からむこらむ
〜その44:キリストの顔?〜


まず最初に......

 こんにちは。いよいよ11月も半ば過ぎ。 そろそろ冬の気配がしてくるころでしょうか............って、北の方はすでに冬ですか(^^;; まぁ、ともかく、皆様は如何お過ごしでしょうか。 今年は忙しい業種の方もいらっしゃるようで..........(^^;;
#某Y2k対策をしている方より、「何が起こるかわからないから年賀メールはやめてくれ〜!!」ってお願いが来ています(^^;;
 しかし、もうちょっとで今年も終わるんですね............

 さて、今回は......核関連。 とはいっても基本話です。 核関連のお話をするのに必要なものの一つなのですが.............. 取りあえず、その17は最低でも見て頂いた上で書いていますので御了承を。
 それでは「キリストの顔?」の始まり始まり...........
#注:別に宗教のお話じゃないです(^^;;



 最初に結構有名なお話を。

 時は現代。1978年.........オイルショックが取りあえず収まって、日中間で平和友好条約が結ばれた頃でしょうか。 この年の8月27日〜10月8日までの42日間、イタリアはトリノの教会で保管されてあった「聖骸布」...........伝えられるところによると、ヨハネ伝やらマタイ伝、ルカ伝、マルコ伝に書いてあるそうで、キリストの埋葬の時にユダヤ人の埋葬の習慣にしたがって香料を添えて亜麻布で包んだ時に、その亜麻布にキリストの血のあと(十字架に架けられた時のか?)や顔が転写されていると言われる「布」..........が45年ぶりに公開。世界各国から約350万人もの見物者を呼び、そして記念切手まで発行された................と、非常に大騒ぎになったそうです。 まぁ、熱心なキリスト教の信者にとっては当然のことながら、なのでしょうけど。
 しかし...............


 ま、取りあえずこのお話の続きはずっと下の方に持っていきまして.........(^^;;
#わかる方はもうわかるでしょうけど(^^;;

 さて、今まで色々と、この「からむこらむ」で何回か「核」に関連するもののお話をしてきました。 ま、具体的には過去のものを見直していただきまして............. いきなり用語の質問です。

「半減期」ってなんでしょうか?

 この言葉、「核」に関する話ではちょくちょく聞きますよね? ま、単純に国語の問題というか.............. ただ、一応ここでは「核」に関するお話。その上で「半減期」という言葉を考えていただきましょうか?

 おおまかな復習というか、まぁ「見直し」をしてみますと.............「放射性元素」と言うものは「放射能」を持っています。つまり、「放射線」を出している、という事は簡単にやりました。で、これは言い換えると「放射性元素」は(放射線を出すことによって)常に「壊れていく」=「減少している」と言うことが出来ます。
 では、「放射性元素がどんどん壊れていく」、と言う意味を考えていきますと...............そう、この「放射性元素」はやがて壊れていき、最終的には無くなってしまう.............という事を暗示するかと思います。
 さぁ、ここまで来れば上の質問の解答となるでしょう。 単純に答えれば「放射性元素の量が半分になる」という物になります。 もうちょっと詳しく言えば.........仮に何かの放射性元素「A」が1モル(=6.02×1023個)あった場合、これが0.5モル(=3.01×1023個)になる量(「モル」は前回を参照)、と言えばちょっと科学的な表現になるでしょうか(^^;;

 さて、この「半減期」...........実は大体の放射性元素について調べられていまして............どれぐらいか御存じでしょうか? まぁ、もちろんのことながら元素によってその壊変が違ってくるわけでして、当然のことながら元素ごとに違ってくるのですが............ どれぐらいの幅があると思いますか? 1日? 10時間? 1週間? ...........まぁ、物によって違いますちょっと例を挙げてみましょうか。
 まず、一番「軽い放射性元素」であるトリチウム(3H:β-壊変)はどれぐらいかと言いますと..........12.3年になります。過去にも触れたリン32P:β-壊変)では14.26日。 カリウム(40K:β-、EC壊変)では1.3×109年(10億年以上!)............しかし、半減期が0.1ミリ秒なんていうのもあります...........
 と、以上を考えていただければわかるように、非常に「ばらばら」です。 生まれてから延々、人類よりも長い「寿命」を持ったものや、数年、数日、数時間、数秒.........揚げ句の果てには1秒経ったらほとんど無くなってしまうものまで............ 特に、この「極短命」なものはウランよりも重い........つまり、人工的に作りだす超ウラン元素の、更に「一番重い元素造り」なんかで出てくる元素の様なものに多くあり、例えば(過去ログ漁って見つけました(^^;;)6月7日に米ロ合同で行った実験で原子番号118の元素なんかでも1/1000秒持たずに崩壊した、とあります。
 ちなみに..........この半減期というものは、「元素の気まぐれ」によって「あるトリチウムは1年、あるトリチウムは10秒、あるトリチウムは100年の半減期」という物ではなく、基本的にはどの元素にも固有の半減期に従う..........という事は頭に入れておいて下さい。

