からむこらむ
〜その230:おもひぐさ〜


まず最初に......

 こんにちは。徐々に冬へと変わっていきますが如何お過ごしでしょうか?
 まぁ、秋もあっという間と言うか。晩秋ではありますけどね.......急激に気温が落ちて寒くなってきていますねぇ。いやはや、風邪には気をつけたいものです。
#飲み会ラッシュでもありますな。
#っつぅか年齢がまた1つ.......

 さて、今回の話ですが。
 久しぶりの話、となりますけど。まぁ、ちょいと長編になりますかね......嗜好品である「タバコ」の話をしてみたいと思います。まぁ、結構あれこれと漁ってみると中々たくさん出てきてきりがないものですが。しかし、色々と語るには面白い話題でしょう。
 それでは「おもひぐさ」の始まり始まり...........



「これが何よりの楽しみでして…… 一仕事終えた後の一服はこてえられやせん きざな云い方かもしれやせんが…… 掛け値なしに生きてるってえ気がいたしやす」

(「一服のいのち」/『首斬り朝』第五巻所収
/小池一夫原作 小島剛夕画/道草文庫)


 さて、皆さんはタバコを吸うでしょうか?
 ま、最近はあれこれと「話題」の物であったりしますけれども。

 字を見れば「タバコ」、あるいは「たばこ」。漢字で書けば「煙草」、あるいは今はほとんど使われない「莨」と言う漢字があります。あるいは「思い草」等と言う言葉もまたタバコを意味するものとなりますが。
 日本語でこれらの表現を見ると、平仮名で書く場合は製品を意味する事が多く、総じて扱う場合は「タバコ」となるようです。「煙草(烟草)」は火をつけて煙を吸うと言う事からつけられたものでしょうが、実はこの語源は中国清朝の本で、1661年の『本草洞詮』に出てくる「煙草一名相思草」が由来となっており、これが最初の「煙草」の字の登場と言われています。そしてタバコの特徴である「中毒性」に関してか、思い出して忘れられなくなる、と言う事から「相思草」と中国で呼ばれることになったようです。転じてこの言葉から江戸時代の国学者である本居宣長が著したタバコを礼賛する随筆より「おもひぐさ」、即ち「思い草」もまたタバコを指す言葉となったようですが.......こちらはほとんど知られていない気もしますけどね。
 なお、「煙草」の字が輸入されるまでは「多葉古」「丹波粉」と言う様な字があるようです。劇画『首斬り朝』では「痰婆姑」という言葉が出てきていますが、これは調べると貝原益軒の『養生訓』に登場する言葉となっています。
 ところで、これらの発音は「思い草」はともかくとしても基本的に「たばこ」と言う発音になっています(「痰婆姑」は「たんばこ」)。これはタバコが日本ではもともとは欧州の人達を経て入ってきたもので、ポルトガル語「tabaco」から由来しています。スペインでは薬草類を意味する言葉であったようですが、他国では明確にタバコを意味する言葉のようです。英語では「tobacco」となっていますが、嗜好品としての種類から「cigarette」とか「smoke」もタバコを意味し、名称はその嗜好品の種類でまた分かれる事となっています。

 少し調べれば分かるようにタバコはそれだけで一つの文化を形成しています。
 今回は、歴史から多少ですが文化、そして最近の傾向と、やはりこのシリーズのコラムである故に物質的な物を触れてみようかと思います。

 さて、一般的にタバコと言うもの。
 辞書を引いてみると、大体二種類の項目が乗っているようです。一つはタバコの原材料となる植物。もう一つはその植物の葉を加工して作った嗜好品に触れられていまして、その種類が書かれています。
 その種類は大体次のようになるようです。
  1. 紙巻きタバコ(cigarette)
  2. パイプタバコ(pipe tobacco)
  3. 噛みタバコ(chewing tobacco, a plug)
  4. 葉巻きタバコ(cigar)
  5. 嗅ぎタバコ(snuff)
  6. 刻みタバコ(cut tobacco)
 細部も含めれば他にもありまして、例えば日本では煙管(キセル)、イスラム圏でも水ギセル(水タバコ)と言う物もありますが、これはパイプの一種とも言えるかと思われます。しかし、この様な嗜好品ですがやはり肝心のものがなくては話になりません。
 それは、タバコの原材料と言うものになります。

