず作れなかったために硫黄分が残り、これが銀と反応したために「毒」として探知できた、という背景があるようです。ですので、「その26」で出てきたトファナ水は成分だけ見れば亜ヒ酸でして硫黄はありませんが、精製が甘いために硫黄は含まれていたと思われます。面白いことに、これを証明する物として最近の高純度のヒ素化合物を銀の上に置いても反応しないそうですが。
ま、これを考えれば硫黄を含む化合物であれば反応してしまうために、下手すれば卵も「毒」扱い、という可能性があったのでは........という気がしないわけでもないのですが。もっとも、毒にも結構(成分中や不純物として)硫黄が入っているケースがあるためにあながち、という気がしないわけでもありませんが。
尚、この「銀が毒を知らせる」話はヨーロッパ限定などという話ではありませんで、日本でもよく知られていました。戦国時代のさる大名の毒味役は銀の箸を使用していたそうです。また、江戸時代でも毒殺の有無を調べるために銀は用いられていまして、当時の有名な検死マニュアルである『無冤録述』という物に毒殺死体は「口腔や喉に銀釵(ぎんさい)を挿入すると銀が青黒く変色する」とあるそうです(「銀釵」:銀のかんざし)。ま、確かに当時よく用いられた鉱物系の毒を考えると、日本は火山帯ですので硫化物である可能性が高いわけですが.......... この『無冤録述』はもともとは13世紀中国宋代の世界最古の法医学書『洗冤集録』を元代に修正増補した書である『無冤録』と言うものがありまして、これが朝鮮半島経由で日本に入り、18世紀に日本で訳されたものです。よって、中国でも同様のことは知られていたと思われます。
などと書いていたら長くなりました。まぁ、本当は色々とあるのですが、キリがありませんので........最後に若干与太でも書いて終わりにするとしましょう。
まぁ、いくつかあるのですが.........
まず、前回において「銀は金よりも価値があった」と書きましたが...........それの名残かどうかは分かりませんけど、面白いものがあります。それは軍隊においてでして........ ま、軍隊は階級社会であるわけですが、士官に「佐」がつく階級があります。その中で、階級章を見ると中佐には銀が、少佐には金が使用されています。これは、その昔の話の反映、なのかも知れませんが。
#今だったら逆かも?
#そう言えば、そんな事をいっていた映画があったような.........
また、合金の話で金と銀の合金であるエレクトラムの話を前回しました。これは錆びやすい合金でして、色々と妙な悲劇というか喜劇があるのですが........これでふと思ったのですが、彼の有名な『魏志』の倭人伝にある「邪馬台国」。卑弥呼は魏より金印を授かった事になっていますが、これはまだ見つかっていません。もし見つかればその地はいまだ確定していない邪馬台国の場所を特定するのに有力な証拠となりますが...........もしこの金印がエレクトラムだったら? また、銀は錆びる段階で金色に見える段階があったりします。これが金印に使われてたら?
.........などと考える事があるのですがどうでしょうかね?
そして、最後に........ま、本当はこれは金の話の時にしたほうがよいのでしょうけど、ついでなんでしておきましょう。
#どうせ金は金で話すことがたくさんありますし。
過去にアルキメデスの話をしたのを覚えていらっしゃる方はいらっしゃいますかね? まぁ、シラクサ王ヒエロの依頼により、王冠を調べた話なのですけど.........
彼の話では、金が使われずに銀が混ぜ物が使われていた、と書きました。そして、その結果金細工師は処刑されたのですが...........
さて、ここでは金と銀が登場します。が、何故金細工師は銀を混ぜたのでしょうか? これは細工師が「余った金をネコババ」という話でしたけど.......一説によれば、これは「王のために行ったのではないか」と言われています。何故かというと、金もまた柔らかい金属ですので色々と問題があります。が、これを合金化すれば硬度が上がります。そう言うことで、色々と「金の色を損なわない組み合わせ」を考えると、銀を用いるのが一番.........などと金細工師が考えて、実際にそうしていたら?
ひょっとして、ヒエロとアルキメデスは..........無辜の者を殺してしまったと言うことになるのかも.........?
もちろん、今となっては分かりませんけど.........個人的には「ネコババ説」かなぁ、と思うのですが。
さて、長くなりました。
まぁ、色々と他にもあるのですが、概ね重要なものは話せたと思います。
今回は以上、と言うことで。
ふむ。
さて、今年最初の「からこら」は如何だったでしょうか?
今回は前回の話に引き続き、利用法などに付いて簡単に触れてみましたけど........どうでしょう? まぁ、色々と雑学的な物を多くしてみましたけど........触れようと思えば更に広がったりしますので(^^;; ま、色々と銀鏡反応とかリサイクルの話、装飾品についていくつか更にあるのですけど、そこまで行くのもちょっと困りますので、それ以上はそう言った本などを参考にして下さいね。
ただし、写真については今後リサイクルも絡めて機会があればやろうと思っていますが。
興味のある方はお楽しみに..........
さて、と。次回はどうしますかね.........
まぁ、全然決めていないんですけど(^^;; なんか適当なネタがあれば、と思います。
そう言うことで、今回は以上です。
御感想、お待ちしていますm(__)m
次回をお楽しみに.......
(2001/01/16記述)
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