 さて、ではちょっと視点を変えまして..........
 重い元素.......例えばウランの238のもの(天然で99%)を見てみると、半減期が4.468×109年でα線を出します。 では.........放射線をだしていくと、このウラン238はどのようになるか御存じでしょうか?
 上にも書いたように、放射線を出す、という事はその元素は壊れていくことになります。そういうことは..........ウラン238はα線をだすと別の元素に変化していく、という事になります。 これは何になるか決まっていまして、ウランはまずトリウム234(234Th.........トリウム:3Hではありません)になります。このトリウム234は半減期が24.1日で、後β壊変して(ちょっと複雑な経路をたどるのですが省略)、やがてウラン234になります。ウラン234(半減期2.45×105年)はα崩壊をしてトリウム230(半減期7.54×104)になり、これもやがて崩壊してラジウム226(226Ra 半減期1.6×103)に、これも崩壊してラドン222(222Rn 半減期3.824日)になり................と、延々と続いて、結果..........SI(安定同位体)の鉛(206Pb)になって落ち着きます。
 さて、以上の例ではウランの例を見ましたが.......このように、重い放射性元素の崩壊が「系列」的になってます。この放射性物質の崩壊する「系列」を一般に「放射性壊変系列」と呼んでいます。 この放射性壊変系列はスタートする元素から「トリウム系列」「ネプツニウム系列」「ウラン系列」「アクチニウム系列」があります。 面白いことに、この4つの系列の内、ネプツニウム系列をのぞくと、最終的にはSIの鉛に落ち着くことが知られています..........つまり、放射性元素の最後になるわけでして、「安定な物」として一番重いために放射線を防ぐのに効果的と言うことで、強力な放射線を相手にする際に用いられることがあります。
#これが、「放射線=鉛でないと防げない」という勘違いを産んだような気がしますが...........
 尚、壊変系列の無い放射性元素もありますので、全部が全部「系列がある」わけではありませんので御注意を(例えば、カリウム40など)。


 さて、上記壊変系列を学ぶと...........いくつかの事がわかる事があります。
 例えば、何らかの放射性物質を調べてみて、そこにある元素を特定できれば..........例えば、ウラン鉱を探していた場合、ウランの崩壊で生じる元素があれば........ ウランを発見することが出来ます。 また、生じてくる物質は一定ですので、系列上にある元素の多さ等を調べれば(逆算すれば)、元のウランの量などの推測、なども可能です。
#これ、核分裂物質でも同様のことが可能です(生じた核分裂物質も決まっているので、その量から、元のウラン・プルトニウムの量を推測する)。
 まぁ、ちょっと難しい話もありますので.........この系列に関連するエピソードの一つでも挙げてみましょうか。
 昔に頻発したのですが、ウラン鉱を掘る、といった場合には当然人が掘っていきます。で、その労働者に肺ガンが多発したのですが........... さて、ウラン鉱と言うことは、当然ウランがあるわけです。で、その鉱山ではウランが徐々に(地球規模での時間経過スケールで)崩壊していくわけですが..........上記の例に出てきた中でラドン、っていう元素があります。このラドン、キューリー夫人が見つけた「ラジウム」から「ラジウムの娘」という意味で名付けられたのですがそれはともかく、これはガス状の元素です。 と言うことは、呼吸をすれば多かれ少なかれ、このウラン鉱で働いているかぎり嫌でも吸うことになります............. という事は? ウラン系列で生じるラドンは放射性元素です。それを呼吸で体内に入れれば、当然被爆します。 結果.........ウラン鉱で働く労働者は先ほど書いたように肺ガンになって死ぬケースが結構あった、という事です。


 さて、半減期に関して話を戻しますが、ここまで来れば次のことも言えてきます。
 例えば、過去に、その16もやった「見つからなかった元素」なんかを考えると..........そう、例えばギリシア神話に出てくる神「Prometheus」、プロメテウスから名前を取った元素「プロメチウム」なんかは調べるとプロメチウム147(147Pm)の半減期は2.623年............ 例え100kgあっても、50kgになるのに2.623年、更に半分の25kgになるのに2.623年、更に半分の12.5kgになるのに2.623年、更に半分の6.25kgになるのに2.623年(この時点で最初から約10.5年)..............そう、地球創世時には「確かに」存在していたのかもしれませんが、やがて46億年経ってしまうと...........そう、現在においてその痕跡を見つけることは..........?
 実はその16でやった「周期表の穴」は........これが原因という事がいえます。
 また、超ウラン元素として知られる(ウランより番号が1大きい)ネプツニウム(Np)も現代でほとんど見つからなかったのは、半減期が2.14×106という比較的短い(そして、元の量も多くない)のが原因で地球上から無くなった..........と考えられています。