 タバコの原材料は良く知られる通り植物です。
 この植物、学名をNicotiana tabacum L.と言いまして、ナス科の一年草の亜熱帯植物で南アメリカが原産として知られています。もっとも種類はたくさんありますが、一般に嗜好品のタバコに用いられるのはN. tabacumN. rusticaと言う二種類でして、これらが商業的に広く栽培されています。
 この植物のうち、タバコとして使われるのは前述の通り、そして良く知られる通り葉でして、N. tabacumは葉が大きく一般に栽培されるものであり、N. rusticaは葉が肉厚で小さくこちらは寒冷地でも栽培出来るもの、N. tabacumに比して栽培規模は小さなものとなっています。基本的にはこの二種類がタバコに用いられていますが、実際にはさらに品種がありまして、その風味等で100品種前後に分類されるようです。
 この植物の栽培方法は基本的には共通していまして、まず種子が小さい為に苗床で育ててから畑に移し、その後成育してから収穫。この方法については、19世紀ぐらいまでは幹ごと刈り取っていたようですが、大体は下の方から葉を摘み取って収穫をします。その後は栽培品種によって違うものの、陰干しと言ったものから火力を使うと言った様々な方法で乾燥を行って水分の除去と風味を出す事となります。
 その葉を巻いて、あるいは刻むなどして嗜好品としてたしなむ事となります。


 さて、このタバコと言う植物はもともとはアメリカ大陸にあった植物です。
 その歴史は古いもので、ヨーロッパ人たちがアメリカ大陸へと上陸した時には、現地人の間ではかなり幅広く普及しており、南北両アメリカにおいてその使用の様子などが詳細に記録されています。
 しかし、その使い方には非常に多くのバリエーションがありました。
 大きく分ければ「喫煙」と「非喫煙」の方式がありまして、前者はパイプ喫煙、タバコチューブの使用、葉巻きと言う物。後者は噛みタバコ、嗅ぎたばことなっています。その分類は面白いものでして、当時の記録などでは北米の西側では主にタバコチューブ(一部で噛みタバコ)、東ではパイプ喫煙。南米ではアンデス山脈の東部で主に使われており、大西洋側はパイプ喫煙で、中部では葉巻き、その西よりでは噛みタバコも存在していました。ちなみに、アンデスを挟んで西にいけば、過去にも触れたコカの使用が普通になります。
#なお、アメリカから欧州へ渡る事になるコカ、じゃがいも、タバコ、トマトなどはことごとくがナス科である事は特筆するべき事でしょう。
 葉巻きはおそらくコロンブス等が見た吸い方であると考えられていまして、これはタバコの葉を巻いて作るおなじみの物となっています。パイプ喫煙は木製、石、あるいは動物の骨で作ったものが使われたようでして、その基本的な方法は今現在に伝わるものと基本的には同じでした。タバコチューブについては、ある意味パイプに近いでしょうか。葦の茎で作られたりもしたようです。なお、当時の文献では二股の管、即ち「Y」字型の管を使った喫煙法が紹介されており、これをタバコチューブと称すると言うようなものもあるようですが、これは後述する非喫煙式の物で使われたもののようです。
#なお、中南米のカリブ海の国トリニダード・トバゴはトリニダード島とトバゴ島から成る国ですが、トバゴ(Tobago)島の語源はこのタバコと関連しています。
#この島はコロンブスの1498年の第三次遠征で発見されていますが、ここも葉巻きであると思われます。
 なお、今現在「タバコ」でひと括りにされるいわゆる紙巻タバコはこの時は存在していません。

 一方で非喫煙式を見るとどういう物か。
 噛みタバコとは葉をある程度刻んでそれを噛んでいくと言うものです。カリブ族の風習では、全員が瓢箪を二個ずつ首にかけており、一つには噛みタバコ、もう一つには白い粉末を入れてあると言う記録が残っています。彼らはこれをガムのようにこれを噛む事でタバコの成分、即ち主にニコチンを取り入れると言う方法となりますが、単純に葉を噛んでいくと言う方法では無く、効率的にニコチンを出していくために白い粉、これは石灰と考えられていますが、それを混ぜて噛んでいたようです。
 これは高校レベルの化学となりますが、ニコチンはもともと塩基性ですが、葉の中では塩の形で存在しており、アルカリ(石灰等)とともに摂取する事でニコチンが遊離すると言う事となります。
 もう一つの嗅ぎたばこは粉末化させたタバコの葉を、鼻から吸うと言うものです。ま、ある種の麻薬と全く同じ摂取法ではあるのですが、前述の「Y」字型の物はこの嗅ぎたばこを吸う為の道具として使われたようでして、「Y」字の下の部分にタバコの粉末を詰め、二股の先端を鼻にいれて一気に吸いこむと言う道具となっています。

