からむこらむ
〜その158:もう一つの機構〜


まず最初に......

 こんにちは。2月も今週で終わりとなりますが、皆様如何お過ごしでしょうか?
 関東南部では梅が大分咲いてきていますが。まぁ、でも気候は不安定ですので風邪には気をつけたいものですが。

 さて、今回ですが。
 前回までにある程度の話をしましたが、今回はある意味躁鬱病のメインとなる部分です。薬剤や神経伝達物質の関係と、そこから導き出された仮説について触れることとしましょう。
 ま、現状やまとめは次回にある程度はしますので、「あの薬剤は?」というのはその時にということで。
 それでは「もう一つの機構」の始まり始まり...........



管理人注
 2002年1月19日に日本精神神経学会は精神分裂病の名称を「統合失調症」に変更することを承認しました(8月に正式決定予定)。が、今シリーズでは統一性を持たせる為に名称の表記変更はしないこととします。
 ご了承下さい。

 さて、前回にMAO阻害薬とイミプラミンの話をしましたが。
 MAOがアセチルコリンエステラーゼの様な働きをすると期待していたものの、これが裏切られてしまい、未知の神経伝達のメカニズムが探索される、というのが最後の部分でした。これがイミプラミンの作用機序を説明するものとなるわけですが.........
 大丈夫ですかね? では、続きと行きましょうか。


 未知の神経伝達機構の探索は後の1970年にノーベル賞を受賞する事となる、ジュリアス・アクセルロッドらの研究によって判明することとなります。
 具体的な証明までの道はまた面倒になりますので省略しますが、交感神経系(脳内ではないのに注意)におけるノルアドレナリン(ノルエピネフリン)の作用に注目した彼は、放射性のトリチウム(H3)で標識したノルアドレナリンを用いて、交感神経系でのノルアドレナリン挙動などを調べる実験を行いました。その結果、ノルアドレナリンはシナプス前膜より一端放出された後、何らかの酵素によって失活されることなく、ポンプのような機構によってシナプスに再取り込みされることによって失活される、ということが判明します。

#やや難しい注:要は臓器などが交感神経系の支配下にありますが、この臓器へ繋がる神経を切断すると神経が退行して働かなくなります(伝達物質も蓄積しなくなる)。この状況下でノルアドレナリンを注射すると急激にこの働きが増強されるので(神経の調整機構が働かない上にAChEの様な分解酵素が無いので調整されない)、取り込みによって失活されると考えられました。

 これを見たアクセルロッドは、交感神経系だけではなく、脳内のノルアドレナリン作動性のシナプスで同様の機構の存在があるかどうかを確認します。更に別の研究者はこう言った報告から、セロトニンでも同じような機構が存在する事を確認しました。こう言った報告は続きまして、結局の所ほとんどのアミン性神経伝達物質はこの様なメカニズムで作動する、ということが分かってきます。つまり、通常の神経伝達の様式はこの様な再取り込みによる失活が行われる、ということが分かってきます。


 図をもって説明しますと、まず伝達物質を含むシナプス小胞が前膜に移動しまして(I)これがシナプス間隙に放出されます(II)。そして、これが受容体に結合して神経の伝達を行います(III)。この部分まではアセチルコリンの例と全く一緒です。しかし、この後には分解酵素がやって来るわけではなく、そのまま物質はシナプス前膜へと戻り(IV)、ポンプ機構というメカニズムによって吸収されて(V)神経伝達物質は「失活」されることとなります。
 ピンと来なければアセチルコリンの例と比較してみることをお奨めしますが.......

神経伝達の機序
アセチルコリン作動性神経

アミン作動性神経
アセチルコリン
神経伝達物質

ノルアドレナリン、ドーパミン、セロトニンなど
アセチルコリンエステラーゼによる
アセチルコリンの加水分解
(酢酸とコリンに)

失活の機序

神経細胞にポンプ機構によって再び取り込まれる
分解物は神経細胞に取り込まれて再合成
失活後の行動

神経細胞で再利用

 ちなみに、この機構の話が関連していないので触れていませんが、分裂病の時に出てきたドーパミンのメカニズムもこれによっています。
 そして、研究が進むに連れ、実はこの再取り込み機構は神経では「一般的」でして、アセチルコリンのタイプの伝達はどちらかというと「例外的な」タイプの様式であるということが判明してくることとなります。
#とは言っても、古くから知られているうえに生体内で重要なうえ、基本的に説明には持ってこいですので、一般的な神経伝達の様式はアセチルコリン作動性の物をもって説明がされていすケースが多いですが。