 さて、ある程度は重要なことを話せました。
 そろそろ最後にしましょう。

 一番最初の話の続きをいきましょうか。
 冒頭に話した通り、聖骸布は公開されたのですが、当然のことながら「これ、本物?」という疑問の声が上がってきました。 そうです、当然のことながら偽物の可能性が、つまりはキリストの遺骸を本当に包んだのかなんてわかりません。 当然のことながら懐疑的な人達がこれを調べよう.........という動きに出ました。
 さて、どうするか?
 天然にも当然放射性物質が「一定量」存在しています。その中で炭素の放射性同位体として炭素14(14C 半減期は5730年)があります。 まぁ、この炭素14が上のような理由で無くならずに「一定量」存在するのは、宇宙線と大気の窒素の影響で常に一定量だけ生まれてくるからなのですが........... これはつまり、生物中にも「生きているかぎりは一定量存在する」、と言うことでもあります。何故か? それは空気中にもありますし、炭酸同化作用で植物は二酸化炭素を体内に入れて、でんぷんなどに変換したりします。そしてそれを動物が食べたりして、栄養源として体内に取り込み..............まぁ、生物の「循環」の結果なのですが............
 ここで注目なのが.........「生きているかぎり(=生命活動を維持している限り)」生物内には一定量の炭素14が存在しますが、死んでしまったら.......? 当然のことながら「体内に取り込む」という機会は消失します。つまり、今まで取り込んでいた体内の炭素14は取り込まれなくなります。と言うことは..........? つまりは、炭素14は放射能を持ちますので、その量はどんどん少なくなっていきます。
 さぁ、ここで重要な事。取りあえず宇宙線と窒素から炭素14が生まれてきますので、宇宙線の量が大体一定を保っていれば、当然のことながら古今東西での炭素14の生成量は一定となります。 また、炭素14の半減期は5730年...........その条件の元で...........この聖骸布(布は線維ででき、線維は植物から........つまり、聖骸布の線維)の炭素14の量を測定したらどうなるでしょうか? つまり.........年代測定が可能となるわけです。
 さて、そういうわけで1988年、測定精度の向上などから最初はハンカチ大のサンプルを必要としていた物から数センチ平方で事足りる、と言うことで分析許可が下り、聖骸布を70×10mmの断片を三カ所から採取。三つの研究所で独立した年代測定が行われました。 その結果...........おおよそ1260〜1380年の間に作られた、つまり「偽物」という判定が下されました..........
 まぁ、実際にキリストが死んでから1000年以上あとに作られた、という判断が出来たんですけど...........「信じられない」って方もいらっしゃるそうです(^^;;

 まぁ、それはともかく、この様に半減期を利用して炭素14を使った年代測定法は考古学などでも良く使われており、おおまかな(あんまり厳密には残念ながら出来ない)年代を知るのに使用されています。
 一種の......RIの利用法ですね..........

#ちなみに、亜麻布のことをギリシャ語で「シンドン」という事から、この布の探索のために「シンドノロジィ(亜麻布学)」という物まである、って話なんですけどね.........(^^;;




 さて.......文章、ちゃんと出来たかな?(また文脈考えずに入力(爆))

 さて、今回の「からこら」は如何だったでしょうか?
 今回は放射線の、というか「核関連」の基本話です。 ま、メインは半減期ですが............. 一応、結構有名なエピソードも紹介してみましたが.........大丈夫、ですかね?(^^;; まぁ、気楽に読んでいただければ嬉しいです。
 ちなみに、炭素14を使用した年代測定法は結構普及していまして........えぇ、考古学の分野で出てくる「何年前の......」ってのに良く使われています。 今回は「聖骸布」を例に出してみましたけどね。 ちなみに、美術関係もこの手の技術で測定が可能です。 もっとも、書いたように精度は「おおまか」なんですけど..........
#あと、これを利用したこぼれ話があるのですが、それはまた別のときに..........(^^;

 さて、取りあえず今回は以上です。
 次回は.........同じく「核関連」やりましょうか。 取りあえず、そっちの方向でやろうかと思います。


 御感想、お待ちしていますm(__)m

 さて、それでは今回は以上です。来週をお楽しみに..........

(1999/11/16記述)


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