 では、アメリカ大陸でのタバコとはどのような位置づけだったのか?
 これは当時の現地では意味のある行為であったようで、「儀式」と言う部分で重要な位置を占めていました。その利用法は各地でまた違いますが、タバコの摂取による酩酊状態等から、シャーマンや部族の長などが行う宗教的儀式、あるいは重要な議題についての解決を行う為の物と言う位置づけがありました。事実、タバコはトウモロコシや豆などの作物に劣らぬ地位を占めていたようであり、考え方としては「精霊の糧」であり、シャーマンが精霊と交わる為に必要な道具と見なされていたようです。
 他にも北米ではパイプの回し飲みと言う行為が、約束事の確認をする為に行われるなど、総じて「神聖なもの」であったようです。
 このような背景からタバコは「身体に良いもの」と考えられており、喫煙・非喫煙での使用はもちろんの事、虫歯、傷口に汁を塗って治療薬としたり、あるいは浣腸にも用いたと言うような話もあります。主な効能としては身体の疲れを感じさせないと言う事もあったようで、その薬効の多さからは「万能薬」と見なされており、使われていました。

 このようなタバコの、アメリカでの先住民社会における位置づけを考えると、これは実に面白い共通性があります。
 何か、と言えば実はこの考え方や使い方、そしてその後の経緯は、コカの使用方法と共通しており、また大麻とも共通をしているようです。即ちそもそも「神聖なもの」であり、「煙を浴びる」事もあり、そして「万能薬」として用いられることがあった。その後世界へ伝播して、問題となっていく........
 今現在ドラッグとして指定されているものとの共通性がある事は、一つの文化への見方として面白いものであると思われますが。

 なお、先述したY字型のパイプの使い方ですが。南米のある地方に置いて、バニステリオプシス属と言う植物のつるが嗅ぎたばことして使われているのですが、ヴィロラ属及びマメ科のある植物ではヨポと言う幻覚性の嗅ぎたばこもあり、この嗅ぎたばこを使用する際にY字型のパイプを使うと言う記録もあります。
 幻覚性、と言う事ですがやはりこれも宗教的な儀式と関連していまして、成分としてはジメチルトリプタミン類(セロトニンに類似)や、MAO阻害薬が関連しているようです。
 ま、一口に「タバコ」といっても、実際のところはNicotiana tabacum L.以外の植物が「タバコ」として扱われていたことは相当にあったと推測出来るでしょうか。

 さて、このようなタバコですが上述の通りもともとは南北アメリカの土着の文化でありました。
 しかし、コロンブスらによる「新大陸発見」から、これもまた他の作物と同様に世界中へと伝播していくこととなります。その伝播の早さは当時を考えればかなり早い物であったと言えます。
 まず、南北アメリカから、現地の人達と遠征に参加した船員達によって欧州へとタバコは伝わっていくこととなります。もっとも、本格的な流行などはコロンブスの欧州への帰還直後、と言うわけでは無くもう少し時代が後になります。その有名な事例としては、ポルトガル駐在のフランス公使であったジャン・ニコ(Jean Nico)がいるでしょうか。
 彼は1560年頃、滞在地のリスボンでポルトガル王室御苑の公文書館長であったダミアゥン・デ・ゴエスを尋ねた折り、この御苑で栽培中のタバコ(これは1550年頃ダミアゥンの親類から送られたものから始まったらしい)とその薬効を教えられます。潰瘍、炎症などに有効であることを自ら確認した彼は、これをフランスのロレーヌの枢機卿へメッセージとともに送っています。そしてこの植物が栽培されることとなるのですが、枢機卿あるいはニコ自身がやがて、フランス宮廷に献上。時のフランス国王アンリ二世の妃であったカトリーヌ・ド・メディシスの頭痛を嗅ぎたばこで治した、と言う話もあるようです。これが一つのきっかけとなってタバコを同国の貴族社会に、そしてそこから下層社会にまでもたらした、と言われるのですが.......もっとも、ニコ自身はタバコをたしなむことは無かったそうですが。しかし、彼のこの話は現代にまで伝わる有名なエピソードであり、彼の名を取ってそのままタバコの学名、ひいてはその主成分たるニコチン(nicotine)にまで残ることとなります。
 ですが、実際にもっと大きな影響を与えたのはセビリアの医師であったニコラス・モナルデス(Nicholas Monardes)がいるでしょうか。
 この人はアメリカの植物について触れた薬草誌を著していまして、第一巻を1569年、第二巻を1571年に出しています。もっとも、この人はアメリカには実際に行っていないのですが.......しかし入手したタバコを栽培した上で、第二巻でタバコについて「万能薬」で、その薬効の他空腹や渇きを癒す効果もあると書いています。そして当時の医療の主流であったガレノスの体液説に組み込んでいきました。
 彼のこの本は欧州におけるタバコの位置づけに大きな影響を与えたと言え、事実欧州では彼の著作は版を重ねて約200年ものあいだ影響を及ぼすこととなります。事実当初は観賞用などに用いられたタバコは、ハーブのような、香草や薬草の類いとして使われるようになり、そしてやがて喫煙などの嗜好品としての使用へと繋がっていくこととなります。