 この様な再取り込みの機構が分かってくると、アクセルロッドは三環系抗うつ薬のメカニズムを次のように推測しました。
 つまり、三環系抗うつ薬であるイミプラミンは、ノルアドレナリンやセロトニンなどの再取り込み機構を阻害するのではないか? つまり上図のVの過程をブロックしてシナプス間に神経伝達物質を残留させ、結果的にその伝達を強めるのではないかと推測します。そして、それによって鬱病を改善させるのではないかと考えました。
 この「結果」の部分だけはMAO阻害と一致することとなりますが.........
 最終的に、様々な薬剤を用いてこう言った点が注目されて研究された結果、三環系抗うつ薬はノルアドレナリンの再取り込み阻害をすることが判明します。そして、これによって鬱病を改善するであろう事が推測されることとなりました。

MAO阻害薬と三環系抗うつ薬
作用機序薬剤例

MAO阻害薬

MAOを阻害して、シナプス内の小胞より漏れ出した伝達物質を失活させない。イプロニアジド、フェネルジン、イソカルボキサジドなど

三環系抗うつ薬

アミン作動性の神経で、ノルアドレナリンの再取り込みを阻害する。イミプラミン、アミトリブチリン、ノルトリブチリンなど
※:結果的に両者ともシナプス間隙での伝達物質の濃度を上げて伝達を強化して鬱病を改善
#尚、良く考えると分かると思いますが、両者を仮に併用すると相当にシナプス間隙での伝達物質の濃度がかなり上がることとなり、相当な危険性を持つこととなります。
#両者の併用は禁忌となっているはずです。


 さて、この様に研究が進んだ1960年代の前半には、MAO阻害薬やレセルピンの臨床知見、そして三環系抗うつ薬とそれに絡む神経伝達のメカニズムの研究などから一気に鬱病に関するメカニズム、つまり神経伝達物質と鬱病との関連性  「鬱病のアミン仮説」が出てくるようになります。
 中でも三環系抗うつ薬といった薬剤を用いた研究は大分行われまして、ここから脳内で重要な神経伝達物質であるノルアドレナリン、セロトニン、ドーパミンのうち、ノルアドレナリンとセロトニンの再取り込み阻害の効果が鬱病の改善と関連するらしい  つまり、ノルアドレナリンとセロトニンの伝達が強化されることで鬱病が改善されるらしいことが分かってきます。ドーパミンが除外されたのは、いくつかの三環系抗うつ薬はドーパミンの再取り込みを阻害したものの余り鬱病には関連無いためでした。
#もっとも、ドーパミンは精神分裂病の方に絡んでくるのは以前書いた通りですが。
 これを受けて、今度は脳内のノルアドレナリンやセロトニンの分布が今度は興味を持たれることとなります。当然鬱病との関連の為、ですが.........これは脳の切片にホルムアルデヒド(HCHO:ホルマリンの原料)の蒸気を当てるとノルアドレナリンは明緑色、セロトニンは黄色の蛍光を放つ事が分かりまして、これによって脳内における両者の詳細な分布が判明しました。この観察では両者の分布は様々な部位で見られましたが、重要なことに両者とも大脳辺縁系に非常に高密度に分布している事が分かります。
 つまり、精神分裂病でのドーパミンの例と同じく、情動に極めて深く関連する大脳辺縁系にノルアドレナリンとセロトニンで作動する神経がある。これはつまり鬱病の情動障害と深く関与するのではないか?