 そしてタバコは世界に広まっていきます。この早さは「あっという間」と言える早さであり、また同時に各地に伝わっています。
 1575年頃、ともにスペイン領であったメキシコとフィリンの間で行われていたガレオン貿易により、スペイン人達はアジアにタバコをもたらすこととなります。もっともすぐに東南アジア一帯に広まったか、と言うと実は蚊の血ではベテル・チューイングといった、キンマ(ベテル)の葉で石灰とビンロウ子を巻いて噛むと言う習慣があり、あっさり主流になると言うことは無かったようですが。しかし、彼の地では徐々に浸透していって、喫煙などの習慣も後に出てくることとなり、またタバコプランテーションも進んで最終的には定着しています。
 そしてこのフィリピン経由で1600年頃、日本と中国にタバコは伝えられていきます........つまり戦国時代にキセルは登場しないことでもあるのですが.........時々この時代を扱った作品で煙管が出てくるのは、まぁ気にしないことにしましょう。しかし、江戸時代には多くの好事家や伊達男達などが好んでいまして、上から下まで煙管による喫煙が良く行われていたのは確かです。
 冒頭の通り「思い草」と言われるぐらいですから、当然のことながらヘビースモーカーもいました。特に平賀源内などはこのヘビースモーカーだったようで、彼の愛用した煙管などとともに話が残っています。
 インドにも1605年にムガル朝のアクバルに献上されたと言う記録があり、ほぼ同時期にイスラム社会へも薬として伝わっているようです。このイスラムでは喫煙の方法として水煙管(水たばこ)が伝播から間も無く登場していまして、これは中国にも伝わっています。
#『不思議の国のアリス』でイモムシが吸っていたのがこの水煙管です。
 もっともこれらの国はタバコの規制も結構ありまして、日本でも火事対策(江戸の火事は「名物」ですし)やぜいたく品として規制されることもあり、中国やイスラム圏も禁煙令をだしたようです。もっとも、どこもまともに守られずに定着していくこととなりますが。
 アフリカもやはり1600年を前後には到達しているようです。

 こうしてタバコは世界に、欧州をでてから瞬く間に広がっていくこととなるのですが。
 では、欧州ではどうなっていくのか? これは面白い話がいくつもありますので、触れる価値があるかと思われます。
 しかし、今回は長くなりました。

 今回は以上と言う事にしましょう。




 さて、今回の「からむこらむ」は如何だったでしょうか?
 今回はずっとどうしようかと思っていた嗜好品「タバコ」を扱うことにしまして、その最初と言うことになりましたけど.......ま、文化的な側面が圧倒的にありますから、そう言うのに触れていくことになりますけどね.......もっとも、その中でも全てに触れることは出来ませんので、有名な話程度になってしまう気もしますが。
 ま、とりあえずお付き合いください。


 そういう事で、今回は以上ですが。
 次回はひとまず文化的な話が中心になるかと思いますが。余り科学しないかもしれませんけど、まぁやはり嗜好品ですから触れておかねばなりませんので。ま、触れていこうかとは思います。
 さて、問題はいつごろできますかね......

 そう言うことで、今回は以上です。
 御感想、お待ちしていますm(__)m

 次回をお楽しみに.......

(2006/11/28公開)


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