 鬱病のアミン仮説が本格的に論議されるようになったのは以上の背景のほかに、実はレセルピンが関連しています。
 レセルピンのメカニズムは何度も書いた通り、脳内のドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニンを枯渇させることです。そして、最初は精神分裂病の薬として用いられていました。しかし、その154でも触れた通り色々と副作用の問題もあり、更にクロルプロマジンと言ったタイプの薬剤の登場で抗分裂薬としての役割はほとんど無くなります。結局、ノルアドレナリンを枯渇させることによる血圧降下剤として用いられることとなりました。
 この様な役割の変化の中、高血圧の患者に対して血圧降下の目的でレセルピンを投与すると何故か患者が重大な鬱病症状を示しまうことがある、という記事が発表されます。これは非常に興味深いものでして、全く情動障害が無く自殺の傾向すらなかった高血圧の患者が、レセルピンによる治療を行うと鬱病の症状(場合によっては非常に重篤な症状)を示し、しかも自殺までしてしまうケースがある。
 この報告は即座に鬱病とアミン仮説について関連付け、そして次のように考えられるようになります。
 つまり、鬱病はアミン性の神経伝達物質が枯渇なり欠乏することで起こるのではないか? 情動障害の無い高血圧の患者は、レセルピンによってドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニンなどが枯渇/欠乏し、これによって鬱病の症状を出したのではないのか? もしそうならこれらのうち(ドーパミンは上述の理由で除いて)ノルアドレナリン、セロトニンのどちらか、あるいは両方が関与していくのではないか?

 この証明は実際に脳の様子を見ることから始まりました。
 最初は死後の脳を使ったもので、鬱病で自殺した人と事故死した人の脳の中の神経伝達物質のアミンの濃度を測定して比較、調査をしました。こう言った調査の中から、自殺した人の脳内のセロトニンの濃度が低いのではないか、ということが指摘されるようになります。もっとも、死んでしまった人の脳ですので死後の変化があるかもしれない、という可能性は否定できませんでした。
 生きている人間の脳内のアミン濃度は調べられないのか? そしてセロトニンは関与しないのか?
 これはスウェーデンの研究者マリー・アスベルクによって解決されます。その手法とは髄液を採取する方法でした。そして、この中にあるセロトニンの分解物(5-HIAAという物質)の濃度を調べてみることにします。つまり、正常値よりもセロトニンの濃度が低ければ、当然のことながら分解物も正常値より少ないであろうと。もちろんノルアドレナリンの選択肢もあったのですが、こちらは別の研究者によって既に調べられており、この結果は「変化なし」でした。
 さて、この研究者によるセロトニンの濃度の調査の結果は興味深いことに大半の鬱病患者では正常値内だったものの、一部のグループは非常に低い値であることが判明します。ここから彼女は次の推測をします。つまり、鬱病には2種類あり、あるものはセロトニンの濃度が低いのではないか?
 こう言ったことからアスベルクは鬱病の患者をいくつかのグループに分けて様々に観察・研究をします。この研究は詳細でして、鬱病患者と脳内のセロトニン分解物の濃度、そして自殺の計画および実行との相関性を調べたものでした。そして、明確に自殺する傾向のある患者の脳内でのセロトニンの分解物の濃度が低いことが判明します。しかも、濃度が低いほどしつこく自殺を計画/実行しようとしました。更にこう言った患者は不活発で物事に無関心であり、そして重症の鬱病でした。


 さて、以上のようなことから、鬱病のアミン仮説についてはいくつかの知見が得られることとなります。
 まず、三環系抗うつ薬の話から、ノルアドレナリンの濃度が上昇すると鬱病の症状が改善される。一方で重症な鬱病患者の脳内でのセロトニンの濃度は低い。そして、ノルアドレナリンとセロトニンの神経系は情動に関係する大脳辺縁系に関与する。
 つまり、この両者は密接に鬱病と関連し、そしてこれらの物質が欠乏するか枯渇することで鬱病が起こる、という事が推測されることとなります。そして、MAO阻害薬や三環系抗うつ薬によって伝達が強化され鬱病が改善されるのだろう、と。また、同時に躁病はこれらの物質が過剰になっている為に発生するのではないか、ということもまた同時に推測されることとなります。

鬱病と躁病のアミン仮説
原因

鬱病

ノルアドレナリンまたはセロトニンが欠乏状態

躁病

ノルアドレナリンまたはセロトニンが過剰状態

 ま、現在ではまた色々と言われているのですが、取りあえずそれは後に回しましょう。

 さて、この後も鬱病治療薬などは色々と出てきまして、いわゆるSSRI、SNRIと呼ばれるようなものもありますが、それもまた後に回しまして.......今まで触れていなかった躁病についての治療薬についても少し触れておきましょう。


 躁病は鬱病とは「コインの裏表」の関係であると最初に書きました。
 この病気は軽度の場合は問題が少なく、どちらかというと一般には「自信に満ちた活気のある人物」と思われることがあります。実際、活力にあふれて話は尽きず、仕事なども極めて精力的にこなしていくことが多いです。歴史上の人物が軽躁であったと考える人もいるようでして、ウィンストン・チャーチルやベンジャミン・フランクリンといった人物がそうであった、とも言われています。ま、個人的にはチャーチルなどは納得するものがありますが........ ただ、重度になると活動過剰になって言葉や考えなどが(吟味する間もなく)次々と出て、やがてこの一貫性を失うようになります。些細なことでイライラし始め、更には典型的な症状が妄想であることもあって、自分への障害は「陰謀」になってしまうなど、かなりの障害を伴うこととなります。

 さて、この病気の治療法は何か?
 過去には唯一「鎮静」させることのみが治療法でした。もっとも、「根本的」な物ではないのは確かですがそれ以外に方法はなく、鎮静剤を大量投与する事を行っていました。この結果、患者には意識が残るわけはなく、目が覚めればまた躁行動の繰り返し。あくまでも一時しのぎな物であったといえます。
 一方、精神分裂病に対して有効な薬剤がいくつか出てからこれは多少の変化を見せることとなります。特にクロルプロマジンの鎮静作用は大分あてにされまして、実際に躁病患者に投与すると彼らの行動はかなり落ち着いたものとなりました。しかし、これで治るのかというとそういうわけでもなく、実際に医者などが観察していくと、躁病の持つ独特の「次から次へとわき出てくるアイデアや行動」といった傾向がどこかしら残る、つまり「表層的な部分」だけしか効果が無いことが判明します。また、薬剤によっては躁病は抑えても、強すぎて逆に鬱病を引き起こすケースもあり、まことに使い勝手が悪い。また、鎮静作用があってもドーパミンを遮断すればパーキンソン病様の症状まで引き起こしてしまう。
 つまり、根本的な躁病治療薬は出てきませんでした。遅くとも、1960年代までは。

 躁病の治療薬は実は1940年代に、偶然の経緯から登場することとなります。
 オーストラリアの精神科医であるジョン・ケイドは、彼の勤めていた精神病院で働いていたとき、次のようなことを考えました。それは、「躁病の原因は何らかの毒素ではないか」と。つまり、この毒素が体内に侵入し、そして脳に移行して躁病を引き起こす。この毒素はやがて尿の中に入って体内から排泄されるだろう。
 彼は自らの理論の証明のため、躁病、分裂病、そして正常な人からの尿を採取し、これを濃縮することとします。こうして得られた尿の濃縮物を実験動物に投与して調べることとしました。モルモットを使用して実験したところ、彼は次のような所感を得ます。それは「躁病患者の尿は毒性が強い」。
 これを確かめるため、彼は今度は当時知られていた尿中の成分をモルモットに注射することを始めます。中でも尿素は量が増えればモルモットは死んでしまう。ということで彼は尿素に注目.......したのですが、分析すると躁病患者の尿素は正常と変わらない。それならば別の化学物質が尿素と結びついて毒性を高めるのではないか? そして注目したのは尿中にある尿酸でして、これと尿素が一緒になって毒性を高めるだろうと考えました。
 まぁ、今から見ればかなり目茶苦茶な話なんですけど........
 さて、取りあえずこういうことで尿酸を注射してみよう、と彼は考えるのですがここで問題が生じます。というのは、尿酸というのは水には溶けにくい物質です。(実際、これが代謝によって尿素に変わるのですが、この代謝がうまくいかないと尿酸が溜まり、その結果痛風を引き起こします)。しかし、ケイドはこれが怪しいと睨んでいましたので、どうしても水に溶かしたい.......ということで、一般的な科学的手法を取ることにします。それは、尿酸と金属を反応させて塩(えん)にすることでした(塩にすると水によく溶ける様になります)。
 では、この塩を何にするか?
 ケイドはいくつかを試してみまして、今なら電池の材料として有名なリチウム(Li:原子番号3)を選択します。こうして出来た尿酸リチウムをモルモットに注射してみると.......興味深いことにモルモットは鎮静を示しました。この結果に興味を引かれた彼は、尿酸とリチウムのどちらにこの鎮静作用があるのかを調べることとし、比較のために炭酸リチウムを用意してこれをモルモットに注射します。
 その結果は両者で鎮静作用が見られました。
 さて、この結果からリチウムに何らかの鎮静作用がある、と睨んだケイドは炭酸リチウムを躁病患者に投与してみることを考えます。この試験の結果は大成功を収めました。つまり、リチウムは躁病患者の躁状態を鎮静させることに成功しました。

 この結果を受けたケイドは何を思ったか?
 実は「嘘だろ?」と思ったようでして.......つまり、彼自身はリチウムの効果が信じられませんでした。しかし「もしかしたら」ということでこの患者にリチウムの投与を続けて様子を見ることに決めます。すると定常的に躁病の興奮状態を示していたこの患者は、躁状態が収まって良好な状態を維持します。しかも、退院させてからもリチウムの投与を続けていくと、この患者は全く正常な生活を送り、職にも就いて正常に日常生活を送る。
 彼はこの後に更に10例の患者に投与して様子を見た結果、リチウムが躁病患者に有効であることを確認して1949年にオーストラリアの雑誌に発表します。ということで、これが世界中に知られ.......る事はありませんでした。というのは、この雑誌は世界的にはマイナーな上、更にケイド自身もまた世界的に著名ではありませんで........ということで、リチウムは脚光を浴びませんでした。
#ここら辺は、いかに科学誌の「知名度」が重要視されるかという話にもなりますが。
 結局これが注目されるのは、1954年にデンマークの精神科医が躁病患者とリチウムの効果を調べ、ケイドの観察が正しいことを認め、そしてリチウム療法を提唱するようになってからでした。取りあえず、これによってヨーロッパにこの療法が広まることとなります。
 しかし、一方で特にアメリカではリチウム療法はなかなか広がりませんでした。これは結構「金」の世界が問題でして.......リチウムというのは良く知られている金属でして、単純な化合物では特許はまず取れません。アメリカの(実際には他国も)製薬会社はこの頃、抗うつ薬に抗分裂薬などの特許で大きく儲けようとしていましたが、リチウムは正直金にならない。ということで、「そんな薬作っても金にはならん」ということで見過ごされる、という問題がありました。
 結局、1960年代半ばまで躁病患者へのリチウム薬は本格的には販売されませんでした。

 では、リチウム薬の効果というのはどういうものか?
 リチウム薬が出てくるようになった1967年、この薬の研究をしていたモーゲンス・スコウは、数年間にわたって行った研究でリチウムの臨床的な効果について発見します。これは二つのグループについての研究でして、一つは躁状態を経験した双極性の躁鬱病患者。もう一つは単極性の情動障害の患者に対するリチウムの投与の検証でした。この全患者は鬱状態を経験していました。
 さて、スコウはこのグループにリチウムを数年にわたって予防的な目的で投与したところ、全体のかなりの割合の患者が躁及び鬱状態の発作を起こさなくなることに気付きます。つまり、双極性、単極性の両方でリチウムの投与によってその症状の発生が抑えられる、つまり予防できるようになることを発見しました。
 これはなかなか興味深い発見でして、単なる元素であるリチウムが精神の安定をもたらす、ということになります。つまり、情動の不安定性をリチウムが安定化させる、と。
 で、この研究が進められるのですが........しかし、これの作用機序に関して現在はまだ解明されていません。一応、神経伝達にはナトリウムイオン(Na+)が関与するので、これより小さいものの似た大きさを持つリチウムイオン(Li+)がこれに作用するのではないか、と考えられていますが詳細は不明です。


 ........っと、なんか大分長くなってしまいましたが。
 取りあえず今回は以上ということで。次回にまとめと現状の話をすることとしましょう。




 後一個.........

 さて、今回の「からむこらむ」は如何だったでしょうか?
 今回は冒頭に書いた通り躁鬱病のキモとなる部分です。特に神経のメカニズムに関しては極めて重要ですので頭の片隅に置いて貰えると、次回と別の話に関与するので覚えておいて欲しいのですが....... ま、結局分裂病と同じく脳内の伝達物質が関連しています。ひいては薬剤と精神にはやはり関係がある、ということでもあるのですがね。
 ま、ある程度の理解が得られれば、と思いますが.........
 ということは今回は以上です。
 次回は、まとめと現状についてを話そうと思います。最近の動向や、最近注目される薬剤「SSRI」などについてある程度触れることとしましょう。当然これらの薬剤は今まで触れた話があってこそ理解できるものとなっています。

 そう言うことで、今回は以上です。
 御感想、お待ちしていますm(__)m

 次回をお楽しみに.......

(2002/02/26記述